2023/01/09 のログ
黛 薫 >  
「……言ぇば叶ぅって、こゆコトなのかな……」

さっき引いたおみくじの内容を思い出している。
叶うというか、叶っていたの方が近いだろうか。

「メロウ、どっちかってーと感覚派だもんな。
 発言も何か……詩的? って表現は変かもだけぉ、
 ふわっとしてるってか、言葉選びがキレイよな」

黛薫が言葉を濁すのは誤魔化したいときばかり。
メロウの言葉選びに想像を掻き立てられ、整理も
ままならず黙り込んだ経験がどれだけあるやら。

本音のまま話すときは魔術師らしく筋道立てて
話すのだが、素直になれないのがいつもの流れ。

「外だと、お店と違って "香りで満たす" ってのは
 無理よな。調香道具も見るからにデリケートだし、
 やっぱ不自由が先に来ちまぅのか。

 知ってもらぅなら『宣伝』がよくある手だけぉ、
 メロウ、外へのアピールあんま得意じゃない?
 前も寄稿文が書けなぃって言ってた気ぃするし」

悩んだ末に手に取ったのは『開運招福』のお守り。
メロウの語る展望に、自分やフィールの現状をも
重ねて、何かしらの進展があれば、と思ったから。
現状打破への望みというニュアンスが近いか。

「知ってもらぅってコトなら、あーしが友人を
 紹介すんのも宣伝に含まれっか。もーちょぃ
 人脈あれば口コミって手もあったのかな」

メロウ > 「香りを満たす、道具が大変。うん、そうだね
 それらは確かに問題だけど、一番大変な部分は違う
 分かるかな?これはクイズにしないでおくね

 だって、『あなたの為』のお仕事をしたいのに
 ...外に居ると、お店がそこにはないんだよね
 するとお店の中の香りはそこにはないんだよね
 そうすると『選べない』。私のお仕事が出来ない
 それで一度、空回りしちゃって、さ」

『これ以上のサービスが欲しいのなら、お店にて』
それを言えれば簡単なのだが、調香師にとっての問題

『その瞬間に満足のいく香りを選べなかった』
いたたまれなさの方が、どうしても大きくなってしまう
相手にどう思われても、自身の納得の問題にて
職人たる、彼女が独りで折り合いをつけるには、大きな壁があったそうな

「偶然出会った人に、名刺を渡すとかは出来るんだけどね
 私の香りは最初の通り。それが必要だから、惹かれるの
 だから、うーん......」

考えのままに口を滑らせるから、並びが綺麗に整うのもある
或いは自己矛盾に陥って、その舌の動きが固まっていく
あまりにも分かりやすい、思考の硬直。首も、かくんと傾こう

黛 薫 >  
「あぁ、限られてっと選べる範囲が狭くなっから
 妥協になっちまぅのか。そーなるとお客さんの
 満足度はともかく、メロウが納得出来なぃ、と」

「仮にお店の道具や材料を全部持ち出せたって
『その人のため』の香りを完璧に作れるワケじゃ
 ねーよな。屋外でデリケートな材料扱ぅのは
 ムリだろーし……」

場所を選ばず最適なパフォーマンスを、なんて
どんなジャンルのお店でも限界があるはずだ。
まして香りなどという儚い物を扱うなら尚のこと。

「じゃ発想の逆転だな。お店じゃないと満足いく
『客の為』を用意出来ない。だから外に出て広く
 知ってもらぅのが難しぃ。

 もし、外に居てもすぐお店にアクセス出来る、
 『場所を問わず客を店に招き入れられる』なら
 どーだろ?」

お守り袋を購入し、折りたたんだ御神籤をしまう。

メロウ > 「そうそう。だから外で話を聞いてから持ち帰るっていうのも方針としては良いんだろうけどね
 ...って、薫さま?」

言葉の意味を理解しかねる。それはまだ、『正常な感性』から飛躍は出来てはいない
発想の逆転を、文章としては理解しても状況の想像も出来ていない様子にて

こちらはおみくじを持ったまま、目を開いてぽかんと佇む

「えっと、えっと
 今、どんなことを考えているのか、な?」

故に問う以上の行動は、不可能にて

黛 薫 >  
「お店の外から、お店に繋げらんなぃかなって」

お守り内のおみくじを一度取り出し、入れ直す。
間違いなくお守り袋の中に入れたはずのそれを
腰に提げていた水筒の口から取り出した。

「魔術的に実現すんなら、転移か空間接続かな。
 転移は場所さえ決めとけば実現しやすぃから
 他所からお店に連れてくるだけなら現実的。

 裏を返せば、お店に連れてくるのは簡単でも
 元の場所に返すのはちょっと手間ってコト。
 露店でやるならきちんと準備すりゃイィけぉ、
 場所を決めずに売り歩くなら難易度が上がる」

「空間接続は、メロウのお店のドアを開けたら
 あーしの部屋に繋がってる、みたぃなコトが
 出来る。転移が『発動』なのに対して接続は
『維持』だから、利便性はこっちが上かな?

 頻繁に行き来するほどこっちのが総コストは
 安くなる。ただイニシャルコストが大きくて、
 かつ経路の起点……例えば『扉』とかがなぃと
 難易度が爆上がりする。要はそーゆーモノの
 持ち運びが必要になんのな」

「どこからでもお店に行ける。調香が終わったら
 おんなじ場所に返せる。それが実現出来たら
 外に出て知ってもらぅってのは可能になる?」

メロウ > ぽかん、と。彼女が止まる時間が増える
何も口にしないという事は、何も考えていないという事で
何も考えられない程、目の前の状況をうまく掴めていない

魔術・異能が蔓延る世界に、相変らず置いて行かれた遺物にて

「それって、今まで出来たこと?いや、違うよね
 ちょっとちょっと、想定も、してなかった事態だったかな
 薫さまの魔術はもっと、この世界元来の法則と親和性があるものかと思い込んでいた
 だから、これは...うん。本当に、魔法みたいな、こと?」

口にしながら、自身が如何に『理解』から置いて行かれていると悟りながら
成程。お友達と話す『魔術』の如何、話せることはいつも一息に説明しきる癖

その内容は凡そ、受け取り手の知識の差を考慮されてはいなかった

「うん。本当に簡単な事を聞いて、みるね?
 もしかして、私のお店と薫さまの部屋、言う通りに、繋げられるの?」

お店を外に出す云々よりも、まず気になったのはそこだったのだ

ご案内:「常世神社」からメロウさんが去りました。
ご案内:「常世神社」から黛 薫さんが去りました。
ご案内:「常世神社」に黛 薫さんが現れました。
ご案内:「常世神社」にメロウさんが現れました。
黛 薫 >  
「いぁ、ごめん。一気に話し過ぎたか」

自分が携わる分野になると勢い込んでしまうのは
黛薫の悪い癖。オタク気質とでも言うべきだろうか。

「いちお『法則』には従ってんだわ。この世界の
 発展に大きく寄与した『物理法則』じゃなくて
 メロウが言った『魔法』って法則にだけぉ。
 だから物理法則に従ってなぃってのも正しぃ。

 この世界は『大変容』に伴って異世界と繋がった。
 別世界からの来訪者、異なる法則、未知の可能性。
 この世界に無かった色々を受け入れてる。

 以前『触媒』の話はしたろ。有り得ざる奇跡の証、
 "有り得ないを覆した前例" で不可能性を否定する。
『異世界とさえ繋がった』っつー前例があるかんな、
 この世界同士を繋ぐのは最早非現実じゃねーのさ」

努めてゆっくり話そうとしている気配はあるものの、
口数そのものが多いから果たして対策になるやら。

「結論から言ぅと、出来るよ。あーしの部屋と
 メロウのお店繋ぐのもな。ただ、簡単じゃなぃ。
 メロウのゆー通り "物理法則的には" 有り得ざる
 事情だかんな。魔法側の理論を盤石にしなぃと
 "有り得ないコト" のままだから失敗する」

「まあ、つまり。調香やってるメロウなら理系の
 言い回しで伝わるだろ。『理論上は可』な」

理論上は可。要するにリソースと手間と技術が要る。

メロウ > 「理論上は...うん。なるほど、だね
 既に技術体系としては完成された分野である
 特別に新しい発想じゃなくて、裏付けがあって

 薫さまにとっては『前提』と出来るくらいに、
 起こりうる事象として認識されている、と」

一度は置いて行かれた部分ではあるものの、分野に於いて抱く知識は平凡ならず
ゆっくりではあるものの、受け止めようとの仕草を見せる

「でもそれを実践するには、私のお店を所謂『異世界』に変えるような調整が必要
 それも既に可能な事だと分かっている。じゃないと、お話しに出てこないし

 ...すると。例えば、もっと小さな箱の中を『異世界』の環境・法則に変える事も?」

意識の矛先は少々変わる。即ち、特定の空間の法則に手を加える事について、だ

黛 薫 >  
「んや、そこまで大仰な調整は要らねーよ。
 理由1つ目、この世界には元々魔法があったから。
 歴史の表舞台に出ることなく秘匿されてただけ。
 その "秘匿された裏側" を研究し続けてたのが
『常世財団』。この学園島のスポンサーだかんな。
 だからよく知られた法則と交わらない別法則
 ってだけで、ちゃんとこの世界内で実現出来る。

 理由2つ目、この世界は既にあまりに多くの
 異世界と交わってるから。ある意味じゃもぅ
 この世界は『元々の世界』と同一じゃなぃ。
 メロウが言ぅような『調整』を加ぇなくとも
 起き得る事象範囲は元の世界よか広くなった」

指を2本伸ばし、2つの理由を説明する。
元々説明や会話が上手な方ではない為、その程度の
ジェスチャーを付け加えて理解を促そうとするのが
精一杯らしい。

「断絶された空間の法則を異界の物に変えられるか。
 可能ではあるけぉ、空間を繋ぐよか難易度が高ぃ
 どっちかってーと、不測の事態として偶発的に
 発生するってパターンが多ぃかな。制御した上で
 任意の法則を適用すんのは一大事業になる。

 この島にもそーゆー、異界の法則に支配された
 区画はあんのよな。転移荒野の一区画や青垣山の
 神域、黄泉の穴や禁書庫の特定書架付近がそぅ」

メロウ > 「そう、なるんだね。この場所が財団云々って言うのは、そう
 異能が集まるっていうのは知ってる。あなた的には、人間も超常の要素?」

神秘の起こりやすい土台に、神秘を起こしやすい人間の集い
意図してここに呼ばれた者も居れば、一種の特殊を形成する事も可能

続いた言葉を鑑みれば、自身の在った遺跡がこの場所に発生したこと
それを偶然という事は経緯の観点から不十分とすら言えてしまうらしい

実感できるのかは、さておいて。理解を進めようとはするものの、前提の不足を埋め合わせる時間は決して短いものではない
この場所では珍しい、『神秘は遠い前提』を抱く物なれば

「本当に、棚の1つ箱の1つでも良いんだけどね
 そう、そこに何かを保管できればいいかなって

 普通の空間だとすぐに使えなくなっちゃう香りや材料
 そうして使用を諦めたものも、幾つかあるから、さ」

黛 薫 >  
「そだな。異能や魔術もそーだけぉ、人間っつー
 生き物自体が神秘と超常の産物って論もある。
 編み出した機械技術だって自然のサイクル内で
 生きる獣たちからすりゃ理解不能もイィトコだ。

 それを実現し得るだけの知能を持った生命の素が
 母なる海に漂う分子の衝突から "偶然" 生まれた。
 果たしてそれは試行回数による確率論の収束で
 説明が付くのか──ってのが神秘主義論者の間で
 議論されてたっけ」

秘匿のヴェールが剥ぎ取られた《大変容》。

超常が普遍となり、神秘が白日の下に晒された
時代に生まれ、かつてフィクションの象徴とも
言われた『魔術』に触れ親しんだ黛薫。

彼女にとって、神秘は遠からざるモノだ。

「あー……そーゆー……。そいつばっかりはなぁ、
 技術的な問題よりか『校則』が壁になるかもだ。
 法律、って言った方が分かりやすぃかな。

 異界の法則内でしか維持出来ないデリケートな
 物質って大体貴重品か危険物。だから取扱ぃが
 厳密に定められてる場合がある。

 確実なのは学園に許可取って保管してもらぅコト。
 んでもそーなりゃ当然使ぅにも許可が要るかんな」

眉根に皺を寄せて、考える。

「……メロウがあーしの『所有物』っつー前提が
 あっから、あーしが資格取るって手もあるな。
 勉強しなきゃだから簡単な話じゃねーけぉ」

メロウ > 「そんなに大変なもの、なの、かな?」

資格が必要、勉強が必要。それらの言葉で示される
メロウの側も、ただ内容を受け取っているだけではなく
『異世界素材』の管理について、より一層興味を傾けた

正直な所、『管理』については個人的な興味の比重が大きい
今まで調香に使用した素材は数知れず、落第街に縁があればそこに踏み込む事に躊躇いもなく

...ようは、『校則』に禁じられたものもいくつか使ってそうな、彼女なのである
薫と一緒に買い求めたモノについてもそう。使えるのなら、何でも使ってしまう

「あー.........ね。この話題、また今度の方が、いいかも
 私が出来る事は、私が出来るようになっておきたいな
 資料として気になってくる部分でもあるし。任せた、で終わりたくないな
 本当に必要そうになるのなら、お互いに考えるのも、悪くなさそう?」

黛 薫 >  
「大変なのもそーだけぉ、あーしがその辺の倫理
 緩ぃってか、まだ落第街の価値観に寄ってっから
 意識して守ろーとしてて……だから却って敏感に
 なっちまってんのかも」

校則、法律、常識、倫理。いちいち守っていては
生きられない環境に長く晒され、その癖遵法意識は
まともに生きていたから、何度も罪悪感に苦しんだ。

誰かのため、メロウのためという言い訳があれば
きっと自分はまた暗がりにでも手を伸ばしてしまう。
そんな確信があるから、理性の手綱を握っている。

「んじゃ、メロウも勉強してみる? そーゆーの。
 メロウ個人で出来るよーになるかもしんなぃし、
 いつか学生証取得したら資格も取れるかもだし」

「……偶然って言ってイィ縁なのか分かんなぃけぉ。
 あーしの友だちの話、したよな。その子は収納を
 ベースにした魔術が得意で。『位相空間』関連の
 魔法書を譲ってもらったコトもあんの。

 あーしも協力はすっけぉ、もしかしたらその子も
 力になってくれるかも? ってのは皮算用かな」

「どっちにしろ、今長話すんのは良くなかったか」

はっとしてお守りを売る社の前から一歩脇に避ける。
幸いにして人が少なかったお陰で周りの邪魔には
ならずに済んだらしい。

メロウ > 「学生証、かぁ...」

雰囲気に遠ざけられていたが、二人とも随分と、後ろ暗いものを持ち合わせるという事で
話題に出てきた際に遠い目線をもってしまう。そう、直視すると大変なのである

「大吉に全てを任せようかな。うん、抱負だね、抱負
 丁度効果もある事だし。流れに任せるしか、ないよね!」

強引に乗り切ろう。随分と長く話し込んでいた事すら忘れる程であった故
そのお友達との『縁』を結ぼうとした矢先に収納に対しての魔術の話が捗るならば
『お願い』にて繋ごうとしたのも、決して心遣いに留まらない打算の意図も生まれよう

そして、小狡い少女は利用がお得意。また、口角がもぞもぞと動いていたのだった

「それじゃあ薫さま。次は何か、あるのかな?
 最大のイベントはもしかしたら、帰り道の階段かもしれないけれどね」

黛 薫 >  
「ま、揃って大吉引ぃてんだ。何とかなるなる」

所詮は運と侮るなかれ、今や神の恩恵さえ必ずしも
空想の産物ではなく。それが無くとも気の持ちよう
というモノは案外馬鹿にならない。

「いちお初詣なんだから、最大のイベントは最初に
 済ませた参拝だぞ。俗っぽぃ話になるとお年玉と
 正月休みに託けたご馳走がメインな気もすっけぉ。
 そもそもメロウってご馳走に興味ある?」

流石にお節なんぞは神社の屋台にも置いてないが、
さっき買った甘酒、お汁粉に加えて雑煮等の縁起物、
松七日の最終日ゆえ、七草粥も売っている。

俗に言う姫始め、釜で炊いた柔い姫飯やお神酒は
1人1口までなら無料で配られている様子。

ただ、ぶっちゃけ客入りで見れば普通のお祭りに
並ぶような屋台の方が売れている。焼きそばに
たこ焼き、ポテトにフランクフルト。ちょっと
贅沢に牛串なども。縁起物は記念に近いのだろう。

「ま、正月らしーコト全部網羅しなきゃなんなぃ
 ワケでもねーですし? 気が済んだら普段通りに
 過ごすってのもアリ。あーしは小腹を満たせる
 食べ物をテキトーに買ったらもー満足かな」

メロウ > 「ごちそうに興味、ね」

多くは語らず、またも曖昧な笑み。こっちの方は明らかに、興味を持っていなさそうな顔
詳しくなければ、多くを回る事もなく。自然と俗に俗に目線が行けば、目立つ色の屋台、誘う香り

メロウの意識も例に漏れず、誘導は確かになされていたそうな
買うつもりはあまりなくとも、気を抜けば財布の紐が緩む疎らながらも人の列
そういうものを眺めるのは、中々悪くない気分だった。ご馳走よりも、人間好き

「それじゃあ、その満足に任せよっか
 お出かけという分類、初詣だけで満足するのも勿体ないし」

黛 薫 >  
「そんなコトだろーと思った」

視線は品よりそれを求めて流れる人に向く。
ブレない姿に苦笑しつつ、屋台をぶらり眺める。

折角のお出かけなら外でしか食べられないものを
探そうか、なんて考えていたのも最初のうちだけ。
冷凍食品とインスタント食品を合わせれば此処らの
食品を概ね網羅してしまう。恐ろしきは技術の発展。

「服汚さなぃヤツがイィな……」

汚しても追加料金は不要だが、借り物はできる限り
良い状態で返したい。両方の手が塞がる焼きそばや
脂が強い串焼き、ソース類たっぷりのたこ焼きは
早々に除外する。

「もっかぃ座って、食べ終わったら帰ろか」

購入したのはフライドポテトとベビーカステラ。
シェアにも向いているし、万が一落としても服に
ダメージは少ないだろう。

ただ、浮かれた人々の視線に当てられたお陰か
ちょっと足元が覚束ない。座り直そうと椅子に
向かっているのもその自覚があるからだろう。

メロウ > 「おっとと?」

薫が買い物に興じる傍らで目線を泳がせていた彼女も、
覚束ない足取りに、より一層近く、隣に立つ

「そうだね、お出かけはまた今度にしよっか
 その恰好であちこちと、出歩くのは難しそうだし

 片方、持つよ?」

片方きちんと、こちらが買った方が良かったかな?
とはいえ時すでに遅く、通り過ぎたこと
椅子の位置は覚えている彼女は付き添って、先導するとしよう

「ちょっと歩くけど、いいかな?
 多分こっちの方が、景色が良さそうだから」

黛 薫 >  
「ありがと。テキトーに摘んでてイィよ」

ベビーカステラ入りのミニカップを手渡して、
貴女の言葉に誘われる形で風景に視線を巡らせる。

葉を落とした木々は薄い白雪の衣をその身に纏い、
冬には珍しい青く澄んだ空を背負って佇んでいる。
寒色に染まる景色の中で正月飾りと鳥居の朱色は
鮮烈で、一年の計を飾るに相応しい。

「あーしん部屋かメロウの店でぬくぬくすんなら
 別だけぉ、そーじゃなきゃあーしのレアな服装は
 解散時点で見納めだかんな、堪能しとけよ」

服装にせよ表情にせよ、どうも今日は珍しい顔を
見られたらしい、とさっきの言葉を思い出して
やや似合わない発言。出歩けないならいっそ家で、
というパターンを除けば言葉通り見納めだ。

太めに揚げられたポテトを噛み切り、青空に昇る
白い湯気に吐息を混ぜて見送った。

メロウ > 「堪能ね。きしし、そっか
 あ、こっち見てね薫さま」

親指と人差し指、作られた枠組みに相手の姿をはめ込んで
そこに浮かび上がったウィンドウ。ぱしゃり、との音

並んで座り、黄昏にポテトを燻らす顔は既に1枚の写真となった
先程、くじを撮った動作を覚えられてしまったのか
そもそもメロウはその方法を自身の中で知っていたのか

その直後に襲い来る可能性のある追及を逃れるよう
カップの中のカステラを摘まんでは口の中に放り込む
ご馳走には興味はないけれど、必要ではないけれど
便利であれば、言い訳の様に使う。それがメロウ

黛 薫 >  
「えっなっ、あっ、ズル」

疑問と驚き、何を口に出そうとしていたのか
自覚出来ないままに言葉が渋滞する。

一方的に撮られるだけというのが何故か癪に感じて
ホロウィンドウを起動。カステラを頬張るメロウの
姿を切り取って収める。

「えー、何今の。いぁ、何もかんもねーけぉ。
 慣れんの早、ってかそやって絞んの便利だな?
 じゃなくて。あー、も゛ー……」

魔導タブレットの扱いで言えば黛薫に一日の長が
ある。しかし咄嗟の撮影ではぴったり中心が合わず、
振り返った直後の完全に油断した表情を撮られた
意趣返しとしては負けている気がする。

参拝客の視線に晒されてふわふわした頭では
気の利いた返しも絞り出せず、頰を赤らめて
拗ねたように目を細めるのが精一杯だった。

メロウ > 片頬を栗鼠のように膨らませて、噛むよりも暫く弄ぶ
結果、小動物じみた様子のメロウを収める事に成功したのである

撮られてしまった後に口元に添えられる指
今更お人形ぶっても、歪んだ口元は既にバレているのだ
暫くして、噛んでは飲み込む

「道具と道具、その親和性を甘く見ちゃったかな?
 お店の方も、待ち時間は多いからね。暇なときに色々試しちゃうの
 今の表情も良いと思う、だから撮りたいけど
 それこそ今日は顔を合わせてくれなくなっちゃいそう

 だから我慢、するね?」

そうして、カステラを今度は貴女の口元の前へ
どうぞ。拗ねていても、食べてくれるのかな?

黛 薫 >  
「も゛ーー、ぜってー楽しんでるじゃん……」

お出かけなので楽しんでもらえる方が正解。
それはそれとして納得するかはまた別問題。

油断した表情を撮られた恥じらい、操作技術とは
一味違う扱いの巧さを見せつけられた敗北感。
小動物染みた愛らしさやお人形らしい淑やかさを
前にすると強く出られない甘さ。

ただでさえごちゃごちゃした内心を歪んだ口元は
更に掻き乱す。撮らないと言われてもその表情を
晒すのはどうにも恥ずかしく。両手で顔を覆って
整えるまでに数秒の時間を要した。

「甘く見たワケじゃねーーですけぉ。
 開発者的には若干負けたよーな気ぃする……」

はぁ、と大きく息を吐き、ようやく自分の方に
差し出されたカステラの存在に気が付いた。
開いた口を寄せ、メロウの指を食まないように
何度か角度を調整し、咥える形で受け取った。
手で受け取らない辺り、完全に貴女の掌の上。

「ん」

代わりに摘んだポテトを貴女の口元へ持っていく。
未だ精神の不安定は残るものの、以前と比べれば
随分と指も綺麗になっている。

メロウ > 「ん、ひひ」

本当は、ゆっくりと弄びたくもなるこの状況
相手のかわいらしさは、きちんと突いて意味がある
しかしながら、こちらは貴女の道具...という建前もある訳で

ただただ生意気なその少女の姿は、大切にされるだけの価値があるというものか

「もっと、直感的に動かしてもいいって事かもね
 折角形に囚われないんだしさ。うん、でもその真面目さも好き」

ぱくっと、こちらは一気にかじりつく。位置関係は完璧、指先近く
貴女に香りを付けるストラップを渡したのも、『その必要があった事』を覚えている
指先の傷みは随分と収まって。体も、消えないもの以外は...ちょっとはマシなのかな、と

口にはしない、必要もない逡巡だったのだとか

黛 薫 >  
「直感的、ねぇ。あーし、考ぇ過ぎなのかなぁ。
 そゆ意味ではあーしが思ぃ付かなぃ使い方が
 出来るメロウがモニターしてくれんのは価値が
 あるって言ぇんだろーけぉ。

 あーしも、メロウの良くも悪くも気ままなトコ?
 スキなんだろーな、結局はさ」

大切にされるモノには大切にされるだけの価値が
ある。黛薫は "メロウがメロウである" だけでも
価値を感じるのだろうけれど。言葉の端々からは
図らずも感じ取った "道具としての優秀さ" にも
価値を覚えているのだと伺えた。

寒空の下、揚げたて焼き立ての美味しさは長く
保たず。ゆっくり食べられない慌ただしさをも
風情と捉えられるのは特別な時節ゆえ。

「……んし、とりゃえずやるこたやったかな」

初詣というイベントでやりたいことは概ね済ませた。
ぐっと伸びをしながら立ち上がる彼女は、消えない
傷を補い誤魔化す『魔術』というツールにご執心。

今は落ち着いた覚束ない足取りとて『傷』と呼べる。
身体も、心も、問題を抱えたままには変わらなくて、
ボロボロに欠けたそれを新しく得た縁で埋めている。

「帰ろっか、メロウ」

普通の女の子のような表情で、手を差し出した。

メロウ > 「そうだね。そろそろ、帰ろっか
 帰りの道も、随分と随分と、長いものだからさ」

メロウ曰く、『最大のイベント』
神社の下り階段を想うたのだとか

今は穏やかな表情を、捉えたのは己の瞳だけ
敢えてレンズを通さなければ、惜しげもなく堪能できる
そして彼女は、本当は、他の道具を使う必要もないのだ

「寮までは、送っていくからさ
 まだもうちょっと、よろしくね?」