2020/10/31 のログ
紫陽花 剱菊 >  
「……異な事を申す。其れでは獣と相違無い事に成るが……
 其方は、如何様にして育ってきた。よもや、獣に育てられとは言うまい。」

己でさえ、最低限の礼節は学んだ。
故に、訝しんだ。些か、綻びとも言うべき人間性。
思えば、彼女の事をほとんど知らぬ。
良い機会、とは言わぬが此の際彼女の事を聞いてみるべきだろう。

「有体に言えば、だ。其の証拠に、随分と"変わった喋り方"をするのだな。
 ……否、"戻った"とも言うべきか。差し出がましい事を承知で物申させて頂くが……。」

木幹から背を離し、一歩彼女へと歩み寄る。
差ながら其れは、踏み込むかのように見えた。
夜風に誘われ、紅葉が舞い散り、互いの周りを、視界を、通り過ぎる。

「"園刃 華霧"としての在り様。私が初めて出会った其方は
 いわんや、"あっけからん"としていた。……今、紅葉彩られる其方は、そう。少女然としている、というべきか。」

微妙な語調の違い、態度と表情の差異。
剱菊の目は、其れを見逃す事はなく、故に問いかける。
何も知らぬが故、理解する為に問いかける。

「……問いかけた傍、私が言うべき事では在るまいが……。
 成ればこそ、此の地の静寂に耳を傾けると良い。一から、物事を整理しては如何かな?」

「先ずは、其方を取り巻く物、者、もの、今はどうなった?」

園刃 華霧 >  
「あン? あァ……アタシは自慢じゃナいけド、独りで育っテきた。
 誰カに育てラれた覚えハないヨ。」


全ては自分で勝手に学んできたこと。
だから、世の中がそうなっている、とわかっていても本当の意味などわかっていないことは多々ある。


「……あぁ。
 別に。チと、真面目に話しテやってルだけダよ。」


いつもの口調に戻してしまう。
これこそ、礼節、みたいなものだ。
けれど……

――"あっけからん"としていた

そこは、まあ……そう、だろうか。

そこで、ふと、思い出す。
この男の所業。
……話して、さて役に立つのか。
いや、今は言うまい。


「……どうナった、か。
 アタシとしてハ……前と、変わンない……か、新スタート、みタいな気分、だったンだけど、ナ。
 ドーも、向こうは違うッポい、か」

ふむ、と、考えて口にする。

紫陽花 剱菊 >  
「……孤児か。私は此の世を知らぬ。此の幽世に来る前か?或いは、此の幽世で?」

大よそ後者な気はするが、さて。
孤児と来れば過酷な生を歩んできたのは想像に容易い。
其処に同情はしない。生まれ持った不幸を憂いても、彼女にとっては鬱陶しいと思えたからだ。
其れこそ、余計な世話を焼くだけに相違無い。
舞い散る紅葉を一枚掴み、夜風と共に、放ってやった。

「ふ、私と真面目に話す気は無い、と?」

冗談めかしに宣ってみせた。
口元を薄らと緩め、夜風に攫われた紅葉から目を離し、少女へと。

「即ち、今は孤独に非ず、と。共に道を歩めると言うのは、私としては羨むばかりだ。」

待人故に。其れを女々しいと言われるやもしれない。
だが、何時か表に出てきた彼女と刻を歩む日が、泡沫に終わらぬ事を願うばかりだ。

「……して、其れは友垣と呼ぶべき存在で在る、と?
 ふむ……然るに、あの騒動から其方は節目を付け、新たな歩みの一歩を踏み出した。
 一方で、其方の友は、違う認識で在り、其れに頭を悩ませている、と。」

かみ砕けば、そうなるのだろうか。
足元に燃え広がる荘厳な紅を踏み分け、歩み寄る。

「然るに、其の方は……其方の友は、何と言っていた?」

園刃 華霧 >  
「さて、ナ。記憶ガはっきリする頃にハ、この島にいたンでネ。
 ソもそも生まれが何ナのカもよく知らナいよ。」

もともと此処に居た人間なのか、島外からの不法侵入者か、実は正規の入島者なのか。
はたまた、実は異世界の……なんてこともあるかもしれない。
けれど、もはやそれを知る方法はない。


「ンー……アレだ。アタシにとって、敬語、みタいなモン。
 こッチが普通だカんね。真面目かどーカっていうノはその程度のコトだよ」


口調が違うと言っても礼節程度の話なので、本気ではない、というわけでもない。
まあ、それで相手がどう取るか走らないが。


「ァー……正直、アジコンに解決とカを聞く気はチッとしないンだけドな。
 ……ま、せっかクだ。アタマの整理つイでで話すサ。」

なにしろ、自分の中でこの人物は、その手の話では"役に立たない"どころか、アウト判定だ。
参考にする気も口出しを聞く気もしない。
けれど、まあ……この際、ではある。


「……トモダチ、以上。特別な……そウいう……いヤ、ボかしテもアレか。
 アレだ。告白、ってヤツ? さレたんダよ。
 まあ、つってモ。そっちハそンな今、悩む話でモなくテな。」

はぁ、とタメイキを一つ。


「どッチかってート。アタシが良かれ、と思っテやってタことがサ。
 相手にトってハ……得でナかったリ……傷つケてたり、トか。
 そうイうことが、アったンかなって思う機会がアってナ。
 さテ、じゃア、全部やルことヤめちマうわけ二もいかンし……どーシたもんカなってネ。」

首をかしげる。

紫陽花 剱菊 >  
「記憶喪失か……己の出自を知りたいと思った事は?」

此の幽世へと堕ち、組織に身を置いたからこそ情勢の大よそは理解出来た。
特に、彼女のような人間も、己のような迷い人も、さも"珍しい"ものではないと言う。
成る様にして成った。盆水水不帰。過ぎた事は如何とも出来ぬ。
其れこそ、神でも無い限り。……其れが、彼女を成しているか、問うた。

「私には肝胆を砕いてはくれぬ、と?否、唯のからかっただけだ。
 ……其れに、私は紅葉の影成れば、解決を求める道理も無いだろう。」

最初に申した通りだ。
信用は己の手で勝ち取るのみ。
其れに、元より此の静寂は思案を重ねるものと述べた通りだ。
其れ以上の他意は無い。唯、其の程度の己に前置きすら述べて、体たらく。
大よそ、藁にも縋る思いなのかもしれない。
月輪の朧光に、互いの影が映し出される。

「唯一無二の友。……恋路か……。」

成る程、根深い。
十を知るとは言わぬが、中々根深そうだ。
ある種、最も苦手すると言えばそうだ。
己も随分、苦労を掛けたし、手を焼かせた記憶も、焼いた記憶もある。

「……先ず、其方にとって、其の方との関係は、損得で繋がりえるものか?」

園刃 華霧 >  
「記憶喪失ぅ?そンな御大層ナもんじゃナいよ。
 ガキの頃カら親もナんもない環境デ放り出さレてたってだケ。
 ダから、要は……アー……物心って言ったカ? そいつがツく頃にゃ、なーンもなかっタってコと。」

そこは一応訂正する。そんな大層なやつでもないから、変に誤解されるのもメンドクサイ。


「出自、ねぇ……知ってドーなるってモンでもナいし、別に今更、かナ?」


これまで一度たりと気にしたことはない。
気にする暇もなかった、ということもあるかもしれない。


「うン。損得、なンかじゃナいってーのハわかってルけどナ。
 けど、さ。気づカないトこで、傷つけてタり……それが他のトモダチを傷つケたりとカ。
 そーナったら、流石に考える。」

そこにはやたらメンドクサイ事情も絡むので、なおさら悩むところだ

紫陽花 剱菊 >  
「……余り穏やかな言い方では無いな。まるで、捨て子だ。」

其れこそ、其方のが酷い話では無いだろうか。
人は自然と、生えてくるようなものでは無い。
如何ともしがたいものだ。何とも言えない唸り声と、溜息が思わず漏れた。

「左様か。なら良いが、どんな生まれで在れ、大小成りついて回る。
 実に、手間では在るが、何時か節目を付けねば成らぬ覚悟はしておくべきだろう。」

「……付けられる内に、だがな。」

今更如何でも良いと言い切ったものに
見ずとも良いと思った小石に、思いも寄らぬ躓きをする事も在る。
其れこそ、余計なお世話だが、忠言はしておくべきだ。
頭の四隅にでも覚えていれば、多少なりとも覚悟は出来よう。

「…………」

落ちる紅葉が、己の手に落ちた。

「……覚えが在る。私も、彼女を、あかねを理解しようとし、ぶつかった。
 彼女もまた、己の信念の為に、ぶつかった。然もありなん……。
 因果やも知れんが、今に至るに当たって随分と、互いに傷つけ在った。まるで戦だ……。」

今でも折節、昨日今日のように瞼へと映し出される。
あの時、島中を駆けたあの頃を。
思えば、随分と遠回りをしたようにも、思えるが、是は是。
閉じた掌に、包み隠される紅葉。

「無論、我等が特別だった自覚は在る。斯様な事態のが珍しい事を。
 其方は、一人では無く、多くに思案を巡らせているようだな。」

独りとしての問題では無いと見た。
根深さの因果は、其処に当たるか。
朧に揺れる、互いの陰をしり目に、黒糸を揺らして、彼女を見やる。

「思いの交錯、擦れ違い……辟易する場所は、其処か。
 己の置かれた状況に、如何ともし難さを感じている、と……?」

園刃 華霧 >  
「ドーかね。居たノが落第街だシ、案外、なンかでくタばったダケかもシれんし。
 まあ……さっきモいったケど、もうドーでもいいサ。
 アタシがこうシて生きてルだケで十分。
 ついテまわッタって、どーせアタシの人生、アタシのモンだかラ、どーにデもなるサ。」


気にしてもしょうが無いし、興味もない。
それが影響してなにかあるってんなら、それこそ面白いってもんだ。


「ま、そーネ。それモ含めテ、今まデのトこで他にもナんかヤらかしテないカ、とかネ。
 考えたラきりないシ、柄でモないのハわかってンだけど。
 そこンとこで、ドーしたモんかっテ、な」


この悩みの元は、そこに始まって、あっちやこっち。
それともむこう、みたいに想像の連鎖が広まっていってしまう。
何が正解だったのか、とか、ついつい考えてしまったりする。

紫陽花 剱菊 >  
「其方の人生は、間違いなく其方の人生だ。────……然るに、今やそうでは在るまい。」

凛とした声音が、宵闇に波紋を広げる。

「其方が如何様にして一人で生きていたかは存じ上げぬ。
 然れど、"それ"を気に掛けるので在れば、其れは最早、其方だけのものではあるまい。」

傷つく事を畏れた。
傷つける事を畏れた。
他ならぬ、他人への気遣い。
即ち、己が道に大きく交わった証で在る。

「人の成り立ちは支え合いと謂う。
 確かに其れは、其方のものに相違無い。行く道を決めるのも其方だ。
 だが、道を成すのは拘う者々で在ろう。少なくとも、今はそうでは無いか?」

"園刃 華霧"と言う人物の成り立ちを、深く知りえはしない。
彼女が如何に、何に悩んでいるか、不鮮明程度にしか理解しえぬ。
故に、そう言った。少なくとも、彼女の悩みとは、そう言う事なのだろう。

「……"どうせ"等と、物臭に申すのはよせ。
 傷つけるのを躊躇う隣人が、今は居るのでは無いのか?」

園刃 華霧 >  
「ん、ぐ……」


腹立たしいが、こいつの言うことも最もではある。
少なくとも、今のアタシの命は、人生は……ぞんざいに扱えるものではなくなっている。


「つってモ……昔にツいちゃ、マジでドーにもナらんしナぁ。
 まあ、今のアタシの人生につイちゃ確かに、そーダけどサ。」


はぁ、とタメイキ。


「だかラ、困っちゃイるわケだ」


いっそ……と極端な結論を出すことも許されるわけではない。
まったくもって、ややこしいもんだ

紫陽花 剱菊 >  
「過去については、気に留める程度で良い。
 自覚在れば、今の悩みに目を向けねばな。」

全ての言葉はそこに行きつく。
ゆっくりと手を開けば、黄々とした銀杏が夜風に舞い上がり
紅黄交わり、宵闇を鮮やかに彩っていく。

「……率直に尋ねよう。随分と複雑な関係で在らせられるようだが……其方は如何したいのだ?」

先ずは、どの様な落としどころに持って行きたいのか。
彼女の意見を問うてみた。光明一歩から生まれるものだ。

園刃 華霧 >  
「……………」


答えは、決まっている。
決まっているが……


「ソりゃ、全部丸く収まル、なンだけど、サ。
 虫が良すぎンだろっテ……そうイう話ナんだヨ」


そもそも、あちらを立てれば此方が立たないのだ。
丸く収まるかといえば……謎だ

紫陽花 剱菊 >  
「…………」

剱菊の眼差しは、不動、静寂。
唯、微動だにせず少女を見下ろしている。
人間未熟、如何とも人の心を察するのは難く、故に未だ至らず。
故に、過去の行いを全て、顧みて、後悔した。
人間に成り得ようとするのも、楽では無い。

「心得ている。大よそ、何方を立たせるともいかず
 遺恨を残す可能性があると見た。故に、苦悩している。だが……」

「──────……其方の内に在るもの、理が在るものに成り得るか?」

刃の如く鋭く、細くなる目線。
さながら、腹の内を捌くかのように、少女の黒の双眸に突きつけて魅せる。
寒風とはまた違った冷えた声音が、問いかける。腹の底を見せよ、と。

園刃 華霧 >  
「理、ねえ……」


ふぅん、と考える。
考えても、まあ無駄な気がする。


「そもそも、理屈じゃナいから困ってンだよナぁ……」


進むも地獄、引くも地獄、だったか。
もう、そんなところまで足を踏み入れている気はする。

ゆえに

「……理なンて、ないヨ」


眼を見据え返す

紫陽花 剱菊 >  
「…………理とは、己の中での納得に外成らず
 道理を以て事を成すとは違う。……そも、私事で在ろう。
 理屈で終わるのであれば、悩みはしないだろう。」

人と人同士、理屈で終わるものでは無いと
理解は既にし終えている。
故に、此の理とは、己の道理。
即ち、有体に言えば"我儘"だ。
剱菊は他人を、侮りはしない。
全てを見通す程、千里に通ずる訳では無い。
だが、其の言葉の真を見据えようとはする。
一寸視えぬ、霧中であれど、だ。

「然れど、余程其方は複雑奇怪な関係を成し得たようだな。
 如何にして、とは言うまい。……今一度、一つ付けて問う。」

陰る事のない月輪の虚ろな光。
二人を照らし、影は紅葉に埋め尽くされる。

「其方の腹積もりは、其方の理か。
 ともすれば、其の方等は、其の答え一つで殺意を向ける間柄か。」

互いの関係を構築する情は、如何程のものか。

園刃 華霧 >  
「殺意たァ、穏やかジャないな」

信を置き合う仲で、殺意が紛れ込むとすれば
それは一体どんな仲なのだろうか

しかし


「さて、ナ。そこンとこはわかンないナ。
 可能性は、ない……と、思うケど。
 けど……ドこか二可能性は、在る、と思う。」


とても矛盾した解答。
しかし、あの苛烈さは……確かに、そういう一片を持ち合わせている。
そこをどうこう説明するのは厄介では在る。


「けド、アタシにとってそこは問題じゃナい。
 殺し合いダろーが、喧嘩ダろーが。
 争いごト自体が、ヤなンだヨ。それこそ、ムシのいい話、だけどサ。」


シンプルな答え。
ただただ、平穏でありさえすればいい。
これまた、虫のいい考えであることは理解している。

紫陽花 剱菊 >  
「……表裏一体。一つ躓けば、裏返るものも在る。」

今世の価値観で言えば、綱渡りのような危うき関係。
苛烈さを秘めたる人間を知っているからこそ、口に出た。
……あの時、彼女が引き金を引かれていたら、如何様になっていたか。
あれも裏返しの一つか。否、違う。信念が勝った、其れだけの話。
些か外れた思考を振りほどくように、静かに首を振った。

「優しき事。私も其れは否定しない。だが、無理で在ろう。」

此方を立てればあちらが立たぬのであれば
土台無理な話だ。一筋縄ではいかぬとはいえ
容易く刃に変わる思いは、何とするか。
どれ程の傷を残すか、理解しえぬ。然れど……。

「……傷は、何時か癒える。
 如何様にして成り得るかは、其方等次第で在ろうが
 節目は何れにせよ、付けねば成るまい。……時として、傷つけあう事も在る。」

誰かが言わねば成らぬ事。
丁度良い役回りだ。故に……。

「……然れど、其れでも互いに笑い合えるのが、友だと、隣人だと思っている。」

少なくとも、己と彼女はそうだったように、彼女達もそうであらんと、信じている。

「少し、冷え込んで来たな。家まで送ろう。
 ……余り、"独り言"を言っていては誰かに聞かれてしまうだろう。
 夜も更け込んだ。何処に耳を立てられるか、わかったものでは無い。」

等と、冗談めかしに影法師は嘯いてみせた。

園刃 華霧 >  
「ヤれやレ、簡単に言うナほんと。
 人の気も知らないで」


まあ、知るわけもないのだ。
話しているのは人でなく、あくまで影だ。
答えだって期待してるわけでもなし。

"独り言"に返事が在る方が異常なのだ。

そもそもにして、この影が解答を持ち得る、などと思っても居ない。
なにしろ、ハズレ、なのだから。


だから


「ま、アタシの空耳だしな。
 けど……」

ナニカを見ながら、宙に言葉を放る。

――対話には、痛みが伴う。腹を割る痛みが伴わねば、それは対話ではない。

これこそ、幻聴。
アタマに響く声


「あぁ、まあ……それでも……
 やるしか、ないんだろうなぁ……」


そして、となればもう一つ、向き合わなければならないこと。
けれどそちらこそは、今どうこう言っても仕方なし。
さらには、この影にだけは言っても無駄だろうと思うことであり……


「……家……あぁ……まあ……いや、いいか。
 どうせ空耳だ。アタシは勝手に帰る。」


好き勝手に帰る自分に、影がつきまとうのであれば……
それはまあ、影なのだから、そういうものなのだろう、と。

勝手に独り納得した。

ご案内:「常世神社」から紫陽花 剱菊さんが去りました。
ご案内:「常世神社」から園刃 華霧さんが去りました。