2020/11/15 のログ
ご案内:「常世神社」に幣美奈穂さんが現れました。
幣美奈穂 >  
美奈穂、車に揺られてまた送ってもらいます。
今からなら、昼前の神楽舞の出番でしょうか?
車の後部座席に正座して座る美奈穂、にこにこです。

この常世祭の神楽舞、美奈穂には密かな楽しみが2つあるのです。
1つは、舞の後に頂けますお汁粉です。
家で作ると量に困るそれも、ここだと2杯ぐらいとほどよく頂けるのです。
美奈穂好みに黒蜜も加えて頂けて、心もお腹もほっこりです。
もう1つは・・・・。

そんな美奈穂は本殿横の社屋の裏手に車が止まりますと、運転してくださった委員会の方にお礼をしっかりします。
そして、迎えの時間を聞きます。

幣美奈穂 >  
社屋で身を清めまして。さらに着替えまして。
準備万端です。
顔を出した神主さんにこっくりっ。
美奈穂、今日はどう舞えばいいかきちんと覚えています。

神楽殿に入りますと、目を閉じて深呼吸・・。
今日は、無心で舞うのです。
――ゆっくり開いた眼はいつもの輝かんばかりの生命の光はなく。
深い虚無の瞳。
表情もすとんと落ちて、生命の気配も消えたようなお顔です。

――この御酒は わが御酒ならず

それでも、身についている神楽舞を舞うのです。
一昨日とも、昨日ともまったく同じ舞。
もし映像を取っていたとしても、ミリのずれもない。
あるべき所にあるべき身体が動きます。
でも・・そこに、生者の輝きがまるでない、虚無な舞です。

――酒の司 常世にいます

神楽舞を見に来ていた方々も、何か感じたのか。
目を離せないのですが、声が一つでない空間が広がりまして。
そして表情から感情が抜け落ちていくのです。

『――!?。神楽殿の直上で、歪が発生してます』
『この神社の境内の中でか!?』

神社の領域を守り、観測している人たちがいる社殿の中では、
外には聞こえないですが、悲鳴のような声が飛び交います。
常世島を地鎮する要の1つである神社です。
様々な対策をとられているのですが・・。

幣美奈穂 >  
――石立たす 少名御神の

≪無≫の心と目。
舞は何か力を持つように何かを惹きつけているのです。
境内に居る人たちにしか観測できないのですが、
神楽殿の上の空が陰り、太陽に陰がさすのです。

――豊寿き 寿きもとほし

美奈穂が舞うにつれ、空間が暗く・・いえ、黒くなるのです。

『――歪が拡大・・開きます・・』
『あれは・・鬼・・?』
神楽殿の上に開いた小さな隙間をこじ開けるように、
太く力強い、赤黒い肌に毛むくじゃらな腕がゆっくりと伸びてくるのです。
少しずつ漏れてくる瘴気。
それが境内に零れ・・人の生命を吸うのか、居た人たちの顔色が悪くなり、
ふらふらと揺れ・・倒れそうになるのです。

幣美奈穂 >  
ゆっくりと開く歪の穴。
腕が出ると、そこから顔の一部が覗けます。
あれは・・牛頭鬼。
黄泉にいる悪鬼羅刹の一体。
その腕は尋常ならざる太さ、鋭き爪を持つ手は常世島を走る電車を軽々掴める大きさで。
まだ全体が穴から見えない頭は、赤い光を放つ眼。
そして瘴気を口から吐き出し、生者への深い憎しみを湛えた表情。

――まつりこし御酒ぞ

そんな世界をまるで知らぬように舞う美奈穂。
最後の言葉は言わないというしきたり。
舞台に屈み、膝まづき。
本殿の方へと深く頭を下げるのです。

それと共に、最後に身の毛を凍らせる怨念籠る声を上げた牛頭鬼が。
穴が急速に狭まり、空間が晴れていきます。
――そして、何もなかったようにひずみが消えます。

『――歪が・・消えました・・』
『空間の安定を確認・・』
呆然とその様子を観測していた者たちが、我に返り観測をすると。
何かあった痕跡など皆無になります。
今にも倒れ伏しそうであった観客も、急激に持ち直すと。
頭を振ります。
何が起こったのか、よく判らないのです。

そんな騒ぎになっているとも知らない美奈穂。
虚無そのものであった表情と眼、ふっ、と解けますと。
いつもの生命力あふれた無邪気なお目めがぱちぱち。
そしてへにょり。

「できましたでしょうか・・?」

頭を神主さんに撫でられまして、ほのほの嬉しそうな美奈穂。
無になって舞ったのでまるで覚えてませんが、とえっへんと伝えますと。
・・次はどうするべきか・・。
神主さんが諦観した表情で悩むのです。
この巫女の力は捨ておくには惜しく、そして危うい。
何か、力をこちらで調整できれば・・しないといけない、と。

幣家の≪守り巫女≫の力。
黄泉渡りが出来ると噂にはありましたけれど。
まさに、黄泉を開きかけた美奈穂なのです。
そんな美奈穂、お汁粉を渡されますと、嬉しそうに美味しそうに頂くのでした。

ご案内:「常世神社」から幣美奈穂さんが去りました。