2022/09/04 のログ
ご案内:「堅磐寮 ロビー」に黛 薫さんが現れました。
黛 薫 >  
堅磐寮ロビー、隅っこのテーブルで女子学生が
死んでいる。いや死んでない。でもそう見える。
まあ、学園都市たるこの常世島ではさして珍しい
光景でもない。

特に今は夏季休暇明け。旧世紀で言う義務教育の
範囲内の講義など、前期授業が後期の受講要件に
含まれる講義では夏季休暇中にも課題が出される
場合がある。

また、成績が芳しくない学生向けの救済措置として
休暇中の特別講義の受講、もしくは追加レポートの
作成を以って単位取得を認める講義も存在する。

お陰でこの時期はうっかり課題を溜め込んだ
学生たちの屍(比喩)がそこかしこで見られる。

一応、不器用ながら真面目な当学生──黛薫は
そういう失敗はしない方。こうしてテーブルに
突っ伏しているのはまったく別の事情である。

黛 薫 >  
黛薫は『怪異』と同居している。

当該怪異の安全性は証明しきれておらず、学生証も
発行されていない。従って怪異と親密であり、かつ
怪異が暴走しても持ち前の体質から矛先を自分に
向けられる黛薫はストッパー兼生贄として同居を
許されている……というのが手続上での体裁。

実態はともかく、怪異が暴走しないように手綱を
握りつつ、時には受け皿とならねばならない立場に
あるのは事実と言える。

だから夏季休暇が終わる前、万が一があっても
立て直しが効くうちに発散に付き合っておこう、
と……そう考えたは良かったのだが。

(見通しが…甘かった……)

ご覧の通り、身体がガタガタになっている。

黛 薫 >  
黛薫も手を打っていなかったわけではない。
休養に充てられる時間は3日確保してあった。

夏季休暇中の課題は先に片付けて、バイトや面談、
カウンセリングの日程調整に腐心し、家事も暫く
やらずに済むように、レトルト食品を買い込む等
徹底的に準備した。

それでもなおこの有様である。

回復し切れないまま新学期を迎えてしまった彼女は
律儀に不調を押してまで学期初めの手続を行い……
そして今、ようやく全てを終えて燃料切れ。

どうにか寮まで辿り着いたものの、自室にすら
戻れずにソファに負けた。飲み口にストローが
刺さったまま、中身はまだ半分も減っていない
エナジードリンクの缶が哀愁を誘う。

ご案内:「堅磐寮 ロビー」に鞘師華奈さんが現れました。
鞘師華奈 > 夏休みも終わり、あちこちに気だるそうだったり課題が間に合わず補習に明け暮れる生徒の姿も珍しくない。
そんな四苦八苦、あるいは阿鼻叫喚の地獄を尻目に、女は学業と仕事を黙々と並行して何時もの平常運転だ。

「…さて、と。取り敢えず部屋に戻って掃除でも――…」

と、呟きながらロビーに姿を現し、そのまま真っ直ぐ横切って部屋へと向かおうとした矢先。
何やら、見覚えのある少女が見事にテーブルに突っ伏しているのを発見する。

(……何か覚えがある光景なんだけど…。)

そういえば、自分もロビーのソファーでよくぐったりしたり居眠りをしていたなぁ、と思いつつ。
如何にも満身創痍、といった体の相手にわざわざ声を掛けるのも躊躇われたけれど。

「…まぁ、知人だし同じ寮のよしみだし、挨拶くらいはね…。」

姿を見るのも久々だし、片手にスーパーのビニール袋を持ったまま方向転換。
職業柄、そして昔取った杵柄というか…気配や足音を極力消す癖があるこの女。
まるで無音の影の如くそちらへと歩み寄れば、あまり近すぎると驚かせそうなので適度な距離で足を一度止めて。

「……やぁ、久しぶり薫。…何かお疲れみたいだね?」

と、落ち着いた声色で挨拶をしながら、ぐったりテーブルに突っ伏す少女を物静かな赤い眼差しで見遣るのだ。

黛 薫 >  
声を掛けられた瞬間、びくっと肩が跳ね上がる。
ついでにテーブルの裏側からガンッと鈍い音が。
跳ねた拍子に膝を天板に打ち付けてしまった様子。
幸いテーブルの上の缶は無事だった。

「ぁ痛っって……ん何……おぁ、華奈? 久し振り」

駅で出会ったときは声が届くより早く振り返った
彼女だったが、今日は本当に声を掛けられるまで
気付かなかったらしい。蒼い瞳の焦点が合うまで
やや時間を要した。

何事もなく振る舞っているが、もう声も表情も
見るからに疲れ切っている。全身が軋むらしく、
打ち付けた膝の痛みが響いているようだ。

「同じ寮暮らしっつっても案外会わねーのな。
 って、そりゃあーしが外出てねーからか……。
 そっちは元気そー……あーいぁ、今のあーしと
 比べりゃそーなるよな」

冗句か自虐か、はたまたその両方か。
自身のボロボロっぷりをネタにして身を起こす。

鞘師華奈 > 「…ごめん、驚かせないように距離を取って声を掛けたつもり…だったんだけど…。」

元々、声が大きい訳ではないし普段から落ち着いた声量なので驚かせる事はあまり無い…
と、いうのは自分の目論見が甘かった。過剰に反応した少女に微苦笑を浮かべて。

「…うん、ともあれ久しぶり。…あー、私は仕事…バイト関係で外出が多いから…。」

女は彼女とは逆に部屋を空けている事が多く、遭遇しなかったのも止む無しだろうか。
そして、失礼でない程度に改めて彼女を眺める――明らかに疲労蓄積が酷い。

「…いやいや、私も少し前までは割と今の薫みたいな状態だったよ?
最近、少し落ち着いてきたから余裕があるように見えるだけでさ。
ところで――…。」

女は他人との距離感を比較的重視する。特に相手が色々と訳ありそうなら尚更だ。
未だ、黛薫というこの少し自分と似たものを感じる少女の事は殆ど知らないに等しい。
けれども、相当にお疲れのご様子の少女を見て見ぬフリは流石に出来ない。
視線を、彼女から一度テーブルの上の缶へと向けてから赤い眼差しをそちらに戻し。

「…疲労の理由は別に聞かないけど、しんどいようなら私が何とかしようか?
少なくとも、今の状態よりは格段にマシになると思うけど…。」

と、あくまで押し付けではなく提案の形でそう申し出てみようか。
何せ、自分の異能は――まさに『疲労』に深く関連した能力だからだ。

黛 薫 >  
「いぁー、今のはあーしが油断してただけですし?
 華奈に落ち度はねーです。折角珍しく会えた日に
 限って気ぃ抜けてたのは間ぁ悪ぃなとは思ぅけぉ」

貴女の視線を追って、テーブルの上の缶をそっと
手元に引き寄せる。炭酸が抜け切る前に起こして
もらえたのは寧ろ良かったかもしれない。

しかしストローに口を付ける前に貴女の申し出を
聞いて手が止まった。探るように貴女を見ている。

「念のため聞ぃとっけぉ、その『何とかする』は
 華奈の方にデメリットがない方法?」

正直なところ、今の疲労をどうにか出来るなら
人に甘えるのも辞さないくらいには限界が近い。

しかしつい最近まで今の自分と大差なかったと
口にしたばかりの相手は話が別。今の自分同様
ロビーでうたた寝しかけていた姿も見たことが
あるし、あまり負担は掛けたくない。

鞘師華奈 > 「…いや、気が抜けるのは誰だってあるだろうし、それはしょうがないさ。
…私も、薫みたいにロビーでダウンしてた事は何度もあるからなぁ…。」

変な所が似てるよなぁ、と思いつつ彼女がテーブル上の缶を手元に引き寄せるのを一瞥して。

「いや、あるよ?ただ、別に命に危険があるだとか、私の状態が悪化する程でもないかな。
…と、いうより薫の疲労具合次第、としか言い様がないかも…実際にやってみないと何とも、だね。」

普通、こういう事は誤魔化すなり何なりするのが利口で世渡りが上手いヤツなのだろう。
だが、女はあっさりと隠さずに自身へのデメリットはあると即答する。

「…で、提案ついでに”先回り”して言っておくけど…。
知人の疲労を取り除く手段が自分にあるのに、それを使わない、というのは私の性分ではなくてね。
まぁ、これが面識の無い完全な赤の他人だったり気に食わない相手なら話は少し変わってくるけど…。」

デメリットがある、と答えた以上は確実に大なり小なり薫は遠慮するだろう。
それを見越して、自分のスタンスをきちんと隠さず先に述べとく。
彼女に余計な気苦労や心配は掛けないように、という女なりの配慮ではあるけど…

「…まぁ、そうだね…それでも納得できないなら、交換条件とかどうかな?
ちなみに内容は、『今度お互いの空いてる時間にのんびり雑談でもする』、というのはどうだろう?」

微かに悪戯っぽく微笑んで指を1本ピッと立ててみせる。
交換条件を持ち出す事でハードルを下げる、そして内容も無難なものだ。
実際の所、会う機会が中々無いので雑談をして交友を深めてみたい気持ちはある。

黛 薫 >  
「ズルぅい……」

思わず口に出してから眉間を押さえる。
狡いという表現は正しくもあり、間違ってもいる。

もし誠実の対局にあるものを『狡い』とするなら、
嘘偽りなくデメリットの存在を告げ、かつ自分の
スタンスを明確に示す華奈の言葉は誠実である。

しかし質問から此方の意図を汲み、先回りして
断る理由──つまり貴女を慮る気持ちに対して
自身の性分を持ち出し、断ればそれに反すると
真っ直ぐ伝える交渉の巧さは感情的には『狡い』
と感じてしまう。

「これ問ぃ返した時点であーしの負けじゃんか、
 も゛ー……イィすよ。でも無理はダメだかんな」

つまるところ、黛薫は断れないのである。
真似るように指を立てて付け加えた『無理しない』
という条件が彼女なりの精一杯の妥協点なのだろう。

鞘師華奈 > 「…狡いかな?…私は駆け引きは苦手だから、先に自分のスタンスを正直に伝えてるだけなんだけど。」

『狡い誠実』―矛盾しているようで、実際はそう捉えられるものだったろう。
地味にタチが悪いのは、女は少なくとも余計な虚飾や嘘を用いていない事だ。
そもそも『視線』に宿る色がシンプル――『疲労困憊の知人を楽にしてやりたい』…ただそれだけ。

「…と、いうより勝ち負けとかじゃないよ…単に私の我儘みたいなものさ。
薫が本気で嫌そうなら、私はそれを尊重するし別にそれで避けたりするつもりもないしね。」

その場合、自分が重視する相手との『距離感』を測り間違えたという事だ。
反省会は自分の中でするかもしれないが、そうなっても彼女に落ち度は一切無い。
結果的に、それが断れない少女にちょっと漬け込んでいる形になってしまっている…かもしれないが。

「分かってるよ…そこは薫の意見を尊重するから。
じゃあ、そうだな…取り敢えず握手して貰っていいかな?
私の異能で何とかするつもりなんだけど、相手の体の一部に触れるのが条件でね…。」

と、言いながら右手に持っていたスーパーのビニール袋を左手に持ち替えて。
彼女に握手を求めるようにこちらから右手をゆっくりと差し出してみせる。
能力の発動条件をわざわざ口にしたのは、これも相手へと誠意を見せる為だ。

黛 薫 >  
「嫌じゃねーってか、むしろありがたぃけぉ、さぁ」

ありがたいと言いつつ膨れっ面を隠さない黛薫は
真っ直ぐな貴女と対照的に捻くれている。しかし
万が一にも痼を残さないために本気で嫌がっては
いないことを口にする律儀さは通ずるものがある。

握手のために差し出された手は以前会ったとき、
車椅子に乗っていた頃と比べると随分と自然に
動かせるようになっていた。しかし疲労の影響か、
単なる動きの不自由さとは違う『制御の拙さ』が
見て取れた。

時に、握手の仕方には人柄が表れると言う。

相手に興味がないことを誤魔化すため大袈裟に
手を振る者、出会えた喜びが先んじて必要以上に
強く握ってしまう者、過剰な気遣いから力すら
込められず触れるだけの者など、多種多様。

黛薫の手の印象は捻くれて粗暴な口調から程遠い。

触れることさえ怯えるような不慣れさ、気弱さ。
嫌がっていると誤解されないために力加減を探る
繊細さ。不快な想いをさせまいと握る位置まで
気遣う神経質とも取れる優しさ。

不良然としたファッションの上に羽織る可愛らしい
パーカー同様、表向きの態度と食い違うちぐはぐさ。

鞘師華奈 > 「…じゃあ、そこは遠慮なく乗っかって貰いたいね…重ねて約束するけど、無理はしないからさ?」

女としては一切そのつもりは無いのだが…ちゃっかり少女を丸め込んでいるようにも見えなくも無い。
そもそも、本人が先に口にした通り、駆け引きの類は正直苦手なのだ。
割と疑心を抱え易い女にとって、だからこそ口にした事はきちんと誠実に行いたいもの。
結局、形や方向性は違えど…やっぱり何処か二人は似ている面があるのかもしれない。

(…そういえば、薫は前は車椅子に乗っていたけど…それに…。)

疲労困憊とはいえ、手の動きは滑らかなようにも思えて。それでも矢張り動きに不自然さは窺える。
…いや、違う、まるで何かで制御して己の手足を動かしているような感じがする。
それが何かまでは、彼女の事をまだ殆ど知らない女には推測すら難しいが。

そして、二人でそっと握手をする――自然と職業病が鎌首を擡げる。
率直なイメージは…そう、脆い硝子細工のような危うい繊細さだだろうか。
少しでも加減を間違えれば、割れて崩れてしまいそうな程に。
それは、彼女の口調や服装等を鑑みればちぐはぐで…ある種のアンバランスさが滲んでいる。

(ああ、成程――君は色々と複雑なものを抱えているんだな…、。)

知った気になるのは駄目な事だが、そう心の中で呟く程度には実感した事がある。
ここまで『不安定』…何かの拍子で天秤が傾きそうな危うさを持つ子はそうは居ない。

繊細で、神経質で、気遣いがあり優しい。握手一つで色々と分かる事もあるものだ。

「よし、じゃあさっくりと済ませようか――…じゃあ行くよ?」

前置きをしてから、能力を発動――効果は直ぐに彼女自身の体感として現れるかもしれない。
全身の肉体の疲労感が吸い取られるように抜けていく感覚。
それだけでなく、精神的な疲労――ストレス等も吸い取っていく。
そして、デメリットは…少女の心身の疲労を女が『肩代わり』する事だ。
つまり、彼女の今の状態を己が引き継ぐことになる…それが唯一にして最大のデメリット。

ただ、女はそれを表情や態度には頑なに出す事はなく、平静な何時ものままで。
繋いだ手をパイパスとして、あらゆる『疲労』をきっちり吸収していく。

無理はしない…無理はしないが、”手を抜くつもりは無い”。薫が楽な状態になるまで妥協はしない。

黛 薫 >  
疲労が『吸収』されていく。黛薫はその間、陰気に
伸びた前髪の下から、じぃっと繋いだ手を見ていた。

まず、身体的な疲労。この時期にありがちな徹夜や
頭の酷使とは全く異なる疲労。さりとて運動による
疲労かと問われれば、それも部分的に当て嵌まるに
留まるだろう。

比喩でも何でもなく全身に満遍なくのしかかる疲労。
筋肉や神経どころか内臓──消化器や生殖器にまで
及ぶ重い疲労。拙い手先の動きも納得するどころか
動かせている事実が不自然なほど。

少なくとも人間の自発的な行動で此処までの酷使は
不可能、間違いなく先に身体が限界を迎えてしまう。
外的な要因に拠るのは間違いないだろう。短時間に
尋常でない無理を強いられたのが感じられる。

次に、精神的な疲労。此方は急激な無理が祟った
身体の疲労とは真逆……蓄積された疲労の重み。

日頃のストレスなどという軽いものではない。
極めて強い精神負担が常態化しているらしく、
カウンセリングが必要なレベル。

細かな所作、触れ合いから感じ取れた不安定さの
要因のひとつであることは容易に伺えるだろう。

水は高きから低きに流れるもの。
繋いだ手を介して、1人の少女が抱え込むには
明らかに重すぎる疲労が貴女に流入して── ▼

黛 薫 >  
「ここまで」

黛薫の方から、ぱっと手を離した。

「いぁ、ビッックリした……軽くなるってーか、
 吸われてくのな? こんな急激に改善したコト
 なかったから、思わず手ぇ離し……あ、いぁ、
 無理しなぃって華奈の言葉信用してなかった
 ワケじゃねーけぉ、つぃ咄嗟に」

疲労が軽減されたのは間違いないだろう。
声も口も軽くなった言葉はその証左。

一度言葉を切り、おずおずと貴女の様子を伺う。

鞘師華奈 > (――あ、これはマズいかもしれないな…。)

彼女の事情を知らないとはいえ、根こそぎ吸収してしまおうという魂胆が裏目に出た気がする。
身体的な疲労に関しては、そもそもただの疲労とはレベルが違う…筋肉、神経、内臓、生殖器…全てに『重い』疲労が女に圧し掛かる。
能力に慣れた女であっても、かつてないレベルで異常な負荷だ…それでも、肉体方面の疲労”は”まだ大丈夫。

(…大丈夫じゃないんだけどね実際は。…これは薫の疲労の事情を甘く見ていたかもしれない…。

だが、それより問題なのは精神的な疲労だ。正直、これは自分の能力でもカバーはしきれない。
…正確には、”一時的に”マシに出来るが根本的なものまでは無理だという事。
幾ら、疲労に特化した異能であっても一人の人間が扱う能力だ。神様でも悪魔でも無い。

(…蓄積というより常態化し過ぎている――…これ以上は、私の精神が危ない…か。)

まだ、意識を正常に保って表向きは平然としているのが奇跡というレベルだ。
未だかつてない重く異質な『疲労』は、確実に女への負荷を異常なものとしており。

だけど――…自分が申し出た事だ。自分が選んだ手段の結果だ。
彼女の『疲労』を一般的なソレと勝手に誤認していたのはこちらの落ち度。
あと、数秒遅かったらその場に崩れ落ちてしまう所で――「ここまで」と手を離される。

「…うん、それは…良かった…久々に人に対して使ったから…少し加減が…難しかったけど…。」

耐える。常人ならまともに振舞うのすら困難な疲労具合だが、意地でも顔や態度には出さない。
さりげなく、顔に浮かんでいた汗を拭う――久々に使った、という建前で汗の理由を誤魔化す。

おずおずと様子を窺う彼女の視線に気付けば、そちらへと微笑を静かに向けて。
正直、慣れない不可思議な心身の疲労にダウンしてしまいたいのが隠すことの無い本音だ。
それでも、薫に心配や下手な気遣いをさせたくない。だから意地でも態度には出さない。

「…まぁ、あくまで一時凌ぎみたいなものだけどね…軽くなったなら良かったよ…。」

女の異能は、本来は自身の抱えた疲労を対象にぶつけて効果を齎すものだ。
相手の疲労を肩代わりする、というのは応用的な使い方とも言える。
今なら、その凄まじい『疲労』でかなりの破壊力を発揮するだろうがそんな事はしない。

(…肉体的な疲労は…一度『死んだ』事もあるし、まだ耐えられるけどね…。)

矢張り、精神的負荷の方がしんどい。精神はあくまで人間の少女のそれだ。
幾ら一度死んだ身であっても、その精神までが特異性を帯びるわけでもなく。

鞘師華奈 > 「――まぁ、こんな所かな…それで、本当に調子は大丈夫そうかい?」

と、あくまで彼女の体の具合を最優先しつつ、「あ、交換条件どうしようか?」と。
そんな、少しおどけたような口調と笑みの裏では絶賛、心身の疲労と格闘している。