2022/03/12 のログ
ご案内:「浜辺」に追影切人さんが現れました。
ご案内:「浜辺」に月夜見 真琴さんが現れました。
追影切人 > ――時刻は昼に差し掛かり、中天をやや眩しそうに隻眼で見上げる。
夜は兎も角、昼間はもうすっかり防寒具の類も必要が無くなって来ただろうか。
左肩にクーラーボックスを引っ掛け、右手には肩に担ぐようにして釣竿を携えて一人、浜辺を歩く。

「……つーか、我ながら何で釣りを思い付いたかね…あんましやった事ねーんだけどよ。」

と、自分自身の行動にボヤきを漏らすも、強いて言うならそれこそ理由無しに何となく、だろう。
浜辺を歩いていれば、前方に桟橋が見えてくる。
磯の方まで歩いていくとまだ距離があるので、その桟橋の先の方で釣りでもするか、と。

「――しっかし、まぁ…人気があまりねぇな今日は。」

春季休業期間だが、それよりも卒業やら何やらで人員の入れ替わりなどもあってゴタゴタしようか。
こうやって、ブラブラと浜辺に釣りをしに来る学生も案外少ないのかもしれない。

(――あぁ、そういや俺は一応学生だったわな…。)

と、今改めて気付いたかのように。どうにも、自分が学生の身分、というのは4年ほど経過した今でも慣れない。
一先ず、桟橋の先の方まで歩いて行けば、クーラーボックスを下ろして。

「――そういや、餌無しで釣れたりするんかな…。」

釣りはど素人だ。ここならやべーモンでも餌無しで釣れる可能性も極少数だがありそうな。
と、いう訳で腰を下ろせば、右手一本で釣竿のセッティングを確認しつつ。

さぁて、ヤルかぁ…と、片手で無造作に釣竿を振り被って――スローイング…少し遠くの海面にぽちゃんっ、と音が響いた。

月夜見 真琴 >  
「振り方がなっていないな」

その音に続いて、彼の頭上に降り落ちる甘くくすぐるような声。
降って湧いたように、あるいは人を化かす妖のように、
背後に女は立っていた。穏やかな太陽が、その背後に長く影を伸ばす。

「いよいよもって食うに困って太公望とは、"凶刃"らしくない窮状だ。
 おまえなら、山狩りでもして猪でも狙ったほうがよほど成果が上げられそうだが――」

自分の顎に手をあてて、したり顔。
我こそ釣りに一日の長ありと言いたげにしゃあしゃあと語るその足元には、
おもたげな鞄とイーゼル、そしてカンバス。
絵を描きに来ました、という風情である。

「"久しぶり"――奇遇だな。 暇を持て余したか、切人?」

追影切人 > 「――うーるせぇよ、こちとらド素人だっつーの。」

その声に露骨に嫌そうに顔を顰める。嫌悪…と、いうよりも辟易に近い表情で。
何時の間にか背後に立っていた女を、隻眼でちらり、と一瞥してから視線は海へと戻す。

「そこまで逼迫してねぇっつーの。つーかオマエは何で俺とサシで遭遇する時は何時も背後にいんだよ。」

それこそ、人を化かす妖怪か、その様を見て嗤う妖精様か…タチの悪い妖精もあったもんだ。
したり顔をしている女に、「じゃあオマエは釣りの経験が豊富なのかよ?」と、投げ掛けつつも。
彼女の服装や持ち物を見て、あぁ…と直ぐ納得した。コイツが絵を描いているのは、そういうのに疎い男でも知っている。

「”おとといきやがれ”――オマエが言うと奇遇も胡散臭いんだよ、真琴。
…つーか、オマエと遭遇するとかどういうタイミングだよ…。」

そう、答える口調は嫌そうだが矢張り嫌悪ではない。
単純に、”こいつは『苦手』だ”と言わんばかりの響きを伴っており。

月夜見 真琴 >  
「奇遇を装って会いに行く理由こそ、やつがれとおまえの間には発生しないと思うがね。
 想像だにすまいよ。 釣りという行為がもたらしてくれる精神修養の玄妙さに、
 まさか追影切人が理解を示しているなんて――なにがおまえを変えたのだろう」

よいしょ、と小型のチェアを展開し、その背後でゆっくりと腰かける。
まさか餌もルアーもなしで釣り糸を垂らしてなにかを期待しているわけでもないだろうが、
この男の思考を測ろうとすること自体が無意味だと、かねてからの交流で理解はしている。

「最近、ひさびさに駆り出されたことは噂に聞いていたよ。
 奇態な刃物まで持ち出したそうじゃないか――上の機嫌は取れたのかな?」

この男は、"あの事件"の――佐藤四季人の関係者。
そして、解決者にならなかった男。
何を期待されて彼が解き放たれたのかは想像に難くないが、どうやらそれが行われなかったらしい。

「斬り損ねて、何か感じたか?」

釣り糸から、ゆっくり動く、ちぎれた雲に視線を向けた。
赤い眼の太公望に釣りを習ってから、だいぶ時が過ぎた。
あの時はいつかの夏、山脈のような入道雲が空を泳いでいたものだが――

追影切人 > 「ああ、つーかオマエとそこまでの間柄でもねーし。世間様では監視対象括りで一緒くたにされがちだが。
…そういやちょいと前に廬山の奴が顔を出しやがったぞ俺が入院してた時に。
その内、オマエやあの女狐の方にもちょっかい掛けに来んじゃねーか?」

そもそも、精神修養とかこの男にもっとも縁遠そうなものである。
女の言葉に、軽く舌打ちを零す。変わったも何も無い。ただ牙を抜かれただけだ。
それで今は見事に飼い殺し――笑い話どころか、話のネタにもなりやしない。

背後で何やら腰を下ろす気配――いや、別の場所行けよ何で背後で寛いでんだこのアマ。
ふと、その右腕が無造作に持ち上げられる――視線の先には、餌も無い針に食いついた黒い不定形の何か。

「――あぁ?【雷切】なら、また例の封鎖武器庫に逆戻りだよ。あの野郎が使ってた【虚空】っつー刀剣も纏めてな。
どのみち、俺がどうこうじゃなくて上からの何時もの『お遣い』だ。今に始まった事でもねーし。」

――まぁ、その話は振られるだろうなとは思っていたが、別に男からすれば答える事もさして無い。
ただ、始末を期待されてS級の封印指定武器を貸与され、二度も斬り合いしたが殺し切れなかった、というだけだ。

――その時に思った事を、誓いを挙げるとするならば。

「――”次は”必ず俺が斬り殺す。あの世だろうが何処だろうが、だ。」

釣り針に引っ掛かった、黒い不定形の何かを一瞥したまま、それを軽く振るとぽちゃん、と呆気なく落ちて沈んでいく。
偶然引っ掛かった、常世島周辺に住む海の生物の一種…だったのだろうか?

「――結局、俺がどう感じようと行き着く先、帰結する欲求も一つだ。」

友情も愛情も信頼も、希望も絶望も、悲哀も憎悪も憐憫も、憤怒も妄執も何もかも。
――最後には必ず、【斬る】事に帰結するのが男の生まれてから変わらぬ在り方だ。

月夜見 真琴 >  
「わざわざ書類を認めてまで会いに来た廬山と、男同士で何を話し合ったのか問い質すつもりもないが――」

監視対象、として指定されている男の名が挙がった時、
記憶と顔を照合する一瞬すら止まらなかった言葉が、不意にどこかに引っかかって途切れた。

「おぉ――なんだ、食べないのか?腹が減っているのだとばかり」

釣り上げられた名状し難き何かへの興味に取って代わられて、
興味はそちらに向いた。水の中に戻されてしまった。
捌け、と言われても困る食材だったのでひとまず難は去ったと考える。
意外と食べるものには拘る性質なのか――未知の動物の生態を研究しているような心地だったが。

「――――」

死者への言葉を聞くと、膝に頬杖をついて、両足をぷらぷらと踊らせた。
その頬杖の手が、人差し指だけを彼に向けた。

「――まるで恋だな。 佐藤四季人がお前に刻みつけたものは"執着"か」

"斬れるもの"なら、いくらでも代わりはあるのに?
彼は今生から去った者を、死しても追い回して斬ると豪語した。
それは特別視だと受け止めた。燃えるような恋に似ている、気がした。

「生まれる形を間違えて、血肉を持ってしまった出来損ないとばかり考えていたが。
 存外、性質は器に引っ張られるものなんだな――驚いたよ。
 それは上には言ったのか? 案外面白い顔をされるかもしれないぞ」

佐藤四季人がもたらしたものは何かの兆しかもしれない。
――そう考えたいだけなのかもしれない。未練がましく。
彼を女々しいと思う横で、自分はどこまでも女だ。

「"その内"は来ないよ」

溜息が溢れた。案外つらくはなかった。

「風紀は辞めるし学校は卒業だ。
 《妖精》はもうどこにもいない。最初からいなかった。
 ラヴェータとも廬山とも、おまえとにもあった希薄な繋がりは、この春を以て白紙撤回だ」

ぐーっ、と伸びをした。
欠伸をするほど暖かい。

追影切人 > 「別に大した話はしてねーよ。そもそも奴が何でか俺を気に入ってるっぽいってだけだろ。」

一瞬、不自然な途切れに僅かにそちらへと隻眼をちらり、と向けるけれども。
直ぐに興味が失せたように視線は前へと戻す。次はまともなものが釣れるといいんだが。

「――暇潰しだっっつーの。空腹も何もねーよ。」

再び釣り糸を垂らすが、また変なものが釣れたりしねぇだろうな?と。
そもそも、餌を付けていないのに釣れる方がアレなのだけれども。

「…それ、廬山にも同じような事を言われたな……気持ちわりーんだが。」

げんなりしたように嫌そうな顔をしつつ、執着?さて、どうだろうか?
少し考える――あぁ、まぁ、そうなのだろうな、と漠然とだが納得はしたが。

「――単に斬れなかった未練でしかねーよ…あぁ、くだらねぇもんだけどな。
――性質が引っ張られる?そもそも、その『根本』が、どっかの特級の目隠し女と――風紀の上に半分ずつ抑えられてるからな。」

男の性質は、その能力があってこそ本来の形になる。
今の男は、言ってみれば不完全であり刃を収める鞘の無い半端なナマクラだ。
無造作に、再び釣竿を引き上げる――…僅かにその動きがぴたり、と静止して。

「そうかい、卒業オメデトウ――んで、馬鹿な俺のくだらん意見だがよ。
『妖精』がいなくなるなんてこたぁねーよ。テメェが望もうと望むまいと。
記憶から忘却しようが情報が抹消されようが、”残るモンは残る”んだよ。

…ま、俺の『恩人』のくだらねー受け売りだけどな。」

と、ひょいっと肩を竦めてみせてから釣り針を引き寄せて。
引っ掛かっていた一本のボトル――中には古びた写真が一枚入っており。

「………チッ、数年越しに嫌がらせかよ。」

呟いて、針から外したガラス瓶を軽く指先だけで『切り裂いて』写真を取り出す。

色褪せたその写真は――一組の男女が写っていた。
片方は、左眼に包帯を巻いたまだ左腕もあった頃の自分。
もう片方は、『顔』の無い少し年上の黒髪らしき女。

月夜見 真琴 >  
「未練? 未練ね」

面白いことを聞いたかのように、ころころと笑った。

「いいじゃないか。 "人間らしくて"。
 斬るという行為において、本来感情も執着も邪魔なだけ。
 なのにおまえはその未練とやらを、後生大事に抱えてしまっているんだ。
 せっかく人間に生まれたのだから、むしろそちら側に縁って行ってはどうかな」

変わるものだ。
恐らくは本人も知らぬうちに。喜ばしい変化のように思えた。
抱えること自体が苦しみになるような未練だとしても、思考停止するよりよほど好ましい。

「――わたし個人としては、なにも遺せはしなかった。
 《嗤う妖精》の実像をとらえられた者が、どれだけ居たんだろう。
 自分がどれほどそこに記憶を刻んだんだろう、わたしが話した相手なんて、数えるほどだけ。
 残って――それが何になるんだろうね、ああ、あなたなら"そんなこと知らねーよ"とか言いそうだけど」

価値なし。意味なし。
自らをそう定義づけること自体は簡単で、それは単なる事実として記録された。
必要のないものを処分する――"監視対象"のデータを残しておく理由もない。

「《妖精》はいなくなるよ。 だって」

月夜見 真琴 >  
妖精は存在しない。
最初から存在していない。
ゆえに、消えるのがさだめなのだ。

「――それでも残るものがあるというのなら。
 もしつぎの《妖精》が現れたら、世話してあげて」

あらわれるかも保証はないけど、と。
終わった話を追想するような穏やかさで、語った。
そして釣り上げられたものに、興味深そうに覗き込む。

「これはわたしが見てもいいもの?
 まるで釣り上げに来るのをわかってたみたいに流れてきたみたいだけれど」

追影切人 > 「――人間らしい、か。…それが良い事なのかどうか…俺にゃよくわかんねぇ。
…昔は、もっと単純だったんだ…ただ、目の前の物を斬って、切って、伐って、殺して。
ただ、『それだけのモノ』だったから、何事もシンプルでうだうだ悩む事も無かった。

――けど、こっち側に来て…何だろうなぁ。刃の切れ味は鈍ってんだが…それも悪くねぇと思っちまう自分がたまーに出てくんだよ。
――けど、やっぱりそれは俺らしくねぇっつーかしっくりこねぇ。
――結局、人に寄る辺を見出したとしても、俺の根本は変わらず『刃』なんだよ。」

馬鹿だから言葉足らずは承知の上で、そう語るのは――きっと、お互いが『出会った頃』に比べたら雲泥の差で。
刃が人に近づけば近付くほど、色々と考え悩み、同時に…自身の本質をやっぱり垣間見る事になって。

――くだらない、だとか。投げ出したい、だとか。
あぁ、色々そういう面倒なのを投げ出したい!と、思う事はあっても。
それを実際にしないのは、人に寄り添い過ぎたからだろうか?例えナマクラに成り果てても。

「――何にも、誰にも残らない。それって単純に何か寂しいんじゃねーの?
別に、残らなくてもいいもので、残っても重荷にしかならなくて、残っても無意味だとしても。
まぁ、そうやって『消えていった』ものなんざ無数にあって、そこに『妖精』が加わるだけなのかもしれねーがよ。

――実像でも虚像でも、オマエっつー胡散臭い妖精が居た事は俺は忘れねーし、忘れてやらねぇ。」

彼女のように口は上手く無いから、馬鹿に言える言葉はちょっと支離滅裂かもしれなくて。
それでも――ハイ、そうですかと。無意味価値無しだからと、忘れてなどやるものか。

…あぁ、そうか。俺は腹が立ってるのか。何でコイツに腹を立てているかは自分でも分からないけど。



―――だから―――


―――その、『真実』を聞いても―――


「――…いいぜ次の『妖精』がもし、俺の前に現れる時が来たら…俺が面倒を見てやる。約束する。」


その、『妖精』の真実を聞いても、僅かに歯噛みをしながらもそう、頷いて。

「――こっちの『顔』の無い女が俺の恩人。追影の苗字も元々はこの人のもんだ。
…顔が無いのは、能力の副作用で誰もその顔を認識できない…とかだったな。」

そして、隣は今よりも背丈が低く、獣じみた空気を纏っているが紛れもない自分だ。
左目が潰されている事から、こちら側に来て少し経過した頃の写真になる。

そして、徐にその写真を彼女へと突きつける様に差し出して。

「わりぃけど預かっててくんねーか、真琴。オマエにゃ関係ねーもんで良い迷惑だろうけどよ。
――俺が持ってるとうっかりバラバラにしそうでな……最初で最後の頼みだ。」