2020/07/31 のログ
ご案内:「浜辺 防波堤」に雨夜賢瀬さんが現れました。
雨夜賢瀬 > 天気ヨシ!風ヨシ!波高ヨシ!

「んー、最高の釣り日和じゃないか。
 天気予報は頼りになるねぇ」

缶コーヒー片手に、釣りイベントの主催者は防波堤にやってきた。
もちろんマイ釣り竿を持ってきている。

そう、スタッフ……主催だろうと大会に参加してはいけないというルールはない。
自分も参加する気満々であった。

今日はオフなので制服でもなければ、腕章も付けていない。

雨夜賢瀬 > 「そしてこの防波堤の穴場はここ。消波ブロックを超えた先。」

そう、男は常連だ。頻繁に釣りに来ている。
釣れるポイントも知り尽くしていた。

缶コーヒーを脇において、ひょいひょいっと消波ブロックを渡っていく。

仕掛けを作って、投げる。
シンプルにウキ釣りだ。

そして男は異能や魔術は使わない。素のままの釣りを楽しむ。

判定:頻繁に釣りをする。異能・魔術なし
[1d10→3=3]
雨夜賢瀬 > しばらく待っていると……

「よし」

ウキがすっと引き込まれる。適当にアワセる。

ああ、この感じだ。

「ふむ、グレか。」

これで1点。かなり小さいから逃しておこう。

他の人も来ているから、撒き餌の必要もあまりないようだ。
しかしウキ釣りは絡まるかもしれんな。初心者の邪魔をしても仕方ない。やめておくか。

雨夜賢瀬 > ということで防波堤までもどって、釣り竿ごと変更、仕掛けも別物だ。
アミエビを使ったちょい投げ釣り。狙いは…シロギス。

「釣れるといいがね」

ヒョイっと投げて、適当にサビく。

しばらく釣れないのが続き……ヒット。連れたのはメゴチ。

「ううむ。サビきが足りないか。
 まぁ1点だな」

リリース。他の参加者に届け。

雨夜賢瀬 > もう一度挑戦。

ヒョイっと投げて、サビくスピードを上げる。
何度か繰り返して……ヒット。

「よし、本命だ」

本命だろうが外道だろうが1点は1点。
こいつは持っていこう。ボウズだった人に参加賞でやる分だ。
キスといえば天ぷらだ。

もっと釣らなければな、そう思っていたが……

雨夜賢瀬 > 釣れなかった。

『雨夜さん、調子悪いっすね』

他のスタッフが声をかける。

「釣れんときは釣れん。そういものだからな。
 まぁ、初心者も来るのに大人気ないこともできんだろう」

『よく言いますねぇ、穴場使っておきながら』

痛い所を突かれる。

「なんとでも言え。いつもと条件が違うんだ。それだけさ」

人が多ければ、釣り方も違う。
そういうものである。
今日は釣れない日だった。
そういうものである。

……密かにリベンジを決意する雨夜であった。

ご案内:「浜辺 防波堤」から雨夜賢瀬さんが去りました。
ご案内:「浜辺」に幌川 最中さんが現れました。
幌川 最中 >  
北風と太陽の太陽のほうにしては当たりがキツすぎる晴天。
いついかなるときも、風紀委員会の隊服をツナギのように着ていた男が、
ただの作業用らしきツナギを着たままのそのそと足を運んでくる。

そう。その片手に。
貸し出された当日使い切りの釣り竿と仕掛け、そして。
あらゆる魚をその手中に収めるべく、やたら大きなクーラーボックスとともに。

ぱっと見の印象は日曜日のお父さんである。
子供たちや嫁からの視線に耐えられずに、居場所なく家を出るタイプの。

……事実上、現在は謹慎処分期間中ということで、
実質本当に風紀委員会本庁に居場所はなく、常世島をフラフラしているだけなのだが。

「……賢瀬ちゃんには今度お礼言わんとな。
 二週間マジで何していいのかわかんないとこだったよ本当に」

こんなに真面目に風紀委員会に奉仕しているというのに、と肩を落とし。
それはそれとして、今日は釣りをする。釣りを。この釣り場の王になる。

釣場の支配者。その二つ名を手に入れる。

幌川 最中 >  
といっても、釣りの知識も釣りに使えるものもそうあるわけではない。
魚をクーラーボックスに入れて持って帰って、
「釣れなかったよ……」と苦々しい表情で夕方頃に言うことしか知らない。

恐らくその釣りの知識も結構間違っているのだが。
そのくらい、釣りというのは言われなければ意識の外側にある行動だ。
なるほど触れる機会と触れる動機がなければ、きっと自分も知らないままだった。

幌川が挑むのは、堤防のウキ釣りだ。
初心者にも優しい。それでいて結構釣れるような偏見すらある。
これで釣れないことはないだろう。ほら。この空気。
まるで釣りがうまい人のような後ろ姿をしている。
クーラーボックスの上に腰を下ろしてから、海に綺麗な弧を描いて投げ込む。

幌川は、今俺ものすごい釣りうまく見えてそうだな、と一人自尊心を満たしていた。

判定:釣り完全初心者。異能・魔術なし
[1d6→1=1]
幌川 最中 > 「…………?」

脚の間に釣り竿を挟んでから、持ち込んだワンカップの日本酒のフタを開ける。
ぴくりとも竿に反応はない。いや、いやいやいや。でも知っているとも。
知っている。釣りは““待ち””の競技ということを知っている。

知っている、のだが。

「……釣れねえなあ」

時間だけが経っていく。
周りの参加者と思われる小さな男の子が大物を見せて大喜びしている。
まあ、魚がいなかったという逃げ道はないだけですね。
魚はどうにもいるっぽいので、幌川の竿に掛からないだけなのがわかる。

「?」

首を傾げる。
びっくりするくらい何も反応がない。
風紀委員会本庁で赤坂薫子にセクハラしたときくらい反応がない。
女と魚を同列に考えているのがバレれば様々なものが終わりなのだが、
今は幌川の頭の中を覗くような人物は誰一人として存在しない。

「…………、……――」

顔を抑える。
これはもしかして、自分は釣り向いていないのではないか?
周りはどんどん釣り上げている以上、海に魚がいないという言い訳はできない。

幌川、魚一匹単騎待ち。

ご案内:「浜辺」に東山 正治さんが現れました。
幌川 最中 >  
釣りのコツは「釣れない」を認めることだと聞いたことがある。
聞いたような気がするだけで幻聴だったかもしれない。
それでも、いまこの状況で「釣れない」を認めたらできることは帰宅だけだ。

さすがに、この釣り竿は貸し出しされた一品。
つまり、誰が借りたかというのは既に記録に残されており、いま帰宅すれば、
一匹も釣れずに幌川最中が待てなかったということも明らかになってしまう。

「それだけは……それだけは……」

ワンカップの日本酒を呷りながら、祈るように竿を振る。
仲間ですよ~。怖くないですよ~。かかっても大丈夫ですよ~。
いよいよもう祈ること以外できなくなった男が魚に話しかけ始める。

「アットホームだよ~。
 ……み、みんな仲良しの職場だよ~。先輩も優しいよ~。
 仲がいいから麻雀大会とかできちゃうよ~。多少は見逃してくれるよ~……」

風紀委員会はいつでもあなたの参加を待っている。
目を細めながら、水平線をじっと見つめていた。

東山 正治 >  
炎天下の日差しがダイレクトに流れ込む海辺。
最中が釣り竿片手に蒼海と対話している最中
コツ、コツ、とわざとらしい位たてられた足音が近づいてくる。

「どうもォ~。幌川 最中ちゃん……で良かったかな?ホラ、此の前『懲戒審査』食らったさ。」

「ああ、急にお楽しみ中の所ゴメンね~?おじさん、公安委員会の人ってワケよ。」

その男はごく当たり前のように、最中の隣へとクーラーボックスを下ろした。
そう、クーラーボックス。
日差し避けのキャップに、なんかやたら高そうな輝きをする釣り竿。
よくわからないけどスマートなルアーボックス。
男、東山 正治は公安委員会と名乗ったが……。



──────どうみても釣りに来たただのおっさんだコレ──────!



「あ、俺東山 正治(ひがしやま さだはる)ね。宜しく。」

「つーか、連れてる?最中ちゃん。」

滅茶苦茶ダイレクトに聞いてきたぞ!

幌川 最中 >  
「オッどうも。いやあ、どうにもね。
 今日一番の釣果は東山さんくらいすかねえ。2点くらいになりませんかね」

軽やかに笑ってから、そうですそうです、と首肯した。
ワンカップの日本酒を防波堤に置いてから、座ったまま軽く会釈をする。

まあ釣れた。魚のほうは一向に竿に掛からなかったが、
公安委員会のほうで見たような気がする顔がひとつ釣り上げられた。

「はいはい。お噂はかねがね。
 いやあ、公安委員さんに謹慎中の娯楽を見つかっちまうとは運が悪い。
 ……東山さんは結構釣られるんで? 見るに、慣れてそうなもんですが」

お互いに見た目は釣り師ルックである。
日曜日の居場所のないお父さんが二人。それなりに釣り慣れてそうに見える。
自分が狙った「っぽさ」が目の前に現れれば、人懐っこい笑顔で首を傾げた。

東山 正治 >  
「こんな中年男子持ち帰ってどうすんのさ。
 最中ちゃんもいい歳でしょ?"卒業"したら100点ってとこじゃない?」

傍から見ればそりゃもう良い歳した男二人。
釣り竿並べて佇む何処となく哀愁(?)が漂うようにも見えなくもない。多分。
さりげない卒ハラを交えながら、くつくつと喉奥から笑い声を漏らした。

「いいよいいよ。どうせ今、"暇"なんでしょ?
 それに、此れは俺の方から『勝手に来た』だけだしなァ。」

諜報機関である公安が、ましてや『懲戒審査』の結果を知っている東山が
謹慎中の身を知らないはずも無い。だからこそ、近づいた。
意図はしてたか知らずかは知らないが、謹慎中の今だからこそ、近づいた。

意図の先に釣り餌を引っ付け、ヒュン!と海辺へと飛ばす。
手つきはまぁまぁ、慣れてるようにも見える。

「昔、ちょっとね?ホラ、俺結構多忙でさァ。こう言うの久しぶりなんだよねェ。
 ホラここ。目の隈ひでーじゃん?昨日も2時間くらいしか寝てなくてさァ、俺もボウズかも。」

人懐っこい笑顔に答えるように随分とお茶らけた雰囲気で返す東山。
ここ、と指差した目元には、確かに濃い隈が良く目立つ。

「……にしてもさァ、大変だったでしょ?えぇ?
 こわーいおじさんに囲まれてさ。最中ちゃん、怒鳴られたりしなかったー?」

幌川 最中 >  
「いやあ、東山さんはわかってないですね。
 いい歳の男が若い学生に手を出すと法律に引っかかるってご存知ない?
 結婚前提とか、親御さんへの挨拶前提とかね。いやあ、世知辛い世の中ですわ」

揶揄うように笑いながら、ハラスメントは慣れた調子で躱す。
こんな浜辺の防波堤にいい歳をした男が二人。何も起こらないわけがなく。
クーラーボックスから立ち上がり、中のワンカップ焼酎を東山へと差し出す。

「暇で暇で。あかねちゃんみたいに散歩を趣味にするとこでした。
 可愛い女の子だから夜歩きが映えるってのに気付いたばっかりでしてね。
 ……いまは釣りを趣味にしようとしてたところだったんですがね。
 どうにも趣味にはできなさそうで。いやあ、オススメの趣味あります?」

物悲しいことを一、二と続けてから。何らかの意図自体はあるのだろう。
そうでもなければ、公安の人間が自分にこうして話し掛けてくることはきっと……。

きっと……

きっと、な…………。

「(読めねえ~~~~~~~~。
  多分この人俺と同じタイプの人間で俺より年上~~~~~~~~……)」

ないかな。ないかも。
諦めたように竿を再び海に投げ込んでから、肩を揺らして笑う。

「しませんよ、そりゃあ。
 学生なんですし、年齢もそう意味はないでしょう。
 昨日の議長のコはついこないだ成人したばかりって聞きましたしね。
 《学生主体の運営》ってのはすごいなと関心こそしますがそれまでです」

冗談めかして笑ってから、視線を少しだけ向ける。

「怒られるのは俺、慣れてるモンで」

東山 正治 >  
「『────……福祉法第34条1項目4号』」

「『淫行処罰規定に則った"成人"である証明が出来ていないものに淫らな行為を行ってはならない』」

「『上記が破られた場合、該当者に5年以下の懲役、または100万円以上の罰金の法定刑に処す』」

「……此の法律の厄介な所が『今の』淫行処罰規定でさァ、ホラ。
 此の世界って人間<オレら>以外にもいるじゃない。色んなの。」

「もう、見た目とか、年齢とか、そう言うのじゃ判断できないのよ。『成人』って。」

「『異邦人<アッチ側>』の事情とかもあるからさ?そう言うのも考慮しなきゃいけない訳。」

「バカらしいよなァ。テメェ等でコッチきといて、合わせるのは俺等だもん。どうかしてるよ。」

例えば同じ外見をしていても、異邦人側面で見れば未成年の場合もあり
こうなれば罰則は逃れられない。その逆も然りである。
<大変容>で受けた『秩序』のダメージは計り知れず
全てを『秩序』の下で生かすのであれば
現れた『異物』に合わせた法律も必要だった。
例え、どれだけあこぎな行為だとわかっていてもだ。
東山は相変わらず、へらへらと軽薄な笑みを浮かべながら最中を一瞥する。

「つーか、お前もイイ歳だろォ?しょっぴかれる側じゃないのさ、どっちかっていうと。」

からからと、笑ってのけた。
此れだけ明るい炎天下の中、東山の瞳は未だ黒い。

「アー、あの子な。剱菊ちゃん……いや、ウチの部下ね?
 ああいう子が趣味だとは思わなかったなァ~。
 いやさ、調書とったんだけど。何処に出しても立派な『悪女』よ『悪女』
 いやァ、二度と調書とりたくないね。」

「つーか趣味って。最中ちゃん、案外趣味なさ男?
 インドアとアウトドア、どっちがいい?」

他愛ない質問をしながら、釣り糸にはチラチラと視線を戻す。
東山のルアー、未だ揺れず。波だけが、二人の糸を揺らしている。

「ハハ、確かに。学生の自主性……いやまァ、最終的な部分は『上の連中』が判断するけどさ
 一応、『学園』だからね。俺等みたいな大人もいるけど、飽く迄『委員会』よ。」

それこそ警察や軍隊名だたる組織ではない。
此処にはあらゆる技術が集まる一方で、学園都市である以上
天下の生徒会のお膝下、基本は生徒の自主性に任されている。
おおよそのことは、だ。

「へェ、そりゃァ大変だ。ンでさァー。」

「──────今度は『どんな事』で怒られたワケ?」

二人の間に、涼しいとは言えない生温い風が通り抜ける。

幌川 最中 >  
「それだけ聞いたらまるで未成年淫行したがりおじさんですよ。
 俺じゃなかったらそれ、『東山さんってロリコンなのかな……』とか言われますよ」

諳んじて言われたその条文に苦笑いを返した。『そういうの』には詳しくない。
詳しくない、というよりも、意図的に避けて生きている、というほうが正しいか。
ただ、幌川最中はルールに守られるためにルールを守るだけ。
そのルールは、真っ当に生きているのならば疑う必要がない以上、考える必要もない。

「そうすねえ。
 ま、少なくとも他の人がどうかはわかりゃしませんが……。
 『俺』は、『大人』っていう認識はあるんでね。『子供』には手ェ出せませんよ。
 子供たちは子供たち同士で、清く正しく健全なお付き合いを……」

そこまで言ったところで、ああ、件の剣客ですか、と相槌。
風の噂である程度の話は聞き及んでいたが、少しばかり目を細めて。

「アハハハ。いやあ、そうでしたか。『悪女』。
 ……可愛いもんだと思いますがね、俺は。東山さんは貞淑なほうがお好きですか」

わからんでもないですがね、と口添えてから苦笑い。
そして、様々な質問にはまとめて答えを返した。わかりやすく、端的に。

「趣味は風紀ですよ。
 趣味を没収されたもんでして、いまは趣味探しの真っ最中。
 アウトドアのがいいですかねえ。麻雀はどうにもウケが悪い。
 健全そうなアウトドア趣味を探してたんですがね。して、東山さん」

幌川 最中 >  

「そんなことも知らずに俺に話し掛けたわけじゃあないでしょうよ」
 
 

幌川 最中 >  
 
ご用件は? と言わんばかりに首を傾げ。
竿を軽く揺らしながら、視線を東山へと向ける。
男の黒い瞳の先を覗き込むかのようにじっとその双眸を見やってから。

幌川は、笑った。
この島の『大人』が、それを知らないわけもないでしょう、と。
 
 

東山 正治 >  
「バカ野郎、俺は何時だって若い子が好きだよ。
 常世学園っていいよなァ。レベル高い子多いし
 今度『ミス常世コンテスト』とか開いてくんねェかなァ。」

最中がそう言った傍から欲望駄々洩れ。
そりゃもう40代手前、ピチピチの若い美女が好きに決まってる。
男なら誰だって若くて大きい方がいいだろうがよ。
東山は巨乳派だった。

「『悪女』よ『悪女』。少なくとも、『秩序』が好きって顔じゃねェだろ?」

そうでなければ、『あんな事』をしでかさない。
『運命』にとっとと押しつぶされてしまえば此方も楽だったというのに。
やれやれ、と肩を竦めながら釣り竿を軽く上下。
釣れる気配は、未だ無い。

「俺はそうだなァ、デッカくて従順な方が好きかなー。」

そして、東山は悪趣味だった。
相変わらずくつくつと軽薄な笑みを浮かべる一方で
東山の目は"始終"ずっと冷ややかなままだった。
何一つ『楽しい』とは思っていない。
目は、口よりものを言うと言うが
それならこの目は『冷酷』さを物語っているのだろうか。
瞬きさえせず、最中の見据えた。
泥沼の様に深い黒が、一直線にその先を見据える。

「……話が早い奴は嫌いじゃないよ?『本題』の前に最中ちゃんさァ……。」

東山 正治 >  
 
 
           「オフレコにしとくからさ。お前の言う『風紀』って、何?」
 
 
 
 

東山 正治 > ……目を逸らすことなく、東山は腹が底冷えするような声音で問いかけた。
幌川 最中 >  
「うわあ、俺あんたみたいな大人にゃなりたくないですね。
 デカくて従順って、びっくりするぐらい性癖垂れ流してるじゃないすか……。
 男子学生でもそうそういませんよ従順て。……従順て。
 ……まあ、俺は言いませんけど。黙秘権を行使します。黙秘……」

心の底から声が出ていた。
本当にこういう大人にはなりたくない、と幌川は唸り。
がっくりと肩を落としてから、がしがしと雑に頭を掻く。

悪趣味のおまけに悪口まで添える『大人』に、溜息を吐く。

これで大体の意図は察した。
相手がやりたいことは――相手が、というわけではないのだろうが――
まあ、この場において相手の求めていることは自分の値踏みであり、
またそれに準じる何かしらの情報を吐かせることだとかそのへんだろう。

それならそうと初めから言ってほしいのだが、という文句は飲み込んだ。
へらへらと笑いながら、幌川は東山へと笑いかける。
法によって自分が裁かれるのであらば、法によって自分を守るほかない。
故に、答えは端的に一言。


「黙秘権あります? その質問」
 
 

東山 正治 > 「『無い』って言ったら?」

シンプルに、問い詰める。
表情一つ変えずに、最中の返答を待つ。

幌川 最中 >  
表情は変えずに、東山に視線を向け続ける。
そして、堪えられなくなったかのように吹き出してから――

「冗談下手ですよ、東山さん。
 昨日の今日でそんなこと聞かれちゃ、俺は警戒しちまいますから。
 今はあなたに話すようなことはない。……まあ、任意での聴取ならお断りします」

肩を竦めて笑い。

「ああ、でも。場合によりますね。
 何らかの被疑者として調査の対象となっているのか、
 それとも何らかの参考人として調査の対象となっているのか。
 後者ならまあ、手伝わんでもないですが……どっちかだけ確認させてもらっても?」

令状あるならそも話はこれで終わりですけど、と。
『大人』に相対した『学生』は、困ったように眉を下げた。
黙秘権がないはずがない。愉快な冗談に、どう反応するか少しだけ悩んだ。

東山 正治 >  
「…………。」

「クッ……ハハハハハ……!」

最中に合わせるように、東山も笑った。
目を細めて、何処となく楽しそうに笑っている。
わざとらしく肩を竦めて、掌を上に向けて『お手上げ』ポーズ。

「冗談だよ、最中ちゃん。ちょっと言ってみたかったんだよねェ。
 そういうのにさ、『無い』って言ってやんの。
 ほら、よくサスペンスドラマでやってんじゃん?ちょっと、ついねェ~。」

悪気はなかったんだよ、なんて、悪びれた様子すらなくへらへらと言ってのけた。
それでも尚、東山の"目"だけ笑っていない。

「まぁまぁ、お互い『釣り』に来てるだけだしさ。とりあえず聞くだけ聞いてよ。」

改めて未だ揺れない釣り糸に視線を落とした。

「どっちかって言われると、現状は『どっちでもない』とも言えるし、『どっちも』とも言えるかなァ。」

「最中ちゃんさァ、理央ちゃん知ってる?神代 理央、『鉄火の支配者』とかいうアレ。」

「多分最中ちゃんなら知ってると思うんだけどさァ、『例の録画映像』」

「それと、"水無月 沙羅"の一件。」

「どう、知ってる?つーか、釣れねェなァ……。」

幌川 最中 >  
「いやあ、『つれない』んすよねえ」

つれない男と釣れない釣り場。
言葉遊びの子供だましの掛詞。言葉を手遊ぶ呪術使い。
幌川最中は、困ったように溜息をついてから、文句いいますよと笑う。

「まあでも、苦情言ったところで聞いてもらえなさそうですけどね。
 へえ、やっぱり公安のほうでなんかしらマークされてたんですか。
 ……いやあ、カマかけうまいこといってありがたい限り。……はいはい」

竿の先が僅かに揺れたが、すぐにその気配もなくなる。
ううん、と呻いてから溜息をついて、「知ってますよ」と答える。

「東山さん、なんで俺があそこに喚ばれたのかご存知ない?
 ……知ってるから、関わってるとされたから喚ばれただけですよ。
 して、それが俺に何か関係でも?」

東山 正治 >  
「いっそのこと、二人で『ナンパ』でもしに行く?
 ホラ、その方が『釣れそう』じゃない。
 俺等二人、『大人』の魅力みたいなさ。」

東山は戯れは嫌いじゃなかった。
口は堅いが言葉は軽い。
だから、ふわふわと掛詞に更にくだらないジョークをかぶせていく。
文句はご勘弁、なんてわざとらしく左手をヒラヒラさせてみせた。

「でも、どうかなァ?『今』なら聞くんじゃない?結構皆、てんやわんやしてるし。
 まぁ、そのうち治まるだろうけどさァ……ああ、そうそう。知ってると思うけどさ。」

「当然、『生徒会が動くような事態じゃない』。最中ちゃんも、わかるでしょ?」

天下の生徒会が、たかが風紀からにじみ出た錆程度で動くはずも無い。
それでも念を打っておくことに意味がある。
『生徒会』のブランド力、安心感、畏怖。
長く『こういった仕事』をしてれば、少しくらいは理解出来るはずだ。
徐にジャケットの裏から煙草を取り出し、咥えた。

「知ってる知ってる。『確認』だよ。
 いやァ、よかったよかった。最中ちゃんまでふざけた事言ったらさァ
 俺、海に突き落としてたところだもん。」

嘘か冗談かも分からない。
軽い言葉がさざ波に攫われていく。
どう、吸う?と、煙草を一本最中の方へと差し出した。

「今頃、風紀の方は『火消し』ついでの『応急処罰』で必死なんじゃねェのかなァ、知らんけど。」

「最中ちゃんなら、わかると思うから手短に言っちゃうけどさ。
 今回の一件、下手すりゃ理央ちゃんから『色々』風紀委員の不祥事が漏れちゃうワケよ。
 そりゃ、興味ない一般生徒から見りゃ『ただの不祥事』で終わるだろうけどさ。」

「こう言う事、"連続"で起きちゃうとさァ……どうしても、俺等も動かなきゃいけないワケよ。」

「なァ、最中ちゃん。最中ちゃんは理央ちゃんと違って、『上手くやれる』?」

それこそ、世間話を振るような気軽さで問いかける。
風紀の身内で処理できるならそれでいい。
問題は、『誰でも』見れる事。
此処から芋づる式に風紀の問題点が暴露されてしまえば
それこそ組織の是正と是非を問わねばならない。
きっかけは、それこそ些細な出来事かもしれないが
些細な事で、大きな組織は簡単に崩す。
そうなる前に『枝切』するか『枝を矯める』他無い。
何方が早いか良いかはまだ分からない。

「要するに、『発破』かけにきたってワケ。俺等、法の双璧だからさ。」

「最中ちゃん。俺、最中ちゃんには『期待していい』よね?」

幌川 最中 >  
「口は禍のもとですよ、東山さん」

口は堅く、言葉は軽い。それは構わない。
だが、幌川からすれば『喋りすぎ』だ。頭の中を覗く手段なんていくらでもある。
故に、幌川も――というよりも、東山が不利を被るのではないか、という憂慮の言葉だった。

「生徒会がこんなくだらない話に首を突っ込む理由がありませんからね。
 この島では俺達の見えない場所で日々いろんなことが起きてるわけで、
 そのどれもこれもに気を向ける必要もない。それに、俺の処分はもう『終わってる』」

だからこそ、この話はこれでおしまい。
これ以上膨らむことはない。全身が毒される前に左腕を切り落とす応急処置をした。
だから、全身がどうなるかなんて気にする必要は一つもありやしない、と幌川は言外に語った。
差し出された煙草を一本頂戴すれば、胸ポケットからライターを取り出して火をつける。

「なるようにしかならんでしょう。
 まるで『答え』があるような言い方じゃあないですか。この世界に『答え』はありませんよ」

『真理』も。『神託』も。『解答』も。
『上手くやる』という、ありもしない『それ』を求めるのであれば。
法によって裁かれた彼らと、隣り合わせに生きることになる。それは狂気の第一歩。
だから、この世界は『なるように』しかならない。『上手く』を目標に据えるのは。

自らの価値基準を他者に明け渡してしまうことにほかならない。

「そうなったら『そうなった』だけ。
 あんまり俺には期待せんほうがいいでしょうなあ。
 『そういうの』は、俺にはこれっぽっちも向いてないの、わかったでしょう」

竿が軽く引かれれば、勢いよくそれを海面へと引き上げる。
小さな小魚一匹だけが餌に食いついている。『収穫』に苦笑いを浮かべながら。
クーラーボックスにそいつをしまい込んでから、手際よく片付けをしていく。

「俺も、まだまだ子供なんでもう一言だけ言わせてもらいますけどね。東山さん。
 あなたに甘える形になっちまいますけど、『大人』の責任と思って諦めてくださいよ」

肩を竦めて、返却するための釣り道具をまとめてから立ち上がり。

幌川 最中 >  
 
「少なくとも、あなたのこの行動は『下手』打ってますよ。
 ……叩けば埃の出るだろう俺でよかった。他の学生相手にやってなくてね。
 風紀委員会の不祥事だけじゃなく、公安委員会も白日の下に晒されたら困るでしょう」


<-- 「『無い』って言ったら?」 -->


ノイズ混じりに録音されたその声が、手元の携帯端末で一度再生されて。
幌川は、肩を竦めながら笑って、踵を返す。


「脅迫でしょう、こいつは。
 ……法の双璧たあ、随分と東山さんは……冗談が下手だ」


振り返りは、しなかった。

ご案内:「浜辺」から幌川 最中さんが去りました。
東山 正治 >  
"口は禍のもとですよ"。
最中の言葉に思わず、溜息をもらしてしまった。
そう、知っている。良く知っているとも。
だからこそ、表情にも苦味が混ざった。
馬鹿は死ななきゃ治らない、と人は言う。

「────何?お前に言われるとなると、本格的に呪われちまうかなァ。」

……だったらきっとそれは、『死ぬまで治らない』



<-- 「『無い』って言ったら?」 -->



ノイズ交じりの音声に、はーぁ、と気の抜けた声が漏れてしまった。

「ほら見ろ。」

早速呪われた。
観念したかのように釣り竿を上げれば、今回の収穫はゼロ。ボウズだ。
諦めたように釣り竿をしまいあげ、此方も帰り支度。
振り返らない最中の背中に何か言うはずも無く、静かに見送り、煙草の火をつけた。

「いやァ、『脅迫罪』成立ってなァ。……ジョークの勉強でもしてりゃよかったよ……。」

やれやれ、と諦めたように立ち上がり、クーラーボックスを持って立ち上がる。




────この世界に『答え』はありませんよ。




最中はそう宣った。
だけど、東山はそうは思わない。
此の世界には、『秩序』を整える為の『法律』が存在する。
ともすれば、此れは『庇護』だ。全ての生命を尊重し、自由を『庇護』する守護者
即ち、これが『世界の答え』と言っても過言ではない。
東山は、そう思っている。その為には『何だってする』
それが『世の為人の為』、東山が何時も見ているのは、『現実』だけだ。

苦い煙草の煙を吐きだして、思わず吹き出すように笑った。

「『なるようになる』なら、この世に『法律<ルール>』も『秩序<あんしん>』もいらねェんだよ、最中ちゃん。」

ままならないものの為の法律だ。
その為に、事細かく決まり事を整える。
なるようになろうとも、従ってもらう。それこそ『平等』

「しっかし……。」

東山 正治 >  
「ちょーっと、風紀ナメてたかなァ。まだまだ、ああ言うのいるんだなァ。」

実に、実に楽しそうに喉を鳴らす。
軽く吸い上げただけの煙草を、"何の躊躇もなく海へと放り投げた"。

「……クク、もうちょっと『本腰』いれりゃよかったわ。
 あ、趣味教えるの忘れたなー……どうしよ。まぁいいか。」

「今度にしーよっと」

後悔先経たず。
今回は東山の『負け』だ。
重い重い、荷物と一緒に、静かにその場を立ち去った。

ご案内:「浜辺」から東山 正治さんが去りました。