2020/06/11 のログ
ご案内:「浜辺」に深海生物さんが現れました。
深海生物 >  
 波が静かに打ち寄せるシーズン前の海岸。
 その浜辺に、数メートルほどの黒い海綿状の物体が打ち上げられていた。

 それは、数十ある触手をわななかせ、潰れたウミウシのような体を蠢かせていた。
 外見は重力に負けて押し潰れたイソギンチャクのようだ。
 少なくとも生物のようで、全身をうねらせながら砂浜の上を這いずっていた。

 その姿を直視する者がいれば、おぞましさや不快感の一つも覚えるだろうか。
 しかし、この生物を直視出来る者はそれほど多くは無いだろう。

 この生物は生存のために、周囲の動物の思考を読み取る能力を獲得していた。
 そして、読み取った思考から相手に都合の良い、望んだ姿の幻影を見せて自分の姿を隠すのだ。
 思考や精神への干渉を防ぐ能力や、幻覚を見破るなどの対策を持ち合わせていなければ、この生物の姿を直接見る事はできないだろう。

 大きな体を這わせながら、海から離れるように砂浜を縦断しようとしている。
 周囲の動物へ無差別に幻覚を見せながら。

 万一、幻覚の通じない人間に出くわしてしまえば、危険生物として処理されるか、未確認生物として捕獲されるか。
 いずれにせよ危険がある事にコレは気づかない。
 それだけの理性も自我も、この生物は持ち合わせていないのだ。

深海生物 >  
 砂浜を横切りながらこの生物が認識していたのは、[ここには多くの食料がある]という事実だけだった。
 砂の中に混じる小型の生物を、胴体下部の口で捕食しながら、砂浜の中を這いずって行く。

 より食料が豊富にある場所を目指しているのだろう。
 複雑な思考をもつ食料が多いが、それも本能的にリアクションを返すだけで何をするでもなく、まっすぐ、ゆっくりと突き進んでいく。
 進行方向は、方角で言えば学園が、街がある方向だろう。
 わずかに迷うようすも無く、時速数十cm程度のゆっくりとした速度で直進していた。

ご案内:「浜辺」にレイヴンさんが現れました。
レイヴン >  
先日生徒に成りすました何者かと遭遇した。
だからというわけではないが、怪しいものはないかと海岸を歩いている。
こんな島だ、どこになにが打ち上げられているか――

「――あ?」

咥えていた煙草を落とす。
そこにこの世ならざる名状しがたい異形の怪物がいたから――ではない。
ここより前にいた世界で死に別れた、とある「知り合い」に似ていた――否、「彼女」そのものだったからだ。
「それ」を目の当たりにし、呆然と見つめたまま立ち尽くす。

深海生物 >  
 〝彼女〟はぼんやりと視線を遠くに向けながら、ゆっくりと、本当にゆっくりと砂浜を歩いているだろう。
 あなたに気づくようなそぶりは見せず、冷静に見ることができれば、その目や表情には知性が宿っているようには見えないかもしれない。

 当然、コレはそんな幻覚を見せている自覚はない。
 そもそもそんな理性も自我も存在しない。
 本能によってただ反応を示しているだけで、コレ自身はあなたの存在にも気づいていない。
 いや、気づいてはいるが、ただの食料としてしか認識していないだろう。
 動きを止めることはなく、いまだゆっくりと動き続けている。

レイヴン >  
いるわけがない。
彼女がこんなところにいるわけがない。
ならばこれは幻覚だ。
これが何者かは知らないが、彼女ではない。
理性と能力はそう告げているのだが、心がそれを否定する。

「――おい、そこで、何してる」

ぎり、と砕けんばかりに両の拳を握りしめ、それに問いかける。
本当の姿かたちはわからないが、曲がりなりにも人の形をしているのなら――いや、違う。
自分は、ただ、聞きたいだけだ。
彼女の声を、もう一度。

深海生物 >  
 呼びかけられると、〝彼女〟はゆっくりとあなたに振り向くだろう。
 そして、あなたが望んだように、懐かしい表情を浮かべる。

「ア──」

 微かに声が発せられた。
 それはただの音だったのかもしれないが、あなたには確かに〝彼女〟の声そのものに聞こえただろう。

 そしてコレは、初めて[声]と言うものを聞いた。
 それはこれまで聞いた事のない音だったために、反射的に[声]を発した食料を振り向いた。
 興味を持ったわけではないだろう。
 ただ、未知の刺激に足を止め、それまでと違う反応を示した、それだけだ。

レイヴン >  
「ッ――!!」

それの声を聴いた。
忘れるものか。
あれほど聞いた、飽きるほどに聞いた、――愛したものの声を。
思わず顔を抑える。

「――お前は、なんだ。言葉、通じる、のか」

顔を覆ったまま再度問いかける。
能力はそうだと告げている。
それでも尚問いかけをやめない。