2021/11/25 のログ
ご案内:「浜辺」にレイチェルさんが現れました。
ご案内:「浜辺」に園刃華霧さんが現れました。
レイチェル >  
口では凸凹だ、なんて返しながら。
それでも、内心は華霧の言葉を反芻する。
確かに、硬すぎるのかもしれねぇな。
壁を作ってんのは、どっちだって話だ。
本当に、本当に拾い直そうと思うんだったら……。

『レイチェルが、幸せにナれナいんナら……』

華霧の言葉を聞く。
こいつが言おうとしてることは、想像がついた。

だから彼女の沈黙に付け足すように、一言だけ口にした。

「それは、ちげーよ」


全てを聞いてから、口を開く。
シンユウとして――否。
違う、そうじゃない。ぎこちない関係から出す言葉なんか要らない。

ただ、親友として……伝えたい。

「親友……として。いや、親友になりたい奴の一人として、お前に言っとくぜ」

優しかない、ビビってるだけ。
その言葉に、態度に、違和感を覚えたから。
順を追って、話したいと思った。聞いてみたいと思った。

「ビビるのは悪いことじゃない。
失うことなんて、誰だって怖い。
でも、ビビってる奴だからこそ、
怖さを知ってるお前だからこそ、
優しくできんだよ。

自分の為に優しくするのが気に食わねぇか? 
上出来じゃねぇか、てめぇの幸せの為に、誰かを幸せにできりゃな」

胸の内に、確かに熱はこもっていた。
それでも、口から出たのは今まで華霧に向けていたものとはまた違う――
自分でも懐かしい、胸の内に清々しさを覚えるものだった、ように思う。
オレの中で、何か引っかかりがとれた、のだろうか。

一旦そこで口を閉じて、華霧の様子を伺った。

園刃華霧 >  
「……」

『それは、ちげーよ』

それは、静かに。しかし、確かに耳朶を打つ言葉。
……どうだろう、やはり違うのだろうか。

それなら、また間違ったのだろうか

考えながら、続く言葉を聞く。


『親友……として。いや、親友になりたい奴の一人として』


ああ、そうか。
レイチェルは、そう考えて言ってるのか。
まったく、ありがたいことだ。
自分には上等すぎる。


『――――――』

ああ、わかってるよ。わかってる。


「……わカんね。
 アタシは、今マで一人で、好き勝手生キてた……ツもり、ダった。
 ドーも、そノ辺が違ったラしいッテわかっテから。
 アタシ自身、ホントのトコなんテなよくワかンなくナった。」

小さく、肩をすくめた。

「面白イかラやっテたコと。
 冗談デやってミたこト。
 面白クしタいカらしタこと。
 つマんなイかラやッタこト。」

頭の中では今までの行為を、一つ一つ、思い浮かべる。
色々したようにも思うし、何もしていないようにも思う。
好き勝手、適当に、大したこともないことを、しょうもなく。
そうしてきたように、思えていた。

「ソれが、優シくシてンのかッテ言ったラ。
 アタシには、ヤっぱリわかンね。
 ただ――レイチェルが、ソういウなら、まァ」

ただただ、無意味に
ただただ、無味に
ただただ、刹那的に

そうして過ごしてきたはずだったけれど

「少なクとモ……無駄じゃナかったンだろーネ?」
 
 

レイチェル >  
否定の言葉を投げた後、己の内で自嘲する。
お互いに、お互いのことが大切……な筈なのに。
離れたくない……ってきっと思ってるのに。

それでも、相手を傷つけてしまうんじゃないかって。
そう思い込んで、互いに離れようとしてたんだから。
そのことに気づいちまったから、否定の言葉の後には、自然と自嘲の苦笑が漏れた。

オレと華霧。
互いに馬鹿だ馬鹿だって、何度も言い合ったか。今更だな。


「無駄じゃねぇさ。覚えといてくれよ」

力強く、肯定の言葉を渡した。


「お前がここまで適当適当ってやって来たこと、成し遂げてきたこと。
 きっと色々あんだろ。
 それから風紀委員に入ってさ。お前がやって来たこと……それも沢山あんじゃん。
 ま、味方張り飛ばしたり、捕獲対象逃したりサボったり何だり、そんなこともあったけどさ。
 それでも、オレが保証する」

以前に、こいつがトゥルーバイツに向かおうとした時。
語っていた言葉を思い出した。思い出したからこそ、続けて語る。

「……そうだ。伝えたいことを伝えるためにも、まずお前に一つ聞いておきたいんだ。
 華霧、お前は何で風紀やってんだ? 何の理由があって続けてんだ?
 改めて教えてほしくてな」 

一本一本の毛糸を解くように、話を進めていく。
穏やかな風を感じながら、釣り竿を引っ張った後、華霧の方を見やった。

園刃華霧 >  
「……ソっか」

無駄じゃなかった

それならまあ、少しは上等な生き方を出来ていたのかも知れない。
さんざっぱらやらかしてきてはいるけれど。

「なラ、マ―よかッタ。」

漏らす言葉はそれだけ。
それだけで、十分だ。

けれど、その後に続いた言葉は――


「何で、ダって?」

思わず、きょとん、とする。
続いて、ずきり、と何処かが痛む。


『風紀辞めたら?』
『向いてないわ、アナタ』

ああ――そんなことも、あったな。
本当、まったく……その通り、なのかもしれないなあ


「……さて、ね」

改めて、考えてみる。
浮かぶのは……


「欲しかった、から……」


はじめたのは、それだけの理由。
なら、いまだの続けているのは……

「…………」

言葉に、つまった

レイチェル >  
よかった、と聞けば満足気に笑みを返す。
それで十分だと感じたから。

「ああ。欲しかったから、だよな。
 で、続けてる理由はわかんねぇか」 

そう。その答えは何となく、分かってた。
園刃 華霧は『欲しかった』。
それはあの日、少しだけオレにも語ってくれたことだ。
そこは分かっていたからこそ、問いかけた。
ま、ちょっと意地悪だったかもしれねぇ。


「前にオレもさ、五代先輩に聞かれたんだ。
何で風紀やってんのかって。
罪もねぇ誰かを踏み躙ってる……そういう、気にくわねぇ奴をぶん殴るためだって。
そう答えたよ。そしたら先輩、めちゃくちゃ怒ってさ。

それじゃ、『お前が殴ってる連中と何も変わらない』って。
そうか、そうかもな……って思った――」


それが、オレがかつて風紀委員の――システムに埋もれることになった一つの理由。
それも一つ理にかなってるし、別に何とも思っちゃねーがな。


「――でも、今はそう思ってねぇ。
てめぇの為の拳で、誰かを救えんなら、それで良いじゃねぇか。そう考えてんだ」

昔の懐かしい話。でも、オレの視線はずっと華霧に向けられていた。
あの日を振り返ることはしねぇ。ただ、今華霧に伝えたいことを伝えるために、
昔を語ってるだけだから。



 『レイチェルちゃんが無茶ニ突っ込んデって、アホをシメて……
 んデ、アタシは"ドブさらい"、ト。』

ドブさらい。
あの日。華霧がトゥルーバイツへ向かおうとしていたあの時。
オレに告げたあの言葉を、忘れることはできない。

「じゃあ、もう一つ。
 ずっと二級学生への対応、続けてたよな。あれ、何でだ?」

続けて、問いかける。これがおそらく最後の問いかけだろうか。

園刃華霧 >  
「そーだね、わかんない。
 いや、最初は生きるため、だった……はず、なんだけど」

どうせ物は持たない主義で買い物もろくにしない。
使うのは食事くらい。

それなら、生きるのにもそこまで苦労はしない、はず……では、ある。


「はぁん……レイチェルも、聞かれたのねえ……」

話を聞きながら、感心ともなんともつかない声を上げる。


「『気にくわねぇ奴をぶん殴るためだ』、か。
 らシいねぇ……はハ、怒らレて噛みツいたリしナかったン?」

けたけたと少しだけ調子を戻して笑う。
そして、次の質問は――

「アー……なーンでだッケなァ……」

そもそも、なんでそんな業務をはじめたのだったか――

「最初は、確か――アー、昔なンかでッカく集めテ対応しタときニさ。
 事情通っテーか、まァ……"やり方"が分カってルやつッテことデね。
 警備ッテか、見守リってカ。ソんな理由で狩り出サれタんダよね。」

つらつらと、思い出してみる。
それこそ、主催は五代とか辺りの誰か偉いさんだったと思うのだが。
その辺、記憶が曖昧な辺り、興味なかったんだろうな、と思わず心のなかで笑う。

「デ。そンで、そンな仕事、あンだなーッテ思って。
 後は、アレだ。」


「 "二級の連中ヲ少しデも多く、コっちニ引っ張ッテやリゃ、少しハ此処も面白クなルかナ?"
 
そう思って、続けてた。」

ただ、それだけのこと。
それは、間違いない。


「マ、そンなテーどの話。
 いツものヤつだヨ」

崇高な理想とか
奉仕の心とか
同情とか

そんな大層なものは、ない

手元の竿はもはや握られているだけ。
糸が引かれようと、引かれまいとおかまいなし。

レイチェル >  
「面白くなるからねぇ、ほんと華霧らしいぜ。
 オレは、その理由……良いと思う」

そう、こいつって面白くなるかならねーか、ってところで動くもんな。
だからこそ、風紀に向いてないとか言う奴も居るんだろうけど。
オレはそう思わねぇ。

「てめぇ自身の為に風紀してるって訳だろ。

 それは、さっき言った通りオレも同じ。オレ自身の為だ。
 きっと多分、他の風紀の連中にもそういう奴らが沢山居るだろうさ。
 勿論、すげー理想とか、奉仕したい一心で頑張ってる奴らも居るだろうけどさ。
 風紀委員っつっても、組織な訳で、当然色々な考えのやつが居るかんな」

ここ最近落第街絡みで、そのことは顕著になっているように思う。
……またあいつと話にいかねぇとな、なんて思いつつ。
今は、華霧と話す時間だ。

「でまぁ、オレとか華霧みたいなタイプでもさ。
 それでも救って来たもんが間違いなくあるわけだ。
 つけ加えりゃ、
 荒事ばっかやってたオレなんかより、お前はずっと色々救ってきてると思うわけ。
 
 何が言いたいかってーと……

 お前は、お前が思っている以上に、周りを幸せにしてんだよ」

本当に、伝えたいことを口にしていく。

「風紀委員会での活動だけじゃない。
 お前が何となくしてる行動が、何気なく発してる言葉が、
 周りの奴らを知らねぇ内に幸せにしてることがあるだろうぜ。
 
 オレは……その一人だった。
 落第街を駆け回ってた頃もさ。お前みたいなのが居たからこそ……
 オレは戦えてたんだと思う。
 ビーチバレーやった時もそうだし、他にも仕事中色々さ。忘れられねぇぜ。
 
 戦いの中でも、日常の幸せを噛みしめることができた。

 ……今この瞬間も、そうなんだ。
 こうして横に並んで、お前と話してるだけでオレは幸せなんだよ。だから――」

レイチェル >  

 「――だから、お前が居るからオレが幸せになれない、なんてことは絶対にない。
  お前が隣に居るだけで、オレは幸せなんだ。それは、オレから確実に否定できる。
  
  お前を置いて、何処かへ戦いに行くなんざ絶対ねぇさ」

そこまで口にすれば、水面を見やる。
魚、釣れるかな……。