2021/04/18 のログ
■黛 薫 >
「素人……そーゆーもん、なんすかね」
仮にエアースイムの知識があれば、一見熟練した
動きの中に経験を積んだ競技者との差を見出せた
かもしれないが、彼女にその知識はない。
だから動きだけを見て、素人とは呼べないくらい
経験を積んだ上で謙遜しているのだろうと考える。
「見っ……ぁ、ぅ、いぁ……興味がない?ワケじゃ
ねーですが……見られるの、好きじゃなぃ人だって
いますし……何か、失礼じゃないかって……」
黛薫はその異能から他人の『視線』に敏感だ。
それ故に自分が他者に向ける視線にも神経質。
お話するのに顔を合わせないのは失礼じゃないかと
気にするのに、まじまじと見つめるのは不躾な気が
してずっと見ていられない。
かといって会話中なのに関係ない方向を見るのも
落ち着かず、視線を向ける先を探しているうちに
相手を観察しているような動きになってしまう。
存分に見て良いと言われた手前、目を逸らすのは
悪い気がして、でもどこかに視線を固定するのは
得意ではない。結果として本人の意図から大きく
外れ、黛薫の視線は眺め回しているように動く。
■雨見風菜 > 「ええ、素人です。
とはいえ、結構簡単だと思っていたんですけどね。
友人からすれば、流用できる経験と素質があるからこれだけ泳げてるって言われたんですよ」
実際に、エアースイム自体の経験は殆どない。
だが、本来の水泳は得意だし、異能で空を飛ぶのも散々経験している。
空間魔術の才能もあるし、まさにエアースイムにはうってつけの人材だろう。
その上で素人だと言われても、熟練者や熟練者を見慣れた人でもなければ信じられはすまい。
「ええ、見られるのは好きじゃない人もいますね。
でも、私は構いませんよ」
風菜は読心能力を持たない。
だから、彼女が顔を合わせないと失礼じゃないかと気にしているのは分からない。
彼女が何故自分の体を眺め回すような視線を向けているのかも分からない。
だが、そんな彼女を風菜は、可愛いと感じていた。
怯えた小動物を彷彿とさせる気がして。
■黛 薫 >
「流用……あー、そういぅ。何か、ちょっとだけ
納得した?気がします。慣れてる感じだったのに
素人って自称してるの、変わってるなって思って
ましたけぉ。別の方で経験積んでたってコトすか。
やっぱり、水泳とかそっち系なんです?」
彼女は『飛ぶ』ではなく『泳ぐ』と表現したし、
実際動きを見ていてもその表現がしっくり来る。
ここにきて漸く『エアースイム』という名前しか
知らない競技と彼女の動きが繋がった。
会話の糸口を見つけて、おどおどした様子は表面上
鳴りを潜めたが、見られても構わないと言われても
なお視線は揺れっぱなし。
そして、会話の最中。視線に感じる愛玩の感情に
微かに頬を赤らめて、落ち着かなさげにフードを
引っ張り下げた。
好意的な『視線』に不慣れなための反射的行動に
過ぎないが貴方からは脈絡なく映るかもしれない。
或いは急に怯えと恥じらいの入り混じった反応を
見せる姿は、小動物染みた印象の上塗りになるか。
■雨見風菜 > 「ええ、水泳は大好きですし、空を飛ぶ経験も沢山あります。
後は魔力制御のコツを掴めば、簡単でしたね」
こともなげに、そう明かす。
実際、風菜は『飛ぶ』のではなく『泳ぐ』つもりでエアースイムを楽しんでいる。
そして、風菜は知らないがトップスイマーもまた、エアースイムは『泳ぐ』ものだと発言している。
だからこそなのか、風菜のエアースイムへの親和性は高い。
自分からの視線を感じたのか、フードを引っ張り下げる彼女。
その様子もまた、可愛らしい。
小動物のような印象が強まる。
「そうだ、これもなにかの縁でしょう。
私は雨見風菜。いちね……じゃなかった、二年生です」
自己紹介。
すればきっと、律儀な彼女は自己紹介で返してくれるだろうと思って。
しかしながら、二年生に進級したのをうっかり忘れかける。
まあこればかりは仕方ないだろう、進級したばかりなのだから。
■黛 薫 >
「……魔力、制御」
貴方の言葉からひとつの単語を拾い上げて復唱する。
ほんの一瞬だけ、不安定に揺れる瞳の焦点が合った。
だが貴方の自己紹介を聞いてすぐに意識は逸れた。
『自己紹介はコミュニケーションの肝』という本の
一説を思い出し、慌てて居住まいを正す。
「えと、あーしは『黛 薫(まゆずみ かおる)』って
言います。宜しくです、風菜。学年は……」
相手の名乗りに合わせて学年を伝えようとして、
一瞬言葉に詰まる。一応まだ学校に籍はあるから
不登校やら留年という諸々の問題を抜きにすれば
学年を伝えること自体は問題ない。
しかし……よりによって書類の上では同級生。
どの授業を受けたか、なんて話になった暁には
色々と言い逃れが出来なくなる。
「……何というか……落第とか……色々と……事情?
あるんで……突っ込まなぃでくれると有り難いっす」
こういう状況でその場凌ぎの嘘を吐けない正直さが
黛薫の残念なところ。何とか曖昧に濁しはしたが、
恥を知られてしまったような居心地の悪さがある。
「えぁ、っと……その、話し込んじまいましたね。
勝手に見てたのに親切にしてくれてありがとです。
それじゃ、あーしはこの辺で、はぃ」
やや強引に会話を切り、またフードを引っ張って
顔を隠す。軽く手を振って足早にその場を辞した。
ご案内:「浜辺」から黛 薫さんが去りました。
■雨見風菜 > 「ええ、魔力制御。
飛行膜の厚さで動きを制御する必要がありますからね」
ふと、一瞬の違和感。
魔力制御という単語に、何かあったのだろうか。
そう考えようとしたが、自己紹介を返される。
だが、学年は茶を濁された……ということは、二級学生だろうか。
「ええ、分かりました。
色々、ありますしね」
律儀でありながら、どこか中途半端な印象。
きっと、知ってか知らずかそういう印象を与える振る舞いのせいなのだろう。
人生は、ままならない。
「いえいえ、お気になさらず。
では、帰り道、お気をつけて」
そう言って、薫を見送る。
「……私が、彼女になにかしてあげられることはあるんでしょうか」
そう、呟いて。
呟くだけで、何も出てこなかった。
ご案内:「浜辺」から雨見風菜さんが去りました。