2019/02/07 のログ
ご案内:「浜辺」にさんが現れました。
>  授業が終わり、今日は何となく海が見たくなって気分転換に浜辺へやってきた。
 さざ波の音を聞きながら、人気の少ない浜辺を歩く。途中で拾った枝を軽く振り回し、呑気に鼻唄を歌いながら。
 
 夏は海水浴をする人たちで溢れ返っているのに、冬になると散歩をする人でさえ少ない。
 潮の香りを運ぶ海風が冷たいせいだろうか。
 
 寄せては返す波に足元を濡らさないように、足跡を刻んでいく。

>  試験はもうすぐだというのに、勉強も実技の訓練もせず。現実逃避さながらに、浜辺の散歩を続ける。
 
「くっらげ、くらげ~ふわふわくらげ~」
 手にした枝を指揮棒のように振って、ご機嫌に口ずさむ歌は即興のもの。きっと少女の頭の中には、くらげが漂っているのだろう。

> 「……おろ?」
 鼻唄も止まり、それと同時に足も止まる。何かを見つけたらしく、そのまましゃがみこむ。
 波打ち際にいたのは、小さなヤドカリだった。
 小さな体をえっちらおっちらと動かして、新しい住み処を探しているのか右往左往していた。
 
 少女はヤドカリがどうにも気になってしまい、そのまましゃがみこんでじいっと見つめている。

ご案内:「浜辺」に玖弥瑞さんが現れました。
> 「ヤドカリって、もっと素早いと思ってましたけど。案外ゆっくりしてるんですね……」
 もっと俊敏に動く生き物だと思っていた――と。
 そう言いたげに呟いて、波打ち際から砂浜に向かうヤドカリを目で追う。
 
 少し盛り上がった砂の中に隠れるつもりだろうか。
 それとも、あの流木の下で一休みするつもりなのか。
 
 散歩を楽しんでいたはずが、気が付けばヤドカリウォッチになっていた。

玖弥瑞 > 波打ち際の向こうから、やや小さな人影が歩いてくる。
頭にピンと立った狐耳と大きな獣の尻尾が遠目にもわかるだろう。異邦人か、妖怪変化か、それともコスプレか。
その顔はやや俯向き気味。別にしょぼくれているわけではない。歩きスマホというやつだ。
とくに前方を気にかける素振りもないが、それでも砂浜にしゃがみ込む少女の傍までくれば、はたりと足を止める。

「……む、何をしておる、女子。こんな時期に潮干狩りかぇ?」

何かしら地を這うものでも見つめている様子の少女を、覗き込むように伺う。
話しかけてきた狐耳の少女はスク水姿。
一応海というロケーションには合っているが、普通、真冬に屋外で着るものではなかろう。

>  ヤドカリにすっかり夢中で、人が近付いてきたことにも気が付かなかった少女は、その声にびくっと大きく肩を震わせる。
 
「し、潮干狩り……いえっ、縹はお散歩中で……」
 声がした方に視線を向けて、そのまま固まる。
 というか、言葉が続かなかった。
 
 ふわふわでふさふさの狐耳、とこれまたふわふわの尻尾。
 しかし着ているものは、真冬なのにスクール水着……まさか、泳ぎに来たのだろうか。こんなに寒いというのに。
 
 ぽかんと口を開いたまま、目の前の少女を呆然と見つめている。

玖弥瑞 > 「ふぅん、お散歩かぇ。それなら妾と同じじゃな。
 ……とはいえ。お前さん、学生じゃろ? 試験勉強はもう大丈夫なのかぇ?」

顔をこちらに向けたっきり、絶句してしまう潮干狩り少女。
そんな相手の様子はお構いなしに、狐の少女は質問を投げかける。
……しかし、やや遅れ気味に相手の呆けっぷりに気付くと、こちらも苦笑いを見せて。

「……あ、ああ。すまぬの、ハナダとやら。やはりこの装いは寒々しいかね。
 妾はこの姿でないと死んでしまうんでの、大目に見ておくれ、な」

>  試験勉強。
 その言葉を聞いて、困ったような表情を見せてから「だ、大丈夫じゃないですけど、お散歩は息抜きで……」と歯切れの悪い言葉を紡いで、視線を下へ落としてしまう。
 
 その間にもヤドカリは移動を続け、すっかり何処かへ行方をくらませてしまった。
 
「え、その格好じゃないと死んじゃうって……」
 寧ろそっちの方が心配になる。
 もう一度改めて目の前の少女を見れば、自分よりもとても幼く見えるが――体型は何というか、その。
 とてもえっちに見えなくもないので、段々と頭が混乱してきた。
 
「あ、あの……お姉さんは、何でそんな重症な病に……?」
 どうやらコスプレではないらしく、口調からして年上だと感じたのか。『お姉さん』と呼んで、尋ねてみた。

玖弥瑞 > 「ほほっ、お姉さんとな。先生と呼ばれるのにちょうど慣れてきたとこじゃが、その呼び方は新鮮じゃ」

この島で活動し始めて未だ日の浅い玖弥瑞。己という存在の受け取られ方の多様さに、くつくつと目を細めて笑う。

「……して、妾が姿形について。病ではない、性質じゃ。たまに聞かれるが……この喩えでわかるかね?
 いまココに、幽霊が居たとする。額に三角の布をつけて左前の白装束を着た、『うらめしや~』と言いそうなアイツ。
 柳の下の幽霊という奴じゃな。お前さんが日本人なら、姿が思い浮かぶハズじゃ」

己が姿の異様さにツッコミを受ければ、玖弥瑞はまるで用意していたかのごとく、喩え話を始める。

「……しかし。もし仮に、そ奴が上下ジャージ姿だったとしたら? メイド服姿だったら?
 パリコレのランウェイを歩けそうなギラギラのドレスを身にまとっていたとしたら?
 そ奴はもう、『柳の下の幽霊』ではないのではないかぇ? 不気味ではあるが、別の概念になるとは思わないか?
 ……そういうことじゃ。妾がこの水着以外の衣服を纏えないのは、そういうこと」

おわかり頂けただろうか。

「………すまぬ、わからなくても気にしなくてもええぞ。
 それはそれとして、『大丈夫じゃない』とは。まぁ息抜きが大事なことも確かじゃが。
 時期的にはかなり差し迫っておろう、他の生徒は皆勉学に勤しんでおるぞ?
 ……そのせいで、どこの喫茶店も激コミじゃったから、こうして海辺くんだりまで暇つぶしに来たのじゃがな」

再び苦々しい笑みを浮かべながらも、玖弥瑞は物憂げに俯く少女に向けて屈託なく喋る。
余計なお世話? そうかもしれない。ちょっと大人らしい、教師らしいことを言いたいだけだ。

>  玖弥瑞の喩え話を真剣に聞きつつも、元々混乱していた頭で聞いていたので――こんがらがった糸は更にぐちゃぐちゃになるばかり。
 頭の良くない少女はそれなりに一生懸命考えたが、やっぱりよく分からない。
 
 分からないので。
 
「えっと、つまりお姉さんにとても良く似合っているから脱いだり他のお洋服を着たら駄目ってことですよね。縹、多分わかった気がします!」
 頭の悪い答えを返しながらも、笑顔で「お姉さんのその格好、セクシーでいいと思います」と付け加えて。
 
 先生と呼ばれるのに慣れてきたという言葉に驚きつつ、その後の言葉を聞けば、彼女が教える立場の存在だと妙に納得してしまう。
 
「おね……あ、先生。さすが先生だなぁって思っちゃいました。試験まで日にちがないの、わかってるんですけど……でも、うまく集中できなくて」
 砂浜にしゃがんだままで、小さく呟いた。
 
「だから、お散歩してたんです。少しは気分が晴れるかなーって思って」

玖弥瑞 > 「そう、そのとおりじゃ、ハナダ! よかった、ようやく解ってくれる子と出会えたわぃ……!」

縹が戸惑い気味に返した感想に、玖弥瑞はまるで叫ぶように歓喜の声をあげ、バンザイめいて腕を大きく拡げる。
もちろん100%の正解というわけではないが、彼女なりの意見を示してくれただけでも非常に嬉しいのだ。

「妾は『存在』が弱めじゃからの、『似合ってる』程度じゃ存在を保てないのじゃ……『こうでなきゃならない』のじゃ。
 ……くふっ、セクシーかぇ。ありがとのう、ハナダ。お前さんは聡明な女子じゃ」

撫でてあげたい。でも、初対面の子にそこまで濃密なスキンシップをするのも憚られる。
かわりに親指をぐっと上げて、全身で褒め称える仕草をする。

「……うむ、そこまで聡明なお主でも、試験勉強に煮詰まって悩むこともあるということじゃな。
 この学校の学力レベルは如何ほどなのやら……うむ、まだ日の浅い妾には掴みかねる。
 こうして海風に吹かれて頭を冷やせば集中力も増すやもしれぬが、風邪を引いてもそれはそれでアカンしの。
 ……ふふっ、そこまで暖かそうなカッコをしとれば、大丈夫かの?」

潮の香りの濃い風が渦を巻き、ぴゅう、と笛のような音をたてる。
スク水姿の玖弥瑞、髪も尻尾も強く煽られるが、寒そうな表情も、震えすらも見せない。

「まぁせいぜい頑張るがよい。妾はお主の担任ではないから、こう言って励ますくらいしかできぬの。
 それでも妾は、この玖弥瑞は、この学園の生徒の皆が十分な教育を受けて巣立っていくことを願っておる。
 ……一応、仮にも教師じゃからの! くふふ」

ニッ、と朗らかな笑みを浮かべながら、縹のコートの背をポンと軽く叩いてやろう。

>  『存在』が弱いとはどういうことなのか。
 その意味を測り知ろうにも、出会ってまだ数分の間柄だ。言葉や表情だけで読み解くのには無理があった。
 
 しかし目の前の少女が、それはもうあまりにも喜んでくれたので、素直に良かったと思うことにした。
 
 季節が冬だから寒そうに見えるのであって、これが夏だったりプールだったりすれば、違和感なんてものはないのだ。きっと、目の前の少女の存在を受け止めてしまえば、場所も季節も――きっと、関係なくなる。
 そういうことなのだろう。正解には程遠いだろうけど……今は、そう思うことにした。

 親指をぐっと上げる少女に合わせて、縹も同じようにぐっと親指を上げて笑う。
 
 
「ありがとうございます、先生」
 こうして励ましてくれるだけでも、十分嬉しかった。
 ゆっくりと立ち上がり、スカートについた砂をぽんぽんと払う。
 
「先生の言うとおり、頭を冷やしたらちょっと気持ちが楽になりました! って言っても、まだもやもや全部は晴れないですけど……でも、先生とお話できて良かったです。ありがとうございました!」
 大袈裟なくらい勢い良く頭を下げて、顔を上げた時にはふにゃっと気の抜けたような笑顔になる。
 
「そうと決まれば、今からでもちゃんと勉強しなきゃですね。縹、精一杯がんばります! 先生、ありがとうございました。また、学校で!」
 善は急げ。というよりも思ったらすぐ行動に出るタイプなのだろう。
 少女に礼を伝えて、踵を返す。
 
「ありがとうございますー」
 去り際にもう一度振り返る。大きな声でありがとうと伝えて、手を振った。
 
 
 後々、学園内で偶然会うことになるのだが――それはまた、別のお話。

ご案内:「浜辺」からさんが去りました。
玖弥瑞 > 「おう、がんばれよ~。またなー」

快活な足取りで浜辺を駆けていく少女を、小ぶりに手を振りながら見送る。

「いやはや、青春じゃの。若いとは良いことじゃ。勉学に悩む姿は微笑ましや。学ぶなんて、今しかできぬことじゃからの。
 ……っと、そういや。あの女子、この学園の生徒じゃったが……異能など持っておるのかね?
 どうじゃお主、何か知っとるかね」

いつの間にか、先程のヤドカリ君が姿を現している。殻をつまみ上げ、問いかけてみる。
ヤドカリは当然しゃべらないし、玖弥瑞も甲殻類と喋る能力など持たない。単なる気まぐれだ。

「……うむ。今度、聞いてみようかね」

ご案内:「浜辺」から玖弥瑞さんが去りました。