2020/11/10 のログ
ご案内:「浜辺」に迦具楽さんが現れました。
迦具楽 >  
 浜辺の空を、緩やかに赤い色が模様を描いていた。
 複雑に、何度も何度も往復を繰り返している。
 見上げる者が居れば、その赤い色はとても目立つことだろう。

 その軌跡は、右へ左へ、前後、上下へと自在に動く。
 早くも鋭くもないか、ひたすら同じ動くを何度も繰り返していた。
 
 直立状態からの左右ステップ、スウェーバックから後転、前進して横回転。
 背中を海面と平行にしてから、足を支点に振り子のように後転して通常姿勢に戻る。
 身体を起こしてブレーキを掛けながら、後ろに振り返り、最初の直立姿勢へ。

 エアースイムで基本となるコンビネーションに、背面泳法を混ぜ込んだ一連の動き。
 迦具楽のスイムにとって基点となる動きを、ただただ、無心に繰り返す。
 己の基本を見つめなおすように、何度も何度も、同じ軌跡でコントレールを重ねていった。
 

迦具楽 >  
 自分に何が足りないのか、なにをすれば先人たちに追いつけるのか。
 未だに一つも答えはでず、わかる事は、自分に経験が足りていない事だけ。
 経験の不足を補うには、揺らがないくらいに基礎を積み上げるしかない。

(はは、これ、わりとしんどいかも)

 特別な技術ではなく、ある程度の技量があればだれでも行える泳ぎ。
 それを、指先まで意識をいきわたらせて、より早く、より鋭く、行えるように。
 動作の最適化に高速化、それを積み重ねてより高みへ。
 

迦具楽 >  
 惰性で行っていた時とは違う、集中し神経を研ぎ澄ませての基礎トレーニング。
 数時間もそれを続けていれば、気力も途切れそうになっていく。
 それでも、少しの休憩もなく、動きを緩める事もなく、ひたすらに続けた。

 迦具楽の身体は、人間の肉体を模してはいるが、人間とまったく同じ生命活動が行われているわけではない。
 特に、単純に体力と言った場合はほぼ無尽蔵と言えるのだが――迦具楽の肉体は多くの場合、精神状態にパフォーマンスを左右されるのだ。
 つまり、人間のように体力を付けようとするのなら、ひたすら精神力や集中力を鍛えるしかない。

 一度は競技から離れようとしたというのに、結局、離れられずにまた浜辺に居る。
 自分を応援してくれるファンが居て、あこがれてくれる友人が居て。
 そんな人達を知ってしまえば、それらを投げ捨ててしまうのはできなかった。

 それに、辞めようとしたとき思い知ったのだ。
 辞めたくないと思っている自分が居る事を、まだ縋り付こうとしている自分が居る事を。
 だから苦しくてもみっともなくても、まだ、やめられそうにはなかった。
 

迦具楽 >  
 どれだけの時間続けていただろう。
 意識が途切れ途切れになって、大きく軌道がブレた。
 そうしてようやく、迦具楽の身体は浜の上へと、ふらふら漂ってくる。

 砂浜に降りようとしたのだろうが、しかし。
 そのまま空から砂浜へ、墜落するように落ちていく。
 装備によるセーフティがあるため、怪我をするような事はないが――それでも見る者が居れば、危険に思えるかもしれない。