2019/03/31 のログ
ご案内:「異邦人街」に人見瞳さんが現れました。
人見瞳 > 本日はお日柄もよく、麗らかな陽気のそそぐお出かけ日和。
折りしも満開の見ごろを迎えた路傍の桜の枝の下。
サイドカーのついた自動二輪の革張りのシートに腰かけて。

今日も今日とて、私は「私たち」の声に耳を澄ませる。

「定時連絡の時間だよ。どうだいみんな。何かみつかった?」
『商店街はハズレでした。目撃情報はあるのですけど、どれも失踪前のもので』
「うんうん。目立つもんねえ。一度見たら忘れらんないっていうか」

底抜けに青い空にそよいで揺れる白い花を見上げながら軽口で応じる。

『こちらもいいニュースは無いな。まだ確証はないけれど、落第街に寄りついた形跡は無い様だった』
『………上に同じく。ええと。この場合は左に……前に同じく??』

目指すものは同じでも、その役割は十人十色。
中身は同じ私だから、一人十色と言った方が正しいかもしれないけれど。

人見瞳 > 全員で共有している島内マップに情報が落とし込まれていく。

「じゃあ、委員会街にもいなかったってことでOK? あとはー……青垣山か転移荒野あたりかな」
『転移荒野なら監視映像があるのでは?』
『……洗ってみるか。僕がやろう。動きがあれば知らせてほしい』
「ほかに何かみつかった人ー?」
『『『『……………』』』』

誰かのマイク越しに「わんっ!」と元気な吼え声が飛び込んでくる。
蛇の道は何とやら。わんちゃんを連れて行くとは考えましたな。さすがは私。

「じゃあまた30分後に。はーりきっていこー!」
『はいはーい』
『「はい」は一回でいい』
「まあまあ。休憩も忘れずにね」
『この件が終わったらお花見しませんか?』
「いいね!」

と応じて通信終わり。
そういう私はどんな風に探してるのかって?

人見瞳 > 専用の端末から無線通信に割り込んでセキュリティを突破し、アクセス権限をオーバーライドする。
目当ては往来に向けて設置された監視カメラの記録領域だ。
スタンドアローンの監視カメラも洗いたければ、こうして現地に足を運ぶしかないのだ。

「Old King Cole was a merry old soul」

付け焼刃の勉強だけで、スパイ映画みたいな真似ができるほどハッキングの世界は甘くない。
ハード面でもソフト面でも、《ブルーブック》の支援なしにはできない芸当だ。

「And a merry old soul was he」

抜き出した映像データはさまざまな規格が入り混じっていて、全部まとめてメインフレームへと転送する。
あとは規格外のマシンパワーに任せて画像分析を回してもらうだけ。
いつだってそう。最後は力任せのゴリ押しになるのです。

「He called for his pipe, he called for his glass」
「And he called for his fiddlers three」
「ふんふふふんふん、ふんふふふんふん、ふんふふふんふんふーん」

まだ少しだけ肌寒い春風に吹かれて。口ずさむ歌は鼻歌まじりに。

人見瞳 > 今回の依頼人、ミスター・ペンドラゴンの地元でもあるこの街には、心なしかカメラが多い。
私的に設置されたものまで含めれば、財団当局さえ把握できないくらいの数があるはず。

思うにそれは、文化の衝突を案じてのこと。
何か問題が起きてしまっても、中立公正な監視の目があれば解決も容易になるのかもしれない。
転移荒野に放り出された転移者のうち、少なくない人々が暮らす異邦人街ならではの事情だ。

だからこそ、そのうちのどれかひとつに映っていないかを目をつけたのだけれど。

「Twee-tweedle-dee, tweedle-dee, went the fiddlers!」

《ブルーブック》のメインフレームから返答が舞い込む。
ささやかな期待を込めて確認すれば、予感的中。
私たちが探し求める彼と適合率99%の姿が映りこんだ映像がピックアップされていた。

人見瞳 > 「わお。やるじゃーん!」

グッと小さく拳を握って再生すれば、それは昨日の今ごろの光景。
彼が怪しい風体の男たちに囲まれ、無理矢理おさかな印のバンに載せられている姿だった。
さっそく私たちに連絡を入れる。

「ビンゴ! 迷子の仔猫ちゃんは攫われてたんだ。映像送るね」
『よくやった。けど、それを言うなら仔犬じゃないか?』
『足取りを追えそうですか?』

車が路傍に停車して、ふたたび走り去るまで五分にも満たない手際のよさ。
それでも。

「ナンバープレートが映ってるね」
『よし。盗難車の可能性があるな。届けが出ていないか当たってみよう』
『空からの監視はお任せを!』
『………オンラインの監視映像は……私が……』
「残りの私は島外に出るルートを押さえる感じで?」
『『りょうかーい』』

おたがいの役割を確かめあって、十二人でひとりの私がふたたび動きだす。

人見瞳 > 遺伝情報が失われて久しい、コーンウォール固有種の猟犬。
名前はカヴァス。ライオンみたいに立派な毛並みが自慢の大きな犬だ。
ミスター・ペンドラゴンにとっては、昔日の故郷に連なる唯一の身内のような存在。
彼とご主人さまの絆を引き裂こうとする試みは、私たちの初動対応と治安当局の連携によって水泡に帰した。

ええ。私たち《ブルーブック》は転移者の生活を支援するだけ。
風紀委員会をさしおいて独断専行なんかしませんとも。実力行使は専門の人に任せるのが一番ですから。

「えー、それではー事件の解決を祝しましてー」
「「「「「「「「「「カンパーイ!!」」」」」」」」」」

底抜けに青い空に白い花々が咲き誇る。

「ちなみに今日は特別ゲストをお呼びしてます!!」
「えー? 誰誰ー?? 誰だろう?」
「茶番だ……」

十一人の私たちが思い思いのジュースとお菓子と軽食を持ち寄って、その輪におじいちゃんとわんちゃんが加わる。
春の日は麗らかに。目くるめくような花の嵐に、宴はいつまでも果てることなく―――。

ご案内:「異邦人街」から人見瞳さんが去りました。