2020/10/08 のログ
ご案内:「浜辺」に焔誼迦具楽さんが現れました。
■焔誼迦具楽 >
大会から一週間が過ぎた。
会場だった浜辺もすっかり静けさが戻り、賑わいが嘘のよう。
迦具楽は一人、堤防に腰掛け、遠くまで広がる砂浜を眺めていた。
大会の直後、閉会式にも出れないまま雇い主の研究室に運ばれて。
強制的にたっぷりと休まされた後、散々データを取られて、研究室に缶詰だった。
研究、試験、研究、試験。
試合内容も幾度となく振り返って、新しい製品開発のために研究と試験の繰り返しだ。
雇い主からすれば、二位という成績の上に、星島和寿との一騎打ちで豊富なデータを得られたから、この上ない成果だった。
迦具楽がS-Wingの性能を限界以上に引き出す事もあって、企業の雇われとしての仕事は果たせていたのだ。
褒賞も出たのを考えると、かなり評価が良かった事は伺える。
「ま、これで今年も安泰だけどさ」
賞金と臨時収入で、プールの赤字を補っても、十分冬を越すだけの貯えは出来た。
この後は雑誌インタビューやら、ラジオ出演やらの仕事もある。
幸い、今年は金銭的に苦しむ事は無いだろう。
実のところ、テレビ出演やインターネット番組への出演依頼もあったようだが。
流石にそれらは断らざるを得なかったらしい。
迦具楽の本性を考えればそれも当然の事だ。
■焔誼迦具楽 >
そんな、仕事としての『エアースイム』は上出来だったと言えるだろう。
デビューから三年で、スカイファイトを準優勝したのだ。
顔と経歴を隠した上で、この成績なのだから、名前は十分すぎるほど売れただろう。
しかし、一人の選手としては――実力不足を痛感させられる大会だった。
初戦で苦戦をしたのもそうだが、二試合目も経験不足が結果に表れている。
決勝試合もまた、得意な土俵に他の選手を無理やり引き込めたから入賞できたものの。
それだって、星島の企てがなければ厳しかった事は想像に難くない。
そして延長戦は――圧倒的すぎる実力差に、なすすべもなかった。
「なさけないなぁ」
自分が弱いとは思わない。
けれど、これまで勝ててこれたのは、他の選手が扱えない技を持っていたから。
それだって、対策されればあっさりと反撃された。
今大会で一か八か使った新技も、腕を使った『スマッシュターン』も。
次の大会ではきっちり対策されてしまうだろう。
そうなったとき、自分はどれだけ戦えるのだろうか。
――きっと、まともに戦えないだろう。
それだけ、経験と実力が足りていない。
周りの強豪選手に、正面から立ち向かえるだけの地盤が出来ていないのだ。
「はぁ――ここまでかなあ」
遠く、水平線を眺めながら。
すっかり気落ちした調子で、力なく呟いていた。