2020/08/03 のログ
ヨキ > 大盛り上がり、大笑いの大歓声。どよめきと感嘆。

「ははっ――あははは! すごいぞ! 正真正銘の大物だ!」

網の中で暴れる魚を見下ろし、羽月の背中を叩く。

「これ、もしかすると優勝争いも狙えるのではないか?
よもや斯様な現場に立ち会えるとはのう……!」

まるでチーム戦みたいに、どうもどうも、ありがとうありがとうと周囲の声援に答える。
けれどそこはヨキのこと、釣ったのは彼だ、と羽月を示すことも忘れない。

興奮冷めやらぬ様子で、スマートフォンを取り出してカンパチを写真に収める。

「なあ羽月。これ、SNSにアップしてもよいか? 友人の大捕り物だからな!」

羽月 柊 >  
陽の当たる場所。表の世界。
自分がもう二度と、戻ることが無いと思っていた――。


 「は……はは…っ、ははは……ッ」


周りの歓声と笑顔に囲まれ、気付けば、男も破顔していた。
心から、そう、一切何も考えず。
少しして気付いたように笑みを仕舞いこむ。少々恥ずかしい。
こんなに笑ったのは……いつぶりだろうか。

「……あ、あぁ…。
 全く、よくよく不意に考えると現実になるのか分からんが、驚いた…。」

SNSにアップしても良いかと言われればますます気恥ずかしい。
しかし、止めてくれというのもなんだか違う気がして、頬を掻きながら頷いた。

「……友人、友人か。
 ………、そういえば、貴方に言うことがあるのを忘れていた…。」

カンパチは釣り具を貸してくれた所に持って行けば捌いてもらえたりするのだろうか。
それともここはキャッチアンドリリースが原則だろうか?

ヨキ > 笑顔に恥じ入る柊とは裏腹に、ヨキはずっと笑っている。
気兼ねなく。屈託なく。心のうちから。腹の底から。

「大丈夫大丈夫、どうせ魚しか写っておらんでのう。
いやはや、良いものを見た。縁起がいい」

柊の了承に、にっこりと笑って写真をアップロードする。
いわゆるリア充御用達の、写真で交流するSNSサイトだ。
添えたコメントは「#友人すごい」「#実は名人だったのでは」「#これがほんとの爆釣」。

満足して、スマートフォンを仕舞い込む。

「どうやら、会場の向こうに調理用の設備が用意されているらしいな。
それとも持ち帰るかね? 君の好きにしてよいのだぞ。

……うん?
ヨキに言うこと?」

隣の自分の釣竿へ戻ってみると、投げ入れたときのまま音沙汰はゼロ。
何やら思い出した様子の羽月へ、首を傾ぐ。

羽月 柊 >  
「……そうだな、魚は後で貴方と分けよう。
 周りが言うように食べれる種のようだからな…。」

営業用の愛想笑い以外、本当にここ数年、心から笑ってはいなかった。
自分でも驚いたのだ、まだ自分にこんな表情が残っていたのかと。

調理場やスタッフが捌いてくれるサービスもあるようだ。
ならば、帰り際に手伝ってくれたヨキと半分にしよう。
自分1人では、釣りあげる事は出来なかったのだから。

スタッフが持ってきてくれた大き目のクーラーボックスに魚を突っ込み、
とりあえずは一息。そして口を開く。


「…あぁ、……『全て取りこぼした』……。」


ヨキはその言葉が、何であるか理解できるだろう。
だが、その言葉には、続きがある。

羽月 柊 >  



 「………そうなると、思っていた。
  もしそう、だったならば…俺は、貴方の前に現れることがもう出来なかったかもしれん。」



 

ヨキ > 「あはは、気にせずとも良いのに。君とカラス君と小竜たちで……。
ああ、でも、折角の機会だ。お言葉に甘えよう。
ヨキも、二匹目が来たら君に分けてやりたいな」

厚意を素直に受け取って、美味そうだな、と笑みを深める。
いかにも頭上に雲めいた吹き出しを浮かべて食卓を想像しているところが、ありありと見て取れる。

アウトドアチェアに座り直す。
柊の言葉に、ぱちぱちと瞬きする。疑うべくもない、あの狂騒の日々の話。

――その続きを聞いて。

ヨキは、不敵に笑った。

「ほう? ……ほう、ほう! それはそれは。
ふはッ、どうやら、釣り以外にも成果があったようだな。
詳しく聞かせてもらっても?」

羽月 柊 >  
「元々礼はしたいと考えていたからな。
 あぁ、受け取ってくれると嬉しいとも。」

突発的な産物だが、礼の一部にでもなればと思う。
正直、目の前の彼には感謝してもしきれない。

一連の賑やかさが終わり、他は笑いながら自分の持ち場へと戻っていく。


…そうだ、自分の言いたいこと。
『トゥルーバイツ』に、彼らと相対すると決めた日から先のこと。
ヨキが、走れと、背中を押した後のこと。


「あぁ、正直、貴方の言うように何度も失敗した。戦闘にもなった。
 治癒魔術では追いつかないぐらい怪我もした。
 ……己の言葉が引き金になったかもしれないと抱くこともあった。
 名も知らず、いくつも取りこぼした。」

椅子に座り直し、そう告げる。
万事が万事、上手く行くなんてことはない。

上手く行くと自分でも、思っていなかった。

奇跡など起こり得ないと。

「………最後だ、本当に最後。『穴』の所に居た子が居た。
 名前は…貴方なら知ってるかもしれん。『葛木 一郎』という子だ。」

もしかすれば、ヨキは彼を、知っているかもしれない。
もしかすれば、ヨキは学園で尋ねられたかもしれない。

 『羽月 柊という先生を知らないか』と。

ヨキ > 「これは何とも、思わぬ収穫だ。
ふふ、これは酒が美味くなるぞ」

機嫌よく、自分たちの竿へ戻っていく人々を見送って。

再び、羽月と二人で並ぶ。

波音、潮風、二人の声。

「葛木――ああ、」

ふは、と噴き出す。

「彼……そうだったのか。
ああ、これはこれは、もう少し彼の話を聞いてやれば良かったな。

先日、『羽月柊という先生を知らないか』と問われてね。
確かに知った名だが、教師ではない、と答えた。

君を訪ねてくるなど珍しいと思っていたが――
そうか、そういうことだったのだな」

得心がいった顔で、空を仰いで笑う。

「彼、随分と熱心に人捜しをしておったからな。
それで――君は『先生』になることにしたのかね?」

羽月 柊 >  
「あぁ、やはり勘違いされたままなのか俺は…。」

今でも思い出すと、自分の無謀さに驚くぐらいだ。

「…彼の『願い』は、『彼ら全員を救いたい』だった。
 俺と同じで、既にもう手遅れで、取りこぼして、
 どうにもならず、『真理』で彼らを救おうとした。」

話ながら途中、竿を引き上げて、
餌が喰われていたのを苦心して付け替え、また海の中へと投げ入れる。

「貴方は言っただろう、『ひとりひとりの彼、彼女と語れ』と。
 失敗を繰り返し、まずは名を問うた。穴に落ちるかもしれずとも彼に近づいて、姿を見た。」

……あの時は、本当に、己の命すら投げ出しかねないほど、必死だった。

「『自分は何も成せない』、『諦めたくない』と言う彼に、
 ……正直、俺は必死だった…。

  あかね
 『彼女』に認められ、彼らの近くに立つほど、
 俺や彼らと同じ喪失や空白を抱くほどの葛木に、俺は――自分を見た。
 葛木もまた、俺に、自身も見た。俺と葛木はまさに写し鏡だった。」

思い出し、記憶をなぞり、話は続く。

葛木 一郎。彼が抱えたのは、『仲間はずれ』
彼が抱えた願いは、『トゥルーバイツ"全員"を救いたい』というモノ。

眼前で煌めく金眼を、黄泉の穴からの風でなびくショートカットの髪を、よく覚えている。

ヨキ > 「ああ。君は駆け回ってくれるだろうと――ヨキは信じておった。
君ならきっと、己の役割を最後まで果たすだろうとな」

堤防に打ち寄せる、規則正しい波の音。
自分もまた試しに釣竿を引き上げてはみるものの、餌は食い付かれた様子もなくそこにある。

「そうか。写し鏡……。
それでいて尚、君は一人の人間である彼と、向き合うことが出来たか」

先ほどより遥かに落ち着いた声音ではあったけれども、嬉しげな調子は変わらない。

「『トゥルーバイツ』は、壊滅を免れた。
君や葛木君の願いは――叶わずとも、全くの無為には終わらなかった。

完璧ではなくとも。
それは間違いなく、君が救った大事な一人だ」

おめでとう羽月、と、語り掛ける。

大きな魚が釣れたときとは打って変わって、静かな声。
隣の柊へ笑い掛ける顔は優しい。

羽月 柊 >  
「恐らく彼だったから拾い上げられたというのは、大きいとは思う。
 ああ、たった一人。けれど、他の誰でもない彼だ。
 ……それで、俺は。」

思い出すにも少々クサイ台詞だと、自分でも思うのだが。
時折むず痒そうに唇がもごもごとする。

「彼は、俺よりも深い場所、彼らと近い場所にいた。
 実際に彼らの隣に立って、一つとして同じではない彼らの空白と、願いを見ただろうと。

 最初は俺は葛木に、"彼らの物語を綴る"ことを求めた。
 だがそれでは自分が成せないと言った…。だから、

 『俺の前にいる事で"葛木 一郎は成している"』
 『物語に自分が登場してはいけないというルールがどこにあるのか』
 『物語を綴り、君自身の物語を』
 『例えエゴかもしれずとも、誰にも物語を知られなければそれこそ"救われない"』

 ……そう、話した。
 俺の考えつく限りの"対話"で、同じだからこそ…1人が重荷なら、"共に背負う"と。」


葛木 一郎。かずら。
フウセンカズラの花言葉は、『あなたと共に』


「そうすればだ。『貴方の物語を誇ってください』と。
 『たった一人でも救えるモノがあった』、
 失敗するのが初めてだから、『あなたが先生をやってくれ』と。
 『先生の話で救われる学生、少なくないと思います』……という感じで、勘違いされた訳だ。」

海風で纏められた紫髪の先が揺れる。
語り口は、普段の淡々とした口調と少し違う。
少々自信が無さげで、葛木一郎が言ったように誇ろうと努力しているような。

ヨキ > まるで信じられない話を聞いたかのように、しばし目を丸くしていた。
だがそれは、無論のこと柊を嗤うための顔ではない。

「く……、ふふふ。
それは全く、大したものだ。
以前の君からすると、目覚ましい変わりようだとも。

それを昔の君に言っても、まさか自分から出た台詞だとは信じられんだろうな」

柊が尽くした言葉の数々を、またヨキ自身のなかにも染み渡らせるように、じっくりと聞き入る。

「確かに、『先生』と思われても仕方がなかろうな。
それだけ君は、己のうちから言葉を引き出し、また葛木君の話にも耳を傾けることが出来たのだ。

そうだ、羽月。
君はきちんと、誇っていい。己のことを。

たとえ道理から外れた生き方だという自覚があったとしても――
確固たる己を築いていること。それが誇りだ」

気が付けば、釣り大会も間もなく終わりを迎えようとする時刻。
自分の竿で魚は一匹しか連れずとも、良い釣果を目の当たりにした。
一片の悔いもなく、その顔は晴れ渡っている。

「勘違いを、『本当のこと』にしたって良いのではないか。
いずれ君とヨキとが、本物の同僚になるやも知れん」

同僚。過日にも口にした語――つまり、教師のこと。

羽月 柊 >  
「全くだ……今まで、ここまで奔走し言葉を尽くしたことが無い。
 言霊として操る言葉すら、ここまで難しく無い。
 他人を動かす言葉…というのはな。」

あれは、7月25日だから届いた言葉。
全ての言葉と物語に、祝福を。


「…同僚…なるほど。……"日下部"にも教鞭を執れると言われたが、
 この島の職員以上のことを考えたことがなかったからな…。
 正直、どうしたら良いのか俺には分からん。」

そう男はヨキの知る教え子の1人の名を口にする。


もし、その為の一歩の踏み出し方が分かるのなら、
ヨキと彼は同僚になれるのかもしれない。


うみねこが、遠くで鳴いている。

スタッフが寄って来て、先ほどのカンパチをどうするか聞いてきた。
捌いて二等分にしてくれるかと頼む。

ヨキ > 「君の中に、新たに芽吹いたのだよ。
いかなる者にも、真の頭打ちなどない。

君はいつだって、変わってゆける――知らず知らずのうち、変わっていってしまうのさ。
他人と関わり合う以上、否応なしに」

日下部。その名を聞いて、ほう、と目を細める。

「もしかして……日下部理沙か。白い翼のある。
ふふ。彼なら君の教え子にはピッタリだろうよ。

……そうだな、学園の事務にでも尋ねてみては如何かね。
教師はいつでも手が足りておらんからな。さぞや歓迎されるだろうよ」

何とも楽しげに。くくく、と小さく笑った。

「ヨキはいつでも、君を見守っておるよ。教え子と同じように……友の一人としてな。
もしも君が、教師としてヨキに並び立ってくれたなら――次は『崑崙』で酒かな」

崑崙。ヨキ行きつけの、歓楽街の飲み屋。
椅子から立つと、うんと伸びをする。

それから。

道具の片付けをして、山分けにしたカンパチを土産に。
別れる間際、最後の最後まできっと話は尽きなかったろう。

「また、君の話を聞かせてくれ。君の姿を、ヨキに見せてくれ」

そう笑って。それぞれの場所へ、帰ってゆく。

ご案内:「浜辺」からヨキさんが去りました。
羽月 柊 >  
「本当に貴方はよくよく知っている。
 夏季休暇中にうちでバイトをしてもらっていてな。
 彼は良い子だ。真面目過ぎるぐらいにな。
 
 …あぁ…仕事の合間にぐらいしか出来ないが、な。」

常世学園。
卒業した後はただの取引先だったのに、
またこうして、男はその場に戻るのかもしれない。今度は、己の物語を語る為に。

あくまで研究者と魔術師の顔はそのままだ。
そうでなければ、ならない。
自分に、どこまで出来るモノがあるのか。
自分が犯した失敗を、他のモノが繰り返さない為に。

「……ああ、また。ヨキ。」


小竜たちに捌いたばかりのそれを一口ずつやり、
自分もまた片付けをして帰路につく。

表情はいつもと同じに戻っていたが、男は確かに、変わっていく。


蝶が彼らの知らない所、小さな薄紅色の花に留まった。


ヒトは皆、独りではない。

ご案内:「浜辺」から羽月 柊さんが去りました。
ご案内:「浜辺」に持流 童男さんが現れました。
持流 童男 > 「・・・・・傷は・・・癒えた。で・・ござる・・」

言いつつも、浜辺に三角ずわりしている

傷は癒えて、退院したが、それでも、心の傷は癒えてないらしい。

「・・・・もっと某が、無茶してボロボロになれば・・赦してくれるんでござろうか・・アール殿・・」

憔悴仕切った顔でか細く言った。

持流 童男 > 「・・・自分自身・・・を・・救う・・わからないんでござる・・!!」


三角ずわりをして、顔を埋める。

「もう・・・どうすればいいか、誰に頼ればいいか・・・!!!」

「うじうじしてるのは分かってるんでござる。だけど友達を無くしてしまった・・!!!エゴを突き通せず!!!無くしてしまった・・!!!!」

「なのに悲劇の主人公気取りをしてる!!!・・・本当に最低でござる」

自分が最低なことを言ってるのは分かっている。

持流 童男 > 「最低な某に、イベントを楽しむことなんてできるわけないでござるよな。じゃまになるだけでござるし・・」

言いつつも浜辺を後に、する。

ご案内:「浜辺」から持流 童男さんが去りました。
ご案内:「浜辺」に日月 輝さんが現れました。
日月 輝 > 釣り大会。
釣り大会とは釣りの大会のこと。
誰に聞いたってそう答えるでしょうし、あたしだって勿論そう答える。
学園島である常世島の夏休み。当然彼処でイベントが巻き起こされるのだからこれに参加しない手は無い。

「──やるわよあたし。ヴィヴィッドな魚拓を手に入れて一層華やかな可愛いを手にする時よ」

100点満点の夏空の下、片手に貸出用の釣り竿と仕掛け、片手に優美なパゴダ傘を携えて颯爽と現る。
獲物を収めるクーラーボックスであるとか、魚拓作成用の紙やら墨は係員に抜かりなく預けてある。
大会であるのなら記録をつける人も居る筈で、調理含め様々なサービスはあることは把握済み。

「後は魚を釣るだけ……そういうことよ」

日傘スタンド付きのアウトドアチェア(これも借りた)に傘を差す。
悠然と座り、海に目掛け糸先を放る。後は多分、きっと、いい感じになる筈。

日月 輝 > 釣りとは待つものである。何てことは事前に調べて知っている。
優雅で何処となくオシャンティな感じで構えていれば良い。

「慌てる乞食は貰いが少ないって言うものね。ま、のんびりと構えておきましょう」

直射日光は日傘で防ぎ、暑さは耐熱護符で防ぎ、照り返しからなる日焼け被害は入念な日焼け止めで防ぐ。
油断をするとアイマスクの所為もあって危うくパンダ顔の危機だもの。
パンダは可愛いけれど、あたしの求める可愛いのジャンルじゃあない。可愛いにも種類がある。

今、あたしの求める可愛いはこの海の中。
判定:完全初心者。
[1d6→6=6]
日月 輝 > 防波堤まで来ると蝉の声は聞こえない。
潮騒の音に時折……何かしら、鳥の声が聴こえるくらい。
彼処に居る釣り大会の参加者の声がそれらに混じり、中々どうして賑やかしい。
『なんだあの恰好』とかちょっと聴こえたけれど、今は忘れて差し上げましょう。
月の無い夜に気を付けろ。

「おっといけない。あたしとしたことが。ほほほほほ」

生物は殺気に敏感とか聞いたことがある。
いけないいけない。水面下を怯えさせてはいけない。

しかし、この海。一体何が釣れるのかしら?
まだ見ぬ可愛いに想いを馳せる。

「はっ!?」

すると、呼応するように竿が揺れた。引いている。

日月 輝 > 竿を掴む。教えられたようにリールを巻く。
しかしかかった何かの力は可愛いかは程遠い。

「ふっふっふやるわね貴方。あたしを海に引きずり込もうと言う訳ね──!」

否、可愛いのだ。
可愛いあたしと可愛い獲物。釣竿を介し今正に決戦の火蓋が切って落とされた!

「ヌゥゥゥゥゥゥゥ……!!!」

アウトドアチェアから立ち上がる。
異能の力を行使し"体重をかける"。
動かざること山の如しの盤石の姿勢、両腕で抱え込むようにして竿を保持して一歩も譲らない。

しかし相手も中々の猛者。
状況は膠着状態となり、何だか変なオブジェのような姿勢で真夏の直射日光を受ける。
眩い。

ご案内:「浜辺」にマルレーネさんが現れました。
マルレーネ > 明るい笑顔と麦わら帽子。
白く艶やかな素肌と女性らしい身体のライン。
赤いビキニと白パーカー。

異邦人シスターは自分の釣ったものを納めて見学モード。
出店でアイスを買って食べ終わったところで、おや、と。

「………え、えーっと。」
「可愛らしい釣りのフォームですね?」

彼女がやっているのだから、きっとこれが彼女流の可愛いなのだろう。
どう見てもパワー型のように感じるが。

こんにちはー、と声をかけながらゆっるい言葉をまき散らすシスターがやってきた。

日月 輝 > 「 い い 加 減 に 釣 ら れ な さ い よ … … !」

周囲の大会参加者から声援がかかる。
注目を浴びている以上無様な姿は見せられない。
『危ないから竿を離せ』と言われても応じるわけにはいかない。

あたしに釣りはわからぬが一つ判ることは、素晴らしい魚拓が出来るだろうという事だけよ。

日月 輝 > 「あ"ぁ!?」
日月 輝 > 恐ろしき頑強さを誇る貸出用の釣竿と糸に心裡で敬意を表し、
懸命の戦いを繰り広げる乙女に声をかけるのは誰じゃあ!
──と、勢い込んで顔を向けると、其処にいるのは顔見知り。
風体が違えど見間違える筈も無い友人の姿があったわ。

「あ、あらマリーじゃないの。そーお?可愛い?そうね、そうかな……でも貴方も素敵な格好よ」
「ええ、他ならぬこのあたしが選んだのだから……じゃなくて」

健康的で夏の良く似合うマリーの恰好は素晴らしいものだけど生憎ちょっと間が悪い。
有体に言うと腕がしびれて来た。

「ちょっと手伝ってくださらない?中々のヤンチャさんが釣れてしまったみたいで……」

他人ならともあれ知り合いなら話は早い。ちょっと手伝って?と首を傾げる余裕も無くお願いするの。

マルレーネ > 「………ぇっ」

思わずビクッとした。なんかすごく殺気を感じて、一瞬身構えてしまいつつ。
………腕をぷるぷるさせている輝さんからは余裕が感じられない。
ああ、なるほど、と手を打ち合わせれば、にっこり笑顔で。

「もちろんです。そうですよね、輝さんの能力は"引き上げる"にはちょっと生かしにくいですものね。」

よいしょ、っと後ろに重なるように立ちながら小さい声で囁いて。
腕を重ねるようにしながらこちらも竿をがっちり抑え込む。
背後にくっつくように立つから、後頭部にぱふん、っと押し付けてしまうけれども、それはそれ。緊急事態だから仕方ないこと。

「……じゃあ、リールを巻きますよ。」

よい、っせ! と声をあげながら巻けば、少しずつ、少しずつ巻き取られる。

日月 輝 > 常世島、真夏の可愛い大決戦。日月輝VS水面に潜む何か
膠着状態に陥った乙女の戦いに新たなる可愛いが参戦する。

「そうなのよ……よく解ってるじゃない……!」

後ろに回るマリーの言葉通りにあたしの異能は剛力無双を得るものじゃあない。
でも、仮にそうだったら海に引きずり込まれる方が先だったのだから、ifの話は一先ず忘れる。
後頭部に当る癪な柔らかさも、今は存分にクッションとして利用すべく全身を凭れるのみ。

「抑えてるから手早くね!きっと凄いのが釣れるから!」

意外にもマリーのリール巻は手慣れているような所作に見える。
そういえば水着も慣れた着こなしに見えるし、案外夏をエンジョイしているのかしら?と
友人の夏休み模様を勝手に予想する。

そうしている間にもリールは回り水面が揺れる。飛沫に濡れて意識を海へと巻き戻す。

「うっわ今の見た!?なんか凄かったんだけど!」

あたしの声に周囲の人達も同意してくれた。
手慣れているらしき風体の人が大きな網を用意して親指を立てている。

「マリー!引くタイミングを合わせて頂戴。行くわよ、せーの……!」

後ろに倒れんばかりに精一杯の力を込める。
タイミングがあえば、きっと。

マルレーネ > 「よい、っしょ! わかりました!!」

がっちりと掴みながら精神集中。
ここのリールや糸の強さは折り紙付きだ。不安を覚えずに、全力で引けばいい。
パワーだけならば自信がちょっとだけある。あ、もちろん同年齢女子と比較してですよ。

「………んぐ、っ……これは、重………っ!!」

こっちも腰を落としてぐぐぐぐ、っと体重をかけながら、リールを回す。

「了解、しましたっ! せーの……っ!!」

輝さんの掛け声に合わせて、思いっきり後ろに倒れる。
もしも背中やお尻を打ってもそれはそれ、覚悟の決まったムーブで一気に引けば、水しぶきが激しくあがって。

日月 輝 > 「だらっしゃあ!!」

空転する視界と水飛沫。転がるような無様の果てに、二人の分の可愛いパワーを以てして獲物を引き寄せる。
こうして首尾良く引き寄せられて、掬い網に引き上げられたのは、惚れ惚れするくらいに見事な鯛だった。
但し、その鱗は七色である。

「………………………」

いや、鯛?鯛なのかしら?鯛にしては大きい気がする。
手慣れた風のおじさんがメジャーで計っているけれど70cmを超えているのが見える。
そして驚いた声で拍手をしてくれている。そうなると、まあいいかな?とも思えちゃう。
何より陽光を受けて七色に煌めく鱗は美しい。

「ふ、ふふ……ふふふ!」

日月 輝 > 「獲ったわーッッ!!!」
日月 輝 > マリーを押し倒すような姿勢から起き上がり、防波堤にて快哉を叫ぶ。
それから彼女に手伸ばして立ち上がらせるようにして

「記念撮影しましょうよ記念撮影!あれ、魚拓にもするんだけど自慢しなきゃ!」

可愛い可愛い協力者さんに提案をお送りするわ!

マルレーネ > 「あ、じゃあ撮影しますね?」

よいしょ、っとその手を取って立ち上がりながら拍手拍手。

「私、全然釣れなかったんですよ。 これは……おっきいですね。
 輝さん、そういう才能もあるんじゃないですか?」

はい、じゃあまず記念撮影を、といったところで、ぐいぐいと押されて輝の隣へ。
え、ええと、一緒に写っていいものなんでしょうか。

あはは、と確認を取りながらも………それならば、と輝さん一人で抱えられないレベルなのだから、隣で持ってあげて、にっこり笑顔。

「………これならいい順位までいけるんじゃないですか……?」

撮影が終われば、ふわー、重い……! と驚いたまま、鯛を二人で抱えて。

日月 輝 > 「あら、そうだったの?ふふん、そりゃあこのあたしですもの。釣りくらい──」
「……いやまあ、今日が初めてだったんだけど。才能ある?本当ぉ?」

煽てられて自分でも驚くくらいの猫撫で声。可愛らしく首だって傾げてみせるけれど、
写真撮影すべく鯛を抱えんとしているのだから、あんまり可愛くはないかもしれない。
腕とか生まれたての小鹿のように震えている。
でもそれも、マリーが隣に訪って、二人で鯛を抱えるようにするなら話は別。
フリルとリボンだらけのお洋服が、鯛を抱えて濡れ捲っても今はどうだっていいことだわ。

かくしてにっこり笑って記念撮影と相成って。

「そうね、これなら優勝も狙えるかも!いや~マリーが居なかったら釣れなかったでしょうね」
「助かっちゃったわ、ありがとう。貴方って間が悪い時も良い時も来るのね」

それからは鯛を抱えてどうしたものか。と言った所で係の人がやってきて、
一先ず渡して事無きを得る。持参したクーラーボックスに入る事を祈りましょう。

「ほら、初めてあった時とか。あの時は……ある意味獲物は逃しちゃったのかも。なんてね?」

倒れたアウトドアチェアを起こし、座り直して何時ぞやの話をする。
鮮やかな夏空とは正反対の薄暗い所の話。

マルレーネ > 「………だって私、30分以上じーっと粘って、やーっと掌くらいですよ?」

褒められてまんざらでもない表情を浮かべる輝を微笑みながら見つめて。
一緒になって笑顔で写真に納まる。

「輝さんなら大丈夫、と言いたいところですけど、あれだと私もちょっと厳しいかもですね。
 えー、どっちも間が良かったように思うんですけどー。」

相手の言葉を受けて、以前を思い出してちょっとだけウィンク。
係の人が持って行くのを眺めながら………

「あ、次は何を狙うんです?
 鯛の次ですから、マグロとかですか?」

いつの間にか釣りのプロみたいな扱いになっている。
まだ続けるんです? と言外に尋ねながら。

日月 輝 > 「釣りって待つのが肝要って言うじゃない?」
「焦ったらダメダメ。急がば回れって言葉もこの世界にはあるのだから」

その実完全なビギナーズラックなのだけど、どうであれ結果は出ているのだから偉そうにする。
以下、比較的どうでもいい釣りトーク──とはならない。

「そーお?……まあ、でもそうかなあ……あの時貴方が来なかったら……ま、いっか」

釣りトークもifの話はやめておきましょう。
あたしは肩を竦め、ハンドバッグからペットボトルのお茶を取り出して一口。
それから嘆息するように息を吐く。

「今はそうね、釣りの続きと……ってマグロが釣れるわけないでしょ」
「それともマリーの世界では釣れたりするの?」

シスター・マルレーネは異邦人。
そうであるなら彼女の世界の釣りはそういうものだったのかしら?と思うのも無理からぬことよね。
あたしは釣針を海に放りながら問いを放るようにした。

マルレーネ > 「もしかして、まだ荒っぽいことをしてたりするんじゃないですか…?」

なんて、隣に丁度良くしゃがみ込んで、頬っぺたをぷにぷにと突いてみせよう。

「ああ、………いえ、そんなに変わらないですよ。
 大きな海ではなく、川の方が多いから、もっと小さな魚が多いかな。

 ただ、釣れる場所だと落とした瞬間に食いつかれるので、楽は楽でしたっけ。」

過去の話になれば、んー、っと指で自分の頬に触れながら、思い出すように。
特に過去の話を嫌がるそぶりは全く見せない。

「………待つのが大事って言うじゃないですかー。
 釣れなかったら本日は食事なし、とかもあるんで、そりゃあ我慢もしますよ。」

フフフ……と遠い目をしてみたり。

「……あ、一番大きいのはあれです。 建物くらいあるイカが釣り針にかかって襲ってきたことありますよ。
 あの時は船が真っ二つにされたんで、流石に死ぬかと思ったんですけど。」

スペクタクルな冒険譚を語ってみたり。

日月 輝 > 先程までのバトルが嘘であるかのように針の落ちる水面は穏やかだ。
声援を送ってくれていた見物人達も各々の勝負に立ち返り、平穏が戻ったと言えるわね。

「ん~?何よお、そんな事無いったら」
「異邦人街で探偵(?)さんと捕り物をしたり、常渋(常世渋谷)で探偵さんと悪魔憑きを退治したり……」
「ああ、夢みたいな森の中で怪物と戦ったりとかはしたかしら」

他にも色々あったけれど自分からは手を出していない。
頬をつつかれる度に言葉の抑揚を乱しながらマリーに答え、それが済んだら彼女の話を聞く。
思い出すような素振りを、アイマスクの内側の視線が視る。
語られるのは長閑そうな川釣り。娯楽としてではなく、生活としての釣り。
そして、大冒険な釣り。

「……切羽詰まってる感じね……」

遠い目をして思い出の冒険譚を語るマリーに気落ちした様子は無い。
一目を惹く鮮やかな容貌は、恰もこの世界に馴染んでいるように視得た。

「そのイカがどうなったのか気になるけれど……ねえマリー」

今度は此方がその頬を指でつついてやりながらに問う。

「貴方からするとさ、こっちの世界ってどう?」

釣りは娯楽で治安も変な所に行かなければ……それなりに良い。
数多に雑多に満ちた島は、あたしの目からみても大層魅力的で煌びやかに映る。

「楽しい?」

マルレーネ > 「探偵って……何する人でしたっけ。
 偵察? こっちだと密偵とかって必要なさそうですよね。

 ……夢みたいな森の中。 うー、ん……まあ、無事ならばいいんですけど。」

どんな場所かは彼女は未経験だから、首をひねって、捻るだけ。
三円まで達しなかった女。

「そりゃもう、切羽詰まってますよ。
 目の前で船がべきべきべきーって折られるんですよ?
 いやまあ、他に船があったんで助けてもらいましたけど。」

あれはもう二度といいかな、なんてうんざりした表情を浮かべて………
そんなところで、ぷにり、と頬を突かれる。」

「……はい? ……こっちの世界、ですか?」
「はい、楽しいですよ。」

特に迷う様子はない。 にっこりと微笑んで相手の言葉に返して。

日月 輝 > 「探偵はほら、あれよ。依頼を受けて貴方の困りごとを解決しますーって生業の人」
「何でも屋……に近いのかしら。猫を探したりもするし、浮気調査もするし……」
「ただ、あたしが常渋で会った人はちょっと変わってたけど」

夢を媒介にし事件を解決する不思議の人。
彼が大漁の夢を見たら翌日に釣りをするのかしら?と思うと少し面白くて口元が緩む。

「夢みたいな森の中はお化け屋敷みたいな感じ。ああ大丈夫。あたし強いから」

探偵や森の話を軽口交えてお伝えし、マリーの軽くない話を聞く。
脳裏に浮かぶのは嵐の夜。大暴れする巨大イカの光景だ。
映画宛らの大迫力シーン。助けに来た船の一斉砲撃で倒されるイカ。
少なくとも当事者にはなりたくない。流石のあたしでもそんなイカには勝てない。

「それこそマリーが無事で何よりだわ。今が楽しいなら、それも何より」

微笑むマリーからはそんな修羅場を潜って来たようには視得ない。
でも、あたしは知っている。彼女がビーチフラッグ勝負で結構な大立ち回りを演じた事を。

「なんでもビーチフラッグとか随分エンジョイしているらしいじゃない?」
「赤い水着を着た金髪美女が──なんてSNSでちょっと話題になってたし」

ほら、とハンドバッグから携帯端末を取り出して画面を立ち上げる。
そこには誰かが撮影した、躍動感溢れるマリーの姿。

「水着を選んであげた甲斐があったわあ。折角こうしてこの島に来たんだもの」
「楽しまないとね。浴衣はもう着てみた?まだなら今度夏祭りに行きましょうよ」

水面に揺れる糸は揺れずのまま。
あたしは友人を釣らんと言葉を放る。