2022/09/05 のログ
黛 薫 >  
「……あーしはしょーじき今までに無いレベルで
 楽になったけぉ。華奈が大丈夫じゃねーだろ」

表面上完璧に取り繕ってなお、当たり前のように
見透かしてため息。恐らく表向きの態度とは別の
『何か』を読まれたのだろうと推測できる。

落ち度というなら黛薫側にもある。
軽減される疲労は身体方面のものばかりと考えて、
取り繕うのに慣れすぎた精神面の疲労が考慮から
抜け落ちていたのだから。

身体と精神、両面が疲弊し切った状況はかなりの
イレギュラーだが、定期的なカウンセリングを
必要する精神面だけでも重度の負担になることを
忘れていたのはしくじりだった。

「ここまでしてもらっちゃ、雑談だけじゃあーしが
 貰ぃすぎ。だからお話するとき、何か奢らせてよ。
 行きたぃお店決めとぃて」

常識的な値段の範囲内で、と付け加えようとして
止めた。まだ相手のことをよく知っているとは
言えないが、奢りに託けて豪遊するほど不誠実な
人でないのは分かってきたし。

それから、ちょっと迷って口を開く。

「……あーし、普段からこんな疲れてるワケじゃ
 ねーかんな。今回はちょっと特殊なパターン」

もっとも、その言い訳は身体面の話だろう。
精神面の疲労は貴女が感じた通り常態化している。

鞘師華奈 > 「……やっぱり誤魔化し切れないかぁ…。」

まるで見透かしたように口にして溜息を漏らす薫の様子に、ややあって…ぽつりと漏らす。
むしろ、こうやって精神を保って表向きは平然としているように見えるのがそもそもおかしい。
目の前の少女の『疲労』はとんでもないレベルで、しかも根が相当に深いと分かってしまった。

(…私の能力でも、一時的な緩和は可能だけど根本的にどうこうは無理だろうね…。)

決して万能ではない特化型の能力だからこそ、疲労に関してはある程度の自負は正直あった。
それでも、矢張り一人の力ではどうしようもないものは幾らでも転がっていて。
…黛薫という少女の抱える事情は、とんでもなく重いという事実を否応なく実感した。

肉体面だけならば、まだ耐えられる(それでもかなり地獄だが)…だが精神面は自分が持たない。
己の未熟さと見通しの甘さを痛感するが、今の時点ではどうしようもない。

(…そもそも、私が彼女の抱える事情に土足で入り込む訳にもいかないしね…)

そこの線引きはきっちりしているし、まだ御互いの事を殆ど知らないのだ。
結局、彼女に気取られてしまった時点で意地やら何もかもご破算となったが。

「了解――まぁ、私は人が多い場所は苦手だし、お高い店はそれこそ趣味じゃないし…。
何処か、落ち着いた雰囲気の庶民的なお店を探しておくよ。それなら薫も多分入りやすいと思うし…。」

気取ったお洒落なお店よりも、庶民的な店の方がそもそも女の好みでもある訳で。
落第街暮らしがそれなりに長かったのもあり、ぶっちゃけあまり小洒落た店なんて縁が無いのだ。
そして、薫の予想通り、この女は豪遊だの何だのは絶対にしないタイプである。

「…分かってるよ。ちょっと今回は私の方で見通しが甘かったのもあるし。
けど、少しでも楽になってくれてるなら私の能力も無意味ではなかったから、御の字さ。」

疲労を押し付ける厄介な力。人の助けになるには今のように疲労を肩代わりするしかない。
少なくとも、反省点は多々あれど彼女に能力を行使した事に後悔は無く。

「…あぁ、そうだ。…一応連絡先の交換とかって平気かな?
無理に交換する必要は無いと思うけど、打ち合わせするならその方が早いし…。」

と、ポケットから携帯を取り出してひらひら振ってみせる。
まぁ、無理に交換せずとも同じ寮仲間なので、手紙なりなんなりでも構わないが。

黛 薫 >  
「あーしも誤魔化し慣れてっから、てのが半分と。
 もー半分はちょっとズル。そーゆーの分かんだ、
 あーしの異能。疲労の吸収が華奈の異能よな?
 交換ってワケじゃねーけぉ、黙って読むのは
 フェアじゃねーから、言っとく」

「あーしの異能、『見られる』と『触られた』
 よーに感じ取れる。悪意ある視線は刺さるし、
 優しぃ視線はふわふわしてる。疲れてるのも
 感触で分かるのな」

異能の開示はひとつの疑問──ここまで精神の
疲労が常態化しているのは何故かの答えでもある。

年頃の女の子が身体に触られたらどう思うか。
場合によっては触った側が通報されるだろう。
つまりそれは罪として扱われるほどの心の傷に
なり得る行為。

黛薫は絶え間なくそれに晒されて生きている。

そして、もうひとつ。以前駅のホームで会ったとき、
黛薫は『キライなところに居たかった』と口にした。
あれはつまり『自傷行為』であったのだろう。

「ん、りょーかぃ。じゃあ行きたい店決まったら
 連絡してもらぇばよくなるワケな。んじゃコレ、
 あーしの連絡先」

深刻な精神状態をおくびも出さず、携帯の代わりに
中空に浮かぶ半透明のホロスクリーンを展開した。
モニターには彼女の連絡先が表示されている。

鞘師華奈 > 「…ああ、正確にはそっちは応用で本来の使い方は『自分の疲労を負荷として相手に押し付ける』のが正解かな…。」

肩を竦めて補足する。つまりさっきの使い方の逆に等しいものだ。
言ってみれば、強制的に相手に状態異常を引き起こすのがこの異能の真価。
地味ではあるが厄介と言えば厄介。先と同じく、対象に直接触れないといけないが。

まぁ、自分の能力は兎も角として、薫の言葉に静かな表情のまま聞き入っていたが。

「…他者の視線を『触覚』として感じ取るみたいな感じなのか…。
…成程、じゃあ私が誤魔化しても視線で見破られる訳だね…下手な隠し事は出来ない訳だ。」

言ってみれば、薫を視認している限りは彼女に何かしら『気付かれる』という事だろう。
そして、同時に彼女の精神的な負荷の理由の答えが理解できたように思える。
それが全てとは限らないだろうが、視線に晒されることの無い生活は中々に困難だ。
しかも、本人の意志に関係がなく常時発動型だとしたら、その周囲の視線に絶えず晒される負荷は…。

(…メリットが無いとは言わないけど、能力者本人にデメリットが重過ぎるな…。)

ふと、以前に駅のホームで遭遇した時の事を思いだす。
あそこだって人の往来が結構ある場所なのにわざわざ佇んでいたのは。

――自傷行為…なのだろうか?彼女の抱える『闇』は今の自分には分からない。
それは、矢張り土足で荒らしまわって探ってはいけないものだろう。
折角、もしかしたら友人になれるかもしれない子と知り合えたのだから、この縁は大事にしたい。

「ああ、そういう感じで――おっと…またハイテクだね…。」

一瞬、ホロスクリーンに赤い瞳を丸くするが、それ自体は技術的には既に確立されているだろう。
表示された連絡先を自身の携帯に登録しておきつつ、携帯を仕舞い込んで。

「…さて、と。じゃあ私は部屋に戻るかな…ああ、そうそう。
平気だと思うんだけど、もし何か急に調子が不自然に崩れたら遠慮なく言ってほしい。
私の能力で副作用はそっちには出ないと思うけど万が一って事もあるしね…。」

そう口にしつつ、左手に持ったビニール袋を持ち直す。中からは新鮮な野菜とカレーのルーの箱が覗いていた。

黛 薫 >  
「そっちはそっちで……荒事向きの異能? に
 なんのかな。逆の使い方させちまったのな、
 んでもありがと。楽になったのはホント」

身体の疲労はともかく精神の疲労は元を絶たねば
また溜まる。対症療法でしかないのは黛薫自身が
1番よく分かっているが、だからこそ一時的にでも
軽くしてもらえたことには価値がある。

だって、普段なら積み重なるばかりだから。

「ま、華奈は素直……ってか誠実な方だから、
 相対的に効果薄くなる。さっきみたく無理を
 してなきゃ、だけぉ」

無理をしないと言いつつ、行けるところまでは
行っても大丈夫だろうと楽観していたことを
言外に咎めているような、そうでもないような。

「ん、じゃあーしも戻ろかな。連絡先もらったから
 不調があっても知らせられっし。つかあーしよか
 華奈の体調のが心配なんですけぉー。しっかり
 ご飯食べて休んでくれよな。

 あーしが連絡もらっても出来るこた少ねーけぉ、
 何かあったら駆けつけっから。いぁ、あーしに
 頼るよか、フツーに病院とかのが確実か」

すっと立ち上がって、ビニール袋の中に未開封の
携帯栄養食とゼリー飲料を突っ込んだ。調理する
体力が残っていなかったら使えということらしい。

「……それと、よっぽどへーきだとは思ぅけぉ。
 あーしの疲労、華奈の方に移ってんのよな?
 もし、そーなら多分……疲れ切ってるせいで
 色んな場所に力入らねーと思ぅから気ぃつけて」

最後に力が入らなかった所為で何かやらかしたと
思しき忠告を添えて、部屋に戻っていった。

鞘師華奈 > 「…いや、あくまで応用だから別に負担が凄いとかでもないからね。
…疲労の吸収の量や速度とか、細かい調整はしないといけないから能力の精密操作、という点では厄介だけど。」

単純に『押し付ける』基本的な使い方よりも、『吸収して肩代わり』する方が能力操作的な難易度は高い。
それでも、矢張り一番の誤算は彼女の抱えるとてつもない『疲労』と根深い事情だろう。

それでも、一時的に心身の疲労をきっちり軽減したので能力自体はきちんと彼女に作用している。
単純に、自身の能力の限界値の問題であり、不発などではないのが幸いというべきなのか。

「……あぁ、うん。薫に隠し事はあまり出来ないって言うか…痩せ我慢はするなって事だね…。」

バツが悪いのか、若干赤い視線を逸らしながら口にする。
実際、そういう傾向が女にはあるので痛い所を突かれた気分だ。
無理をしない、と言いつつ事情を知らないとはいえ限界まで彼女の疲労を肩代わりしようとしたのが間違い。

「…分かってるよ。まぁ流石に食事より先に睡眠とかの方が先になりそうだけど、ね…。」

あくまで平静を装ってはいるけれど、今まで感じたことの無い肉体と精神の負荷に、実は限界が近い。
彼女にはおそらく見透かされているだろうが、露骨に態度に出さないだけ女の痩せ我慢も相当なレベルだろう。

「…薫に頼りたい時は頼るけど、そっちもそっちで大変そうだからね…でも、まぁ。」

偶には誰かに甘えてもいいのかな、と思いながらも程ほどにしておかねば、と。
徐にビニール袋に突っ込まれたゼリー飲料と携帯栄養食に礼は述べつつもも、

「……薫?そっちこそちゃんと食べなよ?差し入れくらいなら出来るし。」

こう見えても料理歴は8年とそれなりに長いので自炊はお手の物だ。
そもそも、外食が最近仕事の都合で増えたとはいえ女は基本的には自炊派である。

「…うん、ちょっと口に出すのもちょっと恥ずかしい所ところか色々、ね…。」

まさかデリケートな部分まで負荷が圧し掛かるとは予想外に過ぎて。
お陰で、平静を保ちながらも若干動きがぎこちないのはそれが原因だろう。

「じゃあ、お互い何かあれば遠慮なく連絡で。…店とか決まったら私から連絡するよ。」

そう、口にしつつ軽く右手を挙げて挨拶を交わしてから女も部屋へと戻るだろう。


――案の定、部屋に戻った途端に痩せ我慢も限界で…慣れない類の疲労感に苛まれてしまっていたとか。

ご案内:「堅磐寮 ロビー」から黛 薫さんが去りました。
ご案内:「堅磐寮 ロビー」から鞘師華奈さんが去りました。