2022/02/16 のログ
矢那瀬陽介 > 「……うん。普通じゃない。この妙な回転は俺の力じゃなくて貝殻は歪だから。
 だから上手く回転できずに――」

不均衡に描く楕円はやがて均衡が取れず……廻りながら砂浜に落ちていく。

「だから、落ちちゃう……ん?」

砂浜に落ちた薄紅色の貝殻に這わせていた黒瞳は相手に凝っと……
そしておかしそうに眦を下げて。

「あはは。出会ったばかりの人にそんなに気を使っていたら疲れない?
 まぁ、嬉しいけれど。
 俺がダメなら君が海でスケートしてほしいな」

ややも前傾姿勢。相手の悩む表情を楽しんでいたが。

「おっと、そうだね。人にあったら自己紹介。
 マナーだよね」

慌て背筋を、襟元を正して向き直る。

「俺は矢那瀬陽介。美化委員をしてるよ。趣味は散歩。
 得意なことは柔道。よろしく」

豆だらけの無骨な掌をそろり、と相手の前に出した。

風間 奈緒 >  
「ヤナセ…さんだね。よろしくおねがいします!」

差し出された掌を両手で包むように握り、顔を見上げてニコ、と笑った。
…と、何かに気がついたのかハッとした顔。
すぐに両手の手袋を外した。

「いけない、うっかりしてた…改めて、よろしくね!」

相手のそれと比べて、ずいぶんと小さい両手。
矢那瀬の手を再び包むように握り、くいくいと軽く振って握手した。


「あ、それと…気を使うのはなんというか、癖というか。
 出来る限りのことはしたいなっていつも思うから…」

「…気にし過ぎだとは思うけど一応考えてはみるんだ。
 実力が伴ったらホントに出来るかもしれないしね!」

矢那瀬陽介 > あちらこちら、朗らかな感情にじむ相貌で微笑む彼女に対峙し……それでも微かに眉が持ち上がる。

「真面目なんだねフウマさん。
 うん。それは君の良い所だと思う」

細い手が友好を求めて揺れるのを茫洋と眺めて独りごちる。
相手が引くまでそのまま……やがてゆっくりと節榑立つ指を離していった。
そして紡がれる言葉ひとつひとつに清聴し。
暫く無言で曇天を仰ぎながら無言で唸る。

「そこまで考えてくれるなら。
 やってみようか。
 二人で滑るの…もとい、海の上に浮くの。
 ――もちろん、フウマさんが良ければ、の話だけれど」

風間 奈緒 >  
「え、一緒に?」

きょとんとした表情で呟く。
すぐに考えが巡りだしたのか、独り言が始まった。

「一緒…一緒なら?えーっと…アレか、アレみたいにやれば…
 どういう形で合わせれば…んー、んーっ…」


そうしてしばらく考え込んだ末に、顔を上げた。

「…出来るかも。えっと…ちょっと説明」


「私の異能は"夢と繋がる"こと。例えにくいけど…夢の道理を持ってこれるんだ」

「基本的に私自身にしか強く及ばないけど、直接触れてるなら別」

「あと私にもう一つ能力があって…それを使えば"イメージを増強"できる」


「…簡単に言えばこんな所で、えっと…触れてれば私がやれるよ。
 試してみる…?」

そう言うと、自分の頭の上にある元素の輪をもう一つ作り出した。
粒子が回り象られたそれを、矢那瀬の頭の上に付けたいらしい。

矢那瀬陽介 > 「ああ、一緒に。君はできる限りのことをしたいと思ってるんでしょ?
 それなら今できないことが叶えば喜ぶんじゃないかなって思ってさ。
 叶うかどうかはわからないけれど、チャレンジしてもいい気持ちになった」

思考の糸が編み込まれる中で溢れる切れ端の独り言にに、にこにこ人懐っこい笑みを持って見守った。
そして出される結論に淡微笑で頷き。

「夢と繋がる――現実の道理を塗り替えるってことかな?
 空を飛べると思えば飛べるし、水に歩けると思えば歩ける……現実の斟酌を持ち込まないようにしないと」

やがて生まれる幻視の輪の光を目にし。
戴冠式に興じるかに砂浜に片膝をついた。

「試してみよう。そして言い出しっぺの俺も自分の異能でなんとかやってみる。
 ――今まで試したこと無くて不安だけれどさ」

長い指先で頭上を飾る冠を、つっ、と撫でれば寄せる漣に向き直り。

「俺は準備万端。万一失敗しても俺の体が濡れるだけだし、気楽にやろう」

やがて切れ長の黒瞳が相手に流れ、酷くゆっくりと掌を差し出した。

風間 奈緒 >  
「……初対面なのに、こんなに気遣ってくれるんだから、もう」

少しだけ照れたように顔を逸らすも、ふるふると頭を振って冷静に。
頭を低くしてくれた相手の頭の上にそっと輪を配置し、調整。
これで固定され、お互いに天使のような光輪が備わった。

「少し奇妙な感覚になるかもだけど、これは…
 現実の中で夢と繋がり、少し道理を歪めるもの。
 夢は現実が基。境目に立つことはそう難しくはない…」


矢那瀬の手を両手で再び握り、集中に入る。
他人にこの異能を適用するのは初めてだけど、自信はあった。

「…それじゃ、私達は…天使のバカンスを楽しむよ」

『夢現漂流』

何かが2人に浸透する。
異能の力の制御を司る奈緒は、特に深く身に浸らせた。
ゆっくりと目を閉じ、一呼吸。
目を薄く開き、眠っている時にも似た安らかな吐息。

「さぁ、遊ぼう」
半ば夢に繋がった奈緒がゆっくりと首を動かし、矢那瀬に告げる。
すると…2人の身体に仄かな光が宿った。

『連結』

能力を重ね、とうとう"天使のように"身体が浮かび上がる。

矢那瀬から手を離さないようにし、海の上へ…
宙を滑るように、移動していく。

矢那瀬陽介 > 「君ほど気を遣ってないよ――ん」

続けられる説明を理解するほど聡くはない。
が繋がれた掌に意識を傾けることはできた。

「それじゃ天使のバカンスに、ゴー!」

気楽につぶやく言葉も、やがては肌から伝わる『ナニカ』に唇を閉ざす。
あまねく大気の流動を感じるような、それでいて全ての感覚が泡沫を消え去るような。
まさに夢の心地にふるり、と震える肩はそのまま、隣の呼吸、足運び、一挙一動を全て重ねて意識を委ねる。

「いいよ。遊ぼう」

委ねた意識は……あるとなきに等しい。夢の残滓をふぁふぁと浮かばせたかの眼差しを向けて。中空の階段を昇るその手に足を一歩踏み出した。
カチリ、鉄か硝子を踏むような音が聞こえたようにも、或いは何も聞こえなかったようにも。感覚全てを緩めてゆく。
意識するは足――――…彼女の力だけに頼らず、足先から異能を集中し。
踏む空気をかきまぜ固めるようなイメェジを抱く。
叶えば自ずからも宙に足滑らせて波間に浮かぶだろう。
(ダイス値3以上で成功)
[1d6→3=3]
矢那瀬陽介 > 確かにその足は何かを踏んだ。硬いとも柔らかいともわからぬ夢と現実の狭間に立ち。

「すごいじゃん。出来たね」

此度は此方が手を引いて漣打つ海よりやや上を滑っていく。

風間 奈緒 >  
「…すごい、私の補助が無くても…動けるなんて」

特有の感覚による異能故、自分がすべてリードするつもりだった。
ところが矢那瀬が自分を引き、動いてみせている。

異能の影響下で見事に適応してみせた矢那瀬に脱帽の気持ち。
それと同時に…言葉にできないような温かさを感じた気がする。

私の手を引く、もう一人の天使。


宙を滑り、踊るように海の上で遊ぶ2人の天使。
それはイメージを増強するもので、天使そのものではないが…
まるで夢の光景のように、光の粒子と共に現れていた。
今の技量では難しかったはずの、天使の翼の微かな姿が。


「本当に、夢みたいだ…!」

そうして疲れ果てるまで、海の上で楽しく踊り続けた。

矢那瀬陽介 > 「なにいってんのさ。俺一人じゃこんなことできないよ。
 フウマさんのおかげさ」

摩擦なき空、そもそも現実の理なければ自由自在に動ける場所だ。
フィギュアスケートの如く繋いだ手を引いて優雅に海を滑りて空を渡る。
その内に、意識せずとも天使を模す羽毛の羽が生えたやもしれぬ。
これは彼女が作り出した現実と夢の境目なのだから――

やがてどちらともなく砂浜を目指しだし、確かな地の感触を踏めば、それが終焉。

「っとっと。なんだか不思議な感覚。
 夢を見ていたみたい」

異能の最中は天使かもしれぬが、幕が引かれれば現身は人。急に気息が熱を排出せしめんと荒くなるし、緊張で湧く汗が熱を持った膚を冷やそうと滴る。
未だに黒の双眸に夢の残滓がふぁふぁと漂いながら相手に細めて。

「でも夢じゃないよね。もう太陽が地平線に沈み掛けてるし。
 ……もう帰ろっか?」

風間 奈緒 >  
「あ…ははっ、楽しかった!」

浜辺に帰ってきた時、すぐに異能は解除された。
夢中で遊ぶ時間が終わった時の心地よい疲労感。

いつもよりハイテンションで没頭していたからこそ維持できていたのだろう。
朗らかに笑いながら、深呼吸をして左手で胸元を抑えていた。
夢のような時間の体験から、自分を現実に引き戻す。

「はー…ふぅ…うん、さっきのは…良い出来だった。
 夢の中にいるような感覚…それを聞けてよかった」

初めての挑戦は、矢那瀬の協力のおかげで大成功。
この体験は異能の扱いをその身に強く馴染ませただろう。
これ以上無いような経験となった。


「うん、夢の時間は終わりで…最高の気分で現実に戻る。
 本当に眠る時間のために、そろそろお開きだね」

火照った身体を冷ますため、マフラーを取る。
そうすると、首元には隠れていた白いチョーカーと…『木の鎖』。

彼女は意識の外に置いていたが、その鎖はゆらゆらと宙を漂っていた。


「今日は…本当に楽しかった!ヤナセさんも、声を掛けてくれてありがとうね」

「私は1年生で寮に住んでるけど、"早い"から今は自由行動期間みたいなもの。
 こうしてあちこちに出かけて学んだり、たまに遊んでるんだ」

「またそのうち会えるかもね。それじゃ…おやすみなさい!」

手を振り、ぱたぱたと走って浜辺の階段を上がっていく。
首から宙に浮く木の鎖がからからと心地よい音を鳴らす。
それは、楽しい一時の記憶に未だ夢中だからだろうか。

その鎖は夢に繋がれたものなのだから。

矢那瀬陽介 > 「うん、そうだね。それじゃ風邪なんかひかないうちに帰ろ……」

防波堤へと向けていた瞳が一瞬だけ彼女の方へ。
その首に似つかわしくない鎖に双眸を眇めるが……一瞬だけのこと。
夢見悪くさせる尋ねは避けて見なかったように一歩前に踏み出し。

「うん。俺も寮だよ。男女別れてるから顔を合わせることはない……
 とはいえないよね。君も、俺も、色々と出歩くのが好きそうだし。
 また遊ぼうね。それじゃ」

去りゆく彼女が完全に消えるまで浜辺で手を振っていた少年も。
また吹きすさぶ寒風に促されて帰路につくのだった。
向かう先が同じならばまた会うかもしれない。
それならば――共に寮の岐路まで共にしたことだろう――

ご案内:「浜辺」から風間 奈緒さんが去りました。
ご案内:「浜辺」から矢那瀬陽介さんが去りました。