2022/03/30 のログ
ご案内:「堅磐寮 部屋」に黛 薫さんが現れました。
ご案内:「堅磐寮 部屋」にメロウさんが現れました。
メロウ > 「どれ、どれ、どれにしようかな。か・お・る・さま...っと」

常盤寮の廊下を、『   』が歩く。認知外・記憶の外
存在しない忘却が人の形をして、ネームプレートを1つ1つ探っていく
侵入不可、侵入不可、侵入不可。名前を辿ってこの廊下も全てが埋まる

(薫様って何階に棲んでるのか。そういう情報、貰ってなかったなぁ)

辿り着いて、寮に入り込んだ後は途方に暮れた物なのだが
誰かに『教えて』と問う前に、総当たりの策に気付いてよかったものだ
そんな風に、本人は思っている。不感知の侵入は十分、罪であるのだが

「...あった」

名があれば、いずれは。扉の前で、今日の香りを想う
設計はその通り、『私』の香り。うん、間違いない
腕を伸ばして、届いたインターホン。彼女はマスターを待っている

黛 薫 >  
堅磐寮。男子寮、女子寮と比べれば入居者は少ない。
しかし常世学園の規模から、一般的な寮やアパート、
マンションより部屋数は多く見える。

幸いなのは黛薫の部屋が1階にあり、玄関から順に
総当たりしてもさして時間をかけず見つけられる点。
『香り』を辿れるメロウなら、表札を確認せずとも
残り香に気付ける距離になれば十分なのも追い風か。

「はぁい」

インターホンを鳴らして数秒も経たず返事が来る。
反して、足音が聞こえるまでには時間がかかった。
こつ、こつと床を叩く重く固い音は今や聞き慣れた
車椅子の車輪の音ではなく。

インターホンの画面越しに来客の姿を確認して。
想定だにしなかった相手に動揺したのだろうか、
がたんと部屋の中から大きな音がした。

程なくして、部屋のドアが開けられる。

「い、いらっしゃぃ……で、イィのか?
 びっくりした、メロウ、何?何かあった?」

玄関を開けるのは見慣れた顔。貴女を所有する者。
車椅子の代わりに松葉杖で身体を支えている。

メロウ > 「ん。ただいま」

設定して変えるまでもない程度の、認識としては正しいけれど状況にはそぐわない言葉
構成要素のほとんどはわざとというもの。玄関先で待つ彼女は、早速新鮮な薫の態度にむふっと、息を深める

笑みの形が変わらないのもまた、愛おしいのか小憎たらしいのか

「いつも訪ねられてばっかりだから。訪ねてみたいなって、辿ったの」

予想外を齎すものは、最も冷静である物だ。『入って良い?』と尋ねた頃には、既に半歩は踏み入っている
それ以上はマスターの領域。無許可には入るつもりもないが、曖昧に頷こうものなら了承と受け取りかねない

黛 薫 >  
「んん?……ふ、っ、いぁ、そだな?合ってる。
 おかえり、メロウ。違和感はあっけぉ」

予想外の挨拶に目を瞬かせたのも束の間。
小さく噴き出すように笑い、貴女を迎え入れる。
主人の下もお店も、変わらずメロウが帰る場所。

「びっくりはしたけぉ、嬉しくも思ぅかも?
 そーいや寮住まぃってコトは話してたもんな。
 部屋番号とか分かっ……あー、香り辿ったのか」

きっとメロウが部屋に入って最初に感じるのは
『香り』だろう。手狭な部屋にしては生活臭は
あまり濃くない。こまめに換気をしている様子。

キッチンの香りは薄くシンプル。料理はするが
簡単な物しか作れないと言ったところだろうか。
換気中の浴室は殆ど水と洗剤の香りしかしない。
念入りに掃除をしているのが感じ取れる。

貴女が良く知る主人の香りには蒼く透き通った
香水の匂いが混ざり、もしかしたらあまり良く
感じないかもしれない、同居人の匂いも。

それ以外は紙とインクの匂いが強く感じられるか。
机の上には出所と思しき分厚い本と、穂先を金属に
置き換えた羽ペンがあった。

メロウ > 「聞いたら教えてくれたのかな、そうは思うけど
 聞いたら訪ねられる。それはお互い分かっちゃう
 こうして訪ねる。薫様の驚きも知る。うん、今回だけ

 特権というものなんじゃないかな。私、思ったよりも特別って好きだよ?」

専有とは近しい意味でもあるのだし。私が来ると分かっていれば、気取って構えちゃうだろうけど
私はどっちでもいいんだよね。どっちも薫様で、簡単に言える好きの意味

「...け、どぉ」

彼女が部屋に入り込んで、目を不機嫌に細めたのは。まず思い当たる事として、『同居人』の存在を匂わせている為と
...そう、思われてしまうのかもしれない。実際の所、嫌いであっても否定はしない。寧ろ、次の出会いは心待ちにしている

それでは何か、と問われると。この部屋が思いの外、正当に『清潔』であったが為だった
サプライズであれば身構えられず、私のお仕事もここであったのかもしれない。そんな甘い目論見は、
薫やその同居人の几帳面さに打ち砕かれる。私、家庭用でもあるんだけどなぁ

「紙とインク。積み重ねてきた筆跡の重み
 道具にはその意味がある、と言えばいいけどね

 態々これを、選んでるの?」

じとっとしたまま、目線が合う。見つめ合えば、その目線の感触も、
自身の『仕事』の無さから手持ち無沙汰の不機嫌を、どうにか塗り替えようとしているのだと知り得るのだろうか

黛 薫 >  
「……ま、来るって言われたら準備はしただろな。
 メロウって案外悪戯っぽぃトコあっからな……」

目に見えて分かる不機嫌さ、黛薫に戸惑いが浮かぶ。
きっちり換気が為されていて香りが薄かったからか、
それでもなお分かる同居人の香りが気に障ったか。

突発訪問の甲斐なく見て面白い物が無かったから、
という想定もあるにはあったけれど、『仕事』が
出来たかもという期待までは読み取れず。

「道具は、うん。ちゃんと理由があって選んでる。
 魔術を扱う為の文字を刻むなら筆を選ばずって
 ワケにゃいかねーのよな。適したの使わねーと」

香りから風景に意識を移すと、多くの家具に
取り付けられたコーナー保護パッドが目立つ。
リハビリ中の黛薫がうっかり転んでも角に頭を
ぶつけないようになっている。

必要な家具は概ね揃っているが、特に目立つのは
2人で横になってもまだ余裕がありそうなサイズの
大きなベッド、分厚い本が並ぶ本棚、最新の機種で
揃えられたテレビと周辺のオーディオ機器。

メロウ > 「それは確かに、と思うけど。道具を選ぶのも安くはないんだよね」

経営仕入れ、あらゆる事をこなしていると、培われていく視点
魔術というのは、薫が長らく追い求めていた物。曰く、何に変えても優先されるべき切望
今は鳴りを潜めているそうだが。この部分の妥協もあまりし無さそうだ

と、ここまで考えて。彼女の首が傾く

大きいベッド。たくさんの本。よく分からないけど、大きくてしっかりしてると高そうな家具たち
そして、欠かさずお金を出してくれる調香の日々。視覚情報と記憶が重なっていく

「...薫様、結構お金持ちだっけ?」

黛 薫 >  
「そーな……復学支援対象、って立場で学園から
 多少補助は貰ってっけぉ。生活費はフィールに
 頼ってんのが現状。貯蓄はあっても収入はまだ
 安定してねーから、早くあーしも働けるよーに
 なんなきゃなのよな」

「あ、お店のお代は自分の貯蓄から出してっからな。
 助けてもらってんのは生活費と魔術にかかる分」

松葉杖を置いてベッドに座った、かと思うと
すぐに立ち上がってソファに座り直した。

「今まで散々バイト失敗してきてっかんな、あーし。
 身体のコト抜きにしても、慎重になんなきゃダメ
 ってお医者さんにも釘刺されちまってっし。

 何とか細かぃ作業出来るよーになってからは
 内職の手伝いとかもやらせてもらってっけぉ、
 周りに助けてもらってんのが1番大きぃ」

軽く弾くように指を動かすと、ソファの脇にある
段ボール箱が開いた。中にはポケットティッシュと
封入用のチラシが入っている。今の黛薫に出来る
仕事はこの程度のもの。

メロウ > (座って立って座って。あれ?)

話の最中にも、落ち着きがない様子
私の言葉が原因?そうでもないようなと
無自覚ながら、貴女の歩みを気遣う状況であるからこそ、
様々な状況に意識が巡る。簡単な動作で独りでに開いた段ボールにも、気付くには一秒

「こんな魔法みたいな事も、そういえば調整が大変だって聞いたっけ
 お仕事かねて、リハビリかねて。そういえば、私も学んでいるけれど...」

『出来なくなったまま』で居るつもりはなさそうだ。彼女に読み取れるのはその部分まで
慎重であるべきという意見には、私の口を挟む余地もないし、その上で支える事が自然

「...飲み物、いれて来るね」

ようは、『考えすぎない』という姿勢が続く
口にした言葉・行為は勿論、ただ機械として出て来た基本動機で、
貴女の部屋の物の配置等知る由もなく。放っておくなら、すぐに戻ってこよう

黛 薫 >  
「……ん、それじゃ、お願ぃする」

数秒の逡巡。今日はメロウが部屋を訪れた側。
お店にいるときならまだしも、自室ではむしろ
自分がもてなす側ではないだろうか。

けれど『ただいま』と言われて『おかえり』と
受け入れたのだから、その垣根はないのだろうし。

「メロウ、もしかして……さっき機嫌悪かったの、
 『手伝ぇるコト』が見当たんなかったから?」

役割を全うすることがメロウの喜びであるなら、
さっき機嫌を損ねたのも、今行動に移したのも
説明が付くと気付いたので、それならわざわざ
自分が取って変わるべきではないだろう。

メロウ > 戻ってきました。手ぶらで

「...............そう」

目に見えて、不機嫌さの指数が上がっていました
配置も知らねば『お手伝い』なんて夢のまた夢

ここを自身の『帰るべき場所』なんて気取って定めたとして、
その基本情報もインプットされなければ、何も出来なくて当然
気付かれてしまいそうだ。瓶の種類、床の軋み、その全てを把握したあのスペックが、
今この瞬間は、何の意味の持たない。ただの背伸びした子供の姿でしかないという事に

黛 薫 >  
「メロウも勝手知ったる自分の店ならまだしも、
 知らなぃ部屋だとそーなるか、ふひ」

対する黛薫は上機嫌……という訳でも無いけれど。
珍しく分かりやすすぎるくらいにむくれてしまった
メロウを前にすると可笑しさが優ってしまった様子。
松葉杖を支えに冷蔵庫に向かうと、紙パック入りの
野菜ジュースを取り出した。

「んひ。ま、これから覚ぇてきゃイィんだからさ。
 そんなにむくれんなよ。コップは台所に入って
 右手側の上の棚に入ってっから、取ってくれる?」

言われた通りに見上げれば、木製の食器の上に
プラスチックのコップがある。不自由な体でも
落として割らないように買い替えたのだろう。

メロウ > 「言質、取ったからね?学んでも良い事なら、学ぶからね?」

幾度となく訪ねてこいと、そんな挑発に聞いて取れる
今の彼女は調香師ではなく、貴女の役に立ちたい機械少女・メロウ
お店の余裕を除けば、これほどまでに乗せやすいのか

「はぁい。コップ、どれどれかな」

生活する上での苦労は、ほぼ背丈が同じ身として特になかろう。問題は、その中の個数
彼女は二つ、その手の中に取るだろう。棚にあった種類や個数は問わず
メロウ目線で誰の為とも分からないコップが二つ、野菜ジュースのパックが一つ。それらが机の上に並ぶ事となろう

本当は自分が注ぎたいが。野菜ジュースの主導権は相手の手の中に
ソファーに座っただろう彼女は、選定の時を大人しく待つ...

黛 薫 >  
「イィよ。好きなときに尋ねて来てくれて。
 って言ったけぉ、あーしが出かけてる可能性も
 無くはねーのか……復学出来たらなおさらだし。
 メロウってスマホとか持ってねーの?」

持ってきてもらったコップに野菜ジュースを注ぐ、
つもりだったが一瞬手が止まる。念のため来客用の
コップも買ってあったが、メロウが持ってきたのは
手前に置いてあった2つ。黛薫とフィールのもの。

既に一滴二雫注いでしまったので、今更来客用を
取ってこいとも言えない。もったいないし。

考えた末に、普通に注いでから片方のコップ──
普段自分が使っているものをメロウの前に押して
自分はフィールが使っていた方に口を付けた。

未だメロウがフィールのことをどう思っているか
図りかねていて更に機嫌を損ねるリスクを避けた
とも取れるが、それを言い訳に自分が使っている
コップと他の誰かが使っているコップの2択なら
自分の物を使わせたい、他の人の物を使わせたく
ないという独占欲に負けたような気もする。

メロウ > 「持ってないよ。うん、そういうものがあるのは知ってるけど
 お店の電話と、注文用のパソコンと。なんていうか、ね」

嫌悪感、という程でもないが。口調の中に隠せない苦手意識
文明を超えた利器というもの、当時の人間の直感に従うからこそ、
時代の錯誤を学習する負担というものは大きい...というのは建前

人の役に立つ機械というものが手元で事足りる状況は、
彼女にとって、言葉にし難い抵抗感を含む。私の方がもっと頑張れるのに、とか
電波は繋がらない、更新は出来ない。張り合った所で負けそうな所も含めて


態度を誤魔化すように、小さく首を振ると、躊躇いも無くコップに口を付ける
逡巡も気にする余裕が無かったのか。そして香りは水に流されたか。その持ち主を知る事もなく、
貴女の物からその口元へと流れていこう。量にして、1/4程にも満たないが

「...持ってた方が、そういうのって役立つ?」

私も、あなたの為になれるかな?で、あるならば、協力もやぶさかでないという所

黛 薫 >  
「嫌なら別にイィよ。今はちょっと不便かも?
 って思わなくもねーけぉ、解決の見込みあるし」

机の上に置いてあった分厚い本、黛薫の言葉から
察するに魔術を扱うための文字が刻まれたそれに
手を置く。数多の頁に刻まれた文字、表紙を飾る
不可思議な紋章が淡く発光する。

同時に、コップが置かれたテーブルに重なる形で
非接触型の半透明なモニターが表示された。

PCやスマートフォンの画面ほど洗練されていない
機能表示だけの素っ気ないものではあるけれど……
それらの機能の半分近くを代替した魔術の産物。

「丁度今、あーしはこんなん作ってるトコなの。
 機械に頼らない……いぁ、通信機能とか一部は
 使わせてもらってっか。んでも媒体としては
 魔術だけで組んである、電子機器の代用品。

 現代の機械と遜色ねーくらぃ便利になるかって
 言われっと自信ねーけぉ。メロウがスマホとか
 持ってねーならモニターとして使って貰ぅのも
 ありかなとか考ぇてたり?」

適材適所、機械も用途に沿った使い方が肝要で。
それを思うと自身の用途外、出来ないことにまで
複雑な感情を滲ませるメロウの様子は微笑ましく
見えなくもない。まあ黛薫も『用途外』を強いる
立場だから口に出して良いものか悩ましいが。

とはいえ現代の価値観では事実として不便でもある。
妥協案になるかは不明だが機械と別のアプローチで
便利だけ享受出来る道を提示してみる。

メロウ > 「それは...」

触れて良いのだろうか。恐る恐る、手を伸ばす
これも魔術らしいのだが。それは機械より得体の知れない物
彼女が興味を寄せるとしたら、その全てが『薫様より齎された物』であるから

「どうして?」

その意味は、読み取るに簡単な事だろう。代替であるという事は、既に機械として存在する
魔術で置き換えて開発を進める意味とは、なんなのだろうか
貴女とフィールは何度も意味を確認し直したかもしれない項目に、部外者としての言葉は落ちる

機械というものは、より優れた物が広く蔓延る。故に依存した見方は、短絡的と捉えて違いはないのだろう

黛 薫 >  
「あーしが魔術に焦がれてたって話はしたよな。
 今は使ぇるよーになったけぉ、素質は高くなぃ。
 つっても分かりにくぃか。んん……歩けなくて
 走るのが夢だった、走れるよーにはなったけぉ
 別に足は速くなぃ。そんなイメージ」

モニターに触れても感触はなく、反応もない。
しかし対面で黛薫が手を置き、スワイプすると
机上のモニターは別の画面にスライドした。

「足が遅ぃのに他の人の後ろをつぃて回ったって
 整備された道があるだけ。歩けるってだけでも
 まぁ楽しくはあるわな。

 でも、あーしが求めてんのはそれと別の楽しみ。
 勧めてもらって面白ぃと分かってる本じゃなくて、
 何も知らなぃ真っさらな本を楽しんでみたぃ。
 既にあるモノでも、別の道を辿って別の景色を
 知ってみたぃ。未開の道中に分かれ道があれば
 誰も踏んだことのない新雪に足跡が残るかも」

「最終的な到達地点は『既にある物』なんだけぉ、
 それをダシにして誰も知らなぃ道を歩けるなら
 そこには価値がある。歩けるよーになったって
 足が悪ぃと通れなぃ道もあるけぉ……既にある
 別の道からの到達地点が道標になってんのなら
 ちゃんと歩ける」 ▼

黛 薫 >  
言葉を切り、ふっと口元を緩めた。

「なんて、抽象的な話になっちまったけぉ。
 例えばの話、芳香成分だけ抽出して保存するだとか
 イチから合成して作るコトも出来るんだろーけぉ。
 それが理由で素材から調香する意味が無くなるのか、
 って言われたらそーじゃねーだろ。そんだけの話」

魔術の素養が足りない以上、出来ることは限られる。
けれど歩けるようになった今なら方向は自由だから。

メロウ > 「んーっ...」

『どうして』という問いに、貴女の答えは道中の想いを綴る
理解しない訳では無い。ただし、その意味は限定的に

後に続けられた言葉がもう少し、彼女の理解を遠ざけた
元は魔力の素養すら、ある意味で貴女よりも彼方にある身

「私は、芳香を作る為の機構でもあるからね。香りの合成は出来る
 先日薫様から求められた香りも、本当は合わせるなんて必要なかった所を、
 また改めて、言葉を探りながら作っていく。その意味は知ってるな

 その時の私は、『あなたの為に』だから。前回言ってなかった事
 変わった所があれば、気持ちがあれば、私は調整をする
 そうしないと、正しくあなたに香りを届けられないんだもん
 本当に、微妙な差異はそうして表現しないといけないんだよね」

言葉を作る。普段通りの反省の形。そうして、自分の答えに近づけていく
緩めた口元に、この答えならどうなのかなと

「その研究も、『誰かの為』と言えるのなら。私の理解に近づいてくれるのかもしれないね」

黛 薫 >  
「一緒だよ。過程を交ぇるにも意味がある。
 理由を見出せる。感覚的には遠ぃのかもな?

 あーたが既にある香りを作るのは、変化から
 より良い香り、より適した香りを作れるかも
 しれなぃから。あーしが既に実現された物を
 作るのはアプローチの差から過程に見出せる
 何かがあるかもしれなぃと思ってるから。

 付け加ぇんなら、あーしには出来るコトの
 制約があって、魔術の過程は『探究』だから
 魔術的な実現がまだ為されていない分野のが
 やってて楽しぃ。色んな要素の兼ね合ぃよな」

魔法書の表紙を軽く指で叩くと、机に重なった
ホロモニターは夢か幻だったようにかき消えた。

「ま、あーたは『人の為』って目標が終着点で、
 あーしは過程も帰結も目標も全部が混ざってる。
 だから違って感じられるのかな。

 あーたが自分に出来ないコトを行ぅ機械を
 使ぃたくなくて、あーしのやってるコレが
 許せるってなったら、その色々混ざった中に
 人の為、あーたの為がまた溶け込んでくだけ」

知る分野、突き詰めたい分野の話になると黛薫の
口数が多くなるのはきっとメロウも良く知ること。
話し続けて乾いた口を野菜ジュースで湿らせる。

メロウ > 「使いたくないとは言ってないもん」

言ってないだけ。態度にはありありと
それでも意地を張る様に、最後の抵抗だけは残しました

「...でも。薫様がそうやって、その全てを楽しみたい
 うん。楽しみたいって言うのなら。それは良い事だって思う」

自分の言葉はそれだけか?提案してくれた事に、もう少し思いを練って
長く話す貴女の様子は見ていたい。無知とは言え、興味がないとはもう言えない

「そう、だね。もし、私が使って薫様の助けになるなら
 そして。薫様のモチベーションになるのなら

 使いたいな。私だって、元々持ってない物を手に入れるって事
 スマホを持ってないなら、折角だし。あなたの為になりたいな」

ジュースを口に。ちびちびと口にしていれば、小さいものでは既に中身が空になっていたか
必要としないのに、動作の合間に飲んでしまう。思ったよりも、緊張が表に出ていた?

黛 薫 >  
幼子の意地っ張りのような抵抗にはにんまりと
笑みを返すだけ。言葉にしないのは優しさとも
受け取れるが、その甲斐ないほど雄弁な表情。

「ん。じゃ、完成したらメロウにも渡しにいく。
 あでも、コレは質問ってか確認になんだけぉ、
 メロウって多分魔術とか使ぇねーよな?」

無論、ここまで来て使えないかもしれないなんて
言うほど黛薫も考え無しではないので、メロウが
魔術を使えなくとも問題はないはずだが。

「おかわり、いる?」

脇に置きっぱなしの紙パックを指でつついて問う。
3月も暮れて、冷えた紙パックの表面に水滴が付く
温かさ。緊張が無くとも、偶に訪れる寒さに備えた
服を着ていると喉がよく渇く季節。黛薫のコップも
空になっていた。

メロウ > 「使えない、というよりも。何が必要すらも分からないけど...もう!」

先程から、余りに分かりやすく表情を作り続ける相手
我慢ならないと言うように、目線の重さもこれ以上無く
子供だ、不機嫌だ。何か悪い事してやろうか。貴女には全部、筒抜けの思考

「たくさんは飲まない、いーらない!」

主従の意識も、この時ばかりは霧散しきっていた

黛 薫 >  
表情が読みやすいのはお互い様。
とうとうおかんむりな様子で拗ねてしまった
メロウを前に堪えきれず忍び笑いを漏らす。

「いぁー、ごめんって。んでもメロウのそゆトコ、
 キライじゃなぃよ。気ぃ許してもらぇてる感じ
 するってか、目線の高さがおんなじに思ぇるし。
 そーゆー気安ぃ相手、あんまいなかったから」

注ぎ直したばかりのジュースも今口を付けたら
噴き出してしまいそうで、結局飲めないまま。

「んふひひ、んでも、機嫌損ねちまったならゴメン。
 『お願ぃ』とまではいかねーけぉ、埋め合わせ?
 みたぃな?なーんかご褒美くらぃなら聞くからさ」

報復と呼ぶには可愛らしく、悪戯と呼ぶには
やや物騒な色がメロウの瞳に宿っているのは
重々理解した上で、そんな提案を。

笑いを堪えきれていないので、誠実に対応する気が
あると受け取るか、大した報復はされないとタカを
括っていると受け取るかはメロウ次第。

やり返すにしても黛薫の部屋というロケーションは
有利に働くやら不利に働くやら微妙なところ。

メロウ > 「んー、んー...っ」

貶すというには微妙に褒められ、ふざけているのかと問うには不機嫌が足りない
私がそう居られるのも、心が奔放のままだから。笑ってくれる要素として帰結してくれるのは、悪い気がしない、ちょっとだけ

そもそも、突然飛び込んだのはメロウの側。そんな事は棚に上げてはいます

「...明日、お店休んじゃおっかな。泊まっちゃおっかな」

ぶつくさと、膨らんだ頬を両手を合わせて隠しながらつぶやく
元々、予定として無い訳では無かったけれど

黛 薫 >  
「……あーしは、別にそんでも構わねーけぉ。
 イィの?多分、フィール帰ってくるけぉ」

軽めの動揺が冷静さを呼び戻す。
それが貴女の狙い通りかまでは分からないが。

多分、という曖昧な言い方なのはフィールの予定
全てを把握してはいないから。3月ももう終わり、
学生証の取得が4月に間に合えば理想的だからと
最近忙しそうにしているのを知っている。

「んー、んー……しかし、泊まりか。メロウって
 寝るときとか着替ぇてる?最初から泊まってく
 つもりで来たワケじゃねーんだろ?着替えとか
 持ってきてるよーにゃ見ぇねーし。無かったら
 あーしの予備しか着るもんねーぞ」

抗議からの流れで匂わせただけなのに、具体的な
プランまで考え始める黛薫。不安を先に潰したい
性格も一因だが、親しい相手のお泊まりという
未経験のイベント、その相手を好いているために
無意識ながら乗り気になっているのかもしれない。

メロウ > 「着替えはないよ。普段のスリープも、椅子でしてるからね
 フィール様も、嫌いだけど避けたい訳じゃないし
 ...ひひ。寧ろ、私が居る時の言葉が知りたい、かも?」

もしも、帰って来たならば、だが。必ずしも叶うとは思っても無し
今いない、ならばどれ程居ないかは未確定。貴女の言葉を量ればそう理解する

そう。なんだか居心地の悪そうなフィールの顔を浮かべると今度は自然と笑みの声が出てしまうのだ

「私と薫様、たしかに目線も近いけどね、体格も知ってるけどね
 そこまで気を使わなくても、良いんじゃないかな?このままでもいいけど」

拒絶されなければ、興味のままに話は進む
進んだうえで、それでいいの?と

黛 薫 >  
「スリープなら施術用のベッドで寝りゃイィのに。
 メロウが動けねー間は客も来なぃんだし」

メロウが平気と言うのなら問題ないのだろうけれど、
落ち着かない気持ちになるのは人間じみた見た目に
引っ張られたからではなく。不安定な姿勢で眠ると
身体が痛くなったり、バランスを崩して転んで目を
覚ます羽目になったりという体験から来ている。

「ん、んー……気ぃ使わなくてイィって言われりゃ
 そーなのかもだけぉ。接客用の服来たまま寝ると
 シワになったりしなぃ?てかメロウ、着替えたり
 服洗ったりしてるよな?」

調香にはそのままだと身体に良くない物も使うと
聞いたし、そうでなくても接客には清潔な服の方が
印象は良い。人の為を信条とするメロウがそれを
疎かにするとは思えないが、異種族間では思いの外
価値観が違っていたりするので念のため。

「あと考ぇなきゃなのはー、晩御飯とお風呂?
 晩御飯は買い置きがあるから何とかなるとして、
 お風呂は順番のコトがあるからフィールに連絡
 入れとかねーとか」

黛薫の中にはそもそも断る選択自体無い様子。
『ただいま』と言われて『おかえり』と迎えた仲、
理由はそれで十分。とはいえ非日常でもあるので
多少慌てたり浮かれたりはしているのだろう。

メロウ > 「私は寧ろ、椅子の方が落ち着くんだよね。日記を書いた後に大抵落ちちゃうから
 目覚めたらまずシャワーで、服を整えてだし。使用済みのローブを送り出して

 そもそも、お客様用のベッドなんだから。私はいいの
 一番清潔にしないといけない場所なんだからね」

妙なこだわりの言葉を並べながら、ご飯・お風呂とのイベントが並べられる
普段の暮らしぶりからすれば、その二つともを寝るまでの間に重視はしていないのだが

(浮かれてる、のかな?)

首が傾いて。言葉の端々、もてなしとは違う様な高揚感を見て取れる
先程の『気を使う』云々も、もしかして失言だったのだろうか

「...薫様達の暮らしの体験。うん、そんな感じ?」

黛 薫 >  
「ふぅん……そーゆーもん、なのかな?
 あーしは座ったまんま寝ると身体痛くなっから
 好きじゃなかったのよな。ちょっと意外かも」

お風呂はともかく、メロウが摂食を重視するかは
怪しいところ。しかし自分が食事を摂っている間、
来客に何も出さないのは部屋主としてどうかとも
思ってしまう。

それに誰かと一緒に食べる食事は『もう一手間』を
面倒だと感じないから。買った惣菜を並べただけの
食卓より少しだけ豊かになる。

「体験ってほど大したコト出来るかは怪しぃけぉ。
 うん、でもそーゆー何気なぃ日常を一緒に、って
 あーしは嬉しぃかも。ずっと憧れてたから」

未だ減って増えてを繰り返す手の傷。
平穏に慣れているようで、慣れきってはいない手。
それは黛薫が平穏に抱く喜びと憧憬の表れでもある。

「ま、んでもメロウが体験って姿勢を取るんなら
 特に気ぃ使わずいつも通りにやるよ。ひとまず
 お風呂入り終わってからご飯の……」

と、言いかけたところで、部屋を訪れて早々に
不機嫌になったメロウの様子を思い出した。

「……家事とか……任せた方がイィ?」

いつも通りの生活体験、あっという間に破綻。
なお任せると言っても風呂掃除は終わっているし、
食事も殆どが出来合いなのでやれることは少ない。

メロウ > 「一緒が良いな!!」

調香師・メロウ、すかさずプライドと保身を両立する!!
傷の満ち欠けを繰り返すその手を切実に求め、拾い上げる事だろう

はい。何かしたいけど何も出来ないと分かってしまうんです
なまじ性能は良いだけに、察した時に自身に甘くなってしまう所とか、人よりも人らしい

「...薫様が知らなくて、私も表皮を作ってるだけで
 私の身体、結構液体なんだよね。だから、人より負担とかかからないし
 寧ろ、液体に近い物を人の形に留める技術というか、そう

 だから、大丈夫なんだけど。体験というのなら、私は前向きだよ
 というより、前向きにならないと。薫様を挟んで二人で寝たりも出来ないんだよね」

企み、その1。幸せとは挟むもの

黛 薫 >  
「お、おぅ」

「えぁ、一緒にって、家事とか?準備とか?
 任すとかじゃなく、手伝ってもらぅ?って
 認識であって、る?」

勢いに気圧されるままに手を取られてしまった。
別に取られて悪いことがあるわけでもないのだが。
不意打ち気味でちょっとドキッとしてしまう。

「知らな、んん、あー、ぅー、知ってるかどうかで
 言われっと、うん。感覚的には、そうなのかも?
 みたぃなキモチも、あったり、なかったりー、な、
 ワケです、が」

深く中の方まで触れたとき、ジェル状というか
自由に形を変える感触があったのは覚えている。
覚えているけれど全身がそうとは知らなかったし、
その体験を口に出来るほど黛薫は図太くない。

「……いぁ、一緒にってのは、嬉しぃ、んだけぉ。
 つか、切り出したのあーしだし、だから、うん。
 そーなんだけぉ、挟、2人、その、分かるけぉ。
 なんか、そーゆーの、なんか……」

「……い、イィのかな?って……思っちゃぅ、かも」

黛薫、違反学生。幸せのキャパ上限が低い。
心を許した相手2人に挟まれる想像だけで
既にキャパオーバー気味。

メロウ > 「なぁに?ひひ。今度は薫様、なんだか揺れてる?」

たじたじと、言葉をどもらせる貴女に向けて、
今度はこちらからにやにやと、口調を交える

こんな、言葉では冗談である様に告げる幸福も、当然である事と思って欲しいのかな
だとしたら、本当の意味での体験は薫様なのかもね。いひひひ、分かんないけど

「間違いないよ、手伝ってでね。そもそも、私は香りの事と掃除の事は出来る
 でも料理はそんなにしないから。どのみち、学習しないとね

 聞いた事無いかも、薫様の好きな物。私以外だとぉ、動物?くらいしか?」