2020/06/22 のログ
紫陽花 剱菊 > 「…………。」

また、目を見開いてしまった。
なにせ、此の島に来て初めて言われた言葉だった。
気にしていないのもそうだが
彼女自身の苦労の重さ。……冷静に考えれば、わかる事だ。
異邦人は、自分だけではない。
馴染めないからこそ、足掻いてでも生きるしかないものたちだっているはずなのに。
……何と破廉恥な男なのだろうか。
内心酷く、自らの事を恥じた。
僅かに俯いて、首を横に振った。

「……良き師に巡り合えたようだな……。
 委曲を尽くす、辺りを払う其の姿勢に素直に感服致した。
 ……だからこそ、私は未だ、此処に馴染めぬ自分が酷く卑しく思えるよ……。」

強い少女だ。
そのような行いをしても尚、此の明るさを損なわない。
嗚呼、眩しい位だ。嫉妬するほどの卑しさはないが
男はつらつらと、自らの弱さを口にしてしまう。

「……とある女性に、変わって見せろと言われたが……
 乱世から意図せず、飛ばされ、如何様にも出来ず
 静かにただ、空虚に生きるのが私には関の山だった。
 人に非ず、刃として生きた人生には……此の島は、些か平和すぎる。」

そして、静かに首を振った。
仏頂面も、気づけば穏やかに微笑んでいる。
但し、その笑顔は自嘲の笑顔だ。

「……否、構わない。其方の考えも理解を得たし、好きに呼んでくれて構わない。
 ……その名に見合う男かは、わからぬがな……。」

クゥティシス > 重たく吐き出される紫陽花の言葉に、思わず眉根に皺が寄る。
彼が言っていることも理解は出来る。というより、自分にも覚えがあった。

「あー…分かるなぁ。私もさ、元居た世界はもっともっと自然がいっぱいでー…ほら、お金って概念も無いようなトコだったんだよね。
 欲しいものは狩るのが当たり前だったから、店先にあったお肉を「狩ったら」、みんなに追っかけまわされてさ。
 何でそんなことになるのかぜーんぜんわかんなくて」

懐かしいなー、何て呟きながら己の過去を語る。
何となくだが、紫陽花の両肩に伸し掛かる「何か」は、きっと嘗ての自分が抱えてきたものと似通っているのだと思った。
だからこそ―

「そんで、結局はお尋ね者みたいになっちゃって。みんなが助けてくれて、学園の生徒になれたのは良かったんだけどさ。
 それでも…やっぱ違うんだよね。みんなが優しくしてくれるから、此処のニンゲンの文化は理解出来た。
 けどさ、此処には草も、風も、月も、精霊も居ない。
 ホントにこの世界でずーっと暮らしてくのか、って。ホントに、自分の文化を…ルルフールの誇りを捨てるのか、って。
 しばらくはずーっと悩んでたよ」

街中を歩く足をふ、と止める。
くるりと振り返り、自嘲気味に笑う紫陽花へと手を伸ばし―

「でも、最後には気づいたんだよ。
 ゼロかイチかじゃないんだって。
 何処で生きていこうが、私は私だし、ニンゲンの文化の中で暮らしていても、私は結局ルルフール以外の何物でもないの。
 だから―」

ん、と伸ばした手を更に紫陽花の方へと突き出して―

「此の島が平和なら、平和な中での「紫陽剱菊」の生き方を一緒に探して行こうよ。
 そうして見つけた生き方が「ゴン」って名前に見合うかどうか。
 そこで改めて考えればいいんじゃないかな?
 今考えたって、今の貴方は「前の世界の紫陽花剱菊」のままなんだもの。
 今、「この世界で」「私が」名付けた「ゴン」に見合うかどうかなんて、考えたってしょうがなくない?」

ね、と付け足して朗らかに笑った。
此方の笑顔に自嘲の色など微塵もない。
己が乗り越えてきた壁の高さを思い起こし、
それを時に飛び越え、時に砕いて此処まで来た自負があるからこその笑顔だった。

紫陽花 剱菊 > 「…………。」

「……此処は、異邦人が集う集落と聞いた。クゥ、其方以外にもまた、似たようなものも多いのか……?」

文化に馴染めず、違反者と成る者。
元居た世界との違いに馴染めない者。
やはり、誰も彼もがそれに戸惑って、苦しんでいる。
自分だけでは無い事は、わかっていた。
足を止め、差し出された手も一瞥して、未だ表情は困惑の色。

「……其方は、強いな……。」

全てを聞いたうえで出た、感想だった。
意図的に犯した間違いではないかもしれない。
それは馴染みの無さ、無垢から来るべき過ちだったかもしれない。
周りの人間の手助けを加味しても、その誇りを捨てる"重み"は
志は違えど、男にも理解は出来た。
一族の誇り。男の場合は、修めた"武"への誇り。

「……私はな、此の世界の事が嫌いではない。此の島の事も。
 歪ではあるが、良い場所だと思う。だからこそ、私は"怖い"。
 逃げていると宣われようと、蔑まれようと、私が犯した"過ち"で
 此の島にいる者の生活を脅かしたくはない。……だから、黙する事を選んだ。」

人の寄り付かないスラム街で静かに、空虚のまま、馴染めもしない平穏を、無を甘んじる。
その結果が今と考えれば、結果的に良くないかもしれないが
それで此の島が揺らがないのであれば、其れで良いと男は思った。

「……元の世界で、多くの生命を斬った。人に獣に、物の怪。如何なる猛者も、跳梁跋扈も斬り捨てた。
 全ては、己が刃で在る為。民草の暮らしを護る為に。
 ……そんな私が、今の空虚以外で平和を求めても、許されるだろうか?
 ……素直に言おう。迷っているよ。」

変わろうとすることに。
だから、その眩しい笑顔を直視できない。
くすんだ黒は、少女の顔を直視できず、
未だ、手を取る事を悩んでいる。
転機が訪れたと思えば、少女との違いをありありと見せつけられ
其の強さの違いに、度合いに、怖気づいてしまったようだ。

クゥティシス > 「―ふぅん、そっか」

紫陽花がぽつぽつと語る言葉の重みを理解出来ぬ程、愚かではない。
彼がこぼす言葉はひどく抽象的ではあったが、その中に込められた「想い」は確かに感じ取ることが出来た。
だから―

「分かった。ゴンはさ、まだこの街の―ううん、この島のこと知らないんだ。
 だからそんな心配しちゃうんだ」

うんうん、と一人納得して頷いた。

「この異邦人街は殆どみーんな異邦人。私が転移して、馴染めなくて暴れてたところを助けた人もいっぱいいるよ。
 同じようなこと言う人ももちろんいたよ?そういう人にはさ、私はこういうことにしてるの」

すぅ、と息を吸い込んでしっかりと眼前の紫陽花を見つめる。
真摯な視線で告げる。

「貴方は、この島を甘く見過ぎかな。
 この島さ、破壊神だの、犯罪組織だの、暗黒宗教だの、いーっぱい、いろんなのがいるんだよ。
 そんで、これまでもいーっぱい色んな事件が起こった」

ひぃ、ふぅ、みぃ、と指折り一つずつ。
此の島を揺るがすような大事件を思い返す。
確かにどれもこれも学園の、島の存続が危ぶまれるような危機だった。
それでも―

「それでも、私は此処に居るよ。ルルフールのクゥティシスとして、今貴方の前に居る。
 パン屋のロルフも、宿の下働きのトキノも、みんなみんな、此処に居るの。
 今更貴方一人の過去を受け止められないほど、この島の懐は狭くなんて無い。

 だからね、ゴン。
 私が許して―ううん、お願いします。
 生活委員として、クゥティシスとして、困ってる人を見過ごせないの。
 あなたは、この島で、人並の幸せを享受して、豊かに暮らしていて欲しい」

紫陽花 剱菊 > 「……甘く見過ぎ……?……なんと……。」

嘘か真か。
少なくとも、御伽噺のような内容だ。
だが、少女の口から嘘が出るとは思えない。
何より、謂わば彼女は此の島における"先輩"。
恐らくは体験談とも言える事象だろう。

「……私が身を置く落第街は、決して良い治安とは言えぬ。
 日陰者が悪事を成す噂は、幾度となく耳にした……。」

決して、全てが平和とは思っていない。
太平の世と言うには、此の島は不穏が多すぎる。
それでも、自分のいた場所と比べれば
自分が渦中に入るのは、罷り成らぬと思っていた。
だが、決してそうではないようだ。
此の島は今も激動の中にいる。
その中で、あそこにいる生徒たちは
此の島にいる人々は、懸命に生きている。

「──────なんと、まぁ……。」

己は"甘えて"いたのだろう。
自らの愚かさが、腹立たしい。
そして、一際少女の強さが、明るさが際立った。
男は目を瞑り、静かに首を横に振った。

「……成る程、其れがクゥの、私に対する願いなら、甘んじてと言いたいが……
 今も尚、此の島が乱世の渦中に苛まれているというのであれば……済まない。私は、其方の言う"人並みの幸せ"を 潔しとしない。」

静かに目を開けて、少女の瞳を見据えた。
だが、その黒にくすみはなく、澄んだ色をしていた。

「────刃は、在るべき場所へと変える。剣は、誰かに握られてこそ意味を成す。
 ……私が出来る事と言えば、せめてクゥや島の人々の平和の一端の力添えしか出来ない。
 恥を忍んで尋ねるが……此の島に、治安組織の様なものはあるのか?生き方を見つけるとする成れば……」

「"私は、平和を守る一本の剣と成ろう"。」

男が初めて、此の島で願った己の生き方だ。

クゥティシス > ―変化は、匂いで分かった。

彼の周囲を漂うその「人」特有の波形とも言うべき匂いから、
躊躇いと、戸惑いと、後悔と―

そういったものが、消えたのだ。

此方を見つめる視線は鋭く、だが決して害意あるものではない。
自分を、その先にある未来をしっかりと見据えている。

その変化が嬉しくて、思わず頬が綻んだ。

「うんっ!ある、あるよ!風紀委員でしょ、公安でしょ?何なら生活委員会の用心棒でもいいし!」

ぶんぶんとちぎれんばかりに尻尾を振って飛び跳ねる。
これだ。現状に打ちひしがれ、停滞に沈んでいた人が、一歩を踏み出した時。
そこに居合わせることが出来た時。
そして、その一歩を踏み出す手助けが出来た時。
この瞬間がたまらなく好きで、この仕事をしているのだ。

「やろうと思えばなんだって出来るよ!クゥはそんなに強くないから、ゴンみたいに「剣」にはなれないけど…。
 「剣」を磨いて、必要な人のところに届けることは出来るから!」

ぐるぐるとゴンの周りを走り回るその姿はさながら大型犬か。
人狼の誇りは何処へやら、人懐っこい笑顔を浮かべた少女は、
「風紀委員」「公安委員」「生活委員」の三つの本部が、委員会街にあること、
入会希望者は常に募集していることなど、得意げに説明し続けるのだった。

それこそ、日が暮れるまで。
その日の宿の世話までしっかりと焼きながら、一日が終わり行く―

紫陽花 剱菊 > 「……人に変われと言われ、結局停滞に甘んじ、悩んでいた。
 ……私の様な者が受け入れられるかは分からないが、クゥが其処迄言ってくれたのだ。
 せめて、其処には報いねばなるまい。」

男の本質は穏やかなものであるが、極めて不器用なのだ。
結局の所、そう言う争いの場でしか生きる事は出来ない。
だが、それで誰かの平和が守れるのであれば
他意への余が訪れるので在れば良しとする。
自己犠牲を厭わないような男だが、今は語るに及ばず。

「……『風紀委員』『公安』『生活委員会』、か……。」

収まるべき所は、しっかり見定めねばなるまい。
ぐるぐると回るクゥの姿が、さながら本当に犬の様だ。
微笑ましい様に、ふ、と口元が緩んだ。

「嗚呼……立派に磨いてもらおうか……。」

事実、おかげで曇りは晴れた。
幾分か、視界は良好だ。
後は、少女が満足するまで存分に付き合うだろう。
今日、新たな道を示してくれた
"恩師"に報いるために────……。

ご案内:「異邦人街 大通り」からクゥティシスさんが去りました。
ご案内:「異邦人街 大通り」から紫陽花 剱菊さんが去りました。
ご案内:「異邦人街大通り」に藤巳陽菜さんが現れました。
藤巳陽菜 > 「いらっしゃいませー。はぁ…新しくオープンしましたー。」

メイド服を着た少女がカフェのチラシを配っている。
他の場所でなら目を引くであろうその蛇の下半身もこの町ではそこまで珍しいものでもない。
しかし、そこに猫耳のカチューシャまでついていれば流石に奇異の視線も増えてくる。

「よろしくおねがいしまーす。はぁ…」

自分の服装を見てはため息をついていた。

藤巳陽菜 > 自らが配っているチラシを見れば『色んな種族のメイドさんにあえる!!』『リニューアルオープン!セール中!!』とポップな文字が躍っている。

「リニューアル…リニューアルねえ…」

そうリニューアル…先月開いたばかりのこの店は『もんすたーはうす』という名前で出てきていた。
しかし、『他の種族をモンスター呼ばわりとは!!』という多くの批判を受けて名前を『すたーはうす』に改名していたのだ。

「モンスターでもスターでもどっちでもいいけどね…」

藤巳陽菜 > そんなことよりもこの制服…特に頭の猫耳はどうかと思う…
店には陽菜の他に色んな種族(いや、陽菜も人間なのだけれども…)がいるが全ての種族がこの猫耳をつけている。
初めから猫耳が付いている種族の人ですらつけているのだから異常だ…。

「でも給料が良さすぎるのよね…」

小さくそう呟いてまたため息をつく。
そう給料が…給料がいい…食べる量があまりに多い陽菜にとって本当にありがたい。

藤巳陽菜 > そろそろ真面目にやらないといつまでたっても配り終えない…
近づいてくる人に声をかけ…

「新しくオープンしましたー。よろしくお願いします。」

出来る限りの営業スマイルで手渡す。
一人目の男性は猫耳と尻尾を交互に見て怪訝な顔をしながらも受け取ってくれる。

藤巳陽菜 > よし、うまく受け取ってくれたこの調子で次の…。

『ねえお姉さんこれ本物の耳なの??』

「あはは、違いますよ…。」

『じゃあ、尻尾は本物なの??』

「それは、まあ…本物ですけど…」

『すげえ!!もっと見せてよ!!』

めんどくさいのに捕まってしまった…
悪気はなさそう…なさそうなんだけど…
助けを求めるように周囲に目を向ける