2020/06/28 のログ
羽月 柊 >  
とにかく、今日の回収とメンテナンス分で黒字転換は出来るだろう。
紙袋の中身は何かって? 企業秘密。
まぁ職質でもされれば中身は見せるだろうが、進んで中身を公開したい代物でもない。

特に、なんとなく空気のヒリついているのを感じている今は。

「ヒメ様もとんでもない時期に来たな。
 …いや逆か、とんでもない時期だからこそ、招かれたのやもしれんな。
 物事が動く時というのは、往々にして多方面から成り立つ。純粋な原因という方が珍しい。」

歩きながら小竜達と会話しつつ。

羽月 柊 >  
「良い事だろうと悪いことだろうと、あちこちで火花が上がり始めて、
 そのうち巨大な花火が空を彩ることになる。

 それが見る奴それぞれ、綺麗か汚いかは別だが。

 問題は戦う力を持たない息子が巻き込まれないように立ち回りたいモノだがな……。
 俺はともかく……ん、いや、そうだな、動けなくなるのは避けたいが。」

異邦人街のここなら、割と小竜達と会話してても目立たない気がする。

「だが、何もせず手をこまねいているのも性分じゃあない。
 …ああ、そうだな。損な性格をしているとは自覚してるとも。
 そう言いながら付き合ってくれるのは君達だろう?」

ふ、と頬を緩めた。

そろそろ夜の帳が降りて来る。
異邦人街の夜は、地球でありながら異世界にいると錯覚しそうになる。
あちら側の感覚に合わせているのだから当たり前か。

何と出逢っても不思議じゃないとすら思えてくる。

羽月 柊 >  
まぁ、それも錯覚と言ってしまえばそれまでだ。
柊はその足で帰路へとついた。

「あの子と合流するにも一旦戻るか。
 この荷物を持ったまま歩きたい訳じゃないしな。」



そうして、男は夜へと混ざっていく。
目立つ白を従えながら。

ご案内:「異邦人街 街角」から羽月 柊さんが去りました。
ご案内:「異邦人街」にソフィア=リベルタスさんが現れました。
ソフィア=リベルタス > 「この異邦人街ってやつさぁ、私は好きだよ。 目的はどうでもいいけど。」

河原から帰ってきた猫はつぶやく、教師ではあるが、この異邦人街に住んでいる。
単純に居心地が良いから。

「元の異世界に恋い焦がれて、という人のために作られたっていうけども、あぁ、私は別に
あの世界に未練はないけどね、放逐された身だからね。
ほら、いろんな世界が集まってるって、すごく幻想的な風景じゃないかい?」

幻想的も何も、この島自体がある種、幻想的な存在ともいえるわけだが
彼女はあまり気にしてはいないようで

「人を見るのも、おちょくるのも、ここは実に都合がいい。
何せいろいろな人種がいるからね、うん。 それに寮ってのは隠れる場所が少なくて良くない。
いたずらできないなんて退屈じゃないか?」

ぶつぶつと独り言にしては長すぎるつぶやきを、空に向け続ける。
文句を言いながら、足取りの軽い、ステップを踏むような歩き方は
そこか気まぐれな猫を彷彿とさせる。

ご案内:「異邦人街」に倉橋 龍さんが現れました。
ソフィア=リベルタス > 彼女が歩いてやってきたその一角は、蒸気の噴き出る機会が犇めき合う、騒々しい場所だった。

「そうそうこんな感じでね、科学の発展した世界だったよ、人間の思考はどんどん狭くなっていったがね。」

悲し気に、寂しげにつぶやく言葉は喧騒に消える。
故郷を想う、それは何も肯定的な物だけはない。
彼女の場合は、『憐れむ』という言葉がぴったりとはまる。

「人間というやつは何とも難しい生き物でね、便利になればなるほど、視野が狭くなる。
情報も、文化も、人種も乗り越えたはずなのに、行き過ぎた進化は彼らの思考を止めてしまったのさ。」

一体どんな世界から来たのか、それを詳しくは言わないが
彼女は彼女のいた世界を憂う。

「まぁ、ここはそうならないといいねぇ。 うん。」

気を取り直して、ふふふと笑みを浮かべながら街を歩いてく。
何処かに面白そうなものはないかと見渡し、風に尾をたなびかせる。

倉橋 龍 >  
「いや、だからよぉ!!!」

独り言に割って入る濁声。
発生源は今日日、恐るべきことにペイズリー柄の緑のバンダナを巻いた小太りの男。
いや、もうハッキリ『デブ』と言った方が潔いだろう。
そんな、声も太いし横にも太い倉橋龍の大声だった。
 
「何いってるかわっかんねーから!!
 日ノ本の言葉でしゃべれやぁ!!」

そう、露天商と言い合っている。
中古販売業者のようだ。
争点になっているのは良くわからない魔術道具の部品。
それなりに知識があるなら、航空系統の魔術の道具のガラクタとわからないでもない。
それの件で揉めているようで。

「おまえ、さっきの客とは普通に日本語でしゃべってたじゃねーか!
 俺にふっかけようって段になって急に片言になって誤魔化そうとしてんじゃねーよ!!
 バラエティの企画じゃねぇんだぞ!!」

そう、倉橋はだらしない腹を揺らしながら突っかかっていた。
あんまり金がない倉橋にとって、定価はまだしも吹っ掛けられるのは冗談ではない。

ソフィア=リベルタス > 「うん? おやおや、もめ事かな? ふふ、これは面白そうな匂いがするねぇ。」

にわかに楽しそうな笑みを浮かべ、喧騒の方へを足を向ける。
軽やかに、跳ぶように、音を立てずに、忍び寄る様に、無邪気にはしゃぐ子供のように。
こそり、こそりと、それは人間にはできぬ技。
怪異はゆっくりと、バンダナの君の背後へ近寄ると。

「おやおやぁ? 楽しそうな話をしているじゃなぁないか、ふんふん。 なるほど? こてはお空を飛ぶための魔術道具じゃなぁいかな?
まぁガラクタだけど、なんだい、これが欲しいのかい?
ふんふん、値段がお気に召さないのかな?」

まくしたてるように、子供が大人に尋ねるように、しかしどこか子供を見る様に
背後から正面へ、正面から眼下へ、小さな体をこれでもかと視界に潜らせて。
怪異は二マリと笑うのだ。

倉橋 龍 >  
「ああん!? そうだよ!! 
 だけど、この犬耳野郎がふっかけようと……」

倉橋が振り返った先にいたのはしかし、猫耳だった。
猫耳ロリ。しかも「おやおや」系。
ロリおねぇさん属性? 猫耳で?
犬耳に食って掛かってる時に?
ケモ耳っていわなかったので、辛うじて気まずくない気がするか?
いや、微妙か?

「……い、いや、だって、定価の三割増しは暴利だろ……中古だぜ?」

若干気勢を削がれて、猫耳少女に事情をつい説明してしまう倉橋。
倉橋は押されると弱かった。

「しかも、コイツさっき他の客とぺらぺら日本語喋ってたくせに!
 いきなりわざとらしい片言!!
 なんなのこいつ!?」

おま国ならぬ、おま人である。
まぁ、ここなら多分日常なのだろうが、倉橋は引き下がらなかった。
お金がないのである。
なお、露天商のワーウルフは素知らぬ顔である。
少し気まずそうだが。

ソフィア=リベルタス > 「まぁまぁ、まぁまぁ。 そうかっかすると立場が弱くなってしまうものさぁ?
いや、怒る気持ちはわかるがね?
うんうん、こういった荒ぶる生徒をたしなめるのもまた教師の役割かな?」

独り言のように、語り掛ける様に、笑いながら振り向いて

「うんうん、いやぁ、確かに3割増しはちょっとどうかとは思うがね、こう考えるだよ、別にこんな場所で買う必要もないさと。
なんならガラクタだ、いや、私は機械は苦手だからね、伝手を探してあげることぐらいしかぁできないが。」

何が言いたいのか、要点のつかめない会話を伸ばして伸ばして

「お金がないのかい? 安く買いたいのかな? うんうん、わかるよぉ、この機械が欲しいということは何かを作っているんだろう?
お金はいくらあっても足りないからね、わかるよ。
ロマンには出資が必要だ、さぞ苦しいんだろう。
でもほら、かっかするとアイデアは沸いてこないからね。」

話題をころころと買え、表情を覗き、感情を覗き、人格を覗いて
そして実に愉しげに笑う。

「うん、気に入った。 君、なかなかいいねぇ。」

聞こえるか聞こえないか、喧騒の中では消えそうな声で呟くと

「君君、ワーウルフくん? そう、君だよ。 あぁ、喋らなくていい、かまわないよ? 
人間に売るものなんてない、少しでもふっかけてやればいい。
なんなら高値で売れた方が都合がいい。
わかる、わかるなぁ。 でもほら、私たち吾人にとっては。
そういう噂、ちょっと邪魔なんだよなぁ。
言っている意味、分かるかなぁ?」

留まらない言葉の群れ、たった140㎝程度の大きさから放たれる、目に見えないおどろおどろしい気配。
脅しているわけではない、唯。
彼女の気配は言っている。

『逆らえば大変なことになるかもしれない』

ふと、商店の物品が宙に浮いた。

倉橋 龍 >  
「え、ええ? え!?」

めちゃくちゃに早口。猫耳ロリのマシンガントーク。
なるほど、これがギャルゲなら多分御褒美なんだろう。
でもこれは現実だし、倉橋はお頭の出来がいいわけではないので普通にあんまり聞き取れない。
恐らく音速と等速で放たれているであろう無限の言葉の洪水をワッと浴びせられ、倉橋はフリーズした。
辛うじて分かったことは、助けてくれたということと……え、教師?
年上??
つか、え、何!? 
何か浮いてる?!
脅し!? 脅しなの!?

脅しだった。
ワーウルフは尻尾と犬耳をペタァアアっとさせて愛想笑いを浮かべ、そのまま算盤をはじく。
あ、定価よりずっとやっすい!!
いや、その値段で最初から売れよ!!

「……え、あー、この値段で俺は、いいけど……」

控え目に紙幣を渡すとそのまま欲しかったガラクタを押し付けられる。
そして、そのまま露天商のワーウルフはあっと言う間に店を畳んで風呂敷ごとどこかに消えてしまった。
足がグルグル巻きのナルトみたいになってた。
すげぇ、異邦人アレできるんだ……うわぁ。

「あ、えー、あーえーと……その、す、すんません、ありがとうございます」

何とか御礼を言う倉橋。
オーバーヒートした頭でも礼くらいは言わねばならない、そういう殊勝な心掛けかもしれない。
だが、実際は半自動的に出ただけだった。
倉橋は小心者の日本人なので「ごめんなさい」「すいません」「ありがとうございます」あたりは咄嗟に出てしまうのである。
パブロフの猿であった。

ソフィア=リベルタス > 「うははは、みたかい!? 見たかいあの顔と耳と尻尾!!
わっははは!! これは傑作!!! 傑作も傑作だぁ!! 力に秀でたワーウルフが尻尾を丸めて奔走とはね、いやぁ、あっはっはっは!!」

お礼はいいと、手を振りながら、立ち去る狼に指をさし
教師と名乗った怪異はおおいに、盛大に嗤う。

「いやぁ、なに、生徒を手助けするのも、諍いを収めるのも教師の役目だ。
気にすることはぁない。
あぁ、挨拶がまだだったね。 
私は、『ソフィア=リベルタス』、魔術学の講師、いやまだ新任だから知らないのも無理はない。
まぁ、授業であったらよろしく頼むよ、安く買えてよかったね。
バンダナの君。」

笑い涙を拭いながら、背伸びをして肩をポンポンと叩く。
その姿はどう見ても13、4歳ほどの少女にしか見えない。

宙に浮いていた物質は、彼女が笑うと同時にカロンっと音を立てて地面に落ちる。
騒がしかった一角は静けさを少しだけ取り戻したが
少女の笑い声が響き渡っている、もう、先ほどのような恐ろし気な気配は感じない。

倉橋 龍 >  
「え、あ、はい、ありがとうございます……って先生だったんすか!?
 そ、そりゃ、あの、えーはい、すいません……人間の倉橋龍です。
 じゃねーよ、二年の倉橋龍です」

倉橋が人間なんて見りゃ分かるわ。
尻尾を巻いて逃げる犬野郎を笑う猫女のソフィア先生を見下ろしつつ、頭を下げる。
どうしても見下ろす形になる。ちっちゃいし。

「ほんとすいません、お陰でホント助かりました……!
 えと、今のあれっすか? 魔術っすか?」

単純な興味から尋ねる倉橋。
まぁ、先生相手だし、多分いいだろう。多分。

ソフィア=リベルタス > 「うん、うん、先生だとも。 さては、こんなロリっこが先生なのか? とか思ったかい?
いやぁ、かまわない、かまわないよ。
人間というのは見た目に左右される生き物だ、うんうん。
お礼ができるのは良い教育を受けている証拠だ、親御さんはきっと良い方なんだろう。」

未だ堪えぬ笑いを抑えながら、うんうんと頷き、人間性を褒める
ソフィアの脳裏に浮かんだのは故郷のもっと荒んだ人間だったが、それは隅に追いやることにした。

「倉橋龍、龍ね、ふんふん、まさに天に昇る人にふさわしい名前じゃないか。
あぁ、あれね、魔術、というか、異能というべきか。
もっと正確にいうなら、ほら、ニホンジンならわかるんじゃないかな?
ポルターガイストってやつだよ。」

名前を聞くと、どこが機嫌がよさそうに、後ろ越しに手を組んではくるくると廻り
軽い足取りで龍の周りを回り回って見上げては

「何せ私は怪異、妖怪、化け物だからね。」

意地悪気に、くすくすと笑いながら、そんなことを宣うのだ。

倉橋 龍 >  
「え、あ、ああ、えーはい、は、はぁ……」
 
マシンガントーク第二射。
目にも留まらぬソフィア先生の早撃ちに倉橋は最早ついていけていない。
此処が西部劇だったら既に倉橋は二度死んでいる。
ソフィア先生の鮮やかな機関銃掃射でハチの巣になってる。
というか、今そんな気持ちだった。
言葉に殺傷性が無い事だけが幸いといえた。
だが、倉橋もこのままではいられない。
会話とはお互いにちゃんとキャッチボールするモノ。
誇りと財布の恩人に報いる必要がある。
だからこそ、倉橋は帽子は被っているが、テンガロンハットは被ってないソフィア先生の締めくくる言葉に、何とか反応しようと口を開き。

「よ、妖怪……あ!? ば、化け猫って奴っすか!??!」

即座に後悔した。
いや、もうちょっと言葉選べなかったのか俺。
倉橋は言ってから後悔したが、もう遅かった。
やはり音速と等速でその失礼は届いてしまった。
未来のタヌキ型ロボットがいたら今この瞬間に此処に来てほしかった。
来るわけがなかった。
二十二世紀の科学も大したことねーな!! へへ!!
出来ることは来るかもわからない未来への八つ当たりだけである。

ソフィア=リベルタス > 「ぶっふ……ば、化け猫、いや、いや、合ってる、合ってるけどさぁ。
ふふ、もうちょっと……言い方が、アッハッハッハ、君は私を笑い殺す気かな?
いや、うん、私がしゃべりすぎたね、悪い癖だ。
思考する時間を上げたほうがよかったね、済まない済まない。」

またもや涙目になりながら、腹を抱えて笑っている。
存外に自分は笑う方なのかもしてない。


「いや、正直もうすこし驚いたり怖がったりするものかと思ったが、ふふ、そうだったね、ここではそんな存在は日常茶飯事だった。」

「まぁ、せめて猫又とか言ってほしかったなぁ、うん。」

何とか笑いを堪えて向き直ると。

「とりあえず深呼吸でもしたらどうかな?
落ち着くのには有効だと聞くよ?」

至極真っ当なアドバイスを送ることにした。

倉橋 龍 >  
「え!? い、いや、そのすいません!!
 あ、え、はい!! 深呼吸!!」

今度はむっちゃ笑われた。
いや、笑ってすましてくれたというべきか。
度量がある。流石先生。流石ロリ。流石猫耳。後者二つは関係ない。
テンパりつつも倉橋も腹を膨らませて深呼吸をする。
そりゃ腹式呼吸だよ。

「ヒッ! ヒッ! フゥウ……!!」

しかもラマーズ法だった。
何も生まれないし、何も産まないが、腹だけは出ている倉橋は一応それで落ち着きを取り戻し。

「あ、ありがとうございます……いや、まぁ驚きはしますけど!
 まぁ、助けてくれた人怖がるとかはないっすよ、ははははは……」

なんとか、そう愛想笑いを浮かべることはできた。
愛想悪いの出来の良し悪しについてはソフィア先生しか観測できないので分からない。
多分引きつってるが、もうそれはデフォルトなので諦めるしかない。
仕様である。
そして、すっかり落ち着きを取り戻した倉橋は。

「え、えと、でも、猫又なんすか? じゃあ、尻尾割れてんすか?」

落ち着いても失礼だった。
倉橋は好奇心旺盛だった。
ソフィア先生がヤバい怪異だったらきっともう死んでる。
名状し難き深淵を覗き込むゲームだったら間違いなくアウトだった。

ソフィア=リベルタス > 「それ、ラマーズ方だね? うん、だめ、お腹割れちゃうから、ギャグキャラなのかい君は?」

笑いが止まらないとはこういうことか、久々に、面白い人間を見た、いたずらし甲斐があるというか
チョットしすぎたかもしれない、悪いことをしたかな?
と思わなくもないが。

「顔ひきつってるじゃないか、ほらもっと笑って笑って」

とりあえず思春期男子に効くであろう、ボディタッチを仕掛けておく
ほほを引っ張り上げて無理やり笑みを作るようにして。

「残念ながら正確には猫又でもないよ。 私にはそういう正確な名前は存在しないからね。
ほら、割れてないだろう? 尻尾。」

と、目の前で揺らしておく。
そもそも自分でさえ理解できてないない自分を説明するというのは何とも難しい。

倉橋 龍 >  
「え!? あ、いや、面白い奴って思ってくれるなら嬉し……嬉しいのか……!?」

自分で自分が分からない。
あれやこれやと言う内に今度はスマイルの指導を受ける。
猫耳ロリおねぇちゃんから笑顔の講習。
あ、指先やわらかーい。
女の子の匂いがするー。
気軽なボディタッチと尻尾見せてくれる以上、少し揺れる魅惑の腰付きまでサービス。
なんだこれ? 金取られるのか?
俺死ぬのか? 美人局か?
魅惑の教師の副業か?
きっと全部違う事は理性ではわかっているが、本能では思春期が暴走する。
仕方ないじゃん、男の子なんだもん。
仕方なくねーよ、相手は先生だぞボケ。

「え、ああ……そ、そうっすよね……!
 異邦人の種族名って、だいたい、何か、無理に名前つけてるだけってこと多いって聞きますしね……!
 せ、先生みたいなの先生の世界でも珍しいんすか?」

そのまま思ったこと全部そのまま聞く脳直ムーブ。
多分、今の倉橋よりはまだダイオウイカとかの方が頭がいいだろう。
それくらいのINTの低下っぷりだった。
チャーム喰らってんだから仕方ねーだろ。

ソフィア=リベルタス > 「うん、まぁ、珍しいというか他にはいないというか。
私の世界は化学が随分と発展した国だったしね、だからか、そもそも同族と会うことも少なかったし。
私みたいのはすぐにつま弾きさ。
ネコミミ? っていうんだろ、こっちだと。こういうのも、別に消そうと思えば消せるし。
ただほら、かわいいだろう? こういう女の子はさ。」

ニシシと笑う笑みには、悪意というよりは悪戯心が露見している。
美人局、否、これは思春期男子へのいたずら、実に性質が悪い。

「ま、そもそも猫というわけではないからね、私は見た生き物ならどんなものにでも真似られる、そういう怪異だから。」

何処か寂しそうに

「実体なんてないんだよ。」

少女は言うと、くるんと青年に背を向けた。

倉橋 龍 >  
「え、あ……」

目前で、そう物悲しそうに語るソフィア先生を見て……倉橋も幾らか察した。
倉橋も異能者である。大した異能ではないが、少なからず『島の外』では『嫌な思い』をしてきた。
自分の異能を呪ったことはないが、だからって哀しい思いや寂しい思いをしたことがないわけではない。
故にこそ……目前でそう『平気そう』に語る怪異の笑顔には……倉橋も、身に覚えがあった。

「……実体は、ありますよ」

故にだろうか。
それは驚くほど、あっさりと口に出せた。
真面目な顔で、倉橋はソフィア先生の目を見て……首を振る。

「だって、先生、俺の事助けてくれたじゃないっすか。
 構ってくれたじゃないっすか、それは……実体ある良識でしょ?」

倉橋は、一応これでも男だった。男の子だった。
だから、少なくとも。

「どんなものの姿形を真似たって……先生のその良識と親切は先生の実体そのものっすよ」

女の子にそういう寂しそうな笑みを浮かべさせることが『いけない事』であることは、辛うじて分かっていた。

ソフィア=リベルタス > 「…………」

思いもよらぬ言葉に、ついつい口が停まった。
別に理解してほしかったわけでも、同情をしてほしかったわけでもない。
そもそも寂しいとか全然感じているわけでない筈。
もう何百年と同じことを繰り返していたのだから。

でも、青年の言葉は、なぜか少しだけ胸に刺さった。

「なるほど、一理ある。 うん、そうだね。
確かに、この意識体だけは唯一不変のものだ。
あぁ、そうだね。 
うん、君はいい男だ、きっと腹さえ凹めばモテるだろうに。」

生徒に慰められてしまった、これでは教師失格ではないか。
でも、不思議と悪い気はしない、しかしそれはそれ
悔しいものは悔しいので、余計な一言を置いておくことにする。

にしし、と笑い顔を最後に、ひらりと身を宙に廻し
黒い煙を経て、小さな、小さな黒猫の姿になると

「ま、君のことは覚えておこう、倉橋龍。 魔術のことが聞きたかったら、私の授業を受けることだね。」

路地の暗がりに身を寄せ、その場を立ち去ってゆく。

倉橋 龍 >  
「あ、ありがとございま……こ、これは好きで太ってるわけじゃねーっすよ!!」

実際、好物のラーメンをしょっちゅう食ってるせいなのでほぼ完全な自業自得である。
無論、惚れた腫れたとは無縁の人生を送ってきた倉橋にはモテるとかモテないとかはよくわからない。
まぁでも……褒めてくれてることは分かったので、倉橋もやっぱり悪い気はしなかった。
どこか、気恥ずかしいが。

「!? え、猫!? ガチ猫!?」

いや、姿は何にでもなるつわれたばかりだろうが。
学習しろ俺。

「あ、え、あー……はい。
 俺も先生の事覚えたんで、その、なんつーか。
 これは甘えるんすけど……さっきの姿でお願いしますね。
 違う姿だと一発だとわかんねーから」

そう、一方的なお願いをしつつ、倉橋もソフィア先生(猫)を見送り……溜息を吐き。

「……授業、顔出してみるか」

独り言ちてから、倉橋もまた踵を返した。
欲しいものは手に入ったし、猫にも化かされた。
日が沈み切る前に退散しよう。
この調子で狐や狸まで出てきたら、もう倉橋の手には負えない。

ご案内:「異邦人街」から倉橋 龍さんが去りました。
ご案内:「異邦人街」からソフィア=リベルタスさんが去りました。