2020/08/29 のログ
■伊伏 >
「気になったら解消したい性質なんだ。
…ふうん、穴。まるで童話の白兎みたいだ。もっとも、白兎は追いかけられる側だったようだけど」
ぐいと竿を引き、魚にエサが目立つように調節をした。
基本は釣竿と海を見ながら喋り、たまに少年の方を見る。影法師を作る砂浜は、ゆっくりと赤みが強くなる。
「風紀委員か。この島じゃ警察と一緒だよ、ごっこじゃないのさ。やってる事はそれ以上だし。
…捕まらなかったって、なんか目立つ事でもしたのか?えーと…」
名前なんだっけ?と、少年に聞く。
■ツァラ >
「風紀委員のおねーさんからも聞いたねぇ。
子供が警察と同じことしてるの。
えっとねー、大捕り物してる所でお話したの。ヒトがいっぱい倒れてて、
"不味そう"な銃がいっぱいあったよ。」
少年はなんてことない風景だと言わんばかりに隣で話す。
何故そんな場所に居たのかということすら気にしないままに。
「ふふ、僕はさしずめ童話の白兎を追いかけた先にいた猫みたいなモノかな?
僕はツァラだよ。キミの名前は? おにーさん。」
初対面の少年はにこにこ笑顔で聞いてくる。
童話のことは知っているような口ぶりだ。
■伊伏 >
不味そうな銃って何だろうか。
横にいる少年は金属喰いみたいな、厳つい嗜好持ちみたいには感じられない。
・・・いや待て、大捕物をしていた所に居たと言った。
その前には、女性の風紀委員に追いかけられてそうな発言もしている。
となると、怪しいから補導されそうになったのか。それとも、大捕物に関係していたのか。
伊伏としては、藪蛇はあまり突きたくない気持ちだ。
しかし、島にとってあまり都合が良い存在ではないなら、報告をしておいた方が良いような気もする。
・・・ただ、風紀委員周りには、出来るだけ近づきたくないのが本音だ。
もし考え得るような面倒な存在ならば、聞かなかったことにしておきたい。
「また猫。猫の出会い多いな。青い蝶を連れてるなんてメルヘンだけど。
つぁら、ツァラか。俺は伊伏。この島の学園で学生やってる」
尻尾が無いだろなと、少年の背中をチラっと見た。
さっき見た限りではそういう動物的な部位は無かったはず。
この砂浜に落ちる影にだって、妖しいものはなかった気がする。
自信を持って言えないのは、そう気にして足元を見ていなかったからだ。
■ツァラ >
「風紀委員のおねーさんとはお話したけど、
『変な所はいかないようにして、あちこち歩きまわってみるといいよ』
って言われたから、そーしてるの。
保護して欲しいって訳じゃーなかったら、別に捕まえなーいって。」
少年、ツァラは続けてそう答える。
手の平で砂を掬い上げると、さらさらと隙間から零していく。
にっこりと優しい笑みを浮かべて、あれは面白かったなーなんて呟いて。
でもそれは、少年にとって不味いモノで。
「猫みたいなモノ、かな。伊伏おにーさん。
あーでも、犬……? 存在は少女が追いかけた白兎の世界に居た猫みたいなカンジ。
この蝶々は僕の魔法? みたいな感じかな。綺麗でしょ?
この世界のヒトって結構魔法使えるよね。人間でも。キミみたいな学生でも。
御伽噺は現実にあるし、"僕ら"との垣根がうんと低い場所だよネ。」
■伊伏 >
「ああ、何か悪いことに巻き込まれたとか、そういう事じゃねーのね」
ツァラが続けた言葉には、少しドキっとした。
そんなに分かりやすく嫌な顔をしたつもりは無かったからだ。
面倒ごとを抱えている相手ではなさそうだ、というのが分かったのは、有り難いものの。
「猫と犬はこの世界じゃ大分違うんだけど、何??
ねこだけどいぬじゃない、ちょっとネコに近いイヌみたいな、チェシャ…結局猫か……。ねこか?
垣根は低くなった、というのが歴史だよ。かつてはツァラみたいに不思議な存在は、存在をきちんと認識される事が稀だったみたいだし」
自分が生まれるずっと前は、狂人として扱われた異邦人も居たのかもしれないなと、ふと思う。
「魔法は…そうだな、綺麗だと思う。青空や水の青とは違うきらめきがあって。
俺が使う火の色とも、また色合いが違うしね」
■ツァラ >
「どっちかというと、現場に野次馬しにいった?」
おねーさんびっくりさせた遊んだのーという、
なんとも危険な遊びをほのめかしている…。
座った状態で上半身を左右にゆらゆらさせる。
「うん、"オダ"君が言ってたね。
《大変容》が起きて、それまでの普通の根本が
何もかもひっくり返るみたいなことが起きたって。
僕らみたいに、"どこにでも居てどこにも居ない"ようなのは、
僕の世界じゃ神主さんとか、一部の敏感なヒトぐらいしか見えなかったのにねぇ。」
ひらひらと飛ぶ青い光の蝶は、
青年の肩に留まると、その羽根を休ませている。
「おにーさんは火が使えるの?
僕もね、火は得意なんだー。」
■伊伏 >
「見た目より根性曲がってそう、というのは理解したよ」
綺麗ごとしか言わないヤツよりは親近感が持てて良い。
まだ少し警戒の気持ちは残れど、伊伏の声はそう硬いものでもなかった。
もう一度竿を振り直そうかと大きく動かしたところで、先がしなる。
どうやら獲物がかかったようだ。
腕に力を入れつつ、ツァラの言葉に頷いた。
「オダ。オダはまあ知らんけど。知ってたらごめんオダ、だけど。
元の世界でも感知はされにくかったのか。それはそれで、なんだか寂しい気持ちにもなりそうだ」
リールを巻き巻き、少し後ろに踏ん張る。
「蝶がいるのに、火が得意なのか。蝶が発火するとか、そういう――――あ、釣れたわ」
喋っている途中で魚が釣れてしまった。
海面からじゃばっと飛び出したイキの良い魚が、釣り糸に沿って宙を舞う。
■ツァラ >
「母様から怒られる程度にはひね曲がってるねーぇ」
そう言ってころころと笑う。
不思議な存在。つまるところの"隣人"。
誰かのすぐ傍にいる存在であるし、誰の近くにも居ない存在。
「緑色の髪と目がきれーなおにーさんだよ。お話面白かったの。
僕の世界は御伽噺が御伽噺のままの世界だよ。
だから僕らみたいな"カミサマ"は見れるヒトは少ないし」
そう言いながら、立ち上がる。
宙を舞う魚を目で追って……その先に落ちた少年の影は、ヒトの少年ではなく。
「蝶も火も、そんなカミサマの術の一つサ。」
もっふりと白い狐の耳と、三つの尻尾が揺れていた。
■伊伏 >
伊伏の時間が止まった。
正確に伝えるならば、彼の思考がポンと飛んだと言うのが正しそうだ。
どこか掴みどころの無かった少年・ツァラは自分をカミサマだと宣った。
白く長細い三角の耳に、筆のような尻尾が見える。
見るからに狐だろう。察しなくとも、言葉通りなら狐の神様ということか。
しかし、伊伏の思考はまだ時を刻んでいなかった。
こんな展開に近い事を、少し前にもやった気がしてならない。
そういう夏、なのだろか。
ちょっと不思議な動物に寄ってる方々と出会う。いや、横からトラックを突っ込んでもらうみたいな。
最初からそういう存在だと分かっていれば、本当にどうってことはないはずなのだが。
何でビックリするようなタイミングで話をしているのだろう。
「おう」
伊伏は静かに思考を取り戻した。
釣れたイシマキトコヨヨリキスが頬にびちゃっとくっついたことで、半ば強制的に。
「えーっとぉ……神様なら、最初からサプライズしてくれた方が嬉しかったな…」
神様に根性が曲がってるとか言いたくなかった。
頭痛や腹痛が起きてる時、真っ先に祈る先だと言うのに。
■ツァラ >
「大丈夫?」
イシマキトコヨヨリキスにビンタを喰らった青年に首を傾げる。
耳が生えればそりゃあもうぴこぴこと動くのだ。
「そんなに素直に姿出してたら面白くないもーん。
次逢った時ぐらいにしよかなって思ったケド、
僕は気まぐれな"お狐様"だからさ。」
根性曲がってるって言われたって別に気にしていないような。
だって実際曲がっているのだ。何も間違ったことを青年は言っちゃあいない。
だからにこにこ笑顔は崩していないし、驚いている相手の反応が嬉しいのだ。
「ま、カミサマって言ったって、この世界じゃーそうそう通用しそうにないけどね。
僕ぐらいのカミサマなんて、元の世界よりいっぱい居そうだもん。
ヤオヨロズなんて目じゃないぐらいにさ。」
■伊伏 >
「大丈夫にした」
手の甲で魚のぬめりをぐいと拭く。
「俺はデカい事件には巻き込まれないように、穏便な生活してた方だからさ。
なんてーかこう、分かっちゃいるけどツァラみたいなのは、どうも驚くんだよな……」
そのうち免疫が出来るのだろうけど、それまではいちいち思考停止してそうだ。
自分が作ってる薬すら相手を出来る限り見極めて、ごく少量を流しているような小心者だ。
常世島の学園内でも、かなり平穏に遊んでいたタイプである。
「八百万以上に神様やそれに匹敵する存在がうろついてんのも、同意するよ。
…あー、うん?お狐様って、何か司ってたりするのか?こっちじゃ豊穣だの商売だの言われてるけど」
イシマキトコヨヨリキスの釣り針を外し、バケツに放り込む。
■ツァラ >
「この世界のヒトでも驚いてくれるから面白いよね。
元の所よりもっと混沌としてるのにサ、
眼を逸らして生きてるヒトが多いんだもん。」
尻尾をゆらゆらさせる
きちんとそこに生えている。
真っ白い髪と同じ色。空の色を、蝶の光を簡単に移してしまう色。
己は並行世界の神。
しかし、それでもここで十分に生きていける。
それはだって……。
「ん? 僕が司るのは"幸運"だよ。
僕は"幸運の祟り神"。僕は幸せの傍にいる存在。
僕のご飯は誰かの幸せの隣に在る事。」
少年の食事は、"幸せ"なのだから。
■伊伏 >
「眼をそらさないと多すぎんだよ、この世……幸運~~~~??」
背中を丸めてしゃがんだまま、ツァラを見上げた。
「いや、物騒な名乗りだったよな、今。
"幸運の祟り神"…なんで祟りになっちゃうんだよ、強制的なものってことか?
相反しそうな言葉が一緒にされてんだけど、俺の聞き間違いじゃなさそうだしな…」
これ以上聞くのが怖くなってきた。
貧乏神やマガツ神、祟り神と聞けば嫌でも眉をしかめざるを得ない。
ただ、幸運とつく限りはこちらから見た"厄神"そのままではなさそうなのが、より疑問を深める。
「飯が幸せってことは、喰うってことかね。その幸せ、幸運を?」
■ツァラ >
「そう、祟り神。」
にっこにこ笑顔で目線を合わせる。
後ろから光を受けて、顔が影になっているのに、瞳は青く煌めく。
一切の否定はせずに、己を"祟り神"だと言い切るのだ。
「お狐様、お稲荷様はそういうモノでしょ。
信仰されている間は繁栄を約束するけれど、裏切った時のしっぺ返しはとても怖い。
僕が司るのは"幸運"。幸運を裏切れば、待っているのは不幸。
同じことじゃない?
だから僕は、"幸運の祟り神"だっていうのサ。」
それはただの言葉遊びなのか、それとも誠の事なのか。
「食べるというよりは傍にいるだけで良いんだけどね。
それで僕は食べてるのと一緒。」
■伊伏 >
「確かにそういう受け取り方も出来るけど、信仰するのはこっちの勝手じゃないかね。
お参りなんかを怠けて罰が当たるっつうのも、自業自得ではあるし…」
そこまで言ったものの、口を半開きにしたまま数秒悩む。
商売や健康、何かを願うのは【望む方向に転がりますように】と運の上昇を願うものでは?
司るものが幸運であっても、願いを聞き入れてもらうための信仰にデメリットは付き物な気がした。
ただ、そういうもんじゃないか?と、感覚でしか返せない。
本人が言う"幸運の祟り神"という名乗りは、言い得て妙な表現なのかもしれない。
「…確かに同じ事だけど、なんか違う気もする。何だか言葉遊びみたいだ。
表現ってのは少しズレるだけで、ずいぶんと被害を生むもんだからなぁ」
小さなバケツの中で泳ぐ魚に視線を落す。
「ずいぶんと燃費がいいな、幸せ・幸運の傍にいるだけで腹が膨れるってのは。
羨ましい気もするけど、その幸せの種類や大きさによって、食べた気になれるかっつうトコには差があるのかい?」
■ツァラ >
「幸せや種類で味が変わったり色々ー。
こっちでも存在が維持できるぐらいはね。
ま、元の世界よりは味が安定してないけれど。」
指先を軽く動かすと、そこに小さな蝶が生まれる。
それをぱっくりと口に含む真似をする。
幸せなどというのはヒトによって様々だ。
故に、別に自分自身を信仰してくれというわけでもない。
何の形であれ、幸せがそこにあるならば、それはこの少年の源となる。
「ふふ、正解も不正解も一緒。
誰かが幸せならば、僕はそれで生きていける。
だから、キミも美味しくあってほしいな。伊伏。
僕はキミが"どんな幸せ"を甘受しようと、それをお祝いするよ。」
尾と耳を持ち、神をうたう少年は、時折麻薬のような言葉を零す。
ちらほらと、周りに青い蝶が生まれていく。
■伊伏 >
蝶を食べる真似をされると、ああ狐ちゃんだもんな虫喰うよなと、違う納得をしかけた。
どんな幸せでも祝うだなんて、ずいぶんと幸せの守備範囲が広い神様だ。
違う次元の存在からすれば、結果が幸せであれば気にしなくてはいけないことなど些細なのかもしれないが。
…幸せって、どんな味なんだろう。
ツァラからの頼み、もとい幸せの促しを貰った伊伏は、小さく肩をすくめて首を傾げ戻す。
「俺の幸せなんて些細なもんだから、スナックひとくち分くらいにはなるかもな。
平穏に、そこそこ楽しく過ごせれば十分だからさ。大きな幸せは他に期待しときなよ」
概念の食事を行う存在に、薬で得る幸福の味を聞いてみたいという考えが横切った。
が、そんなものを唐突に出すような不用意さは、流石に無い。
伊伏も立ち上がり、海の方に手を洗いに行った。
陽も大分傾いている。そろそろ自分の巣へ戻る算段をしなければ。
■ツァラ >
この世界の味はチョコレート。
甘いも苦いも詰め込んで、いろんな味のチョコレート。
どんなに小さな幸せでも良いのだ。
小さな虫の囁きが、これから来る秋の夜に大合唱を響かせるように。
ひとつひとつがささやかでも、重なればそれは、己の食事となっていく。
だからこそ、狐はヒトの傍に在る"隣人"の一人なのだ。
「うん、それで十分だヨ。
どんなに小さくても、一つでも幸せがある限り、僕はこの世界に存在出来る。
それが"幸運の祟り神"である僕の姿だからね。」
ちらほらと蝶は増え、
手を洗った青年が振り向く頃には、少年の姿はどこにもなく。
ただ小さな青い光の蝶が一匹、空気に溶けるように消えていく。
ご案内:「浜辺」からツァラさんが去りました。
■伊伏 >
声は確かに、背を向けている間は在ったというのに。
手の生臭さを洗い終えて振り返る頃には、青い欠片のような蝶が宙に消えた。
まるで、最初からいなかったみたいに。
そういえばツァラが現れたのも、自分の背の方からだった。
「…祟り神ねえ。粗相をしなきゃただの幸運の神で良いと思うんだけどな…」
釣竿を拾い、釣り針の先にかぶせ物をして小さく畳む。
餌は大分余ってしまったが、持ち帰ってもまったく良い事は無い。
海の生物の餌となれと、伊伏は海に向かって餌をぼたぼたと落としていった。
ぼさぼさの髪を手櫛で軽く後ろに流し、麦わら帽子をかぶりなおす。
ご案内:「浜辺」から伊伏さんが去りました。