2022/04/27 のログ
ご案内:「堅磐寮 部屋」に黛 薫さんが現れました。
ご案内:「堅磐寮 部屋」にフィールさんが現れました。
黛 薫 >  
「んー……」

平日の昼下がり。黛薫はソファにもたれかかって
最早使い慣れたホロウィンドウと向き合っていた。

一見すると機械的に実装されたように見えるそれは
魔法円を改造した魔術の産物。とはいえ機能的には
機械を基盤とする非接触型モニターのほぼ下位互換。
今はその差別化ポイントを思いついて実装中。

因みに、さっきまではベッドで寝転んで作業を
行なっていた。しかし手を持ち上げておく労力が
思いの外大きかったのでソファに移動してきた。

もっとも、大画面TV正面の特等席はフィールが
使えるように空けてあるのだが。

フィール > 「うーん…」
その特等席に座りながら、以前買った参考書とにらめっこしている。
フィールが使っている魔術はその分野に於いて先進的な異世界から齎されたものを使っており、その理論はこの世界に於ける魔術とギャップがある。

フィールは、そのギャップに悩まされていた。

黛 薫 >  
「フィールも苦労してるっぽぃな、その様子だと」

作業がひと段落ついたところでフィールに視線を
向ける。別体系の魔術を既に知っているというのは
必ずしも新しい理解に寄与しない。母国語の学びが
簡単でも、他言語を学ぶのは難しいのと同じ。

それが異世界から齎されたものなら尚更だろう。

この世界より発展していると言えど、それは元の
世界の理に基く。『門』の影響で様々な世界の
法則が入り混じるこの世界、多様な意味を持つ
『魔法/魔術』を紐解くのは容易くない。

「どーする?分かんなぃトコあったら手伝ぇるけぉ」

フィール > 「わからないというか、理解は出来るんですけど…なんていうか、どうしてもここから構築出来ない魔術があって…」

フィールが悩んでいるのはこの基礎を使った魔術構築だ。
特に基礎から大きく外れた魔術…空間転移魔術や重力魔術など、特殊な魔術を扱う場合に基礎を無視しなければならない時もある。

理論は確定した事象ではなく、事実を元に構築されたものであり。
新しい事象が加われば、理論がひっくり返ることもよくあることである。

つまり。
この参考書は『古い』のだ。

黛 薫 >  
「ん……そっから繋がんなぃなら別の基礎基盤から
 繋がってたりしなぃ?特にフィールの扱う魔術は
 元々この世界の魔術から発展したものじゃねーし」

『技術』は新しい物が編み出されれば以前の物は
旧式、古いものとなる。しかし『法則』は新しく
見出されことすれど、過去の物が覆されることは
滅多にない。むしろ古くてなお使われている物は
反例が見つからない確固たる物と考えられる。

例えば、新しい『技術』を取り入れて発展する
機械は概ね最新型が旧式より高性能だ。対して
『法則』が多くの割合を占める数学の分野では
遥か昔に発見された定理よりスマートな解法が
存在しない問題など数多ある。

『魔術』も同様。新しい発見が既存の物を過去に
変える場合もあり、新たな発見の礎になりつつも
価値を失わない基礎もある。

つまり、古い魔法書から学びを得る場合は後者を
読み取るのが肝要なのだが……その取捨選択自体
なかなか難しかったりする。

「んー、あー。なるほど、ココに関しちゃもっと
 新しぃ本のがイィか。ちょぃ待ってて。そこの
 参考になりそーな論文、コピーしてくる」

フィール > 「すみません、お願いします」

確かに異世界の魔術である以上、この世界の魔術基礎が通用しないというのはあり得る。事実としてフィーナが持ち込んだ魔術の中には、精霊魔術等この世界では使えないものも多々あった。

『法則を捻じ曲げるもの』に関してもそうだ。異世界での法則とこの世界の法則は似ていても異なる場合が殆どだ。
結果として起こるのは…想定し得ない魔術の暴走だ。

フィーナは、これが原因で何名かの命を奪ってしまっている。

黛 薫 >  
魔術に於いて『知識』はそのまま『力』となる。
主流にならなかった傍流の水も土壌を肥やす智。
歴史的な価値を抜きにしても古い魔法書が価値を
失わないのはそういう理由もある。

「しっかし、フィールもイィペースで進んでんのな。
 今詰まってたトコの2節前、あそこ実践と実証が
 出来る前提で書かれてっから、あーしはその辺で
 どん詰まっちまって。実践ナシで理解するために
 何冊別の本読まねーといけなかったやら」

要するに、フィールが今通っている道は黛薫が
過去に通れずに迂回した道である。その手伝いは
黛薫にとっても新しい知を得る貴重な機会であり、
モチベーションを上げることにも繋がっている。

「ほぃ、まずコレが古ぃ記述を更新出来る手法に
 つぃて論じた最初の論文。そっから発展してって
 現行の主流の組み方になってんのがコレ。あとは
 その論文で引用されてるヤツで、読んどかねーと
 理解に支障出るのがコレとコレ。参考論文として
 挙げられてんのがコレな」

その結果、張り切って大量の資料の束を持って来て
しまったのはご愛嬌。好きなものについて論じると
歯止めが効かなくなるのは、まあいつも通り。

フィール > 「ふむふむ」
食い入るように持ってきてもらった論文を読み耽っている。
フィールは薫と違い一足飛びで魔術を習得していたため、こういう理論に触れるのは経験が少ない。

今楽しんでそれを学べるのは、愛しい人が共に学んでくれるからかもしれない。

黛 薫 >  
論文を読み耽るフィールを前に、頰を緩める。

元々、黛薫にとって魔術の勉強は楽しむものでは
なかった。渇望に苛まれるまま、追い立てられて
知識を食らい、理論を飲み干すものだった。

適性を得た今も燃え尽きずに学ぶことを楽しんで
いられるのは、案外隣で学ぶフィールがいるから
なのかもしれない。互いに影響を与え合っている。

「んじゃ、また詰まったら呼んでくれてイィから。
 ひと段落つぃたらお茶でも淹れて休憩しよっか」

インスピレーションを刺激されたか、黛薫もまた
ホロモニターと向かい合う。構築する術式の要素、
パーツだけ見ればフィーナが扱う物、フィールが
受け継いだ物より未熟。それでいて緻密な構築は
彼女が学んできた密度を想起させる。

フィール > 「わかりました」

声だけ届けて、論文に向き合う。
新しい理論を用いて、頭の中で魔術をシュミレートしていく。

その中で得た気付きが、新しい論文で裏付けされていく。
たったの一分野の話ではあるが、世界を理解出来たように思えて楽しい。

ふと、薫のホロモニターを見て、改めて感心する。
これは、自分の得た知識だけでは作れない代物だ。恐らくフィーナにも無理だろう。

魔術、そして科学。その膨大な知識と、それを織り交ぜるインスピレーションがなければ出来ないものだ。
やっていることは理論を実益に昇華させる、開発に近い。

黛 薫 >  
今回フィールが行き詰まっていたのは本の内容が
古く、発展的な手法で編まれた魔術の構築方法と
整合性が取れなかったから。つまりその繋がりを
補完すれば良かった。

黛薫が着目したのは、その部分。

扱っているホロウィンドウは機能を機械科学に
寄せているとはいえ、元はといえば魔術の産物。
ただ、機械に寄せるあまり魔術の発動媒体には
結局向かないものとなっている。

(っつーコトは、だ)

機械方面ばかり伸ばしても、機械の劣化コピーに
なるのは免れない。だが魔術の発動媒体としての
『繋がり』を補完してやれば……。

「ん、イケるな」

ホロウィンドウの上に小さな光の球が浮かぶ。
モニターを『普通の魔法円』に戻してしまえば
このウィンドウは魔術の発動媒体として使える。

これは魔術的に見れば単なる二度手間である。
しかし、機械だけで実現するのは難しい事象だ。

フィール > 「おぉ」
薫が魔法円を発動しているのを見て、驚く。

フィールは現代文化に多く触れ、機械の保存容量についてはよく知っている。映画の録画等でとてもお世話になっている。

一般に魔術の保存は紙で行われる。その容積は機械的な保存よりも効率は悪い。電子書籍が流行っていることを鑑みても明らかだ。

それを、薫は魔術と機械を通して発現することに成功した。これは、『基礎さえ知っていればそれに通ずる魔術を即座に引き出せる』ということに繋がる。

基礎魔術だけで多くの本を持ち出さなければならないところを、薫のホロウィンドウ一つだけで解決出来る、という利便性。

これは、基礎魔術を学ぶ上で大きな短縮に繋がるのでは無いだろうか?

「相変わらず、すごいですね、それ」

論文そっちのけで、薫のホロウインドウに釘付けになってしまっている。

黛 薫 >  
「手前味噌だけぉ、便利になってきてると思ぅ」

小さく笑い、光の球を消す。

魔力の電子変換を基盤としたこの魔術は、機械的な
機能を見ればパソコンやスマートフォンといった
電子機器に劣る。逆に魔術の発動媒体として見れば
消費や発動速度、術式のシンプルさでスクロールや
直接編んだ魔法陣に劣る。

しかし、電子機器の苦手な術式の保存や発動に
秀でており、魔術で構築するには手間がかかる
情報処理に長けている。

「一流の魔術師がスマホ持てば、そんだけで
 事足りるって言われたら、そーなんだけぉ。
 あーし並みに適正が低くても扱ぇて、かつ
 拡張性が高ぃってのはメリットになる」

「……ま、問題もあんだけぉ」

目をやったのは、術式本体を記した魔法書。

でかい、分厚い、重い。最近までは車椅子で
活動していたから何とかなっていたものの、
これ以上大きくなると松葉杖では正直キツい。

このまま開発を続けると、小学生のランドセルに
入り切るか否かくらいのサイズになりそうだ。

フィール > 「…最早デスクトップのパソコンですね…。これを電子化できれば相当楽にはなるとは思うんですけど…。例えば、入力する魔力を電子情報に転換さえできれば、パソコンと同じように入力端末程度の代物に出来る気はするんですよね。電子機器本体は対魔力の絶縁体で包んでしまえば、フィーナみたいな特異体質でも使えるようにはなるでしょうし」
魔力の電子化全てを記述する必要はない。
パソコンと同じく、入力情報の組み合わせでアルゴリズムを組みさえすれば、少ない数列で多くの意味を引き出せる。

出力に関してもパソコン側のアルゴリズムに合わせて出力すれば結構省略はできそうである。

勿論、机上の空論でしかないが。

「ええと、つまり…情報処理を全て機械側に任せてしまって、入力と出力だけ魔術に頼る、という方法はどうでしょう?勿論、この方法を行うなら機械側の専門家も必要にはなりますが」

黛 薫 >  
「うん、多分フィールの提案が1番現実的だと思ぅ。
 あーしもプログラムだけなら多少分かるよーに
 なってきてんだけぉ、機械本体の話になるとな。

 そーゆー専門家に頼らなぃ場合だと好適な媒体が
 一般化するのを待つって手もあっけぉ、そっちは
 どんくらぃ時間かかるか読めねーのが難だよな。

 あとは、術式本体の持ち運びが無理ならパスを
 繋いで遠隔でやり取りするって方法もあるか。
 ただ、それやると魔力消費も遅延も大きくなる。
 多分あーし自身が扱ぇなくなるか」

以前話した通り、魔術を機械媒体に収める研究は
度々話題に出る。いずれはこの術式を収められる
機械媒体が安く出回るようになるかもしれないが、
その頃にはこの術式自体が型落ちになる可能性も。

「どっちにしても、一旦完成までこぎつけねーと
 他媒体への移植も出来ねーからやること自体は
 変わんねーか」

一度言葉を切り、魔法書の上に手を置く。

「……実は、あーし『だけ』が使ぇりゃイィなら、
 別の方法も取れるかも、とは考ぇてんだけぉ。
 それを試すのも、術式が出来上がってからよな」

フィール > 「できれば引き込みたいですね、専門家」
プレゼン出来る場所があれば、どこかの企業から声が掛かりそうな気はする。
フィーナのような異世界出身の機械音痴に対しては需要がある。

残念ながら、フィールも薫も公の場でプレゼン出来る立場ではないので、未だお預けだが。

「薫だけの方法、というのも気になりますが…そろそろご飯に致しましょう。今日はカレーですよ」
勉強を切り上げ、台所へと向かう。
先に作って寝かせたカレーを温めれば、いい香りが漂ってくるだろう。

黛 薫 >  
「んぁ、もうそんな時間か」

黛薫、魔術に没頭していると時間を忘れがち。
フィールに声をかけてもらうまで食事の時間に
気付かなかった、なんて話は珍しくない。

逆にフィールの方が映画に没頭しているときは、
キリの良いところで黛薫が時間を知らせたりする。

両方が好きなことをやっている日はお察し。
食事も忘れて気付けば夜になっていた日も。

「フィールも料理のレパートリー増ぇたよなぁ」

落としても割れない木製の食器を準備しながら
カレーの鍋を覗き込む。身体が不自由な黛薫と
人の文化に不慣れなフィール、双方がうっかり
割らないための食器。

フィール > 「中華料理とかこういうカレールーとか、作り方が書いてあって楽だし便利なんですよね。そして美味しい」

中華料理の素やカレールーは既に調味されているので、よっぽどのことをしなければ失敗することがなく、プロが監修しているおかげで下手な手料理より美味しく出来る。
舌には自信がないので味を足したり、なんてことは出来ないが…それでも十分に美味しいものが出来る。

「まぁ、偶に焦がしたり失敗することもありますが…」

フィールは温度変化に弱く、長時間鍋をかき回して自分が溶け落ちていた、なんてこともあった。

「今回は失敗してないはずです。多分」

ゴム手袋もして、溶けないようマスクと三角巾もして、エプロンも付けて臨んだ料理だ。多分大丈夫。多分。

黛 薫 >  
「料理の失敗するポイント、大体味付けと加熱が
 原因だもんなー……あーしもそこは自信ねーや」

味が足りないような気がして、素人判断で足して
取り返しが付かなくなる。生焼けを恐れて焦がし、
焦がすのを恐れて生焼け。初心者がよく通る道。

商品ごとの好みはあれどレシピに従いさえすれば
致命的な失敗のない料理の素はご家庭の強い味方。
文明万歳である。

「その点、カレーは割と幅広ぃ方なのかな?
 辛さも色々あるし、トッピングも出来るし」

出来合いのトッピングを買うなららっきょうや
福神漬け、別途辛味足しのスパイスなどがある。
家庭で用意するならゆで卵やオムレツ、チーズ。
ハンバーグやウィンナーを乗せることもあるとか。

フィール > 「魔術も同じですよね。魔力の出力調整とか、魔術構築の組み合わせだとか…。結構、通ずる物が多いかもですね?」
ご飯を盛った皿にカレーが注がれる。ゴロゴロと乱切りにされた人参とじゃがいも、刻まれた玉ねぎ、そして角切りされた鶏肉。手作りならではの具沢山。

「それでは、頂きます」
配膳を終え、手を合わせる。
そうして、作ったカレーを頬張り…口の中を溶かしながら食べていくだろう。

黛 薫 >  
「出来るよーになってはじめて振り返れるってか、
 多分初心者の頃、みんなココで躓くんだろーな
 って感じのポイント、魔術にもあっからな……」

魔術は知識が力になる、と言ってもやはり実践で
感覚を掴まねばならない部分はある。その感覚が
あれば実感を持って知を得られるのだし。

「いただきます」

同じく手を合わせ、カレーを口に運ぶ。

当初、加熱した卵が固まるかどうかにさえ不安を
抱いていたフィールの料理は、レシピさえあれば
美味しく仕上げられるようになっていた。

変わらないように見える日常も、少しずつ進歩を
重ねている。当たり前で、ともすれば忘れがちな
幸福を噛み締めて。

今日も、1日が過ぎていく。

ご案内:「堅磐寮 部屋」からフィールさんが去りました。
ご案内:「堅磐寮 部屋」から黛 薫さんが去りました。