2020/08/28 のログ
ご案内:「浜辺」に伊伏さんが現れました。
伊伏 >  
昼の盛りも過ぎた、西日に砂が染まる頃。
安物の釣竿にエサをつけ、それを遠くに飛ばす伊伏がいた。
気が済むまで何度か竿を振るいリールを巻くと、その場にずさりと腰を落し、落ち着く。

竿を砂に差し込み、入れ食いを期待するわけでもなく、糸の先をぼーっと眺めている。
もうすぐ夏休みも終わりかと、眼に見えぬ貰い物が期限を迎える、小さな寂しさを噛みしめた。

伊伏 >  
例年通り、夏休みはあまり小遣い稼ぎが期待できなかった。
少しばかり改良を加えた"新作"を、誰かに試してみたい気持ちはある。
新しく得た知恵を総動員させた"新作"は、きっと万能感もより強くなっているはずだからだ。
うろついている委員会の皆さまの動向を探りながら、少し流してみようか。
いいや、夏休み明けこそ気を引き締めておかねばならないのでは?

悶々と考えながら、浜辺に倒れ込む。

「あーー、夏が終わると海に入りづらくなるなぁ…」

この、なんともいえぬ気持ちよさを与えてくれる水温が変わってしまう。
見上げた空はどこか高くて、より一層の夏の陰りを感じさせている。

伊伏 >  
歓楽街にいるとさして気づかないものだが、こういう場所に来ると季節を強く感じる。
ああ、もう蝉もそこまでうるさくないんだなと、波音の狭間に聞こえる細い鳴き声に薄らと笑んだ。

夏休みが終わる寂しさは、学生生活へ身体を戻す面倒くささが一緒だ。
海に入れなくなる悲しさは、いずれは銭湯や温泉への欲求に塗りつぶされるだろう。
己の中で入れ替わる些細な欲は身勝手なものだが、これを他人行儀に観察すれば、また愛おしい。

微かに色づく白雲を眺め、眼を細める。

ご案内:「浜辺」にツァラさんが現れました。
伊伏 >  
陽に焼けた砂の温かさに、少し眠気を覚えた。
このまま居眠りなんてやらかしたら、面白い日焼け具合になるのだろう。
それは目立つ要因になるから避けたいなぁと、大欠伸をして起き上がった。
頭から落ちた麦わら帽子を拾い、よく叩いてかぶりなおす。

「…お、これ糸引いてんな。なんで掛かっちゃうかなぁ」

眠気の残る眼をしたまま、ニヤっとして。
釣竿を砂から抜いてベールを戻し、糸先の獲物としばし戦い始めた。

ご案内:「浜辺」からツァラさんが去りました。
ご案内:「浜辺」にツァラさんが現れました。
伊伏 >  
釣り糸を絞りながら竿を横へ立て、思い切り引っ張る。
ざぽっと水から何かが抜け飛ぶ音が立ち、法則に従って獲物が宙を舞う。
顔面で魚を受け取るのは勘弁したい。なので、砂に着地するように動かした。

竿を放り、何が釣れたかのそのそと歩く。
しかし、伊伏は釣り魚に詳しいわけではない。

「よくわかんねー魚だなこれ。何で分かりやすいのが釣れなかったんだ」

携帯端末を取り出し、魚の写真を撮った。
SNSに上げて魚博士でも釣ろうかと、指を動かしている。

ツァラ >  
ひらひらと青く光る蝶が舞う。
それは釣り竿と格闘する青年の後方に。

『なーにが釣れたの? おにーさん。』

砂を踏む音はしなかった。
けれど、声変わりもしていない少年の高らかな声が後ろから響いた。

常世の海も、《大変容》を経て随分と様変わりしていることだろう。
所によってトビウオのようにヒレのでかいカンパチが釣れていたりするし、
虹色に輝く鯛だったり、かといえば既存種とはいえ、
常世島特有の進化を遂げたカツオが居たりする。

はてさて、釣れたのはなんだろう?

伊伏 >  
「カワハギヅライカメオオアジ、っていう可食魚だってさ」

刺身か焼きが美味いらしいよと返しながら、携帯端末をオフにする。
そして後ろを振り向いて、青く光る蝶に少し身構えた。
少年の声だなというのは分かっていたが、虫も一緒に出迎えてくれるとは思わなかったからだ。

相手の姿を上から下までとっくりと観察しながら、魚の口から針を抜く。

「あんまスーパーとかじゃ見ない魚かもね。
 そこの折り畳みバケツ取ってくんない?バッグの近くに四角いのがあると思うんだけど」

自分より幼そうだが、使えるものは使うようだ。
魚が暴れているので動きたくないのが、本音といったところ。

ツァラ >  
「かわはぎづらい?
 ここのスーパー、すごい変なモノ色々あるよねー」

振り返った先に居た少年は、青い蝶を連れて。
太陽の光が、その白い髪に反射する。

全くもって普通に、それこそ友達に接するように。
声は興味津々といった様子に、るんるんと跳ねた音で。
指示されれば、はぁいと間延びした声と共に、
にこっと蝶と同じ色の青い瞳を細めて折り畳みのバケツを引っ張り出してくる。

「おにーさんこれー?
 焼いて食べるの? 焼く?」

伊伏 >  
ずいぶんフレンドリーな子供だな、と伊伏は思った。
いやでも、見た目の年齢には騙されない方が良い場所だ。

「カワハギヅラ・イカメ・オオアジ。
 どうしような。俺は焼き魚好きだけど、その後に魚グリルを掃除するのが嫌いなんだよね」

少年からバケツを受け取ると、「そうこれ、ありがとう」と礼を添えた。
パチパチと軽い金属音を立ててそれを組み立て、海水を少しすくって魚を放つ。
カワハギの顔をしたいかついヒレの魚は、やれ助かったと言わんばかりに水を跳ねさせる。
帰るにはまだ時間がある。もう少し釣っていこうかと、バケツを持って竿と餌の元に歩いた。

「君は学園の人?それとも、その蝶の化身かなにか?」

はぐらかすタイプだったらどうしような。

ツァラ >  
「カワハギのかつらを被ったいかめさんのアジ?
 網があれば"焼ける"けどー、網はおにーさんもってきてない感じ?」

字面の理解度が足りなかった。

少年はバケツに放たれたカワハギもどきを小さな手を伸ばし、
ぱちゃぱちゃと海水で戯れている。

青い蝶がひらひらと青年について回る。

「ん? あはー、おにーさんには"どっちに見える?"」

はぐらかすよりも面倒な聞き方をしてきたぞ。

伊伏 >  
残念ながら、網は持ってきていない。
1人ただただ波に漂うという静かな遊びをするのが目的だったのだ。
釣りは与太の与太。釣りしたくなったら困るなと用意はしたのだが、伊伏の予定にない遊びであった。

「はあ?」

餌を針にくくったところで、そんな声が漏れる。

どっちに見えるかと聞かれた。何でそういう事を聞きたがるんだ。
盛り場で働く女子の年齢当てじゃないんだぞ。
俺は普通に答えて欲しかった。どっちもって答えそうになるからやめてほしい。

そんな言葉をグッと飲みこみ、首をぎこちなく傾げる。

「…そういう事を聞くやつは大抵どっちでも無いってのが、セオリーだと思う」

少年には、微妙な物言いをする微妙な表情がバッチリ見えただろう。
伊伏は釣竿を振るって、また獲物を待つことにした。

ツァラ >  
お魚としばし戯れた後、両手で掬い上げては水でお礼を貰い、
ころころと高い声が波の音と躍る。

「あはは、面白い顔してる。」

海水に濡れても全く気にしない顔で、
先程は無かった砂をさふさふと踏みしめると青年の元に駆け寄る。

別段どれを答えてくれても遊べたから良かったというのに、
ちゃんと考えてくれたことが可笑しかった。

「せいかーい。
 あちこち歩いて回ったけど、並行世界がどうとかって言ってたね。」

なんて言いながら、釣り竿の先を眺める。

並行世界。つまるところは"異邦人"というヤツである。

伊伏 >  
「答えが分からないままってモヤモヤするじゃないか。
 君は答えてくれたけど…並行世界って事は、異邦人なのか。迷子の方?」

自分の"故郷"に帰れず、この島この世界で生を謳歌しているもの少なくはない。
むしろ生徒でもなんでも、困ってる異世界人と叫んで石を投げれば当たる程度には存在するのが異邦人だと認識している。

釣竿は、波に引っ張られる糸と同じ動きをたまに見せる程度だ。
まだ魚はかかっていない。

ツァラ >  
「分からないままにしておかない辺り、真面目だよねー。」

隣にちょんと座り込む。
小さな体躯は青年と凸凹の影を作り出す。

「んとねー、多分迷子! 
 ごちゃまぜの所に空いてた穴から来たんだよー。

 いほーじん? っていうのが良くわかんないや。
 ふうきいいん? とかいう警察ごっこしてるヒトにも逢ったけど、捕まらなかった。」

少年はまだこの世界に定着しているような言葉遣いをしていなかった。
常世島のことをなんら分かっていない。
"生徒"が大半を運営する、この島を。