2020/10/21 のログ
ご案内:「浜辺」に焔誼迦具楽さんが現れました。
■焔誼迦具楽 >
浜辺の空を、緩やかに赤い色が模様を描いていた。
複雑に、何度も何度も往復を繰り返している。
見上げる者が居れば、その赤い色はとても目立つことだろう。
その軌跡は、右へ左へ、前後、上下へと自在に動く。
早くも鋭くもないか、ひたすら同じ動くを何度も繰り返していた。
直立状態からの左右ステップ、スウェーバックから後転、前進して横回転。
背中を海面と平行にしてから、足を支点に振り子のように後転して通常姿勢に戻る。
身体を起こしてブレーキを掛けながら、後ろに振り返り、最初の直立姿勢へ。
エアースイムで基本となるコンビネーションに、背面泳法を混ぜ込んだ一連の動き。
迦具楽のスイムにとって基点となる動きを、ただただ、無心に繰り返す。
それは酷く機械的な動作の連続で、正確に、ほとんどズレなく同じ軌道、同じ動作だった。
■焔誼迦具楽 >
何も考えず、ただ、機械的に繰り返し続ける。
それ自体は高度な技術ではあるが――その動きには感情が籠っていない。
いや、感情があったが故に、迦具楽らしからぬ動きを繰り返すだけになっている。
(――やっぱり、面白くない)
大会以前まで感じていた高揚感、それがない。
楽しい、面白い、もっと上手くなりたい――そういった気持ちがわいてこない。
以前なら次はこうしよう、こう泳ごう、思い浮かんでいた風景が、何も見えない。
何時間、そうして続けていただろうか。
突然、迦具楽は動きを止めた。
そのまま浜辺へと降りていき、大きく息を吐く。
「これなら、路地裏で暴れてた方が、いくらかマシね」
砂浜に着地して、退屈そうに――つまらなそうに。
そしてどこか投げやりに、体を放り出す。
乾いた砂の上に腰を落とし、海に向かって座った。
やっぱりやる気は出ない。
ひたすら泳いでみても、以前のような気持ちは湧いてこなかった。
出てくるのは、憂鬱そうなため息ばかりだ。
■焔誼迦具楽 >
海を、その上を見上げていて、網膜に映るのは。
届く事のなかったトップスイマーの影。
そして、そのコントレールと重なる様に――友人の姿。
(どうして、リタの事ばかり――)
世界トップの選手と、始めたばかりの初心者。
似ても似つかない、天と地ほどの差がある二人なのに、なぜか重なって見えてしまう。
そして、光景が目に浮かぶたびに、胸の奥でモヤモヤとした行き場のない気持ちが沸き上がってくる。
そのまま、何をするでもなく。
日が沈んで暗くなるまで、独り、浜辺で打ちひしがれるのだった。
ご案内:「浜辺」から焔誼迦具楽さんが去りました。