2020/10/23 のログ
ご案内:「常世神社」に紫陽花 剱菊さんが現れました。
紫陽花 剱菊 >  
霜降来たるは秋の寒空。
野分、紅萌ゆる季節成れば、然もありなん。
宵闇の夜風に黒糸が細かく、千々に舞う。
此処は幽世の神殿。今や静寂の夜に、一人耽る。

「…………」

此処に、紫陽花 剱菊の姿在り。
境内の長椅子に腰を下ろし、閉ざした瞳は闇夜より深く
瞑想と共に、風に意識を運ばせるままに。

ご案内:「常世神社」に伊都波 凛霞さんが現れました。
伊都波 凛霞 >  
昼間は学生達の憩いの場ともなっている常世神社

最近のアパート探しついで、遅くなった帰り道にたまたま、その姿を見つけた

「…あ」

しばらくぶりではあったものの、その独特の雰囲気や佇まいを見間違えるわけもなく

ゆっくりと足音を立てながら、境内を歩いて

「こんばんわ。もう日も暮れましたよ。何してるんです?剱菊さん」

そう声をかけながら、笑いかける
記憶にある笑顔とはどこか違う、翳りのある笑顔だった

紫陽花 剱菊 >  
静寂に波紋が広がる。
空を震わす足音、息遣い、即ち是生者の鼓動。
耳朶に染み込む秋風と共に、目を開く事無く澄んだ声音をも浸していく。
嗚呼、実に聞きなれた声音だ。聞き間違えるはずも無い。

「……然のみ、是と言って耽ては無い。
 然るに、秋声に耳を立てていた。」

即ち、"風情"で在る。
静かに開かれた黒眸が、凛霞へと向けられた。

「久しいな、凛霞。……辺りでも払ったか。
 居住まいが以前に増して、芯が通っている。何かあったか?」

僅かな変化と言えばそうかも知れない。
然れど、あの隠された手弱女の笑顔とは違い
節穴でも無くば、此の笑顔の強かさは確かなものだ。

伊都波 凛霞 >  
相変わらずの向上
歌を詠むような男性の言葉が風に乗って届く

「いつもどおりで安心しました」

そう言うと互いの顔がよく見える位置で立ち止まり、向けられた視線にもう一度微笑んだ

「…見てわかるもの?
 そうですねえ、大きな大きな問題が、一つ解決しました
 待ち人来る…といったところでしょうか」

口元に指を当ててやや気恥ずかしげにそう言う仕草はかつてよりもどこか、そう
年頃の女の子らしさが増した…のかもしれない

「もちろんまだ抱えてるものもありますけど…、剱菊さんのほうはお変わりなく?」

紫陽花 剱菊 >  
「其方もな。」

光陰矢の如しとは言うが
此の激流の如き島々にて、まさに是は束の間の一時。
日常の一片で在れど、変わらぬ人の笑顔に胸は撫で下ろす。
薄らと緩んだ口元。体躯を大きくずらしたれば
隣同士、相席足れる場所も出来上がる。

「大よそでは在る。心構え一つで、佇まいは変わるものだ。
 良くも、悪くも、だ。……此度は、其方にとって良き方向へと傾いたらしい。」

「喜ばしき事だ。如何様に山谷在れど、二人成らば問題にも成らぬのではないかな?」

人生の節目とも言うべきか。
かくして、彼女は安寧を手に入れたとみるべきだ。
素直な祝辞次いでに、少々茶化してやった。
肌寒い秋風には、些か風情に不釣り合いな茶化しだ。

「……如何にも。今でも、"あの頃"の出来事は、昨日の事のように思い出せる。
 だが、無情にも刻は刻まれている。今でも私は、彼女の居場所の一つ足らんと務めているよ。」

真理求めれば、兵共が夢の跡。
細れの刹那、未だ彼等の草枕は瞼に焼き付いたままだ。
其れだけは、決して忘れてはならない。
此の懸想も、在り方も、変わりはしない。

「其れ以外とも成れば、私は公安。冥影(くろかげ)とも成れば
 其方達の耳に早々活躍は届くまい。……さて、一つ問おう。凛霞。」

冴ゆる空気に、凛とした言葉。

「疑う訳では無い。私も諾うで在ろう。
 ……だが、其方の口からしかと聞かねばなるまい。
 隣人足るものは、"鬼"か、"人"か……其方には、如何見えた?」

伊都波 凛霞 >  
以前、屋上だったかで待ち人についての話も、彼とは交わしていた
その時も彼は風流を感じるような言葉で優しく励ましてくれたことを思い出す

空けてもらった隣へ失礼しますとちょこんと腰を下ろし、話に耳を傾ける

「そうかもしれません。
 少なくとも、甘えられる相手ができたので」

心の拠り所、とでも言うべきか
弱音でも、愚痴でも、何でも受け止めてくれる相手がいてくれる
茶化したような言葉はいまいち通じず、ただただ惚気のような返しになってしまった

「──私も次に彼女と会えたら、友達になってたくさん遊んだりできたらいいなあ」

相槌を打ちながら、言葉を交わす

そんな中で、ふと雰囲気が変われば、少女もまた一瞬だけ呆けたような表情をした後、視線をまっすぐに向けて…

「どちらかと聞かれれば答えるのは難しいです。
 人としての日常生活にはまったく問題ない…、でも"鬼の力"は彼の中に残っていました」

それから視線を外し、一呼吸おいて

「でも大丈夫。
身体は人でも鬼でもなくなったかもしれないけど…"彼"は、"彼"だったから」

そう言って笑顔を作り、はっきりと言葉にする
彼のことについては、きっともう何も心配事はないのだと

紫陽花 剱菊 >  
「左様か。……否、灯りでも点いたかと見紛うてな。
 元より、明るい女性で在るとは思っていたが、いとど、そう見える。」

強がりの裏側に、有卦に入ったとも見るべきか。
あの裏側を存分に見せれる相手が居る。
人は在るべき場所無くば生きられぬと知っている。
成ればこそ、か。いわんや、あれ以来より垢抜けた気もする。
口には出すまいが、其の幸せが何より自分には幸運だ。
友垣の幸せもまた、心地よき幸運。

「そうしてくれ。何時、また表に出るかは分からない。
 ……が、童女のようなものだ。歳近い同士、彼女も喜ぼう。」

無邪気、というには些か悪戯が過ぎる気もする。
だが、あの夕暮れはもっと少女然としたもの。
彼女であれば、素直に受け入れてくれようと思うものだ。
何気なく見上げた満月は、今宵も煌々と幽世を照らしてくれる。

「…………」

凛とした、確かな言葉だ。
惑いも無く、断言した。

「其の言葉を忘れず、付き添い続けて頂ければ、彼の者も幸福で在ろう。
 元より、人種も何も無き島で在れど、己の在り方が、東西失う程のものであれば
 斯様に、心強い隣人もそうはいまい。……羨ましいほどに、良き夫婦に成り得るだろう。」

「……尤も、要らぬ世話やも知れぬがな。
 其方の隣人と、顔も合わせた事が無き故に……。」

それこそ、己の言葉は無粋だろう。
後は彼女たちが決めるべき事。
道を均す手助けはすれど、切り拓くべくは彼女たちの役割。
口元に二本指を立て、一礼、会釈。
頭と共に下がる黒糸、月明り映ろ、艶黒と揺れて、静かに顔を上げた。

「……然るに、今宵は如何様に参った?
 夜遊び成れば、程々にしておくと良い。
 育ち盛りとは言え、余り彼に心配は掛けぬように。」

……意外にも剱菊は、此の手の事に口煩い様子。

伊都波 凛霞 >  
「ふふ、なるべく暗い顔で表は歩きたくないですから」

彼の言う通り、より自然に明るく振る舞えるようにはなった…のかもしれない
多少不自然だろうとも、弱さを見せないようにしていたのは間違いなかった

「勿論。私はそのために彼女達の力になりたかってんですから」

可能性…
友達になれるかもしれない、友人が増えるかも知れない可能性
あの事件での自分の原動力は、いわば未来とも言い換えられるそれを潰したくなかったからこそだった
ある意味では極度のエゴイズムということも、理解しつつ

けれど続いた言葉には少しだけ動揺を見せる
そりゃあ動揺もするとも

「っふ」

「夫婦、まだ気が早いですけど!
 …でも、大丈夫だと確信はしてます。
 彼も学生としてこの島に籍を置くことになったので、そのうち顔を合わせることもあるかもしれませんね」

やや誤魔化すように微笑み、言葉を続けて

「や、最近ちょっと探しものが多くって、つい帰りが遅くなっちゃっただけです。
 そしたら境内に見知った人を見つけたので…といったところですかね?
 ……剱菊さんって意外と心配性…?」

意外と…ということもないかもしれない
初めて顔を合わせた時も、彼は自分のことを心配し気を配ってくれていたことを思い出す

「風紀委員の仕事なんかでも夜遅いのは慣れていますから、心配ないですよ」

そう言って、安心させる…ためかどうかはともかく、再び笑顔を見せた

紫陽花 剱菊 >  
「気負わず、ただ友として寄り添う位で良い。
 あかねにとっても、"気兼ね無い"位が丁度良いはず。」

無論、力に成るべきとは成るべく心強い。
唯、口に出さずとも良い気兼ねない関係こそ、彼女が望むべき関係だろう。
……園刃 華霧。彼女の事が脳裏に過る。
あの子は今、何をしているのだろうか。

「…………?」

不思議そうに、静かに首を傾げた。

「行きつく先は、そうだろう。
 何れ子を儲けるのなら、そうでもは無いのか?」

少なくとも、男女の関係とはそうであると学んでいる。
己の世界では、そう言うものだ。
愛だの恋だのと口舌を語れるほどの人間性は無いが
知識としては覚えている。ともすれば、彼女も、己も、同じである。
と、言うのが剱菊の世界の価値観で在る。
乱世成れば、世継ぎの事も考えよう。此の幽世では、早まった考えに相違無いが。

「探し物。其方にしては珍しい。
 如何様に、物忘れとは無縁とは思っていたが……。」

威風凛然という言葉が良く似合う。
女傑とは言わぬが、公安として一通り陰ながら"視る""聴く"限りは
その様な女性で在ると思っていた。
存外、抜けているのだろうか。意外や意外。
僅かに目を丸くし、凛霞の姿を横目で見やった。

「ん、私は何時でも、皆の事を心配しているとも。
 ……然れど、此度はいっそうと冷える。体を壊せば、子も産めぬぞ?」

伊都波 凛霞 >  
この人は、こう…いや異邦人であることは知っているのだけれど
時折、現代の感覚とは少し…イヤ結構ズレたことを言う
それも含めて、愛嬌といえるのかもしれないけれど

「子ッ…ま、まぁ…いずれは、ハイ……」

ソウナリマス、とやや俯き気味に話す
夜でなかったから顔が赤いのもはっきり見られたかもしれない

夜風は涼しい、心も涼しくあれば、顔の熱はすぐに引くだろう、多分

「そうですね。剱菊さんにはいつも心配されてます。
 探しものも、今は色々あって……人だったり、物だったり。
 何かを探すには便利な異能の力も、いまいち役に立ちませんね」

苦笑しながらそう告げて、よいしょと立ち上がる

「心配されちゃったので、体が冷えすぎる前に帰ろうかと思います」

お話につきあってくれてありがとうございました、と笑って、2、3歩、歩いて振り返った

「剱菊さん」

「以前の約束って、まだ有効ですかね」

振り返ったその顔は月の光に照らされてやや陰りが見えたかもしれない
手拭い一つ、口先だけでの約束事

その言葉を口にするということは、未だ少女は呪いに囚われてることを示していた

紫陽花 剱菊 >  
戦人である剱菊は昼夜問わず、乱世で戦場に立っていた。
無論、夜襲、暗殺、諜報、此の公安に役立つ技の数々は習得している。
当然、夜目が利いた。水底のように暗い黒が、僅かに細くなる。

「何故、赤い?女性成れば、誉だろう。」

赤面を晒す程の恥でも在ったのだろうか。
好きな人間の子を宿す。家庭。
故に、幸福、女性としての誉では無いのだろうか。
世が世なら、そもそも此処が其の世だ。
セクハラと言う言葉はご存じありません、もしもし風紀委委員。

「…………」

夜風の小波に、徐に右手を翳した。

「……杞憂と言われれば、然もありなん。
 憂いているとも。此の幽世を、激動靡く其方達の行く末を。」

何時でも泰平の世を望み、憂い、民草を思う。
其の在り方は、元より何も変わっていない。
刃で在っても、人であっても。
其れが、紫陽花 剱菊の在り方。
吹き抜ける秋風を握りしめ、下がる凛霞へと視線を向けた。

「…………」

月輪に照らされた少女の素顔。
陰り、何くれと泡沫の如し。
僅かに顰めた眉は、心配の色。

「……約束を違えるような男に非ず。
 其方の隣人には劣るで在ろうが、私も、あかねに相応しい男成れば、当然の事。」

未だ悪夢は覚めやらぬ。
漸く拠り所が出来ても、彼女は未だに宵闇の帳。
握った手を静かに開き、差し出す手から零れ出流は、紅葉の飛礫。
夜の秋風に流されて、宵闇を彩る紅々夜。

「何時でも我が名を呼ぶと良い。必要と在らば、馳せ参じる。
 ……其方の晴れ姿も見なければならぬしな。……いやはや、しかし……。」

「紅葉も良く似合う。」

伊都波 凛霞 >  
紅潮した頬を指摘されれば、少女は照れくさそうに笑ったのだろう

そして約束を覚えていること、変わらぬその言葉を確認できれば、嬉しげに頬を緩めた

「はい。その時は宜しくお願いします」

以前の落第街の調査で呪いの根源である場所の検討はついた
あとは一歩、その深みへと踏み込み終わらせるのみ……
思えば彼と出会ったその時から、その線は続いていた
その線を断ち切るのに彼の刃を借りるのは…自分としても本懐と言える

そして付け加えられた一言に、剱菊さんらしいなと苦笑して

「それ、剱菊さんが言うと結構イヤミかも」

月明かりの下の境内ではらりはらりと落ちる紅葉の中で佇んでいた彼の姿は文字通りの風雅
男性の姿を以ってして素直に美しい、と感じさせるその姿は、少々嫉妬すら覚えるものだった

「それじゃあ、また!」

ぺこりと大きく一礼し、再び背を向けて少女は境内を後にした───

紫陽花 剱菊 >  
「……嗚呼。」

静かに返事を返した。
来たるべき時に刃が抜かれる。
何時でも其の在り方は変わるまい。
境内を染める事無く、紅葉は文字通り何処吹く風と
はらり、はらり、夜の帳へと消えてしまった。

「嫌味に聞こえるともすれば、もう少し己に自信を持て。其方は、美しい。」

得てして、言葉に嘘はなく、また剱菊は嘘を吐く事を良しとしない。
……尤も、己に自信が無いのは剱菊とて同じ事。
去り行く背中を、見えなくなるまで見送れば、静かに立ち上がる。

「…………」

人は、在るべくして、在る。
拠り所が、帰る場所無くば、生きてはいけない。
己は、愛する人が帰るべき、居場所の一つ。成れば────……。

「……私の居場所は……」


────……一体、何処へ。


最早、帰る場所も、方法も無い。
月輪は何も言わず、光るのみ。
身を翻し、冴ゆる秋風と共に、程なく男の影も消えた。

ご案内:「常世神社」から伊都波 凛霞さんが去りました。
ご案内:「常世神社」から紫陽花 剱菊さんが去りました。