2022/10/08 のログ
ご案内:「浜辺―静かな一角―」に鞘師華奈さんが現れました。
ご案内:「浜辺―静かな一角―」に群千鳥 睡蓮さんが現れました。
群千鳥 睡蓮 >  
暦の上ではすでに秋が立ってはいるものの、この島の位置する場所では残暑の季節でも熱波が吹く。
神無月も半ばにさしかかろうとする日の昼と夕方の合間でも、
かろうじてまだ水着で繰り出すことが許されるほどには、暑く、そして過ごしやすかった。
遠くに聞こえる蝉の数は、もうずいぶん少なくなっている。

「バーベキューも久々だなぁ……今年の実家(ウチ)はすき焼きとかだったし……」

すでに火熾しの行われたグリル網の上に、先程二人で拵えた串を並べる。
何を隠そう――朝、いや昨晩から殆ど食べていない。
お腹が空いていた。それはもう、とっても。

「んー……華奈、焼きそばとか後でいいかな。スキレット置くスペースないかも……
 鋳鉄の上で豚バラ焼いてから、焼きそばってことでよかったよね」

片方のサイドだけ長く伸ばした髪、島に来たより少しだけ大人びた顔。
赤くなりつつある太陽を横顔に浴びながら、呼びかける。

表に出なかった夏の冒険の振り返りと、ひとときの遊興の時間だ。

鞘師華奈 > 秋も深まりつつあり、四季がある常世島でもまだまだ暑い日差しは衰えを知らない。
水着姿に夏物の衣服を羽織り、こうして浜辺を歩いているだけでもじんわりと汗が滲みそうな程度には。
それでも、蝉の声、遊泳で賑わう人の姿も疎らになり、これから先は本格的に秋、そして冬に移ろうのだろう。

「…そういえば、前は実家に帰省してたんだっけ?私はもう実家が無いから帰省の感覚が正直もう分からないな…。」

二人揃ってグリル網の上に野菜や肉を刺した串を並べつつ、そんな会話。
女も女で、午前中は片付けて置きたい事が幾つかあったので殆ど何も食べていないようなもので。

「そうだね、焼きそばに関しては…んー、ほぼ締めに回してもいいかな。
最初は串焼きメインで良いと思うよ。お互いお腹も空いてるしね…。」

ちらり、と赤い双眸を”相棒”へと向ける。心なしか大人びた顔立ちや雰囲気。
この年頃の男女は1年…いや、場合によっては数ヶ月で随分と変わるとは言うものの。

(…私はどうだろうなぁ。)

以前のように”怠惰”に感けた生活からは完全に変化したけれど。
自分自身の変化、というものは案外実感し難い事も多い訳で。

「…けど、まぁこういう時間は貴重だよ。裏常世渋谷の探索でも一緒だけど、お互い勉学や仕事もあるしね。」

睡蓮は教員資格を取る為に、女は公安の仕事に加えて最近は魔術のアップデートと――…

「…けど、まぁ私の”自分探し”の終着点は一先ず見えてきた気はするよ。」

語られぬ夏の冒険――色々あったが、決して徒労ではなかった事だけは確かで。

群千鳥 睡蓮 >  
「お正月とお盆は家族がみんな家にいるから、ちゃんと帰ってるよ。
 お土産のサブレ、ちゃんと食べてくれた?」

ネギが挟まれていたり、分厚くスライスしたタマネギだったり。
色気より食い気とはかくあるもの、という光景だが、
ホットパンツから伸びる白い脚の健脚ぶりは、そうした栄養が培ったものだということは言うまでもない。

「……あー、ね」

終着点、という言葉を聞くと、少し微妙な顔をする。
たどり着いたヒントがヒントだ。先に進むには、我がことでないにせよ躊躇する。
とりあえずビーチチェアを向かい合ってふたつ並べて、
飲み物の缶を投げ渡した。こちらは、珍しく炭酸飲料の。
ゼロカロリーということにせめてもの抵抗がうかがえる。
どこまでも平静だった。余裕であることが、自分に与えられた役目でもあると考えている。

「……お祝いには少し早いけど。
 ま、ひとまずお互いお疲れ様―ってことで、乾杯しよっか。
 委員会のほうもさ、……色々大変だったんでしょ?」

鞘師華奈 > 「勿論…と、いうかサブレなんて私は初めて食べた気がするなぁ…美味しかったよ。」

甘い物はそれなりに好きだし、偶に自分でデザートも作ったりはする。
けれど、普段から甘味を嗜む程ではないのでサブレの味は意外と新鮮だった。
そして、グリル網に視線を移す――色気より食い気、まさにその通りの光景だが今はそれでいい。
あと、我が相棒は相変わらずスタイルが良い…同じ女としては複雑なものを感じなくも無い。

「……睡蓮も幾つか収穫あったみたいだけど。」

自分を手伝ってくれているという形での同行だが彼女自身、得るものは少なくなかった筈だ。
些か歯切れの悪い返答に、僅かに小首を傾げながらも投げ渡された缶を右手でキャッチ。

(炭酸飲料…まぁ、ゼロカロリーにしたのがせめてもの、って所かな…。)

一度、缶と睡蓮を交互に見つつそう思う。そしてそこは口に出さぬのが華。
彼女に比べれば、見た目は冷静沈着そうな女は些か”乱れる”事が少なくない。
自分自身を探る為の探索ではあるが、空振りも相応に多かったのもあるだろう。

「…まぁ、公安の仕事なんて裏方みたいなものだからねぇ。
内容は流石に伏せるけど暫く落第街に張り込み、みたいな事もあったし。」

彼女も同じく缶を持ったのを確認すれば、「お疲れ様と二人の今後に乾杯!」と、軽く互いの缶を打ち鳴らせようと。

群千鳥 睡蓮 >  
「なんか今考えなかった?」

観察された気がする……手に持った炭酸飲料のプルタブを開けながらも、
眼力の強い黄金の瞳で、じっとりと彼女を見遣るのだ。
全然、そこまで気にするほどではない、はずだ、多分。

「……コーヒーより、これでしょっ!お肉焼くならさ……?
 だからほら、うん、乾杯!」

ぶつけた。グラスみたいにいい音がなるわけではないので格好はつかない。
合成甘味料の質も随分上がったが、それでも砂糖とは違う甘さで喉を潤す。

「訊かなかったことにしとくけど、ちゃんと帰ってきてくれればそれでいーよ。
 あんたが帰りたいって考えてくれてるなら、そういう風にして。
 ……ん、持ち帰った本、それっぽいのから……黙々読んでみた。うちには頼もしい同居人もいるし」

なんせ教師だ。そのうえ図書室に縁深い。教えを請うに最適といえる相手。

「華奈って子供の頃どんな子だった? ……あ、うん、えっと。
 自分でわかる範囲で、こたえられる感じでいいからさ」

串を裏返す。まだ焼きが甘いか……元に戻す。
お腹がすいたので、生で食べられる燻製とかなかったかな、とカバンをあさりだした。

鞘師華奈 > 「ああ――睡蓮、年々スタイルに磨き掛かってるよなぁ、と。」

嘘ではない、そう思っているのは本当だ。ただ、ちょっと視線が露骨過ぎたのは否めない。
こういうノリをするのが、そもそも女には珍しいが相手が睡蓮だけなのでノーカン、にはならないか。
眼力強めの黄金瞳を、物静かな真紅瞳で見返す…目力は彼女ほどないが、しっかり視線を受け止めて。

(…嘘とか咄嗟に誤魔化しても睡蓮は気付くだろうし、なら素直にぶちまけるのが一番良いだろうし)

と、思い乍も肝心な所は溜め込んだり背負い込んだりしがちなのが女の悪癖の一つでもあり。
あと、まぁ確かに珈琲好きであっても、ここでそれを飲むのは場違いなのは理解している。

「――…ん、炭酸飲料飲んだのも久々かも…でも、偶に飲みたくなるんだよね。」

普段、珈琲、お茶、水の三択しかないので尚更に。メインは勿論珈琲だが。
ちびちびと炭酸飲料を口に運びつつ、睡蓮の言葉に小さく頷いてみせた。

「…分かってるよ。ちゃんと”ここ”に帰ってくるからさ。そこは見誤らない。
…そっか。それなら良かった。睡蓮には時間確保して結構探索付き合って貰ってるしさ。」

負い目、という程では無いがそれに見合うリターンは彼女にあればと思っていたけれど。
子供の頃、と聞かれれば少し考えるように宙を見上げる視線。

「…んー、10歳頃までは異邦人街で両親と普通に暮らしてたけど…。
そうだな…今の私よりはかなり好奇心旺盛だったかなぁ。
父親が異世界関連の研究者だったから、そういうのも結構興味示してたかも。
あと、同年代の異邦人の子たちと遊んでたから、異邦人に対して抵抗は全く無かったかな。」

あまり子供時代の事は語った事が無いが、そういう機会が無かっただけだ。
語る事に抵抗や後ろめたい事は無いようで、女の表情や視線は至って平静である。

彼女がカバンを漁り出したので、代わりに女の方で串を一本ずつ裏返して焼き加減を確認しつつ。

群千鳥 睡蓮 > 「…………」

じっとりした目はそのままに、太腿をしっかり閉じてパーカーの裾を引っ張ってカバーするのはしょうがない。
そういう部分では"進んで"いない。性的な事象への興味、そもそも恋愛感情とは。
焦らしすぎはよろしくないという知識もないまま、とりあえずそんな段階からは進んでなかった。

「カフェインは入ってるやつだし……なんか冷えてると爽やか。な、気がする。
 味の濃いものとこれが……よく合うんだよ、ほんと」

それでも美味しいもの食べたり飲んだりすると機嫌は良くなるのだった。

「あたしとしても、興味深い場所ではあるよ。
 そもそもなんで"裏側"にいくと体の調子が良くなるんだろう、とか。
 未だにわかってないけど、とりあえず、あの裏側でしかお目にかかれない事象も多い、し」

ひと夏、どころかそろそろ一年も経つ常世渋谷の裏側の探索。
少しずつ……ではあるが、"古代図書館"の解読は薦められていた。

「んー……」

いかの燻製を煙草のように咥える――吸わないほうだ。ぴこぴこと揺れる。

「じゃ、ちっちゃいころの華奈のこと知ってる人が、異邦人街にいるかもなんだ。 
 意外~、なんか、こう、人と楽しく遊ぶ、ってのしてなさそうな感じした。
 ……あー、いや、アレだよ。 華奈の体のこと……。
 寝てる時ちょっとおかしいとか……最近、急に眠くなったりだっけ?
 子供の頃から兆候あったのかなって。あらためて確認ね。
 そこが、そうなった時から、で間違いないのかなとか」

自分の髪の毛を撫でる。
ちょうど、鏡写しで、彼女の髪の一房、艶のある黒のなかに目立つ赫の一筋の場所を。

鞘師華奈 > (睡蓮、こういう所は相変わらずというか何と言うか…)

知識に貪欲とも言える相棒だが、そっち方面は…本人の為にもこれ以上の思考は止めよう。
むしろ、そっち方面の知識を蓄えてしまったらどうなるのか…恐ろしいような知りたいような。

「…清涼感、って奴なのかな…あぁ、炭酸系は味の濃いものとか揚げ物に合いそうではあるね。」

普段あまり炭酸飲料は飲まないし、お酒なども当然飲まないが睡蓮の言葉には同意するように頷いて。
彼女の機嫌が良くなって来た事には内心で安堵していたのは言うまでも無い。

「…そういえばそうだ。私はあまり変化は無いけど…そこは正直気にはなる、かも。」

それについては彼女から話は聞いていたが、未だにその理由は未解明だ。
裏常世渋谷は人間が長く留まれる場所ではなく、ましてや留まり続けていい場所ではない。
それなのに調子が上がるのは――適応しているのか?あるいは何らかの特異体質、だろうか?
と、つい考えに耽りそうになるが、今日の趣旨を思い出して肩の力を抜く。

女の方は、肉より先に焼き上がった野菜中心の串を手に取りつつ。

「…今の私と昔の私じゃ正直かなり違うと思うよ。
まだ落第街の生活を経験して無かったから平和なもんだったし命の危険も無かったからさ。
昔の知り合いは――どうだろう、そこはちょっと記憶が曖昧だけど多分探せば居ると思う。

――あぁ…うーーん…。」

後半の質問に、野菜の串焼きを頬張りつつ…咀嚼して飲み込んでから口を開く。

「…それっぽい兆候があったのは”両親が死んで”からかな。その後に私は落第街に渡ったんだけど…。
ただ、明確に酷くなったのは――”一度死んでから”だと思うよ。
こっちに運び込まれて目を覚ましてから…何だろう。上手く言えないけど…。」

覚えている範囲の記憶を探るように確かめつつ答える。
正直、幼少時の記憶は兎も角、死ぬ”前”の記憶は飛んでいる部分もある。

「――以前の私とは何か”違う”っていうのは漠然と感じてるんだ。
体は人間のままだし、精神も別に変化は無いと思う。けど、なんか違和感はずっとあるみたいな。
…これに関しては、明確にこっちに来てからだね。確か子供の頃や落第街時代は普通に全部黒髪だった。」

――覚えている記憶に齟齬が無ければ、ではあるけど。

群千鳥 睡蓮 >  
「多感な時期だもんね。 あたしが言えたことじゃないけど……」

まだ焼けない。遠火なのか……?また串を裏返す。こんなに時間がかかるものなのか。

「……なんかこんな時にそんな話させるの、悪い気はするんだけど」

平然と話してはくれるのだけど、実家、という感覚がわからない彼女に対して、
家族の死、というものを過去として語れる感覚は、自分にはわからない。
辛くないの、とは間違っても聞けないから、前置きもそこそこに本題に移る。

「異能が目醒める際に、臨死体験、交通事故とか、病院送りとか。
 あとは死ぬ……! ……って強く思い込んだりする時とか、結構症例があるんだけど。
 そもそもあんたの……。 そう、炎ね。
 あんたの異能じゃないんだよね、周囲の疲労を引き受けるのがあんたの異能……個性」

なかなか火が通らない串を網から取り上げる。
彼女に向けてみた。

「それが外付けの何かだ、って推論で、お互い一応落ち着いてたと思う。
 あんたじゃないあんた、に、一回変な声かけられた――ってのも話したよな。
 たとえば、二重人格のそれぞれが違う異能を持ってる、って人も、中にはいるらしいけど。
 ……論文とか、そういうので読んだっきりなんだけどさ……これ、焼ける?」

彼女の火力の調整がどのようなものか。
串から少し顔を離してみた。周囲に人気はない。丁度いいだろう。

鞘師華奈 > 「…むしろ、睡蓮が達観しているとも言えないかな…。」

そっち方面は兎も角として。それ以外は自分よりよっぽど大人びてしっかりしている。
野菜は兎も角、肉は火の通りが悪いのか火力が弱いのかまだ食べ頃ではなさそうだ。

「――いや、もう両親が死んだ時に一生分泣いたし頭の中がぐちゃぐちゃになったさ。
ただ、こう…私が薄情なだけかもしれないけど。もう過去は過去って自分の中で消化しちゃってる感じ。」

両親の顔も、名前も、声もしっかり覚えてはいるけれど。
写真などの記録媒体は手元に一つも残っていない。
自分の記憶の中にしか、両親の存在も子供の頃の自分も残っていないのだ。

「――そうだね。私の固有の異能はあくまで疲労に関するそれで、発展系もそれっぽい力だし。

――炎に関しては、完全に後天性というか後付けだろうね。
少なくとも、子供の頃も落第街時代も使えなかったし。」

そもそも、炎に関わる事象と縁が深い訳でもなかった―――筈だ。
子供の頃の、両親が”焼け死んだ”記憶がフラッシュバック――一瞬、僅かにだが苦痛に顔を歪めて。

「…あぁ、私はその『声』に全く心当たりが無い。
ただ、炎もそうだけどその『声』も明らかに私が一度死んでから”後”のものなのは確か。
――焼けると思うけど、普段全く使わないから火力調整はどうだろうな…。」

彼女が差し出した串にまず視線の焦点を合わせる。
軽く集中すれば、一部だけだった赤い色彩が黒髪を上書きするように赤く染めて。
――何の前触れも無く、音も気配も無い。突然串の部分が軽く燃え上がる。

不思議な事に、それは燃え盛っていながら輻射熱などを発していない。
そして、発火が収まれば――丁度良い具合に焼けた肉の串焼きがそこにあるだけ。
ふぅ、と息を零しながら全身の力を抜けば元の黒髪へと戻っていく女の姿。

「…何とか出来たよ。普段使わないから調整が難しいけど。
これだけだと、普通の発火能力とあまり変わらない気はするけど…。」

群千鳥 睡蓮 >  
「でも、炎っぽい気質はある、と思う。 華奈は……」

一気に燃え尽きると灰になるところも。
燃えたいと燻るようなところもだ。
思えばあの落第街で再会した時だって――そうだった筈。
共通の友人と少しだけ長い別れをしたあの時。
火をただ単に熱く燃えるもの、ととらえるのは、どちらかといえば短絡で。

「……精密性も高いよね、熱ちっ、……中まで火が通ってる」

一番上の肉を口に運んでみて、噛んでみる。
そう高級な肉でもないけど柔らかくて美味しい……そのまま相手の口元に串を差し出す。
そもそも食べてないのは相手も同じ、こちらが話すときは相手に食べててもらおう。

「バードイーター、あのばかでかい鋼鉄の蜘蛛を相手にしたときよりも扱いが達者になってる、っていうか……。
 正体もわからない、外付けの炎を、こんな上手く扱えることってある?
 ……ま、まあ、異能、ってもの自体、まだ殆ど理屈も解明されてない超常能力だ~、ってのは、
 横においとくとしてもさ……そこらへんは、基本的には、本人に備わったものじゃん……」

少し考えて、視線をぼんやりと炭火のほうに向けながら。
考えながら喋る。沈黙のあと、せきを切ったように話し出すのが、個性。
言ってしまえば、悪い癖、のところではあった。気をつけてはいるが、込み入った話になるとどうしても、こうなる。

「類型的な話ではあるけど、異能ってなんでか備わったり、使えるようになったりってのが多くて……。
 と、いうか――説明がつかないことの多くを"異能"ってくくってるだけで……、
 きっと色んな……のがあるんだ。百年、二百年って経てば、体系化できるのかもしれないけど……
 ……ちょっと話が脱線したな、ともかく"異能"って、"使いこなせるようになろう"としても、
 そもそも"使えるようになろう"で狙った異能を習得したり覚醒したりすることってないじゃん?」

不意に目醒める天稟だ。人為的な異能の覚醒、付与の研究も、進んでいるとは聞くが。
多くに至って解明には至っていない、不確定要素だけで構成される、人類の進化形態、あるいはその過渡期。

「……狙った特殊能力を、使えるようになる。 学問が――ある、よね」

くるり、と串を裏返す。
睡蓮は、あくまで学問として学ぶだけで、使用することはできない分野だけど。

鞘師華奈 > 「…どうだろう。…いや、でも否定は出来ないかな…。」

一瞬考え込みはするが、直ぐに納得したように頷いた。
自分の気質を完全に理解している訳ではなくとも、心当たりはある程度あったから。
――ふと、思い出した友人の顔に一度ゆっくりと深呼吸…そう、こういう所だ。
本当は感情豊かで、ともすれば激情に近い揺らぎを見せるにも関わらず。
普段はそれを押さえ平静を保とうとしていて、今ではそれが普通になっている。

「精密というか…何だろう、この力を使う時は集中するのは当たり前として、こう…。」

言葉にどう表したものか、と迷いながら火のしっかり通った肉の串焼きを頬張る睡蓮を見遣る。
再び口を開こうとした所で、口元に串を差し出されたのでこちらもパクリ。もぐもぐと咀嚼…うん、美味い。

「…ん…えーと、精密というか私の意志じゃなくて”勝手に照準が定まってる”…みたいな?
何と言うか、私が力を操作してるというより、力に意思があって私の意志に応じて動いているというか。」

彼女の考察癖はよく知っているので、これもまた一つの材料足りえるだろうか。
炎は単なる力の発露ではなく、それ自体が自我に似たような何かを持つ。
女がそれを自在に操るのではなく、炎が女の意志を反映して力を発揮する。
それは二重人格とは違うけれど、女に”憑依しているかのような”感じで。

彼女の癖を理解しているのもあり、そこで一度聞き役に回って別の串を手に取る。
流石にもう能力を使わなくても焼けてはいるようで、それを軽く頬張りながら言葉を待ち。

「――私の炎は、私が使いこなそうとしなくても力を発揮するし狙いも正確。
そもそも、暴走じみた危うさを感じないのもあるかな…何というか、体の一部というか溶け込んでいる感じ。」

ただの発火能力ではないのは流石に分かっている。
だが、後天的に身に付けたのならば、何らかのトリガー…原因がある筈だ。
とはいえ、女は心当たりが無い。矢張り自分が一度”死んだ”時…あるいはその前後。
可能性としてはそこで身につけたのが一番しっくりと来る。

「…私は魔術方面の学問中心で、異能方面の分野は正直あまり詳しくは無いけど…。
そういう学問は確かにあるし、研究成果もある程度は出ていた気はする。」

ただ――そういう人の力、人為的な付与は自分には該当しない気がしている。
もっと違う別の”何か”が己に炎の力を与えているような気がしてならないのだ。

群千鳥 睡蓮 >  
「つまるところ、魔術的なアプローチってこと。
 異能は進化、あるいは変化で、魔術は神秘。 ……勝手な印象だけどね」

教鞭を振るうようにして、言葉の補足をする。
居眠りをする生徒を指名した後のようにして、彼女が食べ終えたところで、こちらも新たな串を手に取る。

「とはいえ、ほら、学問。として広く通じてるのより少しだけ……外法よりのやつ」

当然、それを教えているゼミもあるのだろう。
多大なリスクがある。

「獅南先生の教室に入れればなぁ……、もっと詳しく話を聞けるんだろうけど。
 魔術不能者に、あそこは心理的な敷居が高すぎるんだよな……」

自分の唇に指を触れ、とんとん、と叩く。思案顔。
なんと言うべきか、と考えた後に、顔をあげる。
黄金の双眸でじっとみやった。

「有名な戯曲にも、あるでしょ。
 とある博士が、召喚したモノと何がしかの……契約を交わして。
 人智の及ばない偉業、を」

串にかぶりつく。よく焼けている。
炎の制御。かつて、人間のみに許されていた筈の、知恵ある存在の所業。

「成し遂げる……だとか?
 あんたのこと考えながら裏側をふらついてた時、みつけてあ本に書いてあった。
 契約とかじゃなくて、こう、人体に直接降ろす感じの……
 降霊術っていうか召喚術というか……そういうのが。 
 いまいちしっかり混ざってない感じも含めて、その方向で一端考えてみていいんじゃないかな、とは
 ………うん、思うかな……」

少し歯切れが悪いのをごまかすように。

「きっと何かに巻き込まれたんだね……熱ち」

串を噛む。ねぎの熱いトコロが飛び出してきて、眉根をぎゅっと寄せた。

鞘師華奈 > 「…進化と神秘か…どちらかといえば、私の炎に限れば後者の感じが強いかな。」

進化、というなら既に自分の本来の異能が一つ上のステージに達している。
滅多に使わないし、そもそも自分の異能はまた癖があるので多用は出来ないものだ。
対して、この炎は何と言うか最初から既に進化を終えている…つまり、完成している気がした。
それでいて、普通の炎とは明らかに違う特徴を持ち、意志じみた何かを備える…と、なれば、

「――外法の類なら、私が所属していた違反部活の一人がそういうの通じてたけど…。
私はその人から学んだ覚えは無いし、何かされた覚えも無いしなぁ。既に故人でもあるし。」

ふと、彼女の言葉にそんな事を思い出す。そもそも外法に突っ込んだ分野なんて曰くつきやレッテル貼りも多かろう。

「――私自身が彼の教室に入る、という手も無いでは無いけど…正直遠慮したい。」

何とも言えない表情を浮かべて、これもまた心理的な敷居の一種だろうかと。
口直しと気分を切り替える為か、炭酸飲料をわざと豪快に煽りつつ。

「――降霊術や召喚術……自分の体に”何か”を降ろす――…。」

ふと、神妙な表情で呟きながら目を細めるが、不意にきりきりとした頭痛が頭を襲う。
「いった…」と、串を持っていない片手でこめかみ辺りを軽く押さえて。

「…あぁ、くそ…今、何か思い出せそうな気がしたんだけど…。」

悪態を零す。睡蓮の言葉から、曖昧な記憶の一部が刺激を受けたのだろう。
ただ、明確に思い出す前に拒否反応なのか、頭痛によりそれも遮られてしまった。
気を取り直すように、再び…今度は野菜と肉が半々の串を手に取りつつ。

「…確かな事は、死んだ筈の私が蘇っている事、炎の力、あと謎の『声』もか。
…それが関連性が確かにあるって事くらいかな。
あと、多分だけど召喚か降霊術か似た別の何かか分からないけど…。」

そう、彼女が口にした通りに。認めるのも複雑だが。

「――私自身を依り代か、もしくは媒介にして何かを宿らせられた。
髪の一部変色とか、急な眠気は副産物か後遺症かは分からないけど。
覚えている限り、昔の私はその手のものと縁は無かったから、誰かの企みか実験に巻き込まれたって所かな。」

自分の事だが何処か他人事のように。公安に所属してそれなりに調べ物や観察する事が増えた弊害だ。

群千鳥 睡蓮 >  
「無理に……!」

少しだけ声を荒らげた。

「……ああ、うん」

正体を取り戻して、網の外側に持っていた串を置いた。

「無理に、思い出そうとしなくても……いいんじゃない?
 大事なのは、いま、華奈の体がどうなってるか、であって。
 過去になにが起こったか……じゃ、ないと思うんだよね。
 あんたの目的は、あくまで、これからの為、でしょ……?」

なだめるようにして、肩に手をふれる。
頭痛はなにか、封をされているものが流れ出ようとする作用によったものか。
その封をより強固にするように、顔を寄せて、言い聞かせる。

「あたしがそうなりがちだから、言えたことじゃないんだけど……
 考えすぎて、目的に対して、迷子になっちゃ……駄目だと思う。
 あんたに何が宿ったのか、長期的に観てどういう影響があるのか。
 それを剥がすことができるのか、……そして、制御や解除においてどれだけ魔術師の協力が必要なのかとかさ。
 こたえは多分、過去にはないから。 ……ね?
 ぜんぶ落ち着いてから、探せばいいんだよ、過去は……、そうでしょ?」

肩から頬に手を触れる。
ぴたぴた、と軽く指で頬を叩いて。つとめて優しい声をかけるのだ。
それはある意味、彼女を霧の中に誘う不義理だったのかもしれないが……信じて、と瞳が訴える。

鞘師華奈 > 少しだけ声を荒げる睡蓮の様子に、彼女には悪いが少し笑ってしまう。
本当、彼女が相棒で良かったと思うのだ。「ごめん、笑う事じゃなかったね」と、軽く頭を下げて。

「――確かにそうかもしれないけど…何か、こう、うーん…?
……まぁ、そうだね…うん、私は私の物語をしっかり歩む為に、これからの為に自分に一区切り付けたいんだから。」

宥めるように肩に触れられて、そちらを見る赤い双眸は比較的落ち着いたもの。
ただ、先程の思い出せそうで思い出せなかった”何か”に対する未練はあって。
それでも、睡蓮の言葉と自分自身の誓いを思いだし…”ソレ”は再び曖昧な記憶の海の底に沈む。
彼女に言葉で言い包められている、とも誘導されたとも言えるがそこに気が回る様子は無い。

「――ごめん、私の悪い癖が出たっぽいね。
どうも、焦ったりもどかしいと突き詰めようとするというか。」

彼女が制止しなければ、頭痛を無視してでも何度も思い返そうと記憶の海を探ろうとしただろう。
――結果的に睡蓮の手でそれは回避された。”事実”を一端でも今の女が知れば…心が持たない可能性もあった。

「……大丈夫だよ。もう落ち着いたし…ちゃんと今とこれからを見据えてるから。」

肩から頬に手を添えられ、指先で頬をピタピタ叩かれれば小さく笑って。
彼女の瞳が訴えてくるそれは伝わっているし、大丈夫だと改めて頷いてみせる。

それが、記憶の海に沈んだソレごと深い霧の中に覆い隠すとしても、今はそれが良いのだから。

群千鳥 睡蓮 >  
「ッッ……」

笑われると、流石に赤くなって、それから拗ねたように視線をそらす。
ふん、と鼻を鳴らす。勢いづいたのは確か、だ。

「……わかってる。
 もし、区切る時に、引っ掛かりが残ってちゃいけないから。
 でも今では――ないでしょ。 まずは、ちゃんと、"現在"を、識ること。
 ……あたしにだって、わかってないことはあるんだよ?
 不安とか興味とか、でも今は……考えないようにしてるっていうか、みえないようにしてるっていうか」

"裏側"に適応する肉体のこと。こちら側で歩くには何ひとつ不自由していない。
自分の両目が視てしまう白黒の世界のことだって、自分は由来も把握していない。
こちらで歩くには、夢を見るには、不自由していないから――
不吉な予感から、つい彼女を遠ざけてしまった。

「……、だから、その、なんだろう。
 全部、そういうのわかって、それでも……、あんたが望んで覚悟をするなら、
 あたしは、あんたが過去を遡っていくのにも、付き合うよ。
 今は――アレじゃん、あたしも居るじゃんか。 だからさ」

つい、それだけ、になってしまいがちだ。
……それほどに、眼の前のパートナーが懐く現在への不安や、過去への好奇は強いものなのだろうと。
理解はしている。ずっと目を背けてはいられないことも知っている。
運命はそう告げているからだ。

「ゆっくりやってこう。急がなくても。今は安定してるんだし。
 ……またふたりで探してこう、ね?」

終わりは近いのだろう、と理解はしている。
火の粉を立てる炭火はまだついたばかり。
新しい肉を、ひょいと並べて。

「思ったより、……ふたりでいるときにさ、
 あんたが過去のほうに目を逸らすと、不安になっちゃうんだよ。
 ……それだけ、ほんとに」

横顔を照らすあかりは、いつしか赤く。
夕方にさしかかりつつあるなかで、手元の串にかぶりついて。
実のところ。
真実、というものに、いくらか見当はついていて。
彼女が膝を折ってしまうのが――恐い、のだ。

それを受け入れられるというほど、未だ、目の前の存在の強さを、信じられてはいなかった。

鞘師華奈 > (…あ、いけないちょっとハグしたくなってきたかも)

下心とかではなく、何この可愛い相棒!?という暖かな気持ちが沸々と沸いてくる。
だが、ここはそれをグッと堪える。そもそも自分の為を思って声を荒げてくれたのだし。

「そうだね…自分でも分かってるつもりだったんだけど。
今が一番大事で、未来を見据えて私は自分探しをしている筈なのに、過去もやっぱりふと探りたくなる、遡りたくなる…と、思ってしまうのは。
…やっぱり子供時代に未練があるのかなぁ、とも思うんだ。」

もう取り戻せない日々を、まだ無邪気な子供でいられた頃を。
どんなに望んで足掻いてもそれは戻らないし、戻ってはいけないのだ。
何故なら、それは今を捨てて未来を否定する事になるのだから。それだけは絶対に駄目だ。
それから、ふと半眼になってじとー…と、睡蓮を見る。

「…と、いうかさ。私が助けられてばかりだから、私も睡蓮をもっと助けたいんだけど?
…まぁ、出来る事なんてあまり無いだろうけどさ。
――別に根掘り葉掘り追求はしないけど、睡蓮だって色々抱えてるというか…まぁ、そういうのは私でも分かるよ。」

と、普段は出さない不満げな表情をしつつポツリと。
相棒としても、すきな人としても睡蓮の悩みや不安を解消する手助けくらいはしたい。
それが今ではなくても、いずれそうなりたいと思っている。

「…まぁ、睡蓮を不安な気持ちにさせてしまうのは私の”こういう所”が悪いんだから気をつけないとなぁ。
…分かってる。その時は付き合って貰うよ――私一人じゃ心が折れそうだし。」

そう、口にする女は苦笑じみた笑みと共にひょいっと肩を竦めておどけるように。
だが、女も薄々無意識に分かっているのだろう。真実は残酷であり、女が背負うものは軽くない。
何も支えが無くて、何にも頼れなくて、それこそ縋るものさえ無ければぽっきり圧し折れてしまう程に。
そんな、自分の弱さを自分が一番理解しているけれど。

「――ん、だから睡蓮は頼りにしてる…けど、頼りっぱなしじゃ相棒じゃないだろ?
さっきも言ったけど私が睡蓮を助ける側にもなりたいし…いや、訂正。必ず助けるし。」

それが出来るかなんて、そんな時が来るかなんて分からないとしてもだ。
肉を並べる彼女の手元を見つめながら、今少し自分に付いて考えてみたいけれど。
今はそれは後回しだ。彼女の言葉に視線を睡蓮の顔へと戻して。

「――だったら、その不安を少しでも解消させてあげられるように私が頑張らないとね。
…大丈夫だよ睡蓮。何があっても…私は私で、君と肩を並べて今を見て、明日を夢見るから。」

今は口約束しか出来ないけれど、それで終わらせずに必ず果たす為に。
女は自分の強さは知らないが、弱さはよく知っている。だからこそだ。

夕方に差し掛かる茜色の色彩の中、また1本串を手に取りながら。
不安なのは自分だけではないし、彼女にだって悩みや葛藤は色々あるのだ。

「――私は、私が”すきな人”の傍に絶対に居る。君がどう思おうと宣言させて貰うよ。」

などと、格好つけて言いながら串焼きを頬張る。…熱い、けど我慢だ。

(私の自分探しだけじゃなくて、睡蓮の事ももっと知っていきたいし。)

群千鳥 睡蓮 >  
「黄金時代、的な?
 ……あたしは今がそうだからなぁ、子供のとき……もっと小さい時、あんまりいい思い出がなくて。
 じゃあ、でも、そう、もしかしたら……なにか置き忘れてるのかもしれないね。
 取りに戻るのは、いますぐじゃ、なくても……」

懐かしむように夕日を眺める目。唇にはどこか苦い笑みが浮かぶ。
幼少期への未練。あるいは、戻りたい、という気持ちに、思いを馳せる。

「いつかあたしも、たとえば、今日この日に戻りたいって思う日が、くるのかな……」

悔いのないように、いつ運命が訪れてもいいように。
生きてはいるつもりだ。それがこの目と、世界と、恩へ報いるものとして。
そこで妙な視線を感じて向き直ると、ふ、と唇を笑ませて缶に口をつける。

「順番順番。 そゆのは……あんたのことが片付いたら、さ……。
 裏側の奥の方に、興味があるんだよ、それだけ。……ありがと」

パートナー、相棒、と言いはするが、いまはこちらが手を引く立場なのは、
そうでいられているだけ、に過ぎなかった。

「誰だって抱えてるでしょ、生きてれば……秘密とか、なんか体のこと……とか。
 でもそれが、解決できたり、折り合いつけられるんだったらさ、
 ゆっくりでも、向き合ってやってくしかないんじゃん、だから……さ」

焦げない程度にあげた肉にかぶりついて。
そんな顔で彼女の言葉を受け止めることになる。
歯の浮く台詞に――少しだけは耐性はついたけど、まだ少し赤くなって。

「……一丁前にぃ~。 ……はい、わかりましたよ、有り難く宣言を頂戴しておきますぅ~」

笑ってごまかすようにして、串にこちらもかぶりついた。
今はまだ、特別な言葉を交わさないと安心できないような間柄だ。
そんな不安定で幼い関係性だからこそ、同じ場所に立てている。
いつまで同じものを視てられるんだろう、なんて、確実にめくれていくカレンダーに思いを馳せたりもするんだけど。

「お礼ついでに、奮発した帆立でも焼く?
 バターも高いやつ買ってきるけど。 ……ほら、食べよ。ね?」

クーラーボックスには、まだまだ。夜が暮れても食べたりない、子供の尺度での贅沢の数々が。
どうやら彼女は、そばにいることに、いろいろ頑張ってくれるつもりではある、らしい。
彼女の想いへの応え方は、いまはまだわからない。
――でも、以前なら一笑に伏した彼女の意地というものに、少し期待してもいいのかも、なんて思ったりもした。

鞘師華奈 > 「――置き忘れているのが何なのかは分からないけどね。
…と、いうよりそれを探る余裕は正直あまり無いっていうのもあるけど。」

核心がまだ掴めぬ焦燥、己自身の体に対する漠然とした不安。
けれど、無理をして突き詰めても結局、何処かで頓挫するとは分かっているから。
過去は過去として、改めて今を生きる者として見据えるのは後ろではなく前なのだ。

「――きっと来るさ。…少なくとも、私はそう思ってるよ。」

笑って、懐かしんで、話の肴にでもなればこれ幸い。
自分に訪れる運命を、課せられた理不尽な業も女は理解していない。
漠然と気付いてはいるが、それは無意識なもので彼女自身がしっかり意識する事は無い。

「…私の事が何時片付くかにもよるけど、焦ってもしょうがないしね…。ん、どういたしまして。」

裏側の奥――浅い部分ですら不可思議な、その深奥には何があるのか。
睡蓮の好奇心を満たすものがあるのかどうかは分からないけれど。
――”あの場所”ならそれもきっとそんな心配は無いだろう。
何故なら、その深奥までの道のりは一筋縄では行かないだろうから。過程すら波乱万丈だろう。
炭酸飲料にまた口を付けながら、炭酸の刺激と清涼感は気分転換には丁度いい。

「…そうだね…そうだといいな…。私は自分が結構脆いのを自覚してるから…。
何と言うか、真実が明らかになって、上手く向き合えるかも折り合いを付けられるかも分からないけど。
…でもまぁ、その道を選んだのは紛れも無い私自身の意志でもあるし。」

だから、今はまだはっきりしない自分の肉体の事も、失われた記憶に何があったのかも。
時間はまだ掛かるだろうが必ずはっきりさせて――私は私にケリを付けて前に進むのだと。
もう、何度も己に言い聞かせて宣言してきた事だ。違える訳には行かないし目を逸らす訳にもいかない。

「うん、そうしておいて貰えるかな。自分で言っててアレだけど恥ずかしいねこれは。」

と、笑いつつも言いたい事はきっちり言った、とばかりに割と満足げな表情である。
とはいえ、その表情の変化は淡いもので睡蓮くらいしかおそらく分からない変化だろう。
自分の事に手一杯で相棒のことに気が回らない、というのは…止むを得ないとしても自身が許せない。
だから、ちゃんと相棒の事を”見て”もっと”知る”為にも。まずは自分自身を”はっきりさせる”。

「ホタテとはまた豪華な…バターも高めとか奮発したなぁ。
じゃあ、お言葉に甘えて。」

カバンに割とぎっしり色々食材が…と、いうのは気付いていたがまだまだありそうだ。
彼女の言葉に甘えて、次のメインはホタテに決まった瞬間でもある。
焼きそばについては、アレは締めの逸品なのでまだ出番は先になるだろう。

「…まぁ、でも。きっと多分そう遠くは無い未来になると思う――私が黄泉の穴に行くのは、さ。」

ぽつり、と零す。鞘師華奈が”死んだ”場所でもあり、蘇った場所。
いずれ、必ずあそこには足を運ばなければいけないとはずっと思っている。

だが、今はそれよりも目の前の事だ。「睡蓮、良い醤油もあるんだけどこれも掛けると美味いよ?」
と、魔術で取り出した高級醤油をホタテとバターに上乗せして舌鼓を打ったのは割愛しよう。

ご案内:「浜辺―静かな一角―」から鞘師華奈さんが去りました。
ご案内:「浜辺―静かな一角―」から群千鳥 睡蓮さんが去りました。