2020/07/01 のログ
ご案内:「異邦人街 とある教会」にシャーリーさんが現れました。
■シャーリー > 異邦人街の片隅にある教会は、一見すると西洋風のありきたりで小さな教会だが、そこに信奉される神は居ない。此処は祈りの場であり、同時に人々の憩いの場でもある。それぞれがそれぞれの信仰や信念を持ち、教会はその場を用意しているだけだった。空っぽであり、満たされてもいる、そんな場所。此処に何を求めて訪れるかもその人次第。祈りか、或いは、繋がりか。
常時開放され異邦人街の住民のみならず島の人間ならば誰でも出入りが出来るその教会には、教会の管理者の牧師の老人と、数名のシスターが居るが、最近そこに一人住み込みの手伝いが増えた。シスターではなく、ただの手伝い。雑用をしている。名前をシャーリーと言った。異邦人である。
そして少女は今まさに雑用の真っ最中で、シスターに頼まれ教会の前の掃除をしていた。今はお昼時。午前中、教会の前で遊んでいた子供たちは昼食を食べに一度家に帰っているようで、その片付けを含めた掃除だ。乱雑に散らかった遊び道具を拾い、隅にある水道で汚れを落として水けを軽く切って、道具箱にしまう。
「えっと……こ、これで、最後、か、かな……?ほ、他に……お、お、落ちて、ない?」
頭の上に乗せた手のひらサイズの触手の魔物である友人に声を掛ければ、彼女も触手をくねらせ辺りを見渡す。
■シャーリー > 暫く辺りを見渡して、遊び道具はこれ以上落ちていない事を確認すると道具箱を持ち上げ、一度教会の中へとしまいに行こうとしたが、足を止める。
どの道またお昼が終わったら子供たちが来るんだろうし、それなら外の邪魔にならない場所に置いておいた方が楽かもしれない。そう思い直して、玄関横の片隅、邪魔にはならないけど目立つ位置に置いておく。
それから竹箒を持ってきて、教会に続く歩道を掃いていく。風に舞って落ちてきた葉っぱや子供たちが何処かから拾ってきたのか手折ってきたのか分からない木の棒やら、それらを掃いて道を綺麗にしていく。
ふと足元に転がる、箒で掃くには大きくて長い木の棒を見付けて、腰を屈めてそれを拾い上げる。
「……こ、これは、いわ、いわゆる……ゆ、ゆ、勇者の、剣……」
鮮やかな緑色の隻眼を輝かせて、手ごろなサイズの木の棒を見つめる。
いわゆる、小さな男の子がよくこんな棒を拾っては勇者ごっこだったりヒーローごっこだったりしてるやつである!
「…………や、や、やらない、よ。……は、はは、はしたない、もん、ね……」
頭の上で触手の友人がペチペチと触手で頭を叩くので、我に返って慌てて弁明した。真っ赤な顔に引き攣った笑みを浮かべて誤魔化しているが、やる気満々だった。
ご案内:「異邦人街 とある教会」に矢那瀬陽介さんが現れました。
■矢那瀬陽介 > 教会の扉から数多の人々が流れ出ていく。
服装は疎らな彼らは奉仕活動に及んだ一般人。
有翼や尖り耳のものは異邦人街の住処へと流れ、人間は元の住処へと異邦人街の出口へと消えてゆく。
遅れて出てきた黒髪の少年は大きく腕を高らかに背伸びしながら扉から繋がる階段を降りてゆき。
「ん?」
教会の前に木の棒を魅入る者に気がついた。
頭上にある異形なる生物、そして紅潮させる顔にはつりと瞬きを繰り返して近づいてゆき。
「なにしてるの?その棒も教会のお祈りに使うものかな?」
背後から腰を軽く曲げてその顔、と視線を向ける変哲もない棒を覗き込んだ。
■シャーリー > 玄関からわっと人が溢れてくる。邪魔にならないようにというのもあるが、殆ど条件反射で道端に避けて頭を下げる。
ペコペコとお辞儀をして見送った後、改めて木の棒を見下ろす。どうしよう。捨てるにしてもゴミ袋に入れたら袋を破いてしまいそうだし、もしかしたらこれで遊んでいた子はお昼から戻ってきたらまた遊ぶ気で置いていたのかもしれない。
あれこれと考えていると急に後ろから声を掛けられ、驚きのあまり肩を弾ませて振り返る。
そこには背の高い黒髪の少年が居た。昼時の陽の明かりでキラキラと赤みがかっているが、綺麗な黒髪だ。それに、黒目だ。この世界では珍しくないらしいが、少女の元々居た世界で黒髪に黒目は珍しかったこともあり、ついまじまじと見てしまったのを、慌てて顔ごと視線を逸らした。
「あ、えっと……ち、ちち、違い、ますっ……ご、ごめん、なさいっ……」
首を左右に振って少年の問いを否定した後、しどろもどろにその木の棒を道具箱に仕舞った。結局捨てずに取っておくことにした。
道具箱から戻ってくると、竹箒を持ったまま少年を見上げるが、視線はあまり合わない。
「あ、あの……な、なな、なに、か……ご、御用、で、しょ、しょうか……。し、しし、シスターなら……、な、中に、い、いると、思いま、ます……」
言葉を何度も詰まらせながら、黒い布を巻いた左手で教会の扉を指差す。
■矢那瀬陽介 > 悲鳴を持って己が迎えられた事を知ると、片手を前に差し出して小さく会釈をした。
「驚かせちゃったかな、ごめんね?
それで、その棒で何をしてたの?」
片方の膝に手を宛がう様に、前傾姿勢。覗き込んで左に傾く肩から滑るフードを手で払い乍。
黒瞳の輝きはじっと、異形の生物乗せる少女の言動と動向を微笑んで見守っていた。
が――
「むぅ」
興味を捉えた棒を仕舞い込む挙動を追いかける眼差しが不服に眇められ。
やがて、淡々たる業務文句に何故か薄紅の唇がぷくっと窄められ尖る。
「別に用はないさ。お手伝いが終わったばかりだから帰るところ。シスターにも用はないよ。
邪魔なら帰るけれど……」
不意に弧に描かせた唇に人差し指を宛てがい、二人だけの内緒と示唆するように囁く。
「どこからかゆうしゃ、なんて言葉が聞こえて。それを言った人が木の棒を持ってたからこっちに来ただけ。
俺もチャンバラは好きだよ。
何をしていたか知りたいな」
■シャーリー > 少年が不服そうな顔をしている。不機嫌と言うより、子供が拗ねたような顔に見えて、思わずキョトンと隻眼を丸めて呆けたが、すぐに申し訳なさそうに猫背を酷くする。
「あ、そ、そんなっ……じゃ、じゃま、じゃまじゃ、ないですっ……。で、でですがっ、わ、私、そのっ……」
不愉快にさせてしまったと動揺し、視線を彷徨わせる。その原因が分からず、なんと返事したらいいのか分からず、動揺を重ねていた。
然し目の前で少年が途端に笑みを零す様子に目を丸め、そして続く言葉にカァッと熱が上がっていくのを感じた。実際、右半分が前髪で隠れた顔は、真赤になっている。
「ち、ちちっ、違いますっ……!わ、わたっ、わたしっ……そ、掃除をしてい、たらっ……た、たたっ、たまたまっ、木の棒を、み、見つけてっ……」
チャンバラは確かにしていないが、勇者の剣、なんて言ってしまったのは事実。そしてそれを聞かれていたと知り、もう顔が熱くて仕方がない。恥ずかしい。埋まりたい。
元々猫背の体が余計に猫背になり、そのまま沈んで、その場に蹲って竹箒が地面に落ち、両手で顔を覆い隠す。
「ごごご、ごめ、ごめんなななっ……なさいっ……。わわわ、わたし、わたしなんかが、ゆ、ゆゆ、勇者ごっことか、むむむ、むりですっ……。お、おこ、おこがましっ……だだだ、だい、第一っ、くく、クラスも、ちち、ちがいっ、ますしっ……。ききき、きにっ、きにしないで、くだ、くださいっ……」
恥ずかしさのあまり吃音が酷くなり、声が詰まりに詰まる。顔は隠しているものの、露になっている耳がまだ真赤だった。
頭の上の触手の魔物は、やれやれと言わんばかりに首―――ではなく、触手を振っている。
■矢那瀬陽介 > 矢継ぎ早に飛び出す言葉に驚いたように曲げた腰を戻して。
「ふわぁ!凄い早口」
必死な説明にそんな呑気な一言が出た。
そして元々の矮躯が消えて無くなりそうに丸々のに笑みを噛み殺そうとして殺め切れなかったような、朗らかな感情のひとひらが唇へと宿り。
もう不愉快と思わす影は面にない。
「なんとなく分かったよ。
君は勇者になりたいんだ。でも頭ではそんなこと出来ないと分かってる。
それなのについ木の棒を剣に見立てるところを俺に見られて、今ゆでダコみたいになってるって訳かな?」
追い打ちを掛ける言葉を放った少年は呼吸困難にも思える少女の背を撫でながら呆気なくあどけなく綻んだ。
触手を手のように振る魔物も小さく撫でてあげて。
「大丈夫。誰にも言わないさ。落ち着いて、ね?」
■シャーリー > 「あ、あわ……あ、あううう……。ごごご、ごめんなさいっ、ごめ、なさいっ……」
少年がすぱっと分かりやすく今の状況を説明する。わざわざ言葉にされた本人は、顔を真赤にして丸くなり、謝る事しか出来ない。
だが急に背を撫でられると体を強張らせ、顔を持ち上げて泣きそうな左目で少年を見上げる。
魔物は自分を撫でる手をぺしりと叩いて、怒ったように少女の頭の上で弾む。
「あ、ああ、あのっ……わ、わわ、わたし、なんかにさ、触ったら……、き、きたな……きたない、です……」
顔を真赤にしながらか細い声で囁くように呟いて俯く。違う意味で心臓がばくんばくんと強く脈打っている。羞恥と罪悪感に苛まれながらも、逃げる事も出来ない。
男性に悪意以外で触られた事が無いから、今にもぶっ倒れそうに視線が揺れている。
触手の魔物はピョンと頭の上から降りると、先ほど竹箒で掻き集めた山から小枝を手に取り、土をガリガリ削り始める。
『それより じょせい さわる しつれい
わたし さわる しつれい
しゃり こわい しつれい
わたし しゃり れでぃ さわる だめ
あなた おとこ さわる だめ』
土の上に物凄く下手くそな字でそう書いた触手の魔物は、小枝をブンブン振って文字を読むよう少年の足元で弾む。踏みつぶしそうなサイズ感だ。
「ごごご、ごめ、ごめん、な、なさい……。わ、わた、わたしたちの、居た、世界っ……そ、そそ、そういうの、なく、てっ……。あ、あのっ……と、とと、とにか、くっ……な、なな、なんでも、ないんですっ……。わ、わわ、私、ゆ、勇者になんてっ、な、なれません、からっ……た、たた、戦え、ないしっ……わ、わわ、私に、出来るのはっ……ち、治癒、だけっ、で……」
勇者になりたい、という言葉を、改めて首を左右に振ってか細い声で否定した。
■矢那瀬陽介 > 疚しさも悪戯もない。ただただ背を丸めた少女を落ち着かせようと撫でる手を叩かれれば流石に少年の微笑む目が鋭くなる。
緩やかに手を離し、地に文字を描く魔物と未だに落ち着かない少女を交互に見遣り。
「この子を汚いなんて思ってないけれどな。
それと、失礼ってどういうことだ?
彼女、呼吸困難になるくらい取り乱してるから背を擦ってあげただけだろ?
それとも苦しそうな彼女を放っておけと君は言いたいのかい?
その方が失礼じゃないか。
セクハラしたみたいに言われる俺の気持ちも考えてほしいね」
弄するかに弾む魔物に、明白に眉間に皺寄せて離れてゆく。
「とりあえず、ごめんね。俺は『君』がどういう人かわからない。
ただ、俺は君が木の棒を嬉しそうに見ているのにとっても惹かれて。
もし勇者ごっこをしたいのなら付き合ってあげようと思っただけなんだ。
でもそれが迷惑だったのなら謝るよ」
唇を引き結び、教会に向けて呼声をしずかに調べた。
やがてシスター服を纏う女性がやってくるのに彼女の世話を頼んだ後にやがて深息を搾り出す様に吐いた。
「こんなつもりじゃなかったんだけれどな」
■シャーリー > 少年の最もな言葉と態度に、途端に少女は顔を蒼褪めていった。そして慌てて触手の魔物を地面から拾い上げて抱き、頭を下げる。
「ご、ごご、ごめんなさいっ!わ、わた、わたしっ……こ、ここ、この、喋り方っ……もも、元々、でっ……」
目の前も頭も真っ白になる。怒らせてしまった。
自分の世界の常識が相手に通用するとは限らない。改めてこの世界の島の多様性を理解し、泣きそうになるのを必死に堪えて引き攣った笑みで取り繕う。
だが少年が離れていくのを見て、それと入れ違いにシスターがやってくる。シスターに頭を下げると、慌てて少年の背を追って駆け寄る。
「ご、ごめんなさい、ごめんなさいっ……。わ、わた、わたしっ……わたし、変だからっ……。う、うま、うまく、喋れないしっ……、みた、見た目も、変で……だ、だか、だから、誰か、誰かと、遊んでもら、もらった事、無くてっ……。ご、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ……」
その手を取ろうとして、それでも触れる事に躊躇してしまい、その背中に必死に謝る。ようやく少年の意図を理解したが、そして彼の厚意に対する非礼を詫びる事しか出来ない。
「わ、わたっ、し……私は、シャーリー、ですっ……。ご、ごめん、なさいっ……」
両手でスカートをぎゅっと握りしめながら、必死に笑って取り繕おうとする。
■矢那瀬陽介 > シスターに任せて少女が介抱されるまでは見届けようと教会の入り口の柱に背を預けていた。
だから賭ける少女が追いつくのにも、清涼な空を求めて伸ばされた仰ぐ少年が気づくのも然程時間は掛からなかった。
息を切らせたにも動揺が収まり切れぬようにも、辿々しく言葉を絞る姿を茫洋と伏目になる黒瞳を向けながら清聴し。
「別に君の喋り方に怒ってないよ。怒ったのは君が抱いた相棒?にだから」
繰り返される謝辞と合わせて伸びる手に、すっ、と平手を差し出して静止を促し。
「俺はヤナセって言うんだ。よろしくね。
大丈夫だよ。君が望むなら仲良くしたいと思ってるから」
片目を小さく瞑り戯れる。二人取り巻く重々しい雰囲気を払拭したくて此方も繕う笑みは目元がヒクついてしまう。
どうしても気まずい空気は払拭できない。ならば、と軽やかに柱から背を起こした少年は相手に向けて人差し指を掲げて。
「このまま帰ったんじゃ二人共気分が悪くなるよね。
勇者ごっこは無理だけれど……実は俺、武道家なんだ。
その証拠、見てみたい?」