2022/10/05 のログ
■黛 薫 >
「容量、重量は個人用なら十分ってレベルだけぉ、
それよかタイムラグの無さが破格って印象だな。
取り出す際の範囲はどーかな? 手元に出るのか、
意識すればある程度遠くに出せるのかとか」
華奈の不安を他所に、黛薫は熱心に聞いた内容を
ホロタブレットに記録している。
『知識』という話であれば、黛薫は同年代の中では
頭ひとつ抜けている。元々彼女には魔術適正がなく、
実践が出来ない分、一縷の望みに賭けてせめて知識
だけでも、と積み重ねた妄執の結晶。
そして今なお適正は高くなく、人脈も少ない。
特化した他者の魔術をこうも詳細に知れる機会は
そうそうなく、存外楽しんでいたりする。
まあ、夢中になり過ぎて華奈の懸念に気付けて
いないのでそれも良し悪しだが。
「もし無形のモノ、例えば魔力とかを収納出来たら
足掛かりに出来そーだったけぉ、その案はナシか。
でも魔力結晶とか使ぇば貯蔵自体は可能かも?
どーやって利用するかっつー課題は残っけぉ、
外付けでリソース用意出来ると強ぃかんな」
■鞘師華奈 > 「範囲は…そうだね、基本は私の手に設定しているからそこに出現する感じで。
意識をすればそうだな…物によるんだけど、半径10メートル以内なら行けるかも。
ただ、遠くに出現させても出現した物体は普通に地面に落下するだけだからね。
戦闘で言えば、囮というか気を逸らすのには使えるけど日常では遠くに出してもあまり役に立たないかも。
だから、私は基本の設定がメインで大体は手元に出現させるようにしてる。
…ちなみに、消費魔力は出し入れする時くらいかな。収納スペースの”鍵を開け閉め”するって感じ。
あと、物体の大きさ/長さに比例して消費魔力もちょっと変動する。
収納スペース自体は『固定』されてるから、その空間の維持魔力は殆ど無いに等しい。」
『知識』では遠く及ばない分、『実践』…自身で常に使い続けている”生きたデータ”を彼女に語る。
何となく、薫の雰囲気が楽しげに感じるのは気のせいだろうか?
少なくとも、得る物はある…ように見えるので、無駄で無いだけ内心でホッとする。
「魔力や異能の力そのものを出し入れ出来たら、流石に破格も過ぎるからねぇ。
今の時点でも、まぁ十分に破格かもしれないけどそこが私の『収納』の魔術の限界点かな。
薫が例に出した魔力結晶とか、何かしら物体に魔力を保管してから『収納』は可能だけど。」
つまり、何かしらの物体を経由すれば間接的に魔力の出し入れも可能。
『物体を自在に出し入れする』特性を逆手に取った形がそれとなるのだろう。
「あと、他人の魔力とか魔術も物体に込めておけば問題なく出し入れは出来るね。これは過去に実践済み。」
そういう意味では、『物体』経由という絶対的な枷はあれど出し入れ出来る魔力の質や種類に制限は無いという事だ。
■黛 薫 >
「遠くに出しても『落下』するだけなら『射出』は
無理ってコトか。出し入れの際に消費が発生して
ラグも無ぃなら、半分だけ出すとかも無理よな?
もし収納可能範囲が取り出しと同等だとしたら、
投げたりしたモノの再回収ワンチャンある?」
出来ること、出来ないことを並べて精査する。
可能性を提案し、除外された案も飲み込まずに
口に出す。試したことはない、或いは今出来ない
方法であっても、今後できるようにならないとは
言い切れないため、捨てずに置いておく。
「逆に言や、物質化すりゃしまっとける、と。
ってこた『収納』の直前に物質化、物体化の
プロセスを挟み込めたら可能性が広がるな」
「んーと、ちょっと術式考えてみてイィ?」
黒板より少し小さいくらいのサイズに拡大された
ホロスクリーンに難解な魔術式を刻み始める。
応用魔術理論の講義内の知識で読み解けるのは
何らかの魔術を起点に別の魔術を発動させようと
しているところまで。もし独学の範囲に含まれて
いれば、封印系の魔術との接続まで見て取れる。
■鞘師華奈 > 「そうだね…私がもっと魔術に精通していれば『射出』は行ける気はするんだけど。
これに関しては今の私では無理だね。それこそ出現と同時に別の魔術で飛ばすしかない。
あと、それもその通りで中途半端に一部とか半分とかは出来ないね。
あくまで完全に収納するか完全に出現させるか。ただ、これに関しては改善は出来そうな気もする。
出し入れで使う魔力リソースを『調整』すれば、一部だけとか半分だけの出し入れも出来なくは無い。
――そうだね、これも実践した事あるんだけど、さっきの半径10メートル圏内。
その範囲内なら、出現させた離れた物体も即座に収納は出来るよ。」
そういう意味では『同等』だろう。『射出』以外は少なくともどうにか出来そうではある。
今の話題の中での課題…出来ない事は物体の離れた場所への『射出』。
工夫次第で出来るのは物体の『一部』ないし『半分』取り出し。
そして、既に可能なのが収納可能範囲が取り出し範囲が同じ事による『再回収』。
「そうだね、容量に収まる範囲内ならそれでストックしてはおけるかな。
ただ、数を多くストックするなら、それこそ媒体である物体は小さい方が望ましいね。これはまぁ当たり前か。」
個人スペースとしては破格の広さであっても、容量は確実に圧迫するので、小さくて軽い物体を大量に保管する方がまだ合理的か。
「構わないよ…と、いうか私の『収納』魔術を薫の知識で拡張するような流れだね、これ。」
こちらとしては大いに有り難いが、薫は――知識が蓄えられるからあちらも良いのだろうか?
ともあれ、彼女が出現させたホロスクリーンをこちらも眺めつつ。
「応用魔術理論と――こっちは封印系の奴かな?そっちは触り程度しか分からないけど。」
完全には無理だが、それでもある程度は理解は出来ているらしい。
それでも、彼女の邪魔しないようにしつつ珈琲を一口。
ちなみに、ティガは薫にくっついて完全にリラックスモードだ。
ジェリーには興味を失ったのか…いや、時々見ているからそうでもなさそうだ。
■黛 薫 >
「今は出来ねーけぉ可能性があるのは『射出』。
改善の展望まで見ぇてんのが『一部の現出』。
既に可能なのが『再回収』。
うん、イィな。可能性の広がりを感じる」
言い終えると同時、術式を書き終えて振り返る。
「華奈もちょっと分かってたみたぃだけぉ、
こっちの術式は『封印』をベースにしてる。
つってもテストだから効果はかなり限定的で」
まず指先に小さな火を灯す。術式を発動させると
火が凍り付くように赤い結晶と化してテーブルに
転がった。
「で、華奈の『収納』の魔術を起点にこっちの
術式を起動……応用魔術理論の範囲内だから
大丈夫だよな? 無理そーならサポートする。
予定通りに動いてくれたなら、さっきの火の
魔術が収納出来るハズ」
「それが成功したら、こっちの封印の魔術を
出来るだけ汎用的なモノに書き換えたい。
限度はあるけぉ、しまえるモノの範囲は
大きく広がると思ぅ」
華奈の『収納』が物体にしか作用しないのなら、
『収納』に反応して物質化させてしまえば良い。
とはいえ言うは易し行うは難し、対象を選ばない
物質化は非常に難しいので、簡単な術式で試して
実現可能かどうかを確かめようという寸法。
■鞘師華奈 > 「そんな所だね。改善点…と、いうより発展性はあるといえばあるかな。」
他のメイン2つの魔術に比べれば、一番『拡張性』があるのは矢張り『収納』だろう。
可能性の広がり、という言葉に今後の自身の魔術のアップデートに僅かに思いを馳せつつ。
「『封印」術式は私のイメージだと地味に難易度高いんだよなぁ。
対象や範囲を指定して限定効果にすれば難易度は下がりそうだけど…。」
言いつつ、薫が指先に小さな火を点したのを見遣る。
それが、限定的な『封印』術式で結晶化してテーブルへと転がり。
成程、と薫が行おうとしてる『実践』を理解したのか頷いてみせて。
「じゃあ、早速やってみようか。」
そう言って赤い結晶へと視線を向ける。自身の魔術が基点となるので薫に目線で合図をしてから『収納』を発動。
そして、『封印』術式が”紐付け”されるように連動起動。
効果は上手く発動したらしく、若干の間を置いて収納空間に赤い結晶が保管されたのを感じ取る。
「――成功はしたけど、一瞬とは行かないね。数秒のタイムラグがある。
何かに”引っ掛かる”感覚があったからこっち側で『調整』してみる。」
そう口にすれば、今度は取り出しだ。調整しているのか、何か考え込むように瞳を数秒閉じていたが。
「…誤差修正…連動…位相空間の調整…。」
ブツブツ呟きながら瞳を開く。そして次の瞬間、収納された赤い結晶が同じ状態でテーブルの上に忽然と姿を見せる。
今度は、先程と違ってタイムラグも殆ど無くほぼ一瞬だ。
「――うん、『調整』は出来た。ただ、まだ少し慣れないね。」
これは単純に、『封印』術式を噛んだ状態で『収納』した事が無いからだとは分かっている。
一応、これは成功と言っていいのではないだろうか?薫の方へと視線を戻し。
「――どうだろう?『封印』術式の書き換えは行けそうかな?」
今の一連の結果で、彼女側の調整――書き換えには繋がりそうではあるが。
■黛 薫 >
「そー、実際難易度はちょっと高めなのよな。
だから色んな手法を試して現実的な落とし所を
探る形になるかな? 閉じ込めてパッケージ化
してみたり、解析してスクロール生成って手も。
それぞれ良し悪しあっからテストではひとまず
安全性を最優先に封印を選んでみた」
理論の次は実践。初挑戦故の引っかかりはあれど、
意識すれば取り出しの時点で上々の成果を見せた。
「おぉ……」「いぁスゴぃ、出来てる、バッチリ」
知識を蓄えに蓄え、長い時間を経てやっと実践に
至った黛薫からすれば、その場で考え、実践して
成果が出たというのは感動モノである。
これを見せてもらって応えないわけにはいくまい。
更にサイズを大きくしたホロスクリーンには
そろそろ講義範囲内の知識だけでは理解が及ぶか
怪しいレベルの術式が記述されていく。 ▼
■黛 薫 >
──そして、実用レベルの術式は組めた。
組めた、のだが。ここでちょっと問題発生。
「……ん、理論上コレでイケる。対象を閉じ込めて
『物質』扱ぃでパッケージ化するタイプの魔術式。
『封印』よか『結界』に近くなったな。強度限界が
あっから、例えば強力な攻撃を閉じ込めるとかは
使用者の技量や相応の魔力消費が必要だけぉ……
さっきの封印と違って決まった火の魔術だけじゃ
なぃ、もっと多くのモノを『収納可能』に出来る」
「……ん、だけぉ……」
「使ってもらぅにゃ、お勉強要る、かなぁ……」
もっと確実に、消費も軽く発動も早く、汎用的に
様々な物を『収納可能』に、と欲張りすぎた結果。
まず行使するために予備知識が必要なシロモノが
出来上がってしまった。
「つ、使ぇりゃ効果は保証すっから……。
参考文献とかもちゃんと出せっし……」
テンションが上がり過ぎた自覚はある。
やらかした後の猫みたいな気まずそうな態度。
■鞘師華奈 > 「…簡易型の結界術式って事か。技量に関してはまぁ、使って覚えるしかないかなぁ。
魔力消費に関しては、まぁそこは問題ないとして――…」
薫の言葉に相槌を打っていたが、何やら言い難そうな間と共に告げられた言葉。
一瞬、女も「あ~…」と、何とも言えない表情を浮かべてしまったのは否めない。
確かに、これはまず使用者である女が最低限必要な知識を身に付けないといけない。
んーー…と、少し唸りながら軽く腕組みをして宙を見上げる。
ややあってから顔を薫へと戻して苦笑いを浮かべつつ。
「…ま、そこは私自身が頑張るさ。薫に任せっぱなしなのは流石にね。
参考文献は流石にちょっと貸して貰いたい所だけど…『封印』術式は私は本当に最低限の知識だし。」
明らかに「やらかした」といった気まずそうな様子を見せる友人に、小さく笑って。
別に彼女は何も悪くないし、むしろこちらが助けて貰っているというのに。
「あのさ、薫?誰だって好きだったり得意分野だったり…まぁ、色々あるけどさ?
”何かに夢中になる”ことは悪い事じゃないんだし、薫の知識と応用は凄いと思う。
それに、間接的にだけど魔力を出し入れする方法が…まぁ、私自身の知識のアップグレードが前提としても確立された訳だし。
だから――…ありがとう。何か魔術談義なのに私だけ得したみたいになっちゃってるけど。」
と、最後は苦笑いになりつつもぺこりと頭を下げた。この友人の執念と妄執に裏打ちされた凄さを感じたから。
■黛 薫 >
「んぅ、ありがと……いぁ、でも得してんのは
華奈だけじゃねーよ。研究や術式の検討って
やっぱ自分が使ぇそーなヤツに偏っからさ。
この結界術式だって今日の議論がなかったら
まず組もーとさぇ思わなかったんだろーし。
それに、収納の術式も生で見せてもらぇたし。
適正がある華奈にゃ遠く及ばねーだろーけぉ、
廉価版の術式ならジェリーに組み込めるかも
って考ぇてんのな、今」
ふよふよふるり、魔術式の加筆を手伝っていた
ジェリーが黛薫の手元に戻ってくる。
「そりゃ魔術は『知識』が占めるウェイトが
大きぃよ。んでもそれを使ぅための発想と
インスピレーション、過程を組み上げる為の
モチベは知識だけでどーにかなるもんじゃ
ねーワケだし。
今日はしっっかり華奈からそれを貰ってんの。
あーしも得してるよ、ちゃんと」
感謝と、自分が得た物を口にして。
「じゃ、今から参考になりそうな文献片っ端から
伝ぇて……いぁ、後から見返せるよーに記録に
残る形がイィか。メールの方に送るよ」
……そして、これは黛薫も予期しなかった副産物。
今日構築された術式を使いこなすにはそれなりの
習熟が必要であり、華奈がそれを身に付けた暁には
魔法、魔術関連の知識、技量が今より少し広がる。
そうして得られた経験値は課題として残った
『射出』及び『部分現出』を実現するための
試行錯誤において助けになり得る。
魔術世界で『知』は力であり財産である。
間接的にだが、いずれ実感することになる筈だ。
■鞘師華奈 > 「…まぁ、多分こっち方面の術式は意外と使い手見当たらないしね…異能者なら案外多そうだけど。
まぁ、私も独学だけど元になった『理論』は別人のものだし。そういう意味では応用になるのかな。
…あと、だったらこれは薫に預けてもいいかもしれない。」
彼女の言葉に、そう答えつつ少し間を置いてから、手首をスナップする例の仕草。
取り出したのは、何やら古めかしい一冊のメモ帳だ。
かなり年季が入っているというか使い古されて所々ボロボロではあるが。
「私の『隔離収納』魔術の原案、というか元になった『位相空間』の魔術理論。
これを解読して薫が応用できれば、今口にしたジェリーへの組み込みが楽になると思う。
それに、薫の今後の研究ややり方次第では他の理論や魔術への応用も可能だと思う。」
ある意味でこれは『魔導書』みたいなものだ。位相空間なので空間術式の一種でもあり。
中々にハードルが高い高度な理論ではあるが、解析は薫なら出来ると思っている。
「私はもうこの理論は独学で自分なりに組み込んで今の『収納』魔術に応用してるからさ。
正直持っている意味はもう無いし、なら薫が持って貰った方が無駄にならないし。」
と、言いつつ手渡――そうとしても薫は戸惑いそうなので、軽くメモを放り投げれば、ジェリーの上にぽよん、と乗っかる形に。
「と、いう訳で参考資料に付いてはメールの方で頼むよ。
もしくは、私の部屋宛に何か現物を送ってくれてもいいしね。」
一先ず、『収納』魔術関連に付いては一区切り付きそうなので、思い出したように珈琲を飲みつつ。
課題は幾つかあるが、今より知識の幅を広げれば『収納』魔術の使い勝手も向上する。
勿論、自分だけでなく薫にもきちんと益があるなら友人としては正直ほっとする。
(――まぁ、私がどれだけ頑張れるかだなぁ)
友人が手助けしてくれても、自分がそれにきちんと応えられないといけない。
本腰を入れて魔術知識をきちんとアップグレードさせる頃合か。
■黛 薫 >
「……イィの?」
ぱらぱらと試しにページを捲ってみる。
初見で読み解けるような簡単な代物ではない。
華奈が『隔離収納』の魔術を使いこなしているのは
適正だけではなく、読み解く努力と研鑽があったと
理解するには十分。
「……ふひ、あーしが組んだ術式、正直途中から
華奈が扱ぅコトすっぽ抜けてやり過ぎたって
自覚あったんだけぉ。ちょっと気ぃ楽になった。
通って来てたんだな、考えて、身に付ける道」
独力でこれを身に付けたのは驚嘆に値する。
それだけの根気があれば、上達は出来るだろう。
黛薫自身もサポートを惜しむ気はないのだし。
「りょ。現物につぃては図書館で借りるのが
早ぃと思ぅ。魔導書と、あと論文になるか」
一息ついて、黛薫もコーヒーに口を付けた。
考えて、話して、頭も使ったお陰でカフェラテの
甘さが染み渡る。既に冷めていたが、そのお陰で
喉を潤すには却ってちょうど良かった。
「……コレ、熱ぃうちに飲んだ方が良かった?」
が、頼んでおいてすっかり忘れていたという
引け目も今更のように思い出すのだった。
■鞘師華奈 > 「それ、所々に書き足しがあると思うけど、そこは勘弁して欲しい。
私がそれを解いて応用するのに当たって付け加えたものだからさ?
結果的に私の魔術は理想だった『汎用性』とはズレてしまったけど、薫なら正しくそっちにも応用出来るだろうし。」
そこはまぁ、しょうがない。けど、友人と話してアップデートの機会がやって来たのは幸いだ。
それよりも、友人がこの『理論』をどう応用し活用するのかが楽しみで。
「あーー…うん、薫が本腰入れて解説とかしたら私の知識では多分途中で脱落しそうだなぁ。
まぁ、ほら…『適性』があったならやっぱり身に付けておきたいしね。」
誤魔化さず素直に知識の彼我の差は口にしつつ、そこはしょうがないと割り切っている。
その分、実践で腕を磨いて…そして、女なりに努力と研鑽の跡は彼女に渡したメモに残っている。
「あ、でもそれって割と貴重な理論だから…薫が信頼出来る人以外には秘匿しておいた方がいいかもね。」
まぁ、これは口に出すまでもないだろう。逆に言えば信頼出来るし活用してくれると期待して彼女に預けた。
現物に付いては、図書館を利用する事も考えていたので頷きつつ。
あとは、それに加えて後で彼女からメールで資料を提供して貰えばそこからは自分の努力次第。
「ん?いや、そこは気にしないでいいよ。冷めても味はそこまで落ちないし。
まぁ、何だかんだで薫も緊張が解れたみたいで何よりだね。」
と、笑って口にしつつ、ついでに薫の隣で爆睡しているティガを指差して。
何だかんだ、今の談義を通して最初の緊張感も少しは紛れたと思いたい。
「――さて、と。もう少し魔術談義を続けるかい?それとも、またお互い時間がある時に続きでもする?」
また別のテーマで語るのもいいし、別の日に改めて――その時に自分の努力の成果を見せるのもアリだ。
と、いうか気が付いたらもういい時間である。すっかり夜も更けてしまった。
「…と、いうか薫は確か同居人さん居るんだっけ?心配させたりしてたら申し訳ないな。」
■黛 薫 >
「だいじょぶ、むしろ先に読んだ人の書き足しは
理解の助けになるし。あーしだって解説すんなら
華奈が付ぃてこられるよーに考ぇ……いぁ、今
言っても説得力無ぇーけど、意欲はあっから」
解説が必要になればきちんとやってくれるだろう。
ただ、そこはやはり身の丈を越えた研鑽の果てに
いる彼女のこと。分かりやすくすると言っても
説明の説明の説明……と連鎖していくのは想像に
難くない。
「ん、秘匿に関しては信用してもらってイィよ。
魔術師にとっちゃ、情報を守るコトって命を
守るに等しぃんだし」
と、口にしたところでこの後について言及される。
魔術の話になると時間を忘れるのはいつものこと、
しかし気付けば相手も巻き込んでこの時間。
「お……っ、しまった時計見てなかったな……。
いぁ、こっから別の議論始めて興が乗ったら
徹夜コースだから、今日はこれでやめとこ。
あ、同居人につぃては心配しなくても大丈夫。
要件は伝ぇてあるし、待たせちまぅ分の補填で
華奈に持ってきたのと同じお菓子買ってある。
ま、でも明日一緒に食べる約束してっから、
ちゃんと帰るに越したこたねーな、朝ご飯に
ちょっとリッチなデザートって感じ」
「じゃ、今日はありがと。楽しかった」
慌ただしく、しかし寛ぐティガの邪魔をしないよう
気を遣いながら立ち上がって。感謝の言葉を添えて
手を振ると今日の議論を〆としたのだった。
ご案内:「堅磐寮―鞘師華奈の部屋―」から黛 薫さんが去りました。
■鞘師華奈 > 「一応、基礎とか応用とかある程度までは分かるからさ。
ただ、専門知識とかもっと『深い』場所まで突っ込むと今の私じゃ表層面しか理解出来ないかもなぁって。」
彼女のように凄まじい妄執があった訳ではない。
そして、努力や研鑽は自分もしていたが、そもそもの年季が違うだろう。
それに、自分は『実践派』だったのもあり、知識を蓄えるより実践で体当たり式に覚えていったというのもある。
かといって、学園で学んだ事や薫からの助言はちゃんと身につけてはいっているが。
「確かにそうだった。むしろ私がその辺りは杜撰というか…気をつけなきゃね。」
自覚はあるのか、ついつい苦笑いで肩を竦めてみせる。
もっとも、魔術に関してひたむきで信頼出来る友人相手だからこそ、なのだが。
「ああ、それなら良かった。あまり長時間拘束したら流石に申し訳なかったしね。
…うん、同居人さんによろしく…って、いうのも変か。あっちは私の事は殆ど知らないだろうし。」
ともあれ、見送るつもりなのか一緒に部屋の外までは同行しつつ。
ティガはソファーであのままぐっすり寝ているのでそのまま寝させておこう。
「ああ、おやすみ薫。今日はありがとう。あと…今後ともよろしく。」
友人としても魔術談義の相手としても、今後も良い付き合いが出来ると嬉しい。
彼女に手を振り返しつつ、部屋に戻っていく後姿を見送れば一息。
「…さて、明日から魔術方面の勉強もしっかりしないとね。」
元から怠っては居ないが、今夜の結果をきっちり”身につけないと”いけない。
そんなこんなで、女も再び部屋へと戻るのであった。
ご案内:「堅磐寮―鞘師華奈の部屋―」から鞘師華奈さんが去りました。