2020/08/16 のログ
ご案内:「常世神社【夏祭り期間】」に九十八 幽さんが現れました。
■九十八 幽 > ひらり ひらり
蜩が物悲しげに泣く雑木林から ひとつの烏揚羽が躍り出る
夕闇から脱け出たような漆黒の羽根を羽ばたかせ ひらりひらりと屋台の立ち並ぶ境内を周り
やがて隅の方にひっそりと設えられた ベンチの端にすい、と留まった
「──……んん ──ぅ」
そのベンチに静かに腰掛けていた人影が 僅かに身動ぎをした
いつからそこに座っていたのか 境内の誰も知る由が無く
恰もそこに居るのが当然であるかのように在った 男とも女ともつかない青年は静かに目を醒ます
「……嗚呼 随分と長い夢をみていたようだね」
小さな欠伸を指先で隠し 伏せていた顔を上げる
それと時同じくして ふわりと再び舞い上がる烏揚羽
■九十八 幽 > 静かに辺りを見回して 今自分の居る場所を確認する
少し離れた参道に居並ぶ屋台 夕方の風に乗って聞こえる囃子
緋に染まる本堂を見上げ どうやら神社に居るようだと確認して
「どうして神社になんて居るのだろう 確か ええと……──」
学校にて職員に自分の記憶喪失を伝え 自分が何者であるかという調査を依頼して
その帰り道にふと思い立って 学生街へと足を運んで
その後の記憶が どうにもあやふやになっている
「記憶喪失になる癖でもあるのかな だとしたら困るね
ううん でも ぼんやりと何か覚えてる
何処かへ行って 誰かに会って そうして戻ってきたような」
霞がかった様な記憶が さらに形を失っていく
自分の姿を見下ろせば 学校に行くからと着た制服姿
着流しも雪駄も 涼やかな音色の鈴も無く
「──……うん どこも変哲のない」
ぽつりとひとり呟いて そうしたら急に身体を倦怠感が覆う
ううん、と小さく呻きながら 大きく背伸びをして気怠さを追い払えば
僅かに残っていた記憶の欠片も ふわりと風に流された
ご案内:「常世神社【夏祭り期間】」に修世 光奈さんが現れました。
■修世 光奈 > 空いた時間に…神社から、祭り中の探し物係の依頼を受けた光奈。
私服姿ではあるが…祭りに参加しているお客さんの落とし物を探す役目だ。
元々の能力とお祭りが楽し気なのもあり、仕事は捗るが。
あるお客さんが、財布を落としたというから、それを探していたところ
参道から外れたベンチに、誰かが腰かけているのを見つける。
今は祭りの真っ最中だ。
参道を浴衣や私服で歩く客が多い中、制服姿は目立つ。
しかも、暗がりとはいえ…その姿を見ても性別が判然としない。
疑問に思って、遠目から良く見ても、やはりよくわからない。
疑問とは、好奇心に近い感情だ。
それに導かれるまま、少し制服姿に近づいて。
スニーカーが土を踏む音が小さく響くだろう。
「あのー。迷子とか…ですか?もし誰かと待ち合わせてたなら呼びかけとか、してもらえると思いますけど…」
そして誰か…遊びに来ている人とはぐれたのかもしれない、と心配になり、一応声をかける。
取り越し苦労ならそれでいいのだが、そうでない場合が不安だった。
■九十八 幽 > どうして神社に居るのか その理由さえたった今消えてしまった
それでも祭りの雰囲気に目を眇め もう少しだけここに居ようかとベンチに座り直す
完全に夜の帳が下りる前には 今日の宿を探さないとと思いつつ
「──うん?
やあ こんにちは それともこんばんはだろうか
迷子でも待ち合わせでも どちらでもないんだ ごめんなさいね
少しここで休憩してるだけだよ 少しだけ疲れてしまって」
こちらへと近付く足音に気付き 静かに意識だけそちらへと向けて
その後声が掛かれば ゆるりと顔を向けて穏やかに笑みを浮かべる
言葉を発して尚性別が曖昧なままの青年は 座り難いなと腰の刀を外し膝の上に静かに置いた
■修世 光奈 > 「あ、どうも。こんばんは」
釣られて、夜に近い時間だったのでこんばんは、と返して軽く頭を下げる。
誇るほど観察眼に優れているわけではないが、声を聴いてもどちらかわからないのが不思議だ。
「刀……」
膝の上に置かれた刀を見てぽつりと。
こんな島でも、帯刀はなかなか見ない。
持っているとすれば、それは戦う必要が生まれる委員会などなのだが…
それよりも、疲れている、という言葉が気になった。
「休むなら、えっと、社務所に布団とかあったはずですよ。案内しましょうか」
貸してもらえるかはわからない。
けれど、休憩するなら…虫も多く、暑い場所よりはいいだろうと提案してみる。
■九十八 幽 > 「うん? そうだよ
刀だね この島に来てからずっと持ってるんだ」
少女の視線に気付いて 静かに膝の上の愛刀を撫でる
きちんと鞘に納められ 傷も汚れもない手入れの行き届いている一振りの打刀
「ああ 大丈夫だよ ありがとう
疲れていると言っても 気疲れ程度のものだから
こうして座っている事で だいぶ楽になったからね」
静かに首を横に振りながら 少女の申し出を断って
蜩の鳴き声が少しだけ 祭囃子を上回り
穏やかな笑みを浮かべたまま 幽はじっと少女を見据える
■修世 光奈 > 「ごめんなさい、つい…。
いや、えっと…そう言うの持ってるのって、風紀とか公安委員なのかなって」
刀をじ、と見てしまった事に対して謝る。
馴染みのない光奈にもわかる、大事にされているであろう刀。
それを持っている理由を推測しながら。
「気疲れ…ですか?人ごみに酔ったとか…。
あ、と。私、光奈です。修世 光奈。ここで探し物の手伝いしてて」
逆にじ、と見つめられると…自己紹介もしていなかったと。
簡単に名前を言ってにこりと笑い返す。
「楽になったなら良いんですけど…。えと、一応お名前聞いても…?」
もしかすると別の可能性…公安や風紀とは逆の存在かもしれない。
だから、一応は相手の名前も聞いてみようと。
■九十八 幽 > 「謝られる心当たりは無いのだけれど うん 謝る事じゃないよ
風紀でも公安委員でもないね 普通の生徒さ
そう言われてみると あまり普通の生徒が刀を持ってる事は無かったね」
少なくとも学園内で見かける事は無かった と幽は記憶を辿って振り返る
よく物珍しげに見られるのもその所為かと ひとり合点が入ったと肯いて
「ううん 何て言えば良いだろう
まあそこまで深刻なものじゃないと それが分かって貰えれば充分かな」
身体のどこにも不調は無い ただ少し 本当に少し疲れてしまっていただけ
だから心配する必要はないと 静かに微笑みながら告げて
「そう、光奈 修世 光奈というのが君の名前なのだね
九十八 幽というよ 漢字の98でにたらず 幽霊の幽でかすか」
静かに自分の胸に手を当てて名乗る 自身の中でだいぶ馴染となった名乗り文句
緩やかに笑みを浮かべている姿は 風紀とも公安ともそれらと対になる者たちともどれとも違うようにも見え
■修世 光奈 > 話せば話すほど、何もわからない人だ。
男にも見えるし、女にも見える。
しかも、一般生徒だというのに、帯刀している。
それでいて…柔らかな物腰から、悪い人ではないことも何となくはわかる
質問をしても逆に謎が深まるというのは新鮮で不思議だった。
「にたらず…、あ、100に2足りないから、98…、幽さん…でいいです?」
珍しい苗字にふんふん、と頷く。
よくわからないが、大丈夫ではあるらしい。
それなら、一応は放っておいても良いだろうと判断する。
何せ、武器を持っている分、むしろ自分より安全だろう。
「深刻じゃないなら、いいんですけど…。
何かあったら、周りの人とか頼ってくださいね?一応あっちの参道には警備のバイトさんとかいますし…
後、暑いですけど風邪引かないように…こんなところで寝ちゃだめですよ?」
こく、と頷く。
深刻ではないと理解したものの、やはり世話焼きと言うか、気になったことはどんどん口から出てくるタイプだから。
少し口うるさく言葉を続け。
けれど、大丈夫だとわかれば…財布を探す依頼に戻っていこうと、緩やかに背を向けよう。
■九十八 幽 > 穏やかに唇は弧を描いたまま 少し長い睫毛の奥から深い海色の瞳が光奈を見つめる
男でもなく女でもなく 男でもありそうで女でもありそう
そんな言葉で表し辛い印象を与える幽は 僅かに首を傾ける
「そうとも それでいいんだよ光奈
うふふ 何が良いのかいまひとつ分からないのだけどね」
顔の前で両手の指同士を静かに合せて にっこりと口元だけでなく目元も弧を描く
分からないけれど いいです?と問われれば いいですと答える影法師
「嗚呼、ありがとう 何かあればすぐに頼るよ
声を掛けてくれてありがとう、光奈 きっと他にすべきことがあったんだろうね
邪魔をしてしまったようで申し訳ない 光奈も暑さには気を付けて」
もう起きてしまったから きっと寝る事は無いと思う
光奈が背を向けてから 小さく口元から呟きが落ちる
雑木林から蜩の声を載せて吹く風に 静かに蓬髪を遊ばせながら
幽は静かに その背を見送るのだろう
■修世 光奈 > 教えてもらった名前の通り、幽霊のような人だ。
幸い、そうだったとしても悪い幽霊では無さそうだけど。
どうしよう、一応報告しておくべきだろうか…と思いつつ。
「邪魔とかじゃないですけど…。ありがと、ございます。じゃあ、えと…これで。」
丁寧に礼をして、ととと、と参道の方へと戻っていき。
すぐに財布も見つかった。ただまた別の依頼がどんどん舞い込んでくる。
慌ただしい時間が終わるまでは、この不思議な邂逅は思い出せず。
夏の夜は…祭り囃子を背に、更けていく。
ご案内:「常世神社【夏祭り期間】」から修世 光奈さんが去りました。
■九十八 幽 > 「──あ しまった」
祭りを楽しむ人々の中へと 消えて行った光奈を見送って
小さく息を吐いてから 今気付いたとばかりに顔を上げる
「この辺りで泊めてくれそうな人が居ないか 聞きそびれてしまったね」
片手を頬に当てて 僅かに首を傾げて
屋台前や境内に溢れる人々を眺め 再び小さく息を吐く
「まあ いいか
なんとかなる きっとなんとかなるでしょう
ともあれ あまり長居をし過ぎると夜になってしまうから」
静かにベンチから腰を上げる 膝に乗せていた刀は腰に
■九十八 幽 > ふらり ふらり
気儘な足取りで 夕闇から脱け出た影法師
夏祭りの喧騒へと 静かに自ら入って行く
「──……お邪魔しました またね」
ふと一度だけ足を止めて ベンチの方を振り返り
背凭れに留まって羽を休める烏揚羽に 穏やかに別れを告げて
そうしてゆるゆると いつもの日常へと還って往くのだった──
ご案内:「常世神社【夏祭り期間】」から九十八 幽さんが去りました。