2020/07/02 のログ
ソフィア=リベルタス > 「やぁ、閃先生でしたか。 かまいませんよ?
 どうぞ、ここは別に私の領土というわけではありませんからね。」

ざわめきと、足音で、誰かが近づいてきたこと自体は分かっていた。
まさか数少ない教諭の一人が、同じ場所にまみえるとは思ってもみなかったが。

「えぇ、まぁ釣りは確かに趣味の一つではあります。
 精神を落ち着けられる手段としても優秀でしょうね。
 今日は別段、何か用事があった、というわけではありませんよ。
 そうですね、物思いにふけっている、とでもいうべきでしょうか。」

たしか、彼はこの世界の生まれの人間だったはず。
そこまで長く接しているわけでもないので、どういった人物かは測り兼ねてはいるが。
まぁ、言った通り、ここは私の領地ではないのだから、だれがきてもおかしくはない。

「誰かに聞かせるような話でもありませんよ。 ただ、こうして海を眺めているのも、偶には良いものでしょう?」

だからと言って、自分の出生や、学園にも秘匿している情報を、話すつもりにもなれなかった。
悪い先生、とか、信用ならない人物だから、とかそういうことではなく。
単純に、理由がない。

閃 天兎 > では、と会釈して彼女の隣に少し離れて片足を立てて座り込む。
砂は白衣が阻んでくれるからそう気にする必要はない。

「そう仰るのでしたら余り詮索はしませんが...
...そうですね、私も今日はその気でここに来ましたし。
まあ、何かの縁です。少しお話ししましょう」

ソフィアと同じように唯、海を見つめる。
暗闇の中で波の音を静かに鳴らしながら揺れる海はどのような感情を引き立てるのか...

ソフィア=リベルタス、だったか。
異邦人の怪異である彼女のことは話には聞いても、あまりどう言った人物かは知らない。
ただ、落ち着きなくいろいろなところを彷徨っている、と言った事は聞いている。
そんな彼女が「思いに耽っている」所に遭遇するなど、何かの縁かもしれない、なんて。

あまり関わりがない彼女と話しておくにもいい機会だ。

「そういえば先生は異邦人でしたっけ?
どのような世界からおいでになったのですか?」

海を見つめたまま、波の音に掻き消されない声量で尋ねる。
異邦人は多くいて、その数だけ異世界は存在すると言っても過言ではない。
純粋な興味ゆえの質問。そこに他意はなく。

ソフィア=リベルタス > 「どのような、ですか。 そうですね。」

昔の、望郷の地を思い出す。

「あそこは、科学技術が発展した世界でした。 ある意味では、こちらの世界よりも、余程。
 またある意味では、こちらの世界が勝っていたともいえるでしょうね。
 閃先生は、スチームパンク、という創作の世界観をご存知ですか?」

ソフィア自身、この世界に来て初めて知った言葉、世界観の表し方。
蒸気機関が、もしそのまま発達したら、という、蒸気と鉄の街。
そんな機械でひしめき合う世界観を、この世界ではスチームパンクと呼び表すらしい。
この世界の娯楽である、『文庫本』という書物で知り得た知識だった。

「私の世界は、まさにそういう世界でしたよ、ただ、蒸気機関には様々な問題がありました。
 環境汚染や、資源の枯渇、生態系の乱れ、えぇ、この世界より、余程荒廃が進んでいたでしょう。」

いつか、こちらも世界もそんな風に変わってゆくのだろうか。
そうは、なってほしくはないが。

「ただ、人間たちは技術を捨てることはできなかった、今を捨て去り過去に戻ることなど、土台無理な話だったのです。」

あぁ、懐かしい思い出だ。
あの世界では、いつもの洋装もおかしいものではなかった。
今となっては、あの霧にまみれた都市が懐かしい。

閃 天兎 > 「なるほど...スチームパンク、ですか。
ええ、存じております」

創作物にあまり興味は湧かないが、話題としてその類の単語は一応把握している。
確かに、ソフィアがそのような世界から来たのであれば以前見かけた彼女の普段の装いも納得出来る。
思い浮かべてみれば違和感なくその姿が馴染んだ。

「人間が技術を捨て去る事は...こちらの世界でも無理でしょうね。
捨てなければ世界が滅ぶとしても、私にも出来ませんとも。
一度進んだ文明を巻き戻す事なんてやろうとすら思えません
ええ、嫌ですとも。誰がこんな楽な世界捨てられますか」

何か特徴を付けて語るまでの考えでも無い。淡々と述べよう。

彼女の世界の住民の思考は決して彼女の世界の住民特有の思想ではないだろう。
地球の人間たちだって、きっと同じだ。
それが例え異能者であっても魔術師であっても、私であっても。

海へと向けていたその深く黒い、気力の無い瞳が彼女へと向けられる。

「...ですが、あなたはそんな汚れていた、空気の淀んだ故郷が懐かしい。
違いますか?」

なんて、少し思いやるような、それでいてメスを入れるような鋭さを持った一言を彼女に向けた。

ソフィア=リベルタス > 「うん? あぁ、いや、そうでもありませんよ。
 懐かしい顔ぶれや、思い出のある土地も多いですが。」

今更、というほかない。
ソフィアは途方もない時間の中を生きてきた。
それこそ何世紀という長い時間の間、あの世界の、発展と栄光の歴史を
そして、その中で育まれてきた営みを。
確かに、逢いたくなるような顔や、帰りたくなるような故郷もあったかもしれないが。

「わたしは、あの世界から放逐された『化け物』ですからね。」

ただそれだけのことだ、それ以上でも、以下でもない。
また、人の顔触れが変わるだけ。
時間の流れに取り残された怪物が唯、また一人で、そこにいるだけに過ぎない。

「技術、あるいは知識を極めた人間という種族は、未知、というものを恐れるものです。
 自らが発展させ、並ぶ者が居ない筈の成功の頂点、しかしそれですら理解の及ばないもの。
 えぇ、それが私でした。 だからこそ、彼らは私に恐怖した。」

恐怖という感情は、同時に人間に同一の目的を与える事が在る。

「そうして、わたしはあの世界から放逐された。
 あの世界から私を追い出すことで、彼らは安息を得た。
 まぁ、私もその方法までは存じ得ませんが。」

向こうの最新の技術力など、興味もなかった。
浪漫を失った、技術に溺れた人間たちに興味などなかった。

「ゆえに、私はあの世界に懐かしさを覚えたとしても。傷心になることはないでしょう。」

人間を愛しているからこそ、人間に失望した。
少なくとも、あの蒸気の世界では。

「ある意味感謝はしているのですよ、このような面白い場所に来られることになったのですからね。」

ご案内:「浜辺」から閃 天兎さんが去りました。
ご案内:「浜辺」に閃 天兎さんが現れました。
閃 天兎 > 「そうでしたか。それは失礼」

偉そうに言った割にそうで無いと言われてしまい恥ずかしい限りで...
バツが悪そうに視線を海へと戻す。

「しかし...化け物ですか
化け物ってなんでしょうね」

化け物。その言葉が示すのは一体何に当たるのか。
もし超常の力を持つ存在のことを指し示すのであれば、私だって化け物の一種だ。

「あなたの故郷があなたを化け物と言うのであれば
この世界は化け物で満ち溢れていますよ。
ほら、私だって化け物だ」

なんて、人さじ指を立てれば、その先端が揺らぎ人さじ指が見えなくなるだろうか。

「あなたの故郷は気に入らないあなたについての探究を怠っただけだと思いますよ。
あなたを追放する時間であなたを知ろうとすれば良かったんです」

消えた指先が揺らぎと共に戻ってくる。

「この島にはあなたの仲間が多く在りますよ
理解できない異能やら魔術やらを振るう多くの人々、どんな生物にも当てはまらない怪異。
あなたもそのうちの一人でしかありません。
私だってそうです。なんでこんな幻視を見せられるのかわかりません」

指先に魔術で点火しする。
小さな光があたりを照らしだし、僅かな潮風が其れを掻き消し再び闇が訪れる。

「良かったじゃ無いですか。
彼らはあなたが化け物では無い世界にあなたを送り出してくれたんです」

「もし、それでも自分を化け物と言うのでしたらー」

一呼吸

「この島にはあなたと同じ化け物しかいませんよ」

当たり前であるかのように、何事でも無いように。
鋭くも無い口調で。そう言い放った。

ソフィア=リベルタス > 「んっふっふっふ……、そうですね、あなた達の言う、『化け物』という基準でいうなら、その通りです。」

一般的に『化け物』といえば、所謂、怪物をイメージするのだろう。
『未知』で、『奇怪』で、理解の及ばない『生き物』。
言われてみれば確かにこの島には、ある種化物ばかりの島ともいえる。
無能力の人間もいる故に、しか、というには少し誇張だとは思うが
慰めようとしている、そんな気配を感じる者に訂正しようという気は流石に起きない。

「私は生徒を化け物、というつもりはありませんよ。
 そんなことを言ったら彼らはきっと傷ついてしまいますからね。
 この世界で、それは中傷の意味を持つと聞きました。」

それも、随分と昔のように思える。

「えぇ、ある種私たちは化け物です、能力を持たない彼らにとって、私たちはまぎれもなく。
 ですが、そうではありません。 閃先生。」

ソフィアと彼らには決定的な違いが、そこにはある。

「彼らは生徒であり、人間です。 ですから、生徒の前ではそんなことは言ってはいけませんよ?」

ハハハ、とどこか自嘲的に笑って。

「わたしは、私という『現象』を、『化け物』と呼称しているにすぎません。
 侮蔑ではなく、そうあるものとして呼んでいるんです。
 皆はよく、私を化け猫の怪異、と思い込む傾向がありますよね。
 無理はありません、私が普段人間か猫に化けることが多いですから。」

それは、ソフィアにとって都合のいい也代われる相手だから。

「わたしは、化ける『怪異』なんです、そこに制限はない。
 人物だろうが、故人であろうが、物であろうが、区別なく、私は化けることができる。
 やろうと思えば、という注釈がつきますが。」

やろうと思わない理由が、そこには存在する、ということで。

「先生、もし、私が、貴方の記憶も能力も、そのすべてをコピーしたとして、えぇ、仮にの話です。
 仮にの話ですよ? 
 そこに私とあなたの違いは、どこに発生すると思いますか?」

隣に座っていた少女は、閃の外見になり替わる、ドッペルゲンガーでも見ているようなそれは。
『異質』というほかない。

閃 天兎 > 「そうですね...
まあ、生徒のことをそんな化け物と呼んだりしませんよ
あくまでも超常の存在であるあなたが化け物であるなら、皆化け物と
そう呼称しただけです。
私にとっては皆普通ですよ。
超常の存在で化け物とも言えるかもしれませんが...ええ、皆普通です」

そんな皆化け物な訳がない。
あくまでも皆あなたと同じ。あなただけが化け物ではないと、そう言いたかっただけだ。

「ですから、力を持つ生徒を化け物扱いしたり、それこそ化け物呼ばわりなど...
生徒でなくても、在り得ないですよ」

この島に住むどんな存在も化け物足り得ない。
なぜならこの島では超常が常だから。
超常など存在しないから。

「化ける怪異、ですか
そうですね、てっきり私も化猫の怪異とばかり思っていましたね。」

そんな耳が生えていて、人の姿をしていれば。
まあそうも思うだろう。

「そうですね...違い...ですか」

私が二人になる、と言うことだろうか。
突然鏡が現れたかのような。
今この場で「お前は誰だ」なんて問い掛ければ私は損なわれるのだろうか?
鏡や写真でしか見たことがない姿を見つめて、少し顎に手を当てて、ふむ、と考え込んで。

「私は私でしかないですが
私の複製はあくまでも上書きされた存在、という点でしょうか。
あなたが私になったとしても、その根っこにはソフィア先生、あなたが在るのでしょう?
でしたらそれは私ではありません。ソフィア=リベルタスという存在です」

「それに、もしそんなことをすればソフィア=リベルタスの中身は消えてしまうのでは無いですか?」

なんて、尋ねてみようか。

ソフィア=リベルタス > ソフィアは、くすりと笑う。 閃 天兎という擬態を解いて。
ソフィア=リベルタスという存在に還ってゆく。

「えぇ、『その通り』です。 閃先生、もし、私があなたを完璧にコピー出来たとしたら。
 そこにもう私という意識と記憶は存在しない。」

それは、ソフィアの存在が、力の本質が、大きくかかわる。

「完璧なるコピー、複製、存在の書き換え、上書き。 そうすることで、『也替わる』ための異能。
 いいえ、私の場合、それは異能ですらありません、私という存在の本当の意味。」

ソフィアという存在ですら、也替わったものかもしれないという事実。

「私という存在は、私が私であることをやめた瞬間に、消滅するでしょう。」

ソフィアの言う『化け物』とは、そういう意味。
そうあるべきもの、そう存在する者、不確かなもの。

「私は私を失うことが恐ろしい。」

ふと、笑顔が崩れて、少女の顔は、年相応に泣きだしそうに見えた。
たった、一瞬の、瞬きの内だけ。

「だからこそ、『化け物』は私だけでいい。」

少女は、『化け物』は孤独を許容した。

閃 天兎 > 「...」

つまり、目の前にいる幼い姿をした同僚は。
ソフィア=リベルタスは別の存在が成り代わった存在であり。

ソフィア=リベルタスは本当は別に存在していたかもしれなくて、彼女はただの成り代わりかもしれない。

...だがそんな事は聞けない。
彼女が彼女でなくなることを恐れているのなら。
きっとかつて彼女は同じ恐れを抱きながらソフィア=リベルタスになったのかもしれないのなら
何か理由があってかつての存在を捨ててソフィア=リベルタスになったのかもしれないのなら

それを彼女に思わせるわけにはいかない。
今の彼女はソフィア=リベルタスである。
唯それだけでいい。

彼女が一瞬見せたその酷く悲しげな表情はそう思わせるには、私の口を閉ざすのには十分すぎた。

「そう、ですか...」

そんな存在は自分だけでいい。
何者かに成り代わる、特定の存在に止まらない存在は自分だけでいいと。
化け物は、自分だけでいいと。

天兎はソフィアではないからその気持ちの全てを理解しているわけではなかったが。
それでも、表情をあまり表に出さない彼が悲しげな表情をするぐらいには理解していた。

「でしたら、私があなたの存在をずっと覚えていれば...
ずっとあなたがソフィア=リベルタスであることを望めば。
あなたはソフィア先生であり続けますか?
化け物である必要はなくなりますか?」

本来隠すべき自身の異能の一端を匂わすような。
そんな事を口にしてしまう程には。
天兎はソフィアの孤独をどうにかしたいと。
そう思った。

ソフィア=リベルタス > 「どうでしょうね、他人の記憶を操作する力までは、無い……と思いますよ。
 でも、そう思ってくれる人間が、この学園の生徒が、知り合いが居るのだとしたら。」

もしも、今ここに存在する自分を、大切に思ってくれる人間が居るのだとしたら。

「私は私であることを守り続けたい、そう思っていますよ。」

いつか、生徒から、『先生が好き』と言ってもらえたことを思い出す。
確かに、自分で自分を消してしまうかもしれないことは、恐ろしい。
だが、それ以上に、その言葉を大切にしたい、そう思うのだ。

「先生が、そう思ってくださるのであれば、
えぇ、精一杯、私はそれを叶えるために、存在し続けますとも。」

なぜならそれが

「そう望むのが、わたし自身の願いですから。」

そうありたいと思う心こそが、ソフィアを証明し続ける。
そう信じているから。

閃 天兎 > 「でしたら、私があなたがソフィア先生であり続ける事を望みますよ」

それで彼女が彼女で居続けてくれるのであれば、私はそれに喜んで尽力しよう。
...あれ?

「...なんと言うかあなたが教師ではなく生徒に見えてきました。
不思議ですね。あなたは先生であるはずなのですが」

こう、誰かの為にと言った行為を教師だから生徒の為によく行っているが為に。
こうしてソフィアのために望み続けよう、と言う行為がソフィアを生徒としてその目に写していた。

「海の生物についての授業でもしましょうか?
私は生物学の教師ですから」

まあ、そんな彼女はきっと今だけなのだろうが。
励ますと言うわけではないが、冗談の一つでも言って見せようか。

ソフィア=リベルタス > 「おや、『Sophia<叡智>』の名は伊達ではありませんよ?
 なんでしたら私がご教授して差し上げましょうか。
 魔術で海を割る方法とか。」

生徒と言われるのは、はるか年下の、まだまだ若い人間に
そこまで言われるのは少々癪に障る、何よりプライドが許さない。

「私の方が、生徒のためを思ってるんですからね!!」

悲し気なソフィアはもうそこにはおらず、ケラケラと笑いながら
対抗心に燃える教師の姿がそこにはあった。

閃 天兎 > 「それは生物学ではないと思いますが...
そのうちご教授願いたいですね。使えるかは別として」

端から叡智の名を持つ彼女に勝てる知識を持てるとは思っていませんでしたが。
海も割れてしまうとは...驚きですね。

「果たしてそれはどうでしょうかね」

なんて、元気な彼女を見れれば。
満足したような笑みをうっすらと浮かべて、やはり彼女はソフィア先生である事が一番似合っていると。
そう再確認した。

ご案内:「浜辺」から閃 天兎さんが去りました。
ご案内:「浜辺」からソフィア=リベルタスさんが去りました。
ご案内:「浜辺」に水無月 斬鬼丸さんが現れました。
ご案内:「浜辺」にソフィア=リベルタスさんが現れました。
水無月 斬鬼丸 > 日も高く、照りつける日差しも眩しい常世島海水浴場。
一部すでに海開きを終えているところもあるようだが、ここはそうでもないらしい。
海の家などの設営もまだすんではおらず、人影も殆ど見当たらない。
とはいえ、もうすこしすればこのあたりも日焼けしたサーファーやらウェイ系やらギャル系女子で埋め尽くされる。
このように穏やかな様相を見ることもしばらくできなくなるだろう。

「………」

アウトドア系ではないが、こういう場所が嫌いというわけではない。
寄せては返す波の音を聞きながら浜辺をブラブラと散歩。
年頃の若者らしい午後の過ごし方ではない。
が、せっかくだし…海開きしてからは立ち寄らないだろうから今のうちに夏の風物詩を味わいたいという気持ちはあった。

ソフィア=リベルタス > 少年が浜辺を歩く、その視線の先に、少女が一人。
麦わら帽子を目深に被り、白いゆったりとしたワンピースをまとっている。
海風に揺れ、ふわふわとスカートが浮かぶなか、少女は大股で、腰の後ろで手を組みながら、
砂に沈む脚を楽しむ様に、寄せる波から逃げる様に、近づいては離れ、離れては近づいてを繰り返して、
誰もいない浜辺の中、少年にゆっくりと近づいてゆく。

それはどこか、ノルタルジックな映画を見ている様だ、

水無月 斬鬼丸 > 青い空に青い海、砂色の浜辺。
歩いているのは一人…ではなかった。
視線の先に見える、青と砂の色の世界に浮かび上がる白いシルエット。
少女?波と戯れる…なんだっけ、あの白い…漫画とか映画でよくみる…
サマードレス…だったか?少し浮世離れした風景に、思わず立ち止まってしまった。

「……異世界人かな…」

思わずそんなことを考えてしまうほどに、その光景は映像作品を切り取ったようだった。
こっちに近寄ってくる…ということも忘れてボーッと眺めてしまう。

ソフィア=リベルタス > ゆっくりと、お互いの顔がはっきり認識できる程度には近づいた。
少女はふと、顔を上げて少年に話しかける。

「おやおや、こんにちわ少年。 今日はいい日和だね?
 こっちをそんなに見て、何か気になることでもあったかな?」

くすり、と笑ってスキップするように近づいてきては、少年の間近に体を寄せて
覗き込むように見上げてくる。
自身より30cm近く小さい、幼い少女が話す言葉にしては
それは随分と大人びて見えて、どこかやはり現実離れした感覚を演出する。

水無月 斬鬼丸 > 近づいてきた少女。その輪郭がわかるほどの距離。
見目麗しい少女。それこそなにかの映画から飛び出してきたのかと思えるくらいには。
少女が顔を上げると、反射的に、だが微妙な動きで視線だけをそらす。
会釈でもして通り過ぎようと思っていたが……

「あっ、あ、うん、こんにちは…
あ、あー…えっと、一人で歩いてたから気になっ…!?」

バッチリバレてる。
まぁ、一人でこんな…なんというか…
ある種古典的とも言える衣装に身を包んだ少女が一人で波と戯れていれば
誰であってもみてしまうだろう。
が、視線をそらした負い目もあってか動揺してしまう。
それ以上に、この少女が一気に間合いを詰めてきたのもある。言葉遣いを気にする余裕が無くなる程度には…

ソフィア=リベルタス > 「あははは、そっかそっか。
 まぁ、そうだよね。海開きは少し先だし。
 うんうん、わからないでもないよ。
 私は海が好きでね? 釣りとか、眺めたりだとか、こうして戯れているのが好きなんだ。
 私の故郷には海なんてなかったからね。」

ふふっ、とほほ笑みを浮かべて、ゆっくり少しだけ距離を取る。

「そんなに慌てなくてもとって食べたりしないよ?
 ほら、深呼吸深呼吸っ!」

すこしオーバーに、大きく手を広げては、ゆっくり閉じて、
ラジオ体操のお手本の様に深呼吸をして見せる。
大きな身振りと、風のせいで衣服が大きくたなびくのを気にも留めずに。

「ほら君も! ね?」

少女はにっこりと微笑んで、琥珀色に光る瞳で少年を見つめる。

水無月 斬鬼丸 > 「ああ、そ、うなんだ。
俺も嫌いじゃないけど…人が増えるとどうしても近寄りがたいんで
夏本番の前にすこし…」

微笑む少女。
そこには無邪気さ…というよりも余裕を感じさせる。
少女を見下ろし、少しうろたえる自分とは違い
声の調子もハキハキとしていて…少女らしくない。
一呼吸おいて、ようやく少女らしからぬ物言いが気になった。
それに海がなかったという言葉…外国か…はたまた異世界かは判別はつかなかったが
少なくとももともとこの島の人間というわけではないようだ。

「あっ…えっ、ごめ…べつにそういうわけじゃなくて…
声かけられるとは思わなくて………あ…はい」

距離を取り、深呼吸を促す少女。ひらひらとしたスカートがまた涼しげだ。
結局彼女のリードに合わせ、深呼吸を数回。
結果的には落ち着けた。

ソフィア=リベルタス > 「あぁ、なるほど。 君は人混みが苦手なんだね?
 いや、それとも、少し人見知りなのかな?
 今もまだ少し口ごもっていたし。
 だとしたら悪いことをしたかな。
 それとも、この格好がやはり気になる?」

スカートの端をもって、くるくると少年の目の前で回って見せる。
 靡くスカートが、少女の白く細い足を露わにさせて。

「この世界の『日本』には、こういった服装を好まれると書物で読んだんだけど。
 あながち間違ってはいなかった様だね。」

やはり、くすくすと、何処か少年を揶揄うように笑っている。

「本番前に、雰囲気だけでも?」

言うだけ言って、言葉の続きを訪ねた。

 

水無月 斬鬼丸 > 「まぁ、そんなとこで…大人数ってのはどうも…」

基本的に陰キャなのでほぼほぼ正解なのだが
実際には海水浴場に出没しやすい人種が苦手なのだが…
まぁ、それは説明しなくてもいいだろう。

「ああ、そんなことぜんぜんは…先に遊んでたのはキミの……
へ?あ?そ、そんなことはぜんぜん!?↑」

島の浜辺だ。誰がどこで遊んでいたところで、迷惑さえかけられなければ気にもならない。
気にもならないが、少女のスカートと足。まるで見せつけるように変わってみせるそれは
どうしても気になってしまう。見た目は一回り小さい少女だと言うのに
妙に挑発的だ。

「……よく勉強してるんっすね…。そっすね…さっき言われたとおり
人が集まるの嫌なんで、かと言って海がそばにあるのに夏に海に来ないってのも…ねぇ?」

同意を得ようとするかのごとく、少女に向かって肩をすくめて。

ソフィア=リベルタス > 「まぁね、せっかく異世界に来たんだ。
 その文化や思考を理解したいと思うのは自然なことだろう?」

詳しいのは、それなりに調べたから、という風に頷く。

「うんうん、せっかく目の前にチャンスがるのに、ふいするというのは実にもったいないよね。
 君にとっては二度とない青春時代なんだから。
 ふふっ、青春なのだから、意中の女性を誘ったりはしないのかい?
 夕方ちかくや夜半なら、人もそんなに多くはないはずだよ?
 ま、節度は持ってもらわないといけないけどね?」
 
覗き込むように顔を近づけては、最後の言葉を耳元で囁く。
青少年には少し刺激が強すぎるのかもしれないが、
少女はそれすら楽しんでいるようで。

「それとも、そんな女の子はまだいない、かな?」

通り抜ける様に後ろに回って、ニコリと微笑む

水無月 斬鬼丸 > やはり異世界人だったようだ。
しかも、かなり理知的な。見た目以上に年上だったりするかもしれない。
異世界人は外見で年齢の判別が難しい…流石に子供に話しかけるようにするのは失礼だろうか。

「せっかくって…こっちにきた人って混乱する人も多いらしいっすけど…」

砂浜の上で軽やかに、踊るように歩く少女のすがた。
こうやって話しているのに、未だに映画から抜け出した感がつきまとうのは
すこし芝居がかったような物言いのせいか
衣装のせいか、それとも妖精のような微笑みのせいか…
ロリコンというわけではない、そういうわけではないが、かわいいものはかわいい。

「そっすね…あー…えー……
うん…そっすね……」

囁く少女の声にはゾクリと背筋に何かが走るが
質問自体にはあまり気がない返事。
陰キャにその質問は、言葉に詰まってしまうのだ。
そして、続く言葉、からかうように歩き回る少女の質問には思いっきり肩を落とし

「………残念ながら…」

大きなため息もセットで。

ソフィア=リベルタス > 「あらあら、そこで落ち込まれるとは思わなかった。
 すまないね、少々、初対面にしては不作法だったかな。」

慰める様に、ちょっと困ったように微笑みながら、ゆっくり少年の髪をなでる。
すこし伸びた髪を梳くように、柔らかで、少し小さな手が触れる。
ほんの少し背伸びをしながら、終わり際に頬を掠めて。

「なに、この島にだって君を見初めてくれる女性はきっといるだろう、ここは多くの人間が出入りする街だからね。」

一歩だけ、後ろに下がり、少女はスカートの端をつかんで、膝を曲げて少し腰を落とす。
映画や、漫画の中で、高貴な女性がする挨拶のように。

「自己紹介が遅れたね。 私はソフィア、ソフィア=リベルタス。
 君が察する通り、この世界とは別の世界からやってきた異邦人さ。」

少女は、恭しく自身の名前を少年に明かす。

水無月 斬鬼丸 > 「いや、いいんっす…そういうことに首突っ込まないほうが悪いんで…」

残念ながら、恋愛その他…そもそも人付き合いすら得意とはいえない。
慣れれば会話くらいは可能だが、意中だとか誘うとか
そういうところに踏み込むようなことは今まで一度もしたことはない。
情けなさにうなだれていると…少女の手が髪に触れた。

「ふぇ?」

思わず間抜けな声とともに顔を上げてしまう。
髪を梳くように滑り、頬に触れた手を追うように見送る。
…思わず頬が暑くなる。何慰められてるんだ俺。せっかく話しかけてくれてるのだから、しゃきっとしろしゃきっと。

「そういうのは期待してないっすけどね…まぁ、うん…
別方面ではできれば楽しみたいっていうか……」

彼女の言葉に触れられた頬をかき、後ろ向きな提案をしてうなずく。
だが、目の前で続く劇場的な少女は止まらない。おかげさまでまた言葉を失ってしまった。
本当にこれは現実なのだろうか?

「………水無月…斬鬼丸っす…」

美しい少女の美しい所作に見惚れ、名乗り返すのがやっとだった。

ソフィア=リベルタス > 「みなつき、水無月か。
 美しいファミリーネームだね。
 水のない月、夏場に、水が渇く、日本特有の夏という季節にちなんだものだと聞く。
 あぁ、今の季節にぴったりだね。
 ということは君はこの世界、とりわけ日本の出身なのかな。」

姿勢を戻して、海の方を眺めながら質問を投げかける。
海風になびく、少女の黒く、艶のある髪は日の光に煌めいて。

「斬鬼丸、か。 斬る鬼、日本人ならではの、まるでサムライの様な、力強い名だ。」

髪を抑える手で、少し隠れる顔を斬鬼丸に向けて再度微笑んだ。
年端もいかぬ少女というよりは、映画に出てくる幾場か大人びた少女の様。

「別方面? あぁ、友人と楽しむような、あー、スイカ割だったかな?
 日本独特の、目を隠すアレ。
 ああいうやつを期待しているのかな。」

水無月 斬鬼丸 > 「そう、っすね。夏は暑いんで苦手だけど…
美しいってのは…まぁ、音とか文字ならそうかも知れないっすね
えっと…ソフィ、リベルタス?サン?の名前にもなんか意味とか…」

褒めてもらえるのは嬉しいが、くすぐったくもある。
褒めてもらったお返しに名前を褒めてもいいのだが
さすがに初対面の男にいきなり名前を褒められても気持ち悪いだけだろう。
とはいえ、由来を聞くのも踏み込み過ぎだろうか?
白、青、そして黒を移す一枚絵のような少女の姿には、声をかけるのもはばかられるわけではあるが。

「…あー…名前の方は、その…名前負けなんで……置いといてくださると…」

控えめに愛想笑い。
この名前、かっこよくはある。確かに。
だが、現実にこの名前を名乗るとなると、自分は色々と足りない。
大人びた少女に比べて自分はなんと情けないことか。

「…あー…エー……友達、って言える人も少ないんで……
えーっと…えー…なにやるんすかね…?」

ソフィア=リベルタス > 「うん? 私の名前の意味かい?
 ソフィア(Sophia)、は叡智、リベルタス、正確にはリーベルタース(Libertas)。
 自由を意味する、どちらもラテン語の古い言葉さ。
 なかなか理知的だろう?」

自慢するように、少しだけ胸を張ってにまっと微笑む。

「良いじゃないか、気にする必要はないよ。 必要な時に、必要な勇気が出せるのであれば。
 それは君の象徴となる。 良い名前を貰ったね。」

諭す少女は、名前の由来通りに、すこし尊大だが、理知的で。

「あはは、何をするのかも決まっていなかったのかい?」

やはり自由に、子供っぽく笑う。
何物にも束縛されない、さながら子猫のように。
笑い、はしゃぎ、転んで、時々母親のような顔をのぞかせる。
浮世離れした気配は、そんな彼女の独特な相反する二つの雰囲気の成せる技だろうか。

「逆尋ねるけれど、きみはこの海で何をしたい? 
 なにをしても自由だ、泳いでもいいし、踊ってもいい、歌ってもいいし、釣りをしたってかまわない。
 この大きな海は、全てを許容してくれる。」

朗らかに微笑みながら吐く台詞は、物語から出てきた詩人を思わせる。

水無月 斬鬼丸 > 叡智と自由。
幼げながら、その顔立ちや振る舞いには自身と知性を感じる。

「へぇ……かっこいいっすね。
それになんつーか…合ってる、っていうか。
ソフィアってなんか優しげで…あー…えっと、まぁ、それはいいとして…」

彼女が自慢げに聞いてくるものだから、つい感想を述べてしまった。
かっこいいとか合ってるがまだしも、その後は流石にちょっとキモい。

「必要なときに…………はい、そうっすね…それは、そうなればいいな、とは…」

スラムでとある女性に持たされた覚悟。
彼女と同じようなことを、目の前の少女も語る。
だからこそ、その言葉を尊大などと思わず、噛みしめる。
だが、それはそれとして、何をしたいか…その答えに迷うあたり締まらない。

「なにを…なにを?えーっと…なに…
何かはわからないけど、何かあればいいなって…
ほんと漠然っていうか、何かってのはないっていうか…そこで楽しいことがあればいいなっていう…」

彼女の言葉に対しての答えはあまりにもおぼつかない。

ソフィア=リベルタス > 「ふんふん、なるほど。
 君は自分の選択を何かにゆだねてしまうタイプなんだね。
 まぁ、さもありなん。
 この世界には選択肢が多い、選択肢が多いということは、また悩みが多く生まれるということでもある。
 故に大人は選択肢を狭め、子供にそれを許さない。
 選択できない、とは、時に自信がないことの表れだ。」

語りながら、ソフィアは海の中に足を踏み入れる。
波は彼女の細い足を飲み込んで、長いスカートを容赦なく水で重く、湿らせてゆく。
それでも彼女は歩くのをやめずに、膝まで海水につかった。

「まぁ、君の場合が如何なのか、までは知らないが、自身がない、というのは間違ってはいないんだろうね。
 なにか、君を阻むものでもあるのかな?
 思い出や、過去、出生。
 あぁ、答えなくてもいいよ? 私が勝手に語っているだけだ。」

ふふふ、とわらう。
水着を着ずに、波に分け入るその姿は、まさに自信と自由を象徴している様だ。

「たまには身を任せてしまえよ、少年! 恥も外聞も、恥じらいも捨て去って!
 海がすべてを許容する! 君はまさに今自由なんだ!」

両手を広げて、彼女は背中から海水に飛び込んだ。

……そのまま、十数秒、静寂という時間は、過ぎて行く。
少女は海から姿を現さない。

水無月 斬鬼丸 > 「まぁ、そういうとこは、あるかも…
自信とか……ぁ…?ぇ?」

彼女の言うことはよくわかるというか…自覚していると言うか。
自信がない。たしかにそのとおり、そのとおりなのだが…あれ?
どこまで歩いていくのか…
思わず少女に向かって手をかざすようにかたまって。
濡れない魔術とか、異能とかそういう物があるわけではないようだ。
スカートの白が水を吸って変色している。

「え、え、ちょっと、まって、まってまてまて!」

笑いながら、考察しながら、海に向かって歩いていく少女
思わずそれを追いかけ、足元を波で濡らす。
そしてやがて…
少女は高らかに声を上げ、両手を広げ、それこそ劇的に海へ

「…まてまてぇぇぇ!?うそっ…えっ…なに!?くっそ……」

しかも浮かんでこない。
どうする?彼女の沈んだところまで歩み、少し悩んでから…
同じように飛び込んだ。

ソフィア=リベルタス > 少年は海に飛び込む。

この浜辺は幸いにも、単独した島の為、汚いわけでもない。
水の中には、白い衣服を波に揺られながら、少女が服の重みで沈んでいく様子が見て取れる。
口から、気泡が浮かぶ様子もなく、そこには呼吸も感じられない。

少女は海に包まれるがまま、波に流されるがまま、
穏やかな顔で沈んでゆく。
まるでその後に何が起こるか確信しているかのように微笑んだままで。

底については砂の煙を立ち上げた。

水無月 斬鬼丸 > なんで?なにがどうなってる?
よくわからない。
少女は海に飛び込み、沈み…ついには底についてしまうほど。
可憐な白いワンピースは今の彼女にとっては重しにしかならない。

自分もそんなに泳ぎが達者というわけではない。
そこまで泳げたとして、少女を抱えて水面まで?
無理なのでは?いや、かといって…それをやらない理由にもならない。

「(どうなってんだよっ!?)」

まだ混乱したままであるが…しかたない。

斬《チェイン・リッパー》

触れているあらゆるものをも切断する。
たとえそれが液体であったとしても…そして触れているのは全身。
人一人分の幅、一気に彼女のいる場所まで、海を切り裂いた!!

水の抵抗がなくなれば海底に自由落下するだけだ。

「づぅっ!?」

海底に落ち、そのまま少女の元へと駆け寄るうちに、海はもとにもどろうとする。
異能を維持し続けなければ…

ソフィア=リベルタス > 「…………」

少女はぐったりとしたまま、ピクリとも動かない。
ともすれば、白いドレスを着た人形の様で。
濡れた髪は砂で汚れ、空気に触れた部分からゆっくりと乾いてゆく。
濡れた肌から海水がしたたり落ちるも、美しさはあれど
それは儚くも、恐ろしい。

水無月 斬鬼丸 > 抱き上げる。
正直脱力した人間一人分。
いかに小柄な少女とは言え、ドレスも髪の水分もあって重たい。
それでも、とにかく浜まで走らねば。

「くっそ…なんでっ…なにがっ…しっかりしてくださいよっ!!」

少女に声をかけながら、海を断ち切ったままに走る。
呼吸は?心臓は?むしろなんでこんなことを?
確認したいことはイロイロあるが、今はとにかく走る。

「起きてくださいよ!っそ…」

不安定な海底、人一人抱えて走ったばかりに何度か足首をいい感じに痛めそうになった。
だが、転ぶことなく、なんとか砂浜にたどり着いた。
脱力した少女を横たえれば……その胸元に耳を当て、口元には手を。

ソフィア=リベルタス > 鼓動を、口元に手を当て、呼吸を確認する。
息をしていない、鼓動が感じられない、少年が焦りを浮かべようとしたその瞬間に。

「ぷっ……ふ。あっはっはっはっは!」

少女は息を吹き返して、大きく笑い声をあげた。

「おっほ、げぇっほ、うぇ、しょっぱ、苦し……げほ。
おぇぇ……、海水呑んで息を止めて、ついでに心臓を止めるとか、やるもんじゃないね。
数分遅かったら死んでるかもしれないなぁ。」

先ほどまで、ぐったりして、顔を青くしていた少女は嘘だったかのように。
陽気に語り出した。
口から海水を吐き出し、苦しそうに呼吸をして、間違いなく溺れていたのは確かなはずなのに。
鼓動は止まっていたはずなのに。

「あぁー……喉がいがいがする。」

少年に向かって、苦しそうにしながらも微笑んで見せた。

水無月 斬鬼丸 > まさか…これは…
いや、迷っている暇はない。
心肺蘇生…。漫画とかでみる甘酸っぱさとかはまるでなく、ただひたすらに焦燥だけがある。
はやく…顔を上げ少女の顎に手を当てようとすれば……

「へ????うわぁぁぁぁああああ!?」

いきなり笑い出した。
びっくりだ。
思わず悲鳴を上げてしまった。
しかたないだろう。心臓動いてないのにいきなり動くとか思うわけがない。

「え…え??ええぇ…なに、なにを…?え?………はぁぁぁぁぁ…」

どうやら、どうやったかはしらないが、呼吸も心臓も自発的に止めていたらしい。
からかわれた?いや、それにしたって命を貼り過ぎだろう。

「…はは…ははは………なにやってんっすか…」

力なく笑ってうなだれる。

ソフィア=リベルタス > 「うん? そうだね、わたしの呪術を使って、心臓を止めた、肺の運動もね。
 覚醒こそしているが、血流がないから実質体は動かない、まぁいわゆる疑似的な仮死状態体みたいな。
 あぁ、言われなくともわかってるとは思うけれど、真似しちゃだめだからね。
 本当に命にかかわる、なんだったら下手をすると意識を失って術の制御どころじゃない。」

何をしたのか、と問われれば、どんな術を使ったのかを返してくる。
違うそうじゃない。

「それにしたって驚きすぎじゃないか? 少し喜んでくれたっていいだろうに。」

わははは、と彼女は朗らかに笑う。
げほっごほっと、未だに咳を続けながら。
本当に命を懸けていたらしい。

水無月 斬鬼丸 > 「……そうじゃなくて、そうじゃなくて……
つか、真似ちゃダメっつーか出来ないっつーか…なんでそんなことしたんっすか…
ほんと、いきなり目の前で…ほんと、びっくりして…」

うまくしゃべれない。
そりゃそうだ。
種明かしされたとしても、未だに心臓は驚きに早鐘を打っている。

「あぁ、もうっ…
そりゃ死んでなかったのは良かったっすけど
こっちだって生きた心地がしない…」

咳き込む彼女の背をさすろうと手をのばすが…
触れて、そこで動きが止まる。
ん?つまり?なんだ?
ドッキリにまんまと騙されて?女の子の胸に頭を押し付けたということか?

ソフィア=リベルタス > 「ははは、悪かったよ、悪かった。
 でもほら、そんな状況でも君、私を迷いなく助けただろう?
 怪我をしても、自らを省みず、他者を救う道を『選んだ』わけだ。」

ぱっぱと自分のドレスについた砂を払い立ち上がる。
湿気を含んだそれは、日に当たれば肌の色が薄く透けて見えた。
彼女はそのまま少年の目の前にしゃがむと、くじいた足に手を添える。

「私は医療魔術ってのは使えないからね、固定するだけしておこう。
痛みの神経も麻痺させておくから、後で必ず医務室に行くこと。
これは時限式だから、放っておくと痛むからね。」

そういって、うす暗い魔術の光を放つ。
それは濡れた髪を薄暗く照らして、少女をより幻想的にさせる。

水無月 斬鬼丸 > 驚きと焦りで忘れていたが、そう言えば足を痛めていたのだった。
自覚するとずきりと鈍い痛みを感じる。

「そ、そりゃ…誰だってそうしますよあんなの…
目の前でいきなり…話してた相手があんなことになりゃ…」

選んだなどと言われているが、そんな大仰なものではない。
一般的な社会生活を送っていれば、それくらいの道徳はえられる…とおもう。
彼女の言葉に思わず顔をあげると…ドレスにシルエットが透けていた。
その肌すら。
一瞬目を見開くが反射的にうつむいた。

「っ!?ぅぅ…なんか…変な感じが……
はい…ありがとうございます。
後でいきますけど…いや、それはいいとして…
なんでっての!まだ教えてもらってないんっすけど…」

一瞬の痛みのあと、足首から痛みが消える。
なんか感覚が鈍ったような、痛みだけ霞がかったような…
礼を言ってから、光に照らさえれる少女に答えの続きを求めた。

ソフィア=リベルタス > 「うん? あぁ、理由か、理由ね。
 そうだな、それで君が何か一つ、枷が外れたなら、それが理由かな?」

処置が終われば、少女は立ち上がる。
先ほどまで海水に濡れて、水滴っていただった服は、少年が瞬きする間に、消え失せ、
代わりにとでも言うように、中世を舞台にした、ファンタジーの様なドレスに身を包んでいる。
髪からも、肌からも、もう海水の気配を感じない。

「私は魔術学の講師、『ソフィア=リベルタス』。
 君は人の命を助ける、正しい心と道徳心、そして、勇気を持った少年だ。
 誇れよ少年、君の名は、君にふさわしいとまさに今証明された。」

そう、教師と名乗った少女は語る。
少年に手をさしのばし、ニヤリと微笑んで、立ち上がる力を貸そうとしている。
もう、か弱い少女の印象は消えてしまった。

水無月 斬鬼丸 > 「枷…?え?服?あれ?えぇ…」

一瞬。
まさに一瞬。
服から目をそらしはしたが、彼女を視線から外してはいないはず。
だというのに、彼女の姿はまるで別の写真を貼り付けたように
服も変わり、髪も乾いていた。
本当に白昼夢でも見ているんじゃないだろうか?

「講師…先生ってこと、っすか…?
え?なに?どういう…証明って…?」

急展開すぎて混乱している。
というか、彼女が海に飛び込んでからこっち、混乱しっぱなしだ。
なにも考えられず、半ば反射で彼女の差し伸べた手を取って。

ソフィア=リベルタス > 「落ち着いたら少し考えてみるといいさ、少年。
 君がしたこと、選択したこと、行動に起こした事実。
 それらは君が成りたい姿の道標になるだろう。」

ふふっと、立ち上がった少年の髪を、再び優しく撫でて微笑んだ。

「さ、びしょびしょのままだと風邪をひくよ、さぁ、行った行った。
 海開きはもう少し後、君はいつでもここに遊びに来れる。
 海は君から逃げはしないさ。」

甘い香りを残して、少年をばしりと叩いた。
痛みはなく、背中を押すように。


「どうしてもヒントが欲しいというなら、私の授業にでも顔を出すといいよ。
 私はいつでも待っているさ。」

彼女はそうにこやかに笑った。

水無月 斬鬼丸 > 「は、はぁ…」

正直、とっさ過ぎて、今は考えがまとまらない。
そのため、撫でられるままに生返事を返すのであった。
撫でられて気づいたが、そう言えば、自分はまだびしょ濡れのままだった。

「あ…えぇぇ…
てか、びしょびしょになったのはだれのせいかと…うわっ…」

背中を叩かれるとぱしっと水を含んだジャージがいい音を立てた。
海の香りとはちがう甘い香りに包まれたままに一歩二歩と前へ。
まるで追いやられるように歩き出す。
どっちにしろ、医務室にはいかなければならないだろうし。

「……はい、そうします…」

彼女がしたこと、考え、さまざまなこと…
理解できないことだらけだ。だが、これがスラムで聞いた『覚悟』に関係することだろうことはなんとなく理解できた。
だからこそ、彼女の誘いにはうなずいて返した。

ソフィア=リベルタス > 「しょーねん!」

最後に一度だけ呼び止めて。

「かっこよかったぞ!」

小さい英雄に
飛び切りかわいい筈のウィンクを送った。

水無月 斬鬼丸 > 「………はい?」

呼び止められれば振り返って……
受けた言葉と彼女の表情に

「…ど、どうも…」

小声で、顔を真赤にしながら頭を下げたのであった。
己を認めてくれた少女に。

ご案内:「浜辺」からソフィア=リベルタスさんが去りました。
ご案内:「浜辺」から水無月 斬鬼丸さんが去りました。