2020/09/14 のログ
ご案内:「【イベント】海水浴場 浜辺」にアーテルさんが現れました。
■アーテル > 波が打ち寄せて、引いていく。
ある程度調和のとれたような自然の織り成す音に重ねて、
さくさくと砂を蹴る音が4足分、波に呑まれそうなほどに小さく浜辺に響いていた。
「……んー。
公園にいたらしい怪異ってぇのは、多分ありゃー俺のことだなぁ。」
少し前から抱いていた疑問に対して、ようやっとその結論に至る。
…頭の片隅に、ほんの小さな可能性として残してはいたその道筋。
あまり考えたくはなかったが、まあ仕方ないことだろう。
事実、自分はニンゲンではないのだから。
「ここのニンゲンはどーやらそーいうのにビンカンなのもいるってーわけか……
いやまあ?悪さしようってぇわけじゃあないけどなー。」
今はどこからどう見ても、人畜無害な黒猫の姿。
波打ち際をてこてこと、夜闇に紛れて散歩と洒落込んでいたのだった。
月明りだけが、彼の陰を砂浜に映すのだ。
その影法師は、まるで大きな獣の姿を為すように広がっていた。
■アーテル > 「……ただでさえ、ここにはおもしろそーなのが何人もいやがる。
次の旅先へのつなぎってぇ思ってはいたがー……さて、どうするかねえ……」
とはいえ、まだ永住を決めるほどのものではない。
一時の暇つぶし、程度の感覚だ。それでも、どれほど長く滞在しようか、考えてなどいないのだが。
立ち止まる。
砂の鳴き声が失せ、波の音のみが辺りを支配する。
時折吹き抜ける夜風が、黒い毛並みを撫でていった。
水面に映った月を眺めるように、ぼぅ…っと思考に耽っていく。
「あいつも、あの子も、いい子なんだよなー……」
自分を猫だと思い込んだ挙句、まるで警戒なんかされないまま自宅に連れ込まれた経験、この世界で2回。
喋る猫なんて、それこそ一般に知られた猫とは違う。外れたものに間違いはない。
だが、彼女らにとってはそんなことはどうでもよかったのだろうか。
「普通と、特殊。
現実と、虚構。
ニンゲンと、怪異……」
選り分けられる、二つの存在。
…そんな区別なんて、どうだっていいじゃないか。
大切なのはそんなものじゃなく……
「心の在りかだけは、ニンゲンの"傍"でありたいもんだなー……」
黒い獣の、ため息交じりに放った一言は、波の音に泡となって消えていった。
■アーテル > 「………。」
前足を上げて、自分の肉球をみやる。
赤くて、ぽってりとした、健康そうなそれだ。
爪もそれなりに伸びてはいたが、これで人の身体を引き避けるかと言われると、無理がある。
「ふぅ………」
辺りに誰もいないことを確認すると、眼を細める。
息を一つついただけで、空気が沈んだ。
重苦しいほどの雰囲気を、その小さな猫が発している。
…それだけを取れば、これはもう十二分に……
「………変身。」
黒の靄が猫の身体から溢れて、包んでいく。
まるで噴水のように盛り上がって、大きく大きく形を為す。
夜より深く、海より底の見えないソレは、やがて煙のように晴れていった。
そこにいたのは、滑らかな艶を湛えた黒い毛並みの巨大な狐。
立つ姿でさえ、人間よりも高く。尾のない姿は特徴的だった。
隈取のような模様の入った顔は、険しそうに空を仰ぐ。
その鋭く蒼い眼は、やはり月を捉えていた。
■アーテル > 改めて、その姿で前足を上げる。
…ニンゲンなんて軽く押さえつけてしまえそうなほどの、強靭な四肢。
爪を出してひっかこうものなら、軽く引き裂いてしまいそうなくらいの鋭い爪。
じゃれようと飛びついた日には、された相手はただでは済まないだろうその巨躯。
「……これじゃあ流石に………」
ニンゲンと分かり合うには、遠い姿だ。
…続く言葉は、口にこそしなかった。
「…はー………。」
その場で座り込む。大きな怪異にしては行儀のいい方だろうか。
誰もいないだろうその海岸の、押し寄せては惹いていく水面の傍にて、月を眺めるその黒い獣は、いったい何を思うのか。
眼を細めれば、少し寂しそうにさえ見えるかもしれない。
狐は眺めていた。
一つも欠けていないその月を、独りで。
ご案内:「【イベント】海水浴場 浜辺」に綿津見くらげさんが現れました。
■綿津見くらげ > 月の美しい夜の浜辺、
ふわふわと宙に浮きながら潮風に吹かれ散歩する少女。
日中はまだ残暑を感じるものの、
日が落ちれば少し肌寒さを感じるくらいには涼しくなってきた。
常世の島にも、秋が訪れる。
「おお……?」
などと考えながら無造作に空中散歩を楽しんでいれば、
眼下に巨大な黒い獣がいるではないか。
明らかに尋常の者では無いその気配。
よもや怪異の一種か何かか。
■アーテル > 「………んー…?」
深淵を覗くとき、深淵もまた覗くもの。
自分の存在に気づいたものに、こちらが気づかない道理はなかった。
…聊か、想定していた移動方法ではなかったが。
「………ニンゲンかい。」
そちらを見やると、眼を細めた。
取って食おう、という雰囲気ではなさそうだ。
「夜の海は危ないもんだぞー。
何が居るのか、分かったもんじゃありゃしねぇんだからなあ。」
■綿津見くらげ > 「如何にも。」
人間か、とそれに問われれば、
月明かりを背に答え、
「くらげだ。」
続けて自身の名も名乗るが、
これでは果たしてニンゲンなのか軟体生物なのか良く分からない。
「確かに。
現に、居た。
そこに。」
喋る獣を指さして。
それはこちらに危害を加えてくる様子も無い。
そういう何かと、会話を楽しむのも一興。
■アーテル > 「くく、違いねぇ。
予想しねぇとこに予想しねぇもんがいたりするもんだ。
まあ、生涯ってのはそういうもんさ。いつもいつでも同じ一日ってのは退屈だろー?」
饒舌な獣だった。多少の冗談も聞いてくれるらしい。
ふわふわと宙に浮く人間と会話する余裕だってある。
顔だけでは失礼だろうと、そちらへ身体を向けた。
「………そりゃ名前か?
それとも、お前さんの在り方か?」
首を傾げて、獣が問う。
この手合いがどう答えるのか、楽しみにしてそうな、そんな表情で。
■綿津見くらげ > 「『在り方』だ。」
いや、名前なんだが、
なんとなくかっこよかったので咄嗟にそう答えた。
海月の様に、美しく儚い存在。
……というガラでも無いな、と、独り思う少女。
浮ついた存在という意味では合っているかもしれない。
「でかい狐。
何者?
お前は。
モノノケの類か?」
害は無さそう、と分かると、
アーテルの近くまですーっと降下してくる。