2022/12/23 のログ
ご案内:「堅磐寮 ロビー」に黛 薫さんが現れました。
黛 薫 >  
『大変容』から十数年、常世学園は新しい世界の
モデルケースとしてとなるべく教育を進めてきた。

とはいえ世界全土で見れば容易く変われるはずも
なく、島外では旧態依然とした教育制度、機関が
存続している。『受験』というシステムもその一環。

曰く、俗に名門と呼ばれる高校/大学は『秀才』を
育てる場と『天才』を育てる場があるのだとか。
いずれも受験は狭き門だが、出題傾向が異なる。

つまり前者は『解けそうで躓く問題』が出され、
後者は『解けるかこんなもん』が出される、と。

さて、どうしてこんな話をしたのか、というと。

「やっっ……てやったぞ、こんちくしょぉ……」

学問魔術の徒、黛薫。『解けそうで躓く問題』、
情け容赦無く『基礎』を徹底的に試すパズルを
解き終えて灰になっていた。

黛 薫 >  
「コレ作ったヤツ、マジで、ホンッットーに
『秀才《バカ》』だろ……こん、こんの……」

身体操作もを魔術に依存する彼女は、その維持に
必要な魔力や集中力が切れると文字通り置物になる。
恨み節を吐いていなかったら死体と見紛うばかりだ。

幸いだったのはパズルに手を付け始めたのが冬季
休業期間であったこと、休暇前の試験の全科目で
赤点を回避出来ていたこと、基礎教養科目の宿題を
溜め込まず余裕を持って終わらせられるペースで
進めていたこと。

もし休暇中で無ければ、解けないパズルが頭から
離れなくて学業に支障が出るところだった。

ご案内:「堅磐寮 ロビー」に鞘師華奈さんが現れました。
鞘師華奈 > クリスマスムードで賑わう市街地から、本日の”お仕事”を終えて寮へと帰宅。
少しだけ疲れた足取りにて、己の部屋へと戻ろうとロビーを通り掛かった所で。

「……おや?」

死体――いや、失礼なの承知だがそうとしか表現できないレベルで精根尽き果てた、といった有様の友人の姿が在った。
若干、恨み節みたいな声も聞こえたが何と呟いているかは流石にまだ距離も若干あるせいか聞き取れず。

(うーーん、疲れてるどころじゃなさそうだし声を掛けて大丈夫かな、これ…?)

と、僅かに逡巡の間。ただ、友人を見掛けてスルーするのは駄目な気がしたので、くるりと方向転換して歩み寄る。

「…やぁ、薫……なんか凄いお疲れっぽいけど大丈夫かい?疲労感の軽減でもしようか?」

と、思わず自分からそう挨拶ついでに申し出てしまうくらいには友人の燃え尽き状態がヤバそうだったから。

黛 薫 >  
「んぁ。……あーいぁ、へーき。前回みてーなの
 とは違ぅから。こー、不可抗力とかじゃなくて
 ……熱中? の結果だから、だいじょぶ」

心地良い疲労と呼ぶにはちょっとやり過ぎた感が
あるものの、今回は達成感のある疲労。のそりと
首だけ倒して貴女の方に向けると、死体もどきと
化していた少女はひらひらと手を振った。

「ちょっとな、魔術の解析パズル貰っちまって
 ここ数日ずーっと取り組んでたのよ。意地が
 悪ぃワケでも理不尽なワケでも無ぇーんだけぉ、
 コレがまーー大変で。解かずに放っぽるにゃ
 面白過ぎたから他のコトに手ぇつけらんなくて。

 クリスマスとか正月までに解かねーとおちおち
 休めなくなりそーだったから、徹夜気味でさぁ」

テーブルの上には捨てに来たと思しきコーヒーの
缶が4つ、エナジードリンクの缶が3つ。そして
ご褒美に今買ったらしいお汁粉の缶が1つ。

鞘師華奈 > 「…あぁ、何だそっちの方向性でぐったりしてたのか…いや、安心は出来ないけど…まぁ、うん。」

自分も経験はあるから分かるが、一つの事にのめり込むとそれがきっちりケリが付くまでは他が手に付かなくなるとかいうアレだろう。
”達成感のある疲労”ならば、能力で軽減するのも野暮かと小さく苦笑い気味に肩を竦めて。
どうやら、手を振り返す程度の余力は残っているようで、そのまま向い側へと腰を落ち着ける。

「へぇ、解析パズルか…やった事は無いけど面白そうだね、それは。
…んー、薫の口振りから察するに…”ストレートに難解だった”って所かい?」

首を緩く傾げて問い掛ける。理不尽でも意地が悪い訳でもない、という事は…
つまり、引っ掛けや複雑怪奇に過ぎる仕掛けはあまり施されていない、と見たが。

「…でも、まぁ私も気持ちは分かるけどさ…流石に、ちょっと無理をしすぎじゃーないかなって…。」

不規則な生活も最近多い私が言えた事でもないけどね、と呟きながらテーブルの上を一瞥する。
…カフェインとエナジー飲料の摂取のし過ぎは普通に体が心配になるのだが。
唯一、お汁粉の缶だけが癒しではあるがこの場合逆にそれが異質かもしれない。

「…で、その様子だと一応解けはしたのかな?少なくとも一段落の目処は付いた感じ?」

どちらかと言えば実践派の女には難解そうな解析パズルだが、結果はどうだったのか一応聞いておきたい。

黛 薫 >  
「ストレート、っちゃそーだな。何がキツいって
 "難しぃ" を解けなかった理由に出来ねーの。
 やーっとで解けたからカラダに悪くなぃ飲み物
 買ぃに来たってワケ。

 つっても、カフェインに頼り過ぎたなってのは
 ホントにそぅ。途中からエナドリはマズイなって
 コーヒーに切り替えたのに、缶コーヒー代すら
 ヤバくなりそーで粉のインスタントコーヒーに
 切り替えたくらぃだもん」

ぴん、とお汁粉の缶を指で弾きながら呟く。

「華奈も最初のトコだけ見てく? つっても本体に
 手ぇ付けんのは今からだとオススメしねーけぉ。
 今始めたら折角の年末年始、ずっとこのパズルが
 頭ん中に居座るハメになっからな」

ふよ、と浮かび上がるのはお馴染みとなった水球の
使い魔『ジェリー』。掌サイズの小型の分裂体に
収められた一滴の赤い雫が件のパズルらしい。 ▼

黛 薫 >  
さて、此度黛薫が解析したのは36層に及ぶ極小、
高密度、高濃度の術式解析パズルである。サイズ、
密度はともかく "濃度" という一風変わった尺度が
含まれるのは術式の記述媒体に血液が用いられて
いるから。

一口に基礎と言っても、応用を支える広い裾野を
指す場合もあるし、一点から派生して広がる根を
指す場合もある。基礎に収束するか、応用に収束
するかの差だが、いずれにしても基礎は "次" を
理解する前提であるという点で共通する。

このパズルが『層』たる所以は基礎から派生した
自明を次層の基礎とするところ。最初の一層では
特別な知識など要求されないし、その一層さえ
解ければ新しい知識が無くとも次層は解ける。

こう聞くと簡単そうだが、言うは易し行うは難し。
裏を返せば前層の理解は必須であり、理解が浅いと
必ず躓く。この層では苦戦したが次の層はあっさり、
なんて甘いパターンは可能性の段階で潰されている。

もし解けなければ原因は向き不向きや運でなく、
理解度と発想力、観察力の不足。前層を解けた
時点で『実力不足』は次層を解けない言い訳に
ならないという、容赦のない易しさで出来ている。

鞘師華奈 > 「…成程、それはつまり――発想と応用力もだけど…”基礎がなってないと駄目”なタイプなのかな。」

勉学もまぁそうだが、基本にして土台でもある『基礎』が出来ていないと何事も身に付かないし応用も効かない。
たまーに、天才の部類はそれを飛び級みたいに通り越して応用も難無くやってのけてしまうが。

(…身近に天才肌の人が昔居たから、それこそ”理不尽”さとか”意地悪”なのは身に染みてるけどさ…。)

束の間、思い出した昔の仲間の面影を振り払うように意識と視線を友人へと戻し。

「そうだね、じゃあ最初のを触り程度に…私も、一つの事を突き詰めると止め時が分からないタイプだからなぁ。
正直、興味はありありなんだけど…うん、年末年始を潰すのは流石に勘弁願いたいし、ね。」

淡い苦笑。数ヶ月前の魔術談義の時に出た課題でもある『封印術式』。
アレを習得する為に、ほぼ一ヶ月くらいは睡眠不足でひたすら繰り返し繰り返し試行錯誤をしていた。
お陰で、今では9割方は習得したと言っても良い。参考資料を目の前の友人から借りたり、自分で独学で補ったのも大きいが。

ふよっと、例の使い魔のジェリー…一応、提案したのは自分だが本当にその名前でいいのかな…と、思うのは今更か。
ともあれ、手の平サイズの使い魔の中に浮かぶ赤い雫が件の解析パズルらしいが。

「――血液に情報を書き込むか転写してるタイプかなこれは。”知り合い”も似たような事をやってた事があるけど…。」

僅かに目を丸くしつつも、直ぐに何時もの落ち着いた仏頂面へと戻り繁々と赤い雫を眺める。
ふと、何やら右手の指先で己のこめかみの辺りを数回トントンと一定のリズムで叩き始めて。

「――極小高密度型、高濃度…多重積層式かな。数までは分からないけど、多分30くらい?
――血液、というか液体を媒介にしてるからか”濃度”がポイントかな、これ。」

女は別に異能も魔術も用いていない。ただ、淡々と冷徹にも見える赤い視線が血の雫を凝視している。
…が、流石にそれ以上は分からないのか肩の力を抜くように一息。

「――多分、というかこれは確実に”薫向きのパズル”だね…おそらく私じゃ全部は解けない。
むしろ、私向きならまた違った趣向のパズルになるだろうから…贈り主?は、薫の傾向をかなり高い精度で分析しているんだと思うよ。」

そして、矢張り大事なのは『基礎』だ。多重積層式の場合、条件は幾つか派生するがこれはまさに基礎が大前提。
基礎を土台に、一つ、また一つと前の層の事を文字通り”積み重ねて”解いていかないといけない。

「――基礎(あしもと)が覚束ない奴には、そもそも解く資格すら無いだろうねぇ、これは…。」

とはいえ、これは基礎を突き詰めたとも言えるパズルだ。地道に、一つずつ、一歩一歩、確実に。
それは簡単で当たり前のようで難しい。だが、”それ”が出来なければこのパズルを制覇する事は無理だろう。

女が自分は無理と言ったのも、基礎は身に付いているが、矢張り実践重視でどうしても”穴”があるのは否めないからだ。

黛 薫 >  
「そ、多層式。読み取んの早ぃな? 知り合ぃが
 似たよーなコト……なるほど。見覚ぇあるって
 やっぱ強みになんのな。それを抜きにしても
 とっかかり掴むの早ぃの、適正的に向ぃてた?」

以前、華奈の属性適正には『闇』も含まれると
聞いた。基盤となる属性論にも依るが『闇』は
単なる暗闇でなく対極が存在する属性の負の側、
マイナスやネガティブな側面をも内包する。

『生』の対極たる『死』もそのひとつ。『血』を
『死』と関連付ける闇属性の魔術も数多く存在する。
華奈の垣間見せた親和性はそこに起因するのでは、
とアタリを付けてみた。

「やっぱコレ、あーし向けに出来てんだよなぁ。
 天才型とか、都度必要で身に付けた実践型は
 躓くもん、絶対。作ったヤツ、そーゆーのを
 見抜くだけの見識があるんだと思ぅ」

鞘師華奈 > 「いや、読み取りというか『経験側』に基づく『絞込み』推理って感じかな。
昔、落第街(あっち)に居た頃に身近な知り合いにこう、如何にも天才肌なタイプの魔術師の女性が居てさ?
一応、私は魔術の基礎はその人から教わったんだけど…まぁ、その時に教わった事や叩き込まれた事を照らし合わせて、みたいな。」

勿論、読み取りも精度は若干ズレるが大まかには当たっている。
この辺りは、単純に実践派としての強みが出た形なのだろう。
目の前の友人とは『真逆』に近いタイプだからアプローチは違うが、それもまたお互い刺激になるだろうか。

そして、彼女の推測も的を射ている。
未だ友人には事情を話せてはいないが、この女は過去に一度”死んでいる”。
闇属性の適性の高さは、それもあるのだが…つまり、死に結びつくモノへの親和性が高めなのだ。

「私は基礎は出来てるけど、元々が実践で身に付けたりさっき話に出した天才肌の魔術師に叩き込まれた形だからねぇ。
学園の授業で改めて基礎から学び直して今に至るけど、どうしても実践で身に付けたものがこの場合”邪魔になる”んだと思う。」

故に、だからこそこのパズルは薫向きの…彼女の為に生み出されたものなのだろう。
取り敢えず、本当に基礎の基礎でもある第一層だけを垣間見せて貰いつつ。

「あーー成程、これは…うん、最初の最初で理解した。やっぱり私じゃ行けても20前半に届くかどうかだね。
『知識量』と『基礎の積み重ねと応用』、あとは『それをベースにした発想力』。
これは薫みたいなタイプだからこそ持ち合わせてるものだろうから。」

参った、とばかりにおどけたように両手を挙げて降参のポーズ。
本当に基礎の基礎である第一層だけでもう”分かってしまった”。

黛 薫 >  
「あー……実践の経験から組み立ててくヤツかぁ。
 あーしは逆にそっちがまだ全然なのよなー……。

 経験から推測すんの、特にどっから手ぇつけて
 イィか分かんねーときに強ぇから、いずれ身に
 付けなきゃなんだけぉ、こればっかりは場数を
 踏む以外にどーしよーもねーから……」

納得したように声を漏らし、頬をかく。

知識が力に直結する魔術の世界でさえ知識のみで
語れない "経験" は大きい。十分な知識は迷路を
抜ける正しい道を教えてくれるが、壁を超えたり
破ったりする近道を作るのは経験の方。

しかし、経験が邪魔になるパターンも往々にして
存在する。"近道" は得てして不要を削ぎ落とした
簡略化であり、その省略部分が必要になった場合、
削ぎ落とした不要を拾い直さねばならないのだし。

一層を "経験" で解いてしまうと、それ以降の層で
詰まるのも然もありなん。とはいえ出来ないことを
自覚するのもまた肝要。この方法ではこの先は無理
と理解出来たのも "経験" が身に付いていればこそ。

真逆のスタンスのお陰でこの短い対話でも気付きが
あったと思えば、お互い得るものも多そうだが。

鞘師華奈 > 「…むしろ、薫の知識に経験が”追い付いたら”、それこそ歴史に名を残すレベルになると思うよ…いや、お世辞とかそういうのじゃなくて…。
まぁ、私のただの勘というか友達贔屓目線なだけかもしれないけど。」

彼女の知識量と、その積み重ねを今はまだ垣間見た程度でしかないけれど。
もし、経験量がその知識をフルに活用・応用出来るレベルになれば決して誇張表現ではない筈だ。

「知識だけでも、実践…経験だけでも駄目だって事だよねつまりは。まぁ考えるまでも無い事だけどさ。
薫は実践の場数、私は知識量とソレを柔軟に活用・応用出来る発想力って感じでさ。
…でも、不謹慎だけど私はそれで良かったと思う。お互い欠けているものとか課題が分かり易くなったし。」

なまじ、逆に近いタイプだからこそ課題などが明確に浮き彫りになってくるのだ。
遠回りでも積み重ねて、決して”漏れが出ない”。けれど場数が足りないのと。
自分なりの最短ルートを経験側で踏破しつつも、”取りこぼしが出てしまう”のも。

(…別に打算なんて無いんだけど、強いて言うなら薫が私と逆のタイプで良かったなぁ。)

灯台下暗し、足元の基礎の不安定さを経験と実践で補っていた継ぎ接ぎにはっきりと気付けたのだから。
そういえば、と口を開く。年末年始だから今すぐに、という訳にもいかないだろうけど…

「薫。今度時間が取れそうな時でいいから二回目の魔術談義とかどうだろう?
例の課題の『封印術式』…魔術の結晶化も取り敢えずほぼ9割方は何とか身につけたからさ。
それを判定して欲しいのと、別の課題…物体の『射出』と『一部取り出し』の方法の相談も乗って欲しいんだ。」

勿論、この季節は誰しも多少なり予定や先約があるだろうから、今すぐにとかは言わない。
あくまで、落ち着いて時間が取れそうになったら、という前提は大事だ。

まぁ、恥ずかしいので口に出さない本音を漏らすならば。
単純に友人と気儘にダベりたいというのがとても大きいのだけれども。