2021/11/14 のログ
ご案内:「浜辺」にルリエルさんが現れました。
■ルリエル > 釣りが流行ってるらしい。
ルリエルも最近は21世紀の文明の利器に慣れ、積極的にスマホを用い情報を集めるようになってきた。
動画もよく見る。お役立ち情報も、ネタ動画も。
その中のおすすめ動画に「常世釣りチャンネル」なるものを見つけたのだった。
どうやら浜辺で釣具のレンタルをやっているらしい。それならお試しで釣りを始めてみるのも良いかな、と。
そんな具合で、冬の午前の浜辺、波止場へとやってきたのだった。
「釣り自体は神代の頃から行われてましたが、今の人々は趣味として魚を釣るんですねぇ。
食べもしないのに魚を傷つけるのはあまり好ましい行為とは思えませんが……いえ、捉え方次第でしょうか?
餌に釣られるような魚のマヌケさにも咎はあるべき、とも言えましょうか」
神の甘言や策謀に釣られて破滅した人間も大勢いる。とくに神代と呼ばれる時代には。
釣りの構造もそれと変わらないのだろう、と考えれば独りで合点も行って。
もっとも、ルリエル自身は釣りは初めてである。やり方も動画で少し見て学んだ程度。
果たしてルリエルが魚を弄ぶのか、魚がルリエルを弄ぶのか。
■ルリエル > 「竿と針と糸……は昔から変わらない釣りの基本スタイルですね。
どれも昔とは明らかに強度も弾性も改善されてますが。これも工業化ゆえの進化なのでしょうか。
そしてこれは……糸を巻き上げる機械? 海の深いところの魚を狙えるというわけですね」
レンタルした釣具を触れたり操作したりしながら、天使特有の聡明さで機構の概ねを理解していくルリエル。
そして波止場の突端までたどり着くと、手荷物を下ろし、コンクリート製の護岸に向けて手をかざした。
すると何もない空間からモコモコと《雲》が生まれ、膨れ上がっていく。
手を軽く振り、指を動かし、中空をこね回す仕草をすると、《雲》は大まかに形を整えられていく。
最終的には、背もたれ付きの小ぶりな椅子の形へと落ち着いた。
「今日は休みですし。飽きるまで釣りにチャレンジしてみましょうかね。
えーと、餌の青虫を針に付けて……フフ、ごめんなさいね、虫さん♪」
購入した餌箱から、生きたワームを1匹取り出し、針にプスッと刺す。
虫を指で掴むのにも、それを針に刺すのにも、若干の躊躇こそあれど嫌悪感を抱く様子はない。
テグスを手から離し、竿を軽く振り、リールのロックを解く。哀れな青虫は釣り針に拘束されたまま海へと落とされる。
「さて……どうなるかしら?
海釣り、それも磯釣りは待つタイプの釣りらしいですし、気長に待ちますか……」
そう言うとルリエルは、タイトジーンズに包まれた太めの太腿の間に竿を挟み、雲の椅子に深々と腰を下ろす。
そしてポケットからスマホを取り出して弄りはじめた。時折ちらちらと浮きの様子にも目をやりつつ。
果たして、針にかかるものは……。 [3d6→1+2+5=8]
■ルリエル > ――ぴくん。
海に垂らした合成繊維製の糸から竿へと、かすかな振動が伝わる。
「!!!」
ルリエルの鋭敏感覚は、浮きの動きを見るよりも先に振動に反応し、とっさに竿を持ち上げる。
ビギナーズラックか天性の勘か、絶妙なタイミングでアワセを取ったのだ。
針が魚の口に深く食い込んだようで、糸と竿先の震えはより激しくなる。
「ヒット!! …って言うんでしたっけ?
でもここからが勝負ですよね……やりますよ私は!」
とはいえ、リールの感触は軽い。かかったのは小さめの魚なのだろう。
竿さばきに気を配らなくてもスルスルと巻き上がっていく。さて、かかったのは……。 [1d10→5=5]
■ルリエル > 【小さい キラキラした カレイ】
カラカラと小気味よい音をたて、リールの糸がどんどん巻き上がっていく。
そして海面から姿を現したのは……なんとも平べったい、サンダルのような魚だった。
「えーと、この子は……ヒラメ? カレイ? どっちでしたっけ?」
平べったい魚といえばこの2種。ただ、この2種をパッと見で見分けるのは、素人にはなかなか難しい。
『左ヒラメの右カレイ』という慣用句もあるが、必ずしもこれが通用するとは限らないらしい。
――もっとも、異邦人であるルリエルはその慣用句すらもまだ知らないのだが。
「……まぁ、どっちかでしょう! それにどちらも食用に適してますからね。
食べられるならどちらでも構わないでしょう! フフッ♪」
そう言うとルリエルは、それ以上魚の正体を探ることはせず、海水を汲んだクーラーボックスへその魚を放り込んだ。
ルリエルはどちらかと言えば食いしん坊。調理して食べるにせよ、小さいカレイ1匹では物足りない。
再び針に虫を刺すと、海へと投げ込む。
■ルリエル > ――時刻は午前11時にかかろうという頃。
本気の釣り人は朝方か夕方を狙うもの。真昼間は釣りを行うにはやや向かない時間帯。
自然と、糸を垂らして待っている時間のほうが長くなる。
「……まぁ、家でスマホ弄ってるのも海でスマホ弄ってるのも同じですしー」
はじめこそ、釣りの初心者向け情報やコツなどを探っていたルリエルだったが、それにも飽きてしまい。
いよいよゲームを起動して、本格的暇つぶしを始めてしまう。
釣りにも集中力を向けるため、ゲームの方は集中力の要らないソリティアを起動して、ポチポチ……。
「………んっ」
それでも、竿を挟んだ太腿に伝わる振動にはコンマ3秒で反応する。
今度は手すら使わず、太腿へこめる力と膝の動きだけで竿を跳ね上げ、ヒットを取った。
怠惰な天使らしい、『ながら釣り』のスタイルが早くも確立されつつある。 [3d6→3+4+6=13]
■ルリエル > 【中くらいの ヌメヌメした 冒涜的な何か】
ヒットを取っても、今回は糸に伝わる暴れの感触が少ない。
魚以外を引っ掛けたのか? ルリエルは訝しみながらも、やや重めのリールをカリカリと巻き上げていく。
そして水面から飛び出したのは……。
「………ひっ!!」
タコだ。――否、タコとは微妙に造形が異なる気もするが。
だが異邦人ルリエル、タコやイカといった触腕を持つ軟体生物にはほとんど馴染みがない。
というより、彼らの造形には生理的嫌悪感を強く抱いてしまうのである。
その意識は現代の欧米人が持つそれよりも強い。あたかも、神代にこういった怪物との因縁でもあったかのよう……。
故にルリエルにとってはそれがタコか、タコライククリーチャーであるかの違いなんてどうでもよかった。
「いっ……嫌、嫌ぁ………来ないで……あっち行ってください………!
私、なにも、なにもしてませんからっ……あ、う……」
姿を見た途端にルリエルは竿を手放したが、タコは自ら波止場へと上り、天使にすり寄ってくる。
島に来訪して以降、常にヒトの上位存在としての飄々とした態度と雰囲気を崩さなかったルリエル。
だがここに来て、はじめて怯えの表情を見せ、哀れみを乞う言葉を口にした。
魚屋やスーパーで死んだ姿・切り分けられた姿を見るのすら嫌悪感のあった生き物。
それが今、目の前で生ける姿を見せつけ、あろうことかルリエルの足首に触腕を伸ばしてくる……!
『縺薙s縺ォ縺。繧上?ゅ♀縺偵s縺阪〒縺吶°』
■ルリエル > 「あっ、あっ、あっ、あっ……あっ……あっ……」
ぬじゅり、ぬじゅり。
全身をぬらぬらと粘膜状の皮膜で覆い、8本の吸盤付きの触腕を巧みに動かす生き物、仮称タコ。
体積はグレープフルーツ程度だが、ジーパン履きの脚にがっしり絡みつくと、思った以上に重く感じる。
それがルリエルの身体を徐々に這い登ってくると、もはや天使は意味のある命乞いの言葉すら紡げなくなり。
全身も恐怖で麻痺し、喘ぎ声めいた単調な悲鳴を漏らすことしかできなくなっていた。
『證悶°縺?〒縺吶?』
「……………………っひ……い……あ……」
太腿からお腹へ、胸から肩へ。力強い触腕を服の上から女体に絡め、ずりずりと這い登ってくる異形。
触れた箇所に鳥肌が立ち、触腕が離れたあともそれは戻らない。
ただただおぞましい感触に、歯がガチガチと鳴り、指も震える。
引き剥がしたいのに、腕がまったく言うことを聞かない。
まるで電気椅子に拘束された死刑囚のごとく、《雲》の椅子に深く座ったまま、身動きひとつ取れない。
そして、仮称タコがルリエルの細い首筋に絡み、うなじから頭へと這い登ろうとした時。
――ぷつん。
ルリエルの頭の中で、何かが『切れた』。
「…………ふぅ。さて、釣りを続けましょうか」
さっきまでの極限の恐怖はどこへやら。ルリエルは一瞬にして平静を取り戻し、波止場に転がる釣り竿を拾い上げた。
椅子に腰掛け直すと、今までと同じように針に餌をつけ、海へと放る。
そしてまたスマホを取り出し、ゲームを起動して暇つぶしをはじめた。
タコへの恐怖を克服したのか? 否。彼女はタコを『認識できなくなった』。
未だ仮称タコはルリエルの頭の上に陣取り、銀糸の髪をめちゃくちゃにかき乱している。
だがその事実を……タコの感触、タコの粘性、タコの重みに至るまで一切をその意識から排除してしまったのだ。
これはいわゆる『一時的狂気』の一種。
いかに元・神の御遣いであるルリエルといえど、外宇宙的狂気に対する精神異常耐性までは持ち得ないのだ。
もちろん、天使の頭の上に鎮座するタコを認識しないのはルリエル本人だけ。
他の人が彼女を見るなら、その異常事態に遠目でも気付けるだろう。
ご案内:「浜辺」に毒嶋 楽さんが現れました。
■毒嶋 楽 > 不定期に、かつ周期的に釣りが流行る時期がある。
それは学園主催の大会であったり、個人の動画がバズったり、原因は毎回異なり様々だが、とにかく流行る時期が周期的に訪れる。
今回は個人の配信動画から端を発したようで、末端風紀委員兼公安委員監査員の毒嶋にもその噂は耳に届いていた。
(まぁ、動画配信サイトは要らん火をつけちゃったから見ないようにしてるんだけどね俺ちゃん……)
小柄な神龍を自称する異邦人が過激な衣装でネット配信をしているのを確認したのは数日前。
その行動のきっかけを与えてしまった事実と責任から逃れる様に動画サイトを避けていた毒嶋だが、今回の流行の噂を耳にするや否や
『あ、じゃあ俺ちゃん現地で流行のほどを確認してきま―――』
と、申請だけ放り込んでこうして浜辺へと足を運んだのだった。
決してサボれるネタに食いついたわけではない。決して。
「とはいえ、休日の昼前じゃそんなに人も……居たわ。」
手には釣り竿にバケツ、制服のズボンの裾を捲った足には突っ掛け。
ラフにも限度がある姿で波止場を訪れたら、先客が居り。
―――何故だか頭にタコ(の様なもの)を乗せている。
■ルリエル > 波止場へと、新たな釣り人がやってくる。
着崩した制服はやはり、休日の装いとして見るには違和感が勝る。
気配に気付いたルリエルがそちらに目をやると、にっこりと笑みを浮かべ、手を挙げる。
「……あら、ラク先輩♪ 久しぶりじゃない! 元気してました?」
グレープフルーツ大のタコ(っぽい謎の生物)を頭頂に載せたまま、ルリエルは挨拶を向ける。
ルリエルが手を挙げるのを真似するように、タコも触腕の1つをぐいっと上げ、振ってみせる。
「ラク先輩も釣りに来たんですか? 普段からされてたりするんです?」
太腿に竿を挟んだまま問いかける。
――もしルリエルの身体をよく見るなら、ズボンから服にかけて湿ったナニカが這い登った跡もある。
■毒嶋 楽 > 「見たことあると思ったらルリエルさんだったわ。
お久しぶりさん~……元気というか、まあ相変わらず?」
不健康そうな容貌は公園のフリマで会った時と変わらず。
緩い笑みを浮かべてルリエル(と頭のタコのようなもの)へと手を振り返す。
まるでタコなど気にしていない様子のルリエルに、新しいペットか何かなんだろうか、と訝しみつつも近づいて。
「そーそー、まあ普段は釣りとかあんまりしない……というか、ヒマが無いんだけど。
最近釣り流行ってるって言うじゃない?だからどんなもんかなーって風紀として調査にね。」
現地調査、大事だからとヘラヘラ笑いながら答える。
しかし現地調査とは名ばかりのデスクワークからの逃避だ。
仕事するふりして仕事をサボりに来た、というわけである。
「そーゆールリエルさんも、釣りなんて趣味あったのね。」
■ルリエル > 「ええ、私はいつだって健康ですよ? ヒトの罹るような病気とは無縁ですから!」
白い肌にほんのり紅のチーク、口紅もしていないのに鮮烈な赤を帯びる唇。
ルリエルの免疫力は常人のそれとは比べ物にならず、そして元気を損ねる精神的要因もほとんどない。
――ない。つい今しがた、死よりも恐ろしい恐怖を目の当たりにしたが、それは『ないことになった』。
「相変わらず風紀委員はお忙しいのですね。釣りすらも仕事として来てるなんて……。
ラク先輩、ちゃんと休まれてます? まぁ……釣りは一応休憩のうちに含まれるのかもしれませんが。
何もしない時間というのも大事ですからね。健康な心と身体あってこそのお仕事ですから」
サボりに来たという彼の動機は傍目にも明白だが、それはそれとして。
やはり不健康そうな見た目の彼の様子や風貌には、普段から休息が足りているか心配になる。
それが養護教諭の性分というもの。休息は身体だけでなく心の健康にも必要不可欠なのだから。
「私の釣りは、今日思い立ってはじめたばかりですよ。動画で見て、気になったもので。
この釣具もレンタルですし、釣り方も動画の見様見真似ですし。
だからほら、今日の釣果は2時間でまだ1匹ですよ」
かぱ、と傍らの半開きのクーラーボックスを開け、見せつける。
浅く張った海水の中、手のひらサイズの小ぶりなカレイが1匹、静かに佇んでいた。
■毒嶋 楽 > 「そりゃあ羨ましい。
もー、俺ちゃんは風邪は引かないけど寝不足は慢性だし腰は痛いし肩は凝るしで……まあ、いつも通りなんだけど。」
自分で言っててちょっと虚しくなってきた。
まあ異邦人とじゃ元々の身体の仕組みから違うのだろうし、羨んでも仕方がないのだけど。
「仕事の部分はあくまで流行調査だから、釣りはしなくても良いんだけどねえ
ま、息抜きも兼ねてーってね。大丈夫大丈夫、今日はまだ話してる人の顔は一つに見えてるから。
それにほら、ルリエルさんみたいな美人さん、話すどころか見るだけで元気になる気がするし~。」
ヘラヘラ。抑揚なく冗談を口にして、バケツを地面に置く。
休息はまあまあ足りてないが、業務に支障は来してないので無問題。
ちなみに話す相手の顔が三つとかに見えてきたら元気ドリンクぶち込んで即寝する合図だ。
「ほうほう、今日初めてで1匹釣れれば大したもんじゃない。……1匹?」
クーラーボックスを覗いて感嘆の声を上げる楽。
しかしすぐに違和に気付き、顔を上げてルリエルの頭上のタコを見る。そいつは数に入らないのか、と訝しんでやっぱりペットか何かなのだろうか、と。
その割には地面からルリエルの頭までにかけて濡れた物が這いずった跡があるけれど……。
■ルリエル > 「まぁ……それ絶対に寝不足が原因で他の不調が出てる感じですよ。睡眠は大事ですよ?
言ってくれれば保健室でのお昼寝も許可は出ますから、辛くなったら平日昼間でもいらしてくださいね?」
とはいえ、今すぐ帰って寝ろとまでは言えない。趣味の時間も大事なこともまた真実。
寝るならやはり業務時間中だ。業務時間中のお昼寝ほど甘美で背徳的な休み方はない。
「ええ、息抜きは大事ですね。……ふふ、私を見てるだけで元気になる? 褒められてるのかしら?
まあ私も、かからない釣り糸を見てるだけではじれったくなりますし、お話しながら釣りしましょう?」
ルリエルは手にしていたスマホを休止状態にし、ポケットに仕舞う。
太腿の間に挟んだ釣り竿をぎゅっと深く挟み直すと、未だ動きのない浮きを一瞥してから、毒嶋に顔を向け直す。
「そう、1匹。一応釣った魚は可能な限り持ち帰って食べようと思ってるから、逃す気はないですし。
そういえばラク先輩、このお魚、カレイかヒラメのどっちかだと思うんですけど、わかります?」
『――――ka―――re――――i――』
ボックスの中の平たい魚を指差し、ルリエルは問いかける。
直後、頭の上に乗ったタコ状生物が間延びした声を発した。笛の音とも風切り音ともつかぬ、おぞましい音。
その音節が紡いだのは魚の名前。このタコ、知性を有しているのかもしれない。
だがルリエルはタコが発した音を聞きわけた様子はない。
まるで頭の上に何もいないかのように振る舞っている。
■毒嶋 楽 > 「あら~……良いねえ保健室でお昼寝かあ。
そうだねぇ、授業の合間とか、仕事抜け出してとか、時間見つけて行ってみようかなぁ。」
抗いがたい魅力を持つお誘いにゆるーい笑みを深める。
授業中に寝るよりはよっぽど効率の良い回復を得られそうだ、と釣り針に餌をつけながら考えて。
「褒めてなかったら元気になるなんて言わねーでしょーよ。
そうねえ、話しながらが良いかもしれない。魚が逃げない様に、あんまり大声は出さない様にしないと。」
慣れた手付きで竿を振って、浮きがちゃんと浮かんだのを確認してから、こちらに向き直ったルリエルを横目で見て。
「んー、多分カレイじゃねえかな……って喋っ!?」
カレイかヒラメかなんて食べる分にはさほど気にしなくても良さそうでは?と思わなくもなかったが、問われたからには答えようとのんびり返していたが。
突然第三者の声が、ルリエルの頭の上から発せられた。
うえぇ!?と驚きを隠せず目を見張ってタコを見る。お前が喋ったんか今!?と。
そしてそんな事があっても何事もなかったかのようにしているルリエルを見る。
それに何でノーリアクション!?と。
■ルリエル > 「そう、休息も一種の保健的行為ですから。私が認めます♪
まあベッドの数は有限ですので大挙して来られても困りますが……貴方みたいな働き者なら、特別にね♪」
そう陽気に言葉の端を跳ね上げながら、にっこりとえくぼを作って微笑むルリエル。
だが、頭頂部に陣取り髪に絡みつくタコのせいで、艷やかな銀糸の髪はかなり乱れはじめている。
そこに色気を感じるか否かは人それぞれだろうが……少なくとも異形の生命の存在感はかなり強い。
そして、魚の種類を問うルリエルに事もなく正解を答える毒嶋に、
「あー、やっぱりカレイだったんですね。……ん、シャベ?
そんな魚いましたっけ……シャベカレイ? あとで調べなくちゃ……。
まぁきっとカレイと同じ調理方法で食べられますよね?」
――やはり、ルリエルは頭上のタコを一切認識していない様子。
いかに髪が乱されようとも、いかに不気味な声を発されようとも。
タコの方も、うっかり喋ってしまったのを誤魔化すように、ぶにぶにとその身体を揺すっている。
今のところ、服を濡らして髪を乱す以外の危害をルリエルに加えている様子はないが……。
「……ん、あれ。なんか頭が重いかも。気のせいかな……?
昨日はきちんと《雲》で8時間寝たんですけどねぇ……スマホの使いすぎでしょうか?」
ルリエルはクーラーボックスを閉め、《雲》の椅子に座り直す。
ふぅ、と疲れたようなため息を付くと、所在なげに竿の先を軽くゆすってみたり。
■毒嶋 楽 > 「保健の先生のお墨付きなら安心して休めそうだ。
まあ一応風紀の仮眠室もあるわけだから、そんな大勢で押しかけたりしないさ。」
平日昼間なら他の委員たちも授業だったり忙しい事だろう。
二周目の楽と違って、真面目に勉強に取り組む生徒も多いと聞くし。
ルリエルの許可を有難く思いながらも、頭上のタコがどうしても気になる。存在感がすごいんだもの。
「え?え?……ああ、うんカレイ。
その大きさだと煮つけにするにも小さいし、天ぷらとかかねえ……」
ルリエルと話しつつも視線はちょいちょいタコへと向けられる。
喋ったし、何か存在感強いし、よく見るとタコじゃない気もするし。
見たところルリエルの髪を乱す程度で実害がある事をしそうな気配はないから、気にしない方が良いのだろうか。いや、服を濡らすのは実害か?どうだろう?
頭に乗られているルリエルも気にしている様子はない、というか気にして無さ過ぎる気もする。
「あ、重さは感じて……る?
いやスマホくらいしか心当たり無いの?もっと物理的な、ほら、」
当人が気にしていないというか、
気にしないようにしているというか、
意識の埒外に置いているようで言及して良いのかどうか分からない。
ルリエル(とタコ)の様子を頻りに確認しながら、楽も浮きの様子を見る。
正直、気になって釣りどころじゃないのだが。
■ルリエル > 「ええ、最近変なもの食べた記憶もないですし、休息も十分ですし……。
釣りにチャレンジするためにちょっとスマホの使用時間多めになっちゃったので。
思いつく原因はそのくらいかな?って……まぁでも、気の所為かもしれないですし!」
実際、『頭がちょっと重い』という違和感がある。それが『タコが載ってるから』なことは認識できないが。
苦笑いとともに、気丈に振る舞って頭を軽く振ってみせるルリエル。
その勢いに、タコの柔らかな胴体もぶにゅぶにゅと左右に揺らめくが、8本の触腕が絡みつき、落ちることはない。
――絡みつく触腕のうち2本が、ルリエルの額から両の目尻、そして頬へと降りてくる。
形よく膨れた紅の頬を、ぷに、ぷに、と脚の先端で突いてみたり。
吸盤を軽く引っ付けて引き上げてみたり。普段の柔和な笑みと異なる、歪んだ笑みが作られる。
「あー、天ぷらでふかぁ。確かに美味しそうれふけどー。
それならせっかくですからもっといっぱい天ぷら向きの魚釣って帰りたいでふねー?」
頬にいたずらをされれば言葉の呂律も若干歪まされるが、それすらも気にしている様子はない。
タコの持つ外宇宙的異形はもはや、ルリエルの無意識レベルに損傷を与え、認識能力を徹底的に阻害しているのだ。
ぴく、ぴく、とルリエルの竿の先が揺れ、浮きが断続的に沈む。
会話に気を取られているのか、異形に気を取られているのか。
今までのように即座に気付いて竿を操る動きには移らない。 [3d6→1+2+6=9]
■毒嶋 楽 > 「ほ、ほう…なるほど~そうなるとスマホ、になるわけか。
ううむ、どうしたもんかねえこれ……。」
浜風に当たってるから、というのもあるかもしれない……いや無い。無いわ。
明らかにタコ(?)が原因なのに、ルリエルは一向にその事実を認めようとしない。
それがタコの仕業なのか、それともルリエルが意識的にシャットアウトしてるからなのか、素人の楽では判断がつかない。
後者なら無理やり認識させたところでパニックに陥りかねない。
歪な笑顔のルリエルに、どうしたものかと言葉を掛けあぐねていたが、彼女の竿に反応があることに気付く。
とりあえず今はタコも悪戯程度で済ませているから、帰り際にでもそっと外して海に帰せば良さそう。
ひとまずここは釣りに意識を向けて貰おう。そう決意して釣り竿を指差してルリエルに声を掛ける。
「ルリエルさん、引いてる、引いてる!」
■ルリエル > 「ん? ……あ、アタリ来てましたね! ラク先輩ありがとうございます。えいっ!」
指差されてようやく竿の反応に気付いたルリエル、くっと竿を引いて合わせる。
1回目と似たような軽い反応で、暴れる様子もない。カリカリと丹念に糸を巻き上げていくが……。
【小さな キラキラした 冒涜的な何か】
――は、水面まで引き上げられた途端、自らの力で針をほどき、ルリエルに飛びかかった。
釣り上げられたのは小さなタコ。すでに頭の上にいる個体よりも一回り以上小さい、みかんサイズの小タコだ。
それは力強く水面を跳ねて放物線を描き……スポッ、と、ルリエルのシャツの襟元から中へと吸い込まれた。
「……あれ。何もかかってませんね。確かに手応えはありましたのに。
はぁ……、食べるの目的で釣ろうとするとうまくいかないんでしょうか。もう少し上手くなってからかなぁ……。
そう言えばラク先輩は、釣れた魚は食べるつもりです?」
餌も取られ、だらしなくぶら下がる釣り針を見て、落胆の表情を浮かべるルリエル。
――頭の上のタコと同様、小タコもまた認識の範囲外となってしまったようだ。
服の中に入った小タコを探ろうともせず、毒嶋に問いかけながら再び針に餌を掛けはじめた。
そして一方、頭の上の大タコはというと……。
『縺?■縺ョ蟄撰シ!』
聞き取れそうで聞き取れない金切り声を上げながら、ルリエルの後頭部を這って下に降りていく。
そのままルリエルの衣服の中に潜り込もうとしている!
もしかしたら、さっき釣れた小タコは大タコの子供だったのかもしれない。探しにいくつもりだろうか?
■毒嶋 楽 > 「俺の方はさっぱりなのに、ルリエルさんの方はアタリがあるねぇ~。」
いやあ羨ましいなあ、といささか引き攣ったヘラヘラ笑顔。
アタリがあった事自体は確かに羨ましいが、何故だろう、嫌な予感しかしない。主に3つ目の出目が大きい辺りで。
杞憂で済んでくれ、と祈りながらルリエルの様子を見守っていたが、
(やっぱなーーーーーー!!!!)
釣り上げられたものはまたしてもタコ(?)だった。
何だろうこの人、タコに好かれ過ぎでは?と流石の楽も眉間がぐぐっと寄る。
そして釣り上げた小タコの行く末を見届け、もうガッツリと頭を抱えた。なんでだ、なんでそうなるんだと。
「あ、ああ。水面に来るときにバラしちゃったかな?
ドンマイドンマイ、そんな事もあるって、これが釣りの醍醐味でもあるんだし。時間の許す限り挑戦すんのが一番よ~
……え?俺?まあ夕飯のおかずにくらいは良いかなあ、とは思ってたけ……どぅ!?」
服の中に小タコが入っても取り乱す素振りすらしないルリエルに、もうどんな顔で相対すれば分からなくなりつつある楽。
指摘してもはぐらかされるどころか、きっと何を言ってるのかと怪訝な顔をされるだろう。
だからと言って楽がルリエルの服の中に手を入れるかというとそんな事出来るわけもなく。
頭を悩ませながらもルリエルと話をしている間に大タコにも動きがあった。
小タコに続いて大タコまで服の中へ入ろうとしている。
何やってんだこのタコども、と声を上げたいところだがルリエルの意識がこっちに向いている以上下手に動けない。
願わくば大タコが迅速に小タコを連れて服から出てくることを祈るのみだ。
■ルリエル > 「ふふ、やっぱり釣った魚を食べてこその釣りですよねぇ。
趣味で魚をいじめるの、よくない気もしてたんですよ。食べる目的のほうが、生き物として自然です。
……まぁ、こんな風にうまく行かないことのほうが多いんでしょうけどね」
釣りとはただ針を魚に食いつかせるだけの狩猟行為ではない。
互いの力と敏捷力をぶつけ合い、水面まで引き上げればヒトの勝ち、針をばらせば魚の勝ちという勝負だ。
なかなか、いっちょ噛みの素人が何匹もの釣果を上げるには至らない。その分時間を掛ける必要はある。
――もっとも、2連続で釣れた異形生物に関しては、そうした釣りの機微からは大きく外れてる気もするが。
「……ん、あれ。いつの間にか頭の重さは消えてるんですが。
今度はちょっと身体がムズかゆいような……? 虫さんでも入ったんでしょうか。
それに……昼近くなってきたからか、11月にしては暑くなってきた気もしますねぇ……」
そう言いながらルリエルは、羽織っていたカーディガンをおもむろに脱ぎはじめた。
その下は、相変わらずの良く分からない意匠がプリントされた簡素なTシャツ1枚。
冬にしては寒々しいラフな装いになるが、天使の白い腕はいささかも寒さに震えてはいない。
脱ぎ終えるとまた竿を構え直し、水面に視線を向ける。
――だが、傍目から毒嶋がルリエルを見るならば。
薄手のシャツの下で、大小2匹のタコがもぞもぞと女体に絡みつき、這い回る様が見て取れるだろう。
背から腹へ、腹から胸へ。尋常の神経ではあまりの悍ましさにすぐさま振りほどきたくなるような這い方だ。
しかしルリエルはほとんど掻痒感を感じていない様子。
たまに服の中の虫を払うようにポンと叩く仕草をするが、タコは動じる様子もなく、天使もそれ以上の抵抗をしない。
「……フフッ、そろそろラク先輩にもアタリが来るといいですね?」
魚を逃さないよう、小声でささやきかけるルリエル。若干の色気が感じられるかも。
■毒嶋 楽 > 「ま、まあ思うように行かないからこそ熱中してハマる人が増えるって事なんだろうな。
うまく行かないことが多い分、大物が釣れたりすると達成感があるとか、そんな感じで。」
どうしようどうしようと困り果てている内心とは裏腹に、努めて穏やかな、普段のルリエルが浮かべるようなアルカイックスマイルで頷く楽。
現状を省みるに、この天使は魚釣りに来ない方が良かったのでは、とまで思うが口にするのは憚られた。
それなりに釣り自体は楽しんでいるように見えるのだ。はたから見れば。それが逃避の果てであろうとも。
「お、一過性の偏頭痛か何かだったのかねぇ?
……身体がむず痒い?潮風に当たり過ぎてるってほど長い時間居るわけでも無さそうだけど……と。」
確かに日差しもあって暖かだが、カーディガンを脱ぐほどでは無いのでは。
Tシャツ姿になったルリエルだが、傍目に見れば寒そうなのに、本人は言う通り、寒さを感じていないかのよう。
(ま、まあ……この状況は、そりゃ暑いというか……寒いどころの騒ぎじゃないよな……。)
ルリエルのシャツの下では何だか想像するのも憚られそうな状態になっていた。
タコの粘液の所為か湿ったシャツは肌に張り付き、体のラインを浮き出させそうなほど。
そして大小それぞれのタコの動きも浮かび上がらせている。
自分が同じ状況なら、と思うと全身に鳥肌を禁じ得ない。
「いやぁ、まあ……そうだねぇ……」
もう楽には、あははは、と乾いた笑いを浮かべるしか出来ない。
そんな中、こちらもようやく竿が揺れた。 [3d6→1+6+6=13]
■ルリエル > 「そうですねぇ。私もいつか、動画で自慢できそうなでっかい魚釣ってみたいです♪
……そしたら今度は捌き方も勉強する必要もありますけど。フフッ、趣味と勉強は切り離せませんね」
――にゅちっ、にゅちっ。
平然とした様子でルリエルが毒嶋と会話する間も、天使の服の中ではおぞましい粘体の音が断続的に響いている。
タコが這った後の服は裏地から湿り、ぺったりと身体に張り付きはじめていた。
色物の布地なので透けこそしないが、天使の身体のラインはくっきりと浮き彫りにされている。
……そのボディラインの上を這う大小2つのコブめいた球体は、見る側にすら掻痒感をもたらすだろう。
「……ん。知らない内に波が掛かってたんでしょうか、服が湿ってる気がします。
この程度なら我慢できる範疇ですけどぉ……あ、ラク先輩、竿、竿っ!」
先ほどの返礼とばかりに、毒嶋の竿の震えを小声で指摘し、何かが掛かっていることを伝える。
さてその針の先にいるのは……。ルリエルは期待の眼差しで水面を見つめる。
■毒嶋 楽 > 「ホントにねぇ、動画の投稿者って動画一本作るのにかなりの知識と時間を要してるみたいだし。
まあその分、釣り動画と料理動画で2ジャンル押さえられるのは強いよなあ。」
ついでにR-18ジャンルにも通用しそうな気がするが、それはそっと口を噤む。
こうして話している間にも、ルリエルの服からは粘性のある水音がしているし、特に体を動かすわけでなくても服は蠢いている。
湿って張り付いた中で、ミカンサイズ、グレープフルーツ大、そしてメロンかスイカサイズ×2が収まっているのはかなり無理があるように思えた。最後のは多分ルリエルの自前だからどうしようもないとして。
「そ、そうだねぇ~……俺の方は何ともないけど。風向きかな。
濡れて冷えたならちゃんとカーディガン羽織っといた方が良いんじゃない?」
とそんな事を話していたらアタリが来た。
ホントに掛かるとは思わなかった楽、多少まごつきながらも糸を巻き上げ、掛かった魚を水面まで引き上げる。
(あ ―――――― また嫌な予感する。)
サパッと水しぶきを上げて釣り上げられたのは、またしても――小タコ。しかも触腕の数が先の2匹よりも明らかに多い。
釣り上げた姿勢のまま、思わず「うげぇっ」と声が出た楽。
一瞬手元に寄せるのを躊躇った結果、遠心力でルリエルの方へと流れていく小タコⅡ。
■ルリエル > 「それがぁー、なんか身体ポカポカするんですよねぇ。日差しがあるせいでしょうか?
まあ寒くなったらちゃんと羽織りますんで、ご心配なく♪」
冷たい海洋生物に直接肌を這い回られているにも関わらず、体感温度は下がるどころか上がりつつある。
もしかしたらこれらのタコが何らかの興奮物質でも分泌しているのか。
ルリエルが恐怖のあまり認識齟齬を起こしていなければ、そしてタコへの嫌悪感もない性格であったなら。
ヒトへの害意が見られない異形生物、意外と特殊Freeな展開を望めたのかもしれない。
だがそうはならなかった――複雑な状況が積み重なって、なんともおかしな現状となっているが。
そこに追加される、さらにもう一匹。
「あはっ♪ ラク先輩もアタリがバレちゃったようですねぇ。
もう少し早くアワセるべきだったのかもですね。私が偉そうに言えることじゃないかもしれませんがぁ。
……何か気を取られることでもありました? 眠かったら眠いって言ってくださいね?」
やはりと言えばやはり。3匹目のタコも、ルリエルは認識することができなかった。
針から外れ、狙いすましたようにルリエルに襲来し、そして狙いすましたようにシャツの中に入り込む。
もはやお約束となった流れにも、ルリエルは一切の違和感を感じていない。
「……んっ……う。……っあ……」
……だが、タコ達が縦横無尽に女天使の柔肌を這い回れば。
さすがに掻痒感が認識エラーをも乗り越えてルリエルの神経を撫で始め、苦々しい表情が浮かび始める。
喘ぎ声にも似た詰まった声を、喉の奥から漏らすルリエル。さすがに大声で喘がないだけの羞恥心はある。
――しかし3匹が結託してくすぐり回せば、天使の忍耐力も限界に到達してしまい。
「……ご、ごめんなさい、ラク先輩。やっぱりちょっと、身体の痒みが気になってきました。
すみませんが背中、見てもらえます? 虫か何か、入ってないかなって……」
顔を真っ赤にしたルリエルが雲の椅子から立ち上がると、毒嶋の傍に歩み寄って、背を向けてしゃがみ込んだ。
そしておもむろにシャツの裾を捲りあげ、背中を見せつける。
――毒嶋がそんなルリエルの素肌を直視するのであれば。
肩甲骨の当たりからは、薄い『天使の羽』が1対、皮膚から直接生えている。
翼の先は両脇を通して身体の前側まで回されている。ちょうどブラジャーのように。
そして、元は白いのであろう天使の肌は、タコが這った跡に沿うように赤く火照って見える。
――小さなタコと大きなタコが1匹ずつ。背筋にぺったりと張り付いて、ルリエルの腰に触腕を回していた。
もう一匹はお腹側にいるようである。
■毒嶋 楽 > 「そ、そう?……まあ、確かに日差しは暖かいけども。
とりあえず無理だけはしないようにねぇ?」
明らかに肌寒さを覚えるような状況にも関わらず、ルリエルの身体は震えなどの様子を見せていない。
むしろ頬は上気すらしてきそうな気配がある。これはタコの仕業か……と訝しむものの、確認する術もなく。
現状既に特殊に片足突っ込んでる気はするものの、ひとまずどうにかしなければ、と思う楽。思うのだが。
更に一匹、タコを追加納品してしまった。思わず心の中で『ごめぇぇぇぇぇぇん!!!』と叫ぶ。
二匹いれば三匹ももう誤差だよな、とか考えたわけではない。本当に。
「そ、そうだな……あはは、ブランクあるからかな。
経験回数もそんなあるわけじゃないし、初心者と大して変わんないかもしんないねえ、俺ちゃんも。
大丈夫大丈夫、眠くないよ~。」
3匹目のタコが飛来し、服の中へ飛び込んでも。
ルリエルは意に介した様子が無かった。かなり深い意識レベルで認識が阻害されている様だ。
そんな様子にいよいよ深刻さを覚え始めた楽だったが、打つ手を決めあぐねている。
これがまだ助けを求められれば話は早いのだが、と歯噛みする。
「ルリエルさんこそ、何か辛かったらすぐにでも……!」
楽が言うのとほぼ同時に。
ルリエルの表情が歪み、口から声が漏れ始めた。
喘ぎ声の様なそれに、確かに苦悶の色が浮かんでいる。
「お、おう。はいは~い。
背中ね、おっけーぃ……虫か何か、んじゃ見てみよっか。」
ルリエルから動いてくれればこちらも手が打ちやすい。
頬を紅潮させたルリエルが、息を荒げながらこちらへと近寄る姿は扇情的にも見えたが、状況が状況、楽は邪念を振り払う。
そして晒された背中を見て、楽は渋面を隠そうともしなかった。
白い肌は赤く染まり、ところどころに吸盤の痕の様なものが見受けられる。
そしてその痕をつけたと思しき張本人たち。大小のタコが張り付いている様は共感性が高ければ思わず目を背けるほどだろう。
そして翼……が生えていることは前に聞いていたが、本当に生えてるのかと驚く。しかし今はそれどころじゃない。
「あー、何か居るね。取っちゃうからちょっとそのままで居てくれるかな~?」
こうなれば後は簡単だ。腕まくりをしてルリエルへと声を掛ける。
■ルリエル > 「あ、やっぱり何か居ます? なんか自分で取ろうとしても全然見つけられなくて……。
すみませんが、取れるなら取っちゃってもらえますかぁ……?」
何だかんだで、異性に己の肌を見せつけるのには若干の羞恥心を覚えるルリエル。
まぁ現代人のそれと比べたら敷居が低い方ではあるが、それでも白昼堂々とというのは衆目が気になる。
しかし耐え難く蓄積されつつある掻痒感と比べたら我慢しきれるものでもなく。
顔を紅潮させつつ、シャツを限界まで捲りあげて背中を男に見せつける天使。
『謔ェ縺?%縺ィ縺励※縺ェ縺?h』
『蜉ゥ縺代※』
そんな柔肌に張り付くタコ達の方は、布の覆いが外され男に見咎められたことを悟ると、懸命に逃げ始める。
どこに口があるのかも定かではないが、身体のどこかから言葉のような音の連なりを発しつつ。
しかし毒嶋にこれを掴む勇気があるなら、吸盤の力もさほど強くはなく、引き剥がすことは可能だ。
「ど、どうですかぁ、ラク先輩……」
――さすがに『ルリエルの肌に触れずに』という条件も加わるなら難易度は爆上がりするだろう。
状況が状況だけに、男の指が肌に触れることを咎める筋合いはルリエルにはないが。
■毒嶋 楽 > 「居た居た、探し方が悪かったのかな俺ちゃんは見つけたよー。
じゃ、取っちゃうね。恥ずかしいかもだけど、ちょっち頑張って。」
さて、良い思いするのもここまでだぞタコどもめ。
そう意気込んでタコたちと対峙するものの、よくよく見ればタコ以外の生物にも見える。
名状しがたいそれらに触れるのは、実際のところかなり勇気が要る。メチャクチャ要る。
しかし、現在進行形でそれに纏わりつかれているルリエルの事を思えばそんな勇気は何処からでも湧いてくるというもの。
(ま、それはそれとして目に毒なのには変わりないんだけど……)
タコが付いている以外は女性らしい肢体の持ち主であるルリエル。
その背中だけとはいえ何だか色香の様なものがひしひしと伝わってくる。
早くしなければ、楽の方まで気分がおかしくなりそうだった。
「えーと、合計三匹かな。全部取っちゃうから待っててねぇ~」
まずは一匹目、と逃げ始めた大タコへと手を伸ばす。
今は背中側に居るからまだ良いが、これが全部正面側に回られるとそれはかなり大変だ。
触れる瞬間、躊躇うように手が止まったが、一瞬だけですぐに気を持ち直して大タコを掴み、背中から引きはがしに掛かる。
■ルリエル > 「うそっ、3匹も何か居るんです? お、お願いします、追い払うだけで大丈夫ですんで……!」
ルリエル自身には認識できないナニモノかが3匹も体表にいる。
毒嶋の口から改めてその状況を伝えられると、遅れ馳せながら嫌悪感が湧き始め、思わず身をよじってしまう。
……その艶めかしい仕草は、第三者がこの光景を見ているとすればほぼ確実に『勘違い』してしまうだろう所作。
『鬟溘∋縺ェ縺?〒繝シ』
だが現状はタコ状生物達にとっても生死の瀬戸際。
怖がりの女天使を好き放題に陵辱できたとしても、この男はさほどに嫌悪感を抱いてない様子。
掴まればまずタダでは済むまい。今度はタコたちが怯える番。
――されど、陸上では水中ほどの敏捷性を発揮することはできないのが海洋生物の性。
あえなく、最初の1匹である大タコは毒嶋に捕らえられてしまう。
「……ん、あっ♥」
引き剥がす瞬間、触腕は最後の抵抗とばかりにルリエルの白い柔肌にしがみつく。
吸盤に肌が引っ張られ、針の先で肌を撫でられるようなくすぐったさを感じ、思わず艶っぽい声が漏れてしまう。
だがタコの抵抗もほんの僅かしか保たず、剥がされてしまう。ルリエルの身体にちょっぴり生々しい跡を残して。
毒嶋に掴まれたタコは、その形状は概ねタコ。だが角状の突起が頭に生えてたり、触腕の数本が長かったり、微妙に違う。
知能を有する様子も見受けられたが……しかし、殺そうと思えば殺せるし、食べることもできるかもしれない。
その間に、身の危険を感じた小タコ1は自らルリエルの身体から離れる。
ぴょんぴょんと小刻みに跳ねながら波止場のコンクリートを海に向かって逃走、そして飛び込もうとする。
追いかけるなら追いかけて捕らえられそうな速度。
最後の1匹、小タコ2は……毒嶋の目に見える範囲、つまり背中側にはいない。
そして実のところ、ルリエルの胸の谷間に狡猾に隠れていた。
■毒嶋 楽 > 「任せて~……ただ、なるべくじっとしてて欲しいかな~って。」
なるべく動かないで欲しい。
それはタコを捕捉するのが難しくなるためと、
身を捩れば翼に覆われた膨らみが体の脇から見え隠れして非常に目に毒だから。
こんな状況でも無ければ、とちらりとも思ってしまう自分の恥じ入りながら、楽はタコの確保に集中しようとする。
「まず一匹……あ、こら。抵抗すんな、もう諦めろって。」
大タコを掴んだが、触腕がしぶとくルリエルの肌にしがみつく。
吸盤の吸着力も強くなく、少し引っ張れば簡単にはぎ取れたが、その際のルリエルの声が楽の精神を大きく揺らがせる。
意識を切り替えようとタコを見れば、なるほどタコ……と言ってしまうにはあまりに異様。うへぇ、と顔をしかめた楽は、一度タコを見据えて……はぁ、と溜め息を溢して海へと放り投げた。
その際に小タコの一匹が海へと逃げるのを見つけたが、どうせ結果は同じ自ら離れてくれた分手間が省ける、と見逃すつもり。
まだ一匹残っている。また戻ってくるわけでも無い限り、先の二匹に費やす時間は無い。
「えーと、これで二匹……。
くそ、あと一匹どこ行った?ルリエルさん、どっかまだ違和感あるとことか、無いかねえ?」
背中側にはもうタコは居ない、辺りを見回しても居ない。しかし確実にあと1匹は居るのだ。
であれば、とルリエルへと声を掛ける。掻痒感もだいぶ収まってきたことだろう、と確認も兼ねて。
■ルリエル > 「んっ……あ、はい。お腹の周りになんか違和感……重さというか何かくっついてる感じあったんですが。
さっきの引っ張られる感じの後はもうなんともないですね。
追い払ってくれたんですね、ありがとうございます♪」
自らの肌を苛んでいた異様な感覚は、もはや消え失せている。
タコ達が這い回った跡は、粘液にさらされ吸盤の負圧も受けていてヒリヒリとしたかゆみが残っている。
だがそれも傷や内出血にまでは至っておらず、直に治ることだろう。
ちなみに毒嶋に捕まった大タコは、海に放されれば先に逃げた小タコ1を追うように水面へと飛び込む。
そのまま海底の闇へと消えていった。
ルリエルはとりあえず身体の違和感が消えたことに安堵し、ふぅ、と一つため息をつく。
湿ったシャツの裾を下ろして肌を隠すと立ち上がり、毒嶋に感謝の笑みを向け、ぺこりと軽く会釈。
「ありがとうございます、ラク先輩♪ 助かりました! 何が居たかはわかりませんけど。
……あ、でもさっき確かに、3匹見つけたって言ってましたね。
まだ1匹いるんです? でも……うーん、もう身体に変な感じはないですし……」
長身の毒嶋に向き合う、長身の天使。男の猫背を含めれば同じくらいの目線の高さになるか。
もう大丈夫、と訴えるルリエルだったが、その身体をよーく観察するならば……。
……シャツの襟元、ほのかに覗くデコルテの谷間に暗褐色の球体が挟まってるのが見えるだろう。
毒嶋の釣り針から逃げ仰せた3匹目のタコだ。
身じろぎ一つもしないため、ルリエルが違和感を覚えていないだけの様子。狡猾さがあるようだ。
「ふぅ……でもなんか身体も服も濡れちゃってますね……海釣りって意外とシビアなんですねぇ。
一旦家に帰ってお風呂に入ろうかしら。それとも近場に銭湯でもあればそこで軽く流そうかな……?」
胸の谷間に挟まる異形に全く気付いていないルリエルは、新たに感じはじめた湿った服の不快感に口を尖らせる。
――毒嶋が3匹目のタコを捕らえようと決意するならば、この瞬間が最後のチャンスかもしれない。
■毒嶋 楽 > 「そ、そう……そうかぁ。
いや、俺ちゃんは大したことしてないし、それより恥ずかしい思いさせてごめんねぇ~?」
礼を言われれば、いやいやそんな、と首を振る。
むしろ不快感の原因は楽の意志薄弱さが一枚かんでいる部分もある。
感謝されるには少し筋違いな気もしているのだ。
これで肌に傷など残ってしまっていたら、と考えると自分の不甲斐無さに苛まれていただろう。
シャツを直すルリエルから視線を逸らし、周囲にタコや人がいない事を確認すると、緊張の糸が切れたのか深く深くため息をついて。
「んや、どういたしまして……と言うには気がかりが残ってるけど。
確かに三匹いた気がするんだよな……本当に違和感なし?
なんか体が重い気がするとか、くすぐったさがある、とか……」
向き合ったルリエルの身体をそれとなく見回して。
湿ったシャツの中、ルリエルが本来持ち合わせているモノ以外の膨らみは見当たらない。
さっき小タコが逃げた拍子に、密かに同時に離れたのだろうか。しかし、見落としてしまうには時間が短いし、距離も近い。
そもそも最初に背中側で視認したのは大小の2匹だけ、3匹いる確信はあっても残りの1匹は視認できておらず……
(とすると、自然と目を逸らしてしまいそうなところに……?)
ルリエルが湿った服を検める際に、襟元僅かに広がる。
タコの這った跡が生々しく残る白い肌、豊かな双丘の谷間に、それは居た。
(や………っぱりか。えー?そこは…えー……)
「あはは……海の家の方にシャワーの貸し出しとかしてなかったっけ。
乾いて塩が出てくれば肌も荒れちゃうだろうし、早い方が良いと思うけど。」
ルリエル自身が気付いていないし、違和を感じていないのであれば無理に引きはがすことも無いのでは、と考えてしまう。
それでなくても場所が場所だ、楽の方から申し出るにはあまりにも悪過ぎる。
大人しい性分なのかはたまた狡猾ゆえか、楽はこの時もまた即決できずにいた。
■ルリエル > 認識齟齬が起こっているルリエルからすれば、毒嶋は服の中の異物を取り除いてくれた恩人。
感謝こそすれ、気負わせてしまうのは本意ではない。
天使の素肌を見せつける流れにはなってしまったが……そもそも毒嶋は十分に熟した男子である。
いまさら女の肌に一喜一憂する年頃でもなかろう、という思い込みもあって、あまり深く思慮しないことにした。
「ふふ、まぁお外で見せちゃいけない場所は全然見せてませんしぃー?
私だって一応は学園の教師なんですから、弁えるところは弁えます。
こちらこそ、せっかく休息がてらに釣りに来たラク先輩の傍で騒ぎ立てちゃって申し訳ないです……」
……なんて真意もあり。
苦々しく口角を釣り上げ、眉をハの字に傾けながら、白い歯を見せて力なく微笑んでみせた。
「そうですね、さすがに急いで洗い流したいところです。
服は一応着替えを持ってきてますが……うん、着替えもシャワー室が良いですもんね。
それで……海の家ってどこでしたっけ? 私、海の時期に引きこもってばかりだったんで詳しくなくて……」
身体を這い回る違和感がなくなれば、そこにタコが残した粘液の違和感が浮き彫りになってくる。
ぞぞ、と身体を怖気が走る。
毒嶋の言う通り、家や銭湯よりは海に用意されたシャワーの方が近そうだ。
「頼み事ばかりですみませんが、もしよければ……道案内、お願いできます?」
猫背の彼に合わせるよう腰を曲げ、緑色の瞳で媚びるように、見上げる視線で訴えかけた。
■毒嶋 楽 > ルリエルの思い込んでいる通り、毒嶋楽は既に成人している男だ。
今更女性の肌で一喜一憂するほど弁え知らずではない、そのつもりでいた。
それでも妙齢の、整った容姿の女性の肌を見れば、思う所の一つもないわけではない。
「まあ、そうだねぇ。
とはいえ俺も分別ある大人だし、夏でも水着でもないのに肌を晒させてしまうのは申し訳なくって。
ああ、気にしない気にしない。ほら、言ったでしょ、ルリエルさんと話してるだけでも元気になるーって。」
ね、とゆるーく笑みを浮かべてルリエルの微笑みに応える。
多少の気疲れこそ感じるものの、不快と言うほどでは無い。
と、そんな風に気遣ってはみたものの、問題はまだ残ってるので気が気では無いのもまた事実。
「そうだねぇ、そうした方が良いねぇ。
ってルリエルさん海の家の場所知らない?
そっか、まだ行ったこと無かったんだ?おーけぃ、じゃあ案内しよう。」
此方を覗き見上げるルリエルに視線を落とせば、自然と視界の端でデコルテの谷間に潜む異形も確認できた。
そのまま大人しくしていてくれよ、と思いつつルリエルを海の家のシャワールームへと案内する楽だった―――
「あ、ついでに荷物も運んどこうか。
ルリエルさんはまだ体気持ち悪いでしょ、俺ちゃんに任せてー。」
■ルリエル > 「ふふっ、やっぱり風紀委員さんは頼もしいですね♪
それじゃ……うん、荷物もお願いします。なんかちょっと……ただ釣りしてただけなのに疲れちゃったみたい」
一旦釣具を畳むと、カレイ1匹を収めたクーラーボックスは毒嶋に任せて。
連れ立って貸シャワー室へと向かっていくのだった……。
【――後日別室にて継続】
ご案内:「浜辺」からルリエルさんが去りました。
ご案内:「浜辺」から毒嶋 楽さんが去りました。