2021/11/03 のログ
ご案内:「常世神社」に紫陽花 剱菊さんが現れました。
紫陽花 剱菊 >  
夜風が黒絃を揺らす。
常世神社の本殿に一人、縁側に座す男が一人。
閉じた瞳に映るのは走馬灯が如き俗世の花鳥風月。
細波、揺れるは草木の波。安らぎが心を落ち着かせる。
此の風情ある情景が幾久しくも己を迎え入れてくる。
有体に言えば、お気に入りだ。

「…………」

静かに瞼を開けた先、地平線の彼方。
煌々と輝く人口の光。星々に負けぬ、民草の輝き。

「…………」

方々に動き在り。
今一度、己の居住まいを正すべきか。
男は一人、思いを馳せる。

紫陽花 剱菊 >  
「…………」

一つ、伊都波 凛霞と蜥蜴の行方。
凋落闊歩、群落に身を堕とした少女と狡猾な蜥蜴。
未だ動きは無し。伊都波 凛霞と思わしき言伝は恐らく虚言で在る。

「……攪乱を狙うにしろ、些か稚拙だな」

慎重で在る事は認めるが、此度の動きは悪手だ。
存外、潜入が真で在るとして、風紀の錯乱には成り得まい。
手元に置いている人質自体の能力を侮っているのか。
或いは、是を機に表へ打って出るか。

「其処迄命知らずでは在るまい……」

如何なる目的を掲げようと、天道には届かぬ。
斯様、既に歴史が立証済み。風紀公安を出し抜き
学生街を火の海に染め上げんとすれば、必ず"神罰"が下る。
常世の閻魔が住まうで在ろう孤島の方角に、男は僅かに視線を向けた。

「……何れにせよ、戦の準備はしているようだな」

いみじくも、想定通り。
蜥蜴は何処まで欲望を飲み込むのか。
此度の問題は他に在り。
冷やかな夜風に、腹底迄冷え切りそうな。

紫陽花 剱菊 >  
弐つ。ついぞ、特務広告部、ひいては風紀の一部に動き在り。
是に乗じ、おっとり刀で駆け付けようという目論見だ。
然もありなん。事が事だ。人一人消え、未だに解決の目途は無し。
如何様にでも因縁は付けられる。

「……問題は……」

蜥蜴一つの首では済むまい。
此度、段取りを付けた輩はさぞ血に飢えていよう。
秩序と銘打ち、泰平を掲げれば骸は幾らでも山積み也。
如何様にでも覚えがある。神代 理央も動くであろう。

「…………」

男の表情が、険しくなる。
眉間の皺が深くなり、気も重い。
然るに、場を選び殺害に手段を選んだ。
実に、中途半端な刺激を与えてしまった。

「此度ばかりは、私にも責任が在る。だが……」

蜥蜴以外に砲火が向けば、契りを以て雷が落ちる。
彼奴も其れは百も承知のはず。

「────……」

流す眼差し、冷やか也。
互いに責を果たす刻か。

紫陽花 剱菊 >  
参つ、監視対象とさる少女の接触。
監視対象、風紀の目下置かれる輩を指すと聞いた。
耳には届いている。紙面上の存在も認知している。
問題は、接触した相手。元より諜報活動は公安の十八番。
見張りの目は一つも限らない。

「……シャンティ・シン……よもや、な」

事件の裏に影在り。
斯様、一度邂逅を得たのみだが、善良とは言えぬ。
然るに、此度接触した監視対象もまた、善良とは言えぬと聞いた。

「月夜見 真琴、か……」

嗤う妖精と称される可憐な少女と聞いた。
腹の探り合いは不得手だが、さて。
現状は要注意と、お上からのお達しだ。

「……仮にも片方は風紀に席を置く者。
 今更悪逆に傾くとは思えんが、さて……」

叶うので在れば、抜かずに済めば良い。

紫陽花 剱菊 >  
乙に澄ます訳では無いが、事態の収束に動かねばなるまい。
可能な限り、迅速に、砲火を画餅に還すのみ。
風情に浸るのは、未だ先か。ゆるりと立ち上がり、夜風に靡く黒絃を手で抑えん。

「…………」

波打つ草木の囁きは、然ながら夜を彩る歌声。

「……歌、か」

当然、思い浮かぶは夕暮れに微笑んでいたかの少女。
今も尚、此の後世の底で歌っているのだろうか。
あの空澄みを今一度、と思いを馳せる。

「…………」

一方で、群落でもついぞ聞いた歌声が、今でも耳朶にしみ込んでいる。
己が好む空澄みとは程遠いが、後世では斯様な雅楽が若人好みらしい。
今一理解は出来ぬ。然れど、此処に残った不快感は其れだけでは在るまい。

「……後世の歌姫、か……」

あれもまた、不思議な歌声だった。
己が思うものとはまた違うが、さて。

「……一つ、此方も調べてみるか」

紫陽花 剱菊 >  
未だこの身に安らぎは訪れず。
然るに、使命を以て影に身を堕とすのみ。
後世の島。其の泰平を影より護るために、風と共に去りぬ。

ご案内:「常世神社」から紫陽花 剱菊さんが去りました。