2020/09/07 のログ
ご案内:「浜辺」に焔誼迦具楽さんが現れました。
焔誼迦具楽 >  
 海水浴場から少し外れた海岸。
 そこには、300m四方を囲むように描く光のライン。
 その角にはそれぞれひょうたんのような形の浮遊物があり、空間を区切るように浮いていた。

 海上に浮かぶソレは、エアースイムに用いるフィールド作成用の機材だ。
 そしてそれを見上げるように浜辺に立つ少女。
 白い手袋と赤に白と黒のラインが入った競泳水着のようなボディスーツに、足元には赤いブーツ。

「設置よし、と」

 迦具楽はエアースイム用の装備に身を包み、大きな台車を伴って浜辺に降りていた。
 台車には大きなケースが載っており、中にはいくつもの球形の機材。
 それを一つずつ手にとって、起動していく。

 起動された球体は、ブゥンと小さな駆動音を出して浮き上がる。
 そして自律して飛行して、フィールドの中に入っていく。
 全部で九個の球体がフィールドに浮かんでいる。

焔誼迦具楽 >  
「で、えーっと、設定は春大会水準で、と」

 浮いているのはトレーニング用の自律ドローン。
 空中に操作パネルが投影されて、トレーニングレベルを設定する。
 設定を終えると操作パネルは消えて、フィールドの四隅にタイマーが表示され、カウントが始まる。

「んー、スコア目標はどうしよっかなー」

 カウントが進む中、迦具楽は砂の上でゆっくりと身体をほぐすようにストレッチをする。
 カウントが10を切ると、軽く砂浜を蹴り宙に浮いた。
 そして、カウントが0になると同時に姿を消し、フィールド内に出現する。

「──よし」

 転移と同時に、ブザーが鳴る。
 それはエアースイムにおける試合開始の合図。
 音が聞こえると同時に迦具楽は真下に向けて急降下した。

焔誼迦具楽 >  
 転移されたとき、迦具楽の開始地点は海上から凡そ50m。
 少しばかり低すぎた。
 ランダムに様々な選手のデータを反映したドローンがフィールド内を動き始めるが、迦具楽はそれに目もくれない。

 本来、エアースイム、ことスカイファイトにおいては他の選手より高いポジションを維持するのが定石だ。
 上下に対峙したとき、下は押し込まれれば海面へと追い詰められるのに対して、上は安全高度の設定はあっても殆ど制限なく動く事ができる。
 また、飛行していても完全に重力から切り離されてる訳ではないため、上昇よりも下降する方がより大きい力を発揮できるのだ。

 そして何より大きい不利は、視界の狭さだ。
 通常、スイム中は空に背を向ける形になる。
 背中に目が無い以上、上の情報を正確に把握するのは困難なのだ。

 しかし、スタート時の転移はランダムである。
 そのため、ほか選手よりも低い位置から始まる事は往々にしてある事。
 だから当然、その場合のセオリーも存在する。

 海面近くまで降下による加速を経て、いち早くスピードに乗ってからの旋回。
 フィールドを大きく動いて他選手の動きを診ながら、上昇するための隙きを見つけ出す。
 そしてチャンスを見つけては高度を稼ぎ、徐々に自分の得意なポジションへと移動していくのだ。

 低所スタートの場合、不利も多いが有利もある。
 それは、わざわざ高度を下げてまで狙ってくる相手が少ないという事。
 高度を下げるのが不利になるのだから、最初から低い位置にいる選手を狙うのはリスクが高すぎるのだ。

焔誼迦具楽 >  
 リスクが高くて驚異度が低いのだから、自然と放置されやすくなる。
 それを活かす戦法もまた、スカイファイトには必要なスキルだ。
 しかし、稀に下方からのファイトを得意とする選手もいる。

 充分に加速してからの【サイドロール】から【背面泳法】、視界を確保して正確に位置関係を捉え、【バックロール】から【ハイ・フライ・ハイ】で急上昇。
 右手を伸ばしドローンを捉えて、【有効打撃】を奪う。
 
「──まず、ひとつ」

 接触時の反発で右手が押し戻される。
 その勢いで【サイドロール】し、【ローハイ・アクセル】に移行。
 接触で減速した分を取り戻し、【フロントロール】から再び【ハイ・フライ・ハイ】。

 上昇すると近くのドローンが背中に回り込むように動く。
 また、更に上のドローンは頭を抑えるように頭上に滑り込んできた。
 直立の姿勢から【サイドロール】し、後ろを向いてからの【スウェーバック】。
 ドローンの攻撃をいなす様に接触を避けつつ、【スライド】で回り込んで左手でドローンの背面を叩く。

焔誼迦具楽 >  
「──ふたっつ」

 上から降ってくる様に迫るドローンは、【スウェーバック・スウィング】で右手で横殴りに反発させる。
 動きが乱れたドローンに、反発の力を使って【サイドロール・スライド】。
 クルクル回りながら横滑りに追いかけると、速度でなく遠心力で勢いをつけムチのように腕をしならせる。
 側面からの接触だったが、【有効打撃】の判定。

「──みっつめ」

 そしてまた弾かれた勢いでの【バックロール】、そこから【ローハイ・アクセル】。
 途中で【サイドロール】をはさみ【背面泳法】に移りながら、ドローンの動きを確認した。
 ドローンはセオリー通りの動きで、飛行している。
 ドローン同士は攻撃し合う事はないが、牽制の真似事のようにある程度、それらしい動きでコントレールを引いていた。

「決めた、ヒット10」

 そしてまた、迦具楽は下方からの急上昇により、ドローンへ次々に攻撃を仕掛けていく。
 動きにランダム性があっても、プログラムである以上、誘導は難しくない。
 奇襲を仕掛け、攻撃を誘いつつ回避しての反撃。
 接触で速度が落ちれば再び降下しての加速。

焔誼迦具楽 >  
 それをただただ繰り返している内に、フィールドからブザーがなった。
 タイマーが開始から十分経過した事を示していた。
 つまり試合終了だ。

「──んんー、まあぼちぼちかな」

 フィールドの外に転移され、浜辺に降りる。
 また操作パネルを呼び出してスコアの表示をすると、飛行時間600秒で300点、打撃数10回で200点、無ヒットボーナスで100点の600点。
 目標にした通りのスコアだった。

「でも、これじゃあちょっとなあ。
 手応えないってどころじゃないし」

 パネルを操作して開発室への直通回線を開く。
 そこで今回『試験運用』したデータと、個人的な感想に要望を付け加えて連絡する。
 これで数日すれば、またプログラムが新しいものに更新されるだろう。

「んー、もう少しデータは多い方がいいよねえ。
 あと何回か、飛んでみたほうがいっかぁ」

 とはいえ、一度大きな台車に腰掛けて一休みだ。
 しばらく待てば、データを確認した開発室から追加テストの要項が来るだろう。
 それまではのんびりと、海でも眺めながら暇つぶしだ。