2020/06/12 のログ
深海生物 >  
 お前はなんだ。
 その答えは、〝彼女〟の微笑みで返ってきた。

「ドウシタ、ノ、レイヴン。ワスレ、チャッタ、ノ?」

 その声音、表情、何もかもがあなたの記憶にある通りだろう。
 そのイントネーションこそぎこちないように感じられただろうが、〝彼女〟はまさに生前と変わらない様子であなたの前に立っていた。

【また[声]を聞いた。
 コレは目の前の食料を真似して、[声]を出そうとした。
 それは、声でも何でもない、ただの異音でしかなかったが、あなたには思う人の声にしか聞こえないだろう。
 コレに声帯は存在しない。発することができるのは、ただの音だけなのだ。
 音を発しながら、ゆっくりとあなたへ近づいていく。
 同時に、あなたの見る幻影もまた、あなたへ歩み寄ってくるだろう】

レイヴン >  
ギチィ、と。
心臓を鷲掴みにされたような、そんな感覚。
右手を突き出し、「彼女」の姿を隠すように大剣を呼び出し、砂浜へ突き立てる。

「それ以上近付くな!」

叫ぶ。
絞り出すような、悲痛な叫び。

「動くな。動けば……斬る」

これ以上関わるな、と能力は告げている。
けれど心はその声を、姿を求めている。
だから、動くなと告げた。
斬りたくない、だから動かないでくれと求めるように。

深海生物 >  
【近づくなという言葉は理解できない。
 しかし、あなたの望んだようにコレは幻影と共に動きを止めた】

 〝彼女〟は不思議そうに表情を変えた。

「ドウ、シタノ? クルシ、イノ?」

 あなたがどこかで望んでいたように、〝彼女〟はあなたを気遣うような言葉をかけるだろう。
 優しく、愛しいものに接するように。

【目の前の食料はなぜか苦しんでいるようだった。
 コレの生態は、食料を自身に依存させる事で成り立つ。
 つまり、食料が逃げてしまっては困るのだ。
 潜在的に秘められ、海底で腐るだけだった高い知能が初めて思考を行いだした】

レイヴン >  
「っ、そうだ、それでいい」

懐から銃を抜き、構える。
狙いは頭――本当にそれがその形かどうかなどわからないし、そこが急所かどうかなどわからないが。

「ッッッ……!」

照準がブレる。
その声で喋るな。
そう心の中で叫ぶも、それは声にならず。

深海生物 >  
【コレには理解することができなかった。
 なぜこの食料は相反する思考をして、望んでいるのか。
 求めながらもなぜ、害意を向けてくるのか】

 〝彼女〟は困惑していた。
 それは、なぜ愛する人に拒絶されているのか、本当に理解できないように狼狽えていた。
 何度も逡巡するように、口を開こうとしては閉じる。
 そして深く悲しむような瞳をあなたに向けた。

「ワタシ、ヲ、コロス、ノ?」

 あなたの向けた殺意。
 それがそのまま〝彼女〟の言葉となって返っていく。
 声を聴きたいと、姿を見ていたいと望みながらも銃を向けたあなたに。

レイヴン >  
「ぐ……っ!」

殺すのか、と問われる。
明らかにそれは異端だ。
狩るべき異端だ。
同時に、彼女だった。
声も、喋り方も、見た目も何もかも。
違うのは、恐らく中身だけ。

「――――お前の目的によっちゃあ、な」

だから問題を先に送ることにした。
何の解決にもなっていない、もしかしたら問題は複雑化するかもしれない。
それでも、もう一度彼女を殺すよりは、恐らく。

深海生物 >  
 〝彼女〟はただ困惑する。
 あなたが〝彼女〟ならそうするだろうと思ったように、銃口とあなたを見つめながら。

「レイヴン、アナタ、ニ、アイタカッタノ」

 〝彼女〟は純粋な思いをあなたに向けるだろう。
 あなたが望んだように、あなたを求める言葉を発した。

【コレは異音を発しながら、食料の思考を読み取ろうとした。
 それは生まれて初めての試みだった。
 ツガイを求めているらしい。けれど、それを拒絶もする。
 食料は求めていない。与えられるものはない。
 ここで初めて、コレは相手が食料ではないのかもしれないと考えた】

レイヴン >  
「――そうかい。そりゃ、光栄なこった」

いちいち心を揺らされる。
今にも泣きだしそうな怒りの表情をそれへと向ける。
銃口は、下ろさない。

「けどな、そいつぁ俺の聞きたかった言葉だ。俺の聞きたい答えじゃねえ」

それを睨みつける。
彼女の姿の向こう側にあるであろう、それの姿を睨みつけながら。

「もう一度聞く。お前は、なんだ。何のためにここにいる」

自分は異端狩りだ。
昔の女が蘇ったぐらいで揺らいでたまるか。

深海生物 >  
 〝彼女〟は泣きだしそうな顔をする。
 苦しそうに、心痛に表情を歪めたのだ。

「ワタシ、ハ、ワタシ、ヨ」

 〝彼女〟ならばそう答えるとあなたが思ったように。

「アイタカッタ、ダケ。
 デモ、アナタ、ハ、ワタシガイルト、クルシイ、ノネ」

 〝彼女〟はそういうと、ゆっくりと後ろに下がっていく。
 愛しい人と離れるのが辛いというように、切なく悲しげな瞳をあなたに向けたまま。

【食料でないのなら、捕食者だろうか。
 しかし捕食されるわけではないようだった。
 それでもなぜか害意を向けられている。
 この複雑な思考を持つ[生物]は、捕食が目的でなくとも殺そうとするのだ。
 本能的にコレは逃げようとした。
 ゆっくりと砂浜を這いずりながら、あなたから離れていく】

レイヴン >  
「……」

感情を怒りの表情で隠したまま力を使う。
これは街に、生徒に危害を加えるものか。

「……待て」

答えは、不明。
当然だ、情報が少なすぎる。
それでも、むしろそのまま逃がした方が危うい可能性が高そうだ、と見えた。
だから銃を下ろして呼び止める。

「――腹ァ、減ってんじゃねぇのか」

それの正体はわからないが、この手の幻覚を見せるやつらは大抵捕食か繁殖が目的だ。
そしてこれは恐らく、こちらの期待通りの応えを返すらしい。
だから、正直な答えを、信用出来る答えを寄越せと強く念じながらそう尋ねた。

深海生物 >  
【呼び止められても、まだ言語を理解する知性は宿っていなかった。
 思考を読めても、理解できなければまともな受け答えはできないのだ。
 だから、コレは逃げることを優先した。
 元々長期間の空腹に耐える肉体のため、食欲よりも生存本能が優先された結果だろう。
 触手を浜に叩きつけ、跳躍するように肉体を前進させる。
 その速度はこれまでのゆっくりとした動きとは比較にならない。
 幻覚だけが、あなたの思考をわずかに反映するだろう】

 〝彼女〟は止まらなかった。
 そして、答えることもしなかった。

「サヨナラ」

 とだけ言葉を残して、急速にあなたから遠のいていく。

レイヴン >  
あっという間に遠ざかっていく。
どうやらそれは逃げを選択したらしい。
自分の考えの何がそれを選択させたのかはわからないが。

「――おう、じゃあな」

ここで逃がせばどこかで生徒が危険な目に遭うかもしれない。
もしかしたら、島を巻き込んだ大事件に発展するかもしれない。
それでも、自分にはもうそれを殺そうと言う考えはなくなっていた。
逃げるそれを見送るように、別れの言葉を口にする。

深海生物 >  
【でたらめに、本能に従って逃げていく。
 コレが一体どこに逃げていくのか、また、次はいつどこに現れるのか。
 それを知るのはまた、誰かがコレを見つけたときだろう】

レイヴン >  
それが見えなくなったころ、深いため息を吐く。

「何やってんだ俺は……」

異端狩りともあろうものが、異端に心を乱されあまつさえ逃がすなど。
教師なんぞしている間に随分とぬるくなったものだ。
煙草を取り出し、火を付ける。

「――まぁ、懐かしいモン見せてもらったしな……」

今のところは誰かに何か危害が加わったわけでも無し、その礼だと言うことにしておこう。
煙を吐いて、それが逃げていった先をぼんやりと眺めながら――

ご案内:「浜辺」から深海生物さんが去りました。
ご案内:「浜辺」からレイヴンさんが去りました。
ご案内:「浜辺」に鞘師華奈さんが現れました。
鞘師華奈 > 「さて――何で私はこんな所にわざわざ足を運んできたんだろうね…。」

既に口の端に煙草を咥えつつ、慣れた手付きで安物ライターにて先端へと点火。
ゆっくりと紫煙を吐き出す――周囲は今は人気が無くとても静かだ。一服するには都合が良い。

(…特に見て面白いモノがある…訳でも無いし。海底遺跡群…私は別に考古学者でもトレジャーハンターでも無いんだし)

そういう浪漫とか学術的あれこれはサッパリ無縁だ。煙草を蒸かしながら、死んだ…訂正、覇気の無い赤眼が水平線を眺めるように細められて。

鞘師華奈 > ボーーッと、何をする訳でもなく遠くを見つめながら一服。これが中々に至福の一時だ。
面倒臭がりでぼっち、かは分からないが周囲との交流が余り無い女には、こういう黄昏てる時間がお似合いだ。

「……後は、欲を言えばジッポライターが欲しいかな。」

こう、ゴツくてスタイリッシュなライターはちょっと欲しい気がする。
流石に吸い慣れているとはいえ、100円ライターだと経済的だがちょっと情けない。
紫煙を燻らせながら水平線から視線を他の方へと向ける。人気が無いだけでなく、学生街などと違い比較的静かだ。

(――まぁ、これからの季節は賑わってくるんだろうけどね)