2020/07/06 のログ
ご案内:「異邦人街」に山本 英治さんが現れました。
ご案内:「異邦人街」に羽月 柊さんが現れました。
山本 英治 >  
今日も今日とて警邏中。
この辺は平和なので定期連絡すら必要ないらしい。
ぶらつくにしても楽しい街だ。

警邏中とはいえ、少し良い心持ちになる。

さて……今日はどんなことが起きるだろう。
あと俺は帽子を被れないのでアフロがちりちり太陽に焼かれていた。
あっちぃ。

羽月 柊 >  
もう夏である。
異邦人が中心の街とはいえ、セミの鳴き声からは逃れられない。
ミーンミーンジーワジーワ、それは夏の暑さを助長するのだ。

そんな中、まるでお菓子の家のような外観の家の扉が開く。
同時に冷房かそれに似た何かか、
ひんやりとした空気が英治の夏服から露出した肌を掠める。



「ええ、では、また1ヶ月後に。
 何かありましたらご連絡ください。」

出てきたのは、柔らかな営業スマイルを浮かべている……、

そう、転移荒野で金龍と共に逢った紫髪の男であった。
あの時は動きやすい黒の軽装だったが、
今はシャツにネクタイ、白衣を羽織っていた。

山本 英治 >  
ひんやりとした空気なんて流れてきたらそっとを向いてしまう。
そんな季節なわけで。
そしてそっちを見ると。以前、転移荒野で会った男性がいた。
紫根染のような美しく長い髪。
覗き込めば不思議な色味を感じる瞳。

見紛うはずもない。

「あ、どうも羽月さん。ご無沙汰しております」
「外は暑いですねー、お仕事の話でした?」

呑気に手を振りながら近づいて。

「あれからヒメと会いました? 気になって気になって」

笑顔であの時の金色の龍について聞いてみる。

羽月 柊 >  
パタン、と扉を閉めた瞬間に営業スマイルは終わりである。
朗らかな笑みはなくなり、まるで180度性格が変わったかのようだ。
仕事とはそういうものである。

しかし、家の扉が閉まったにも関わらず、
涼しい空気は継続したままだった。

2匹の小竜を連れていることからも、英治の記憶に間違いは無いだろう。
声をかけられると、表情筋運動会の終了した状態でそちらを見る。


「君は、あの時の………捕縛の誤解は解けたのか。」

柊からしても、本来の身長はほぼ同じとはいえ、
その頭に太陽の恵み(?)を受けて
燦然と熱を集めているアフロを覚え間違えてはいなかった。

最後の印象があまりに大きかったが。

「ヒメ様なら一応は保護という形で生活委員に届け出たが、
 この間血まみれになってうちの研究所に来ていたな。」

血まみれ。

平然と英治の質問に答えたが、風紀委員としては耳を疑う単語があるだろう。

山本 英治 >  
連れている二匹の小さな竜はなんとも言えず愛らしい。
笑顔でそちらに手を振っていると。

「ああまぁ……説明には苦労しましたがギリ信じてもらえました…」

一瞬で淀んだ目で答える。
あの時のことは思い出したくない。
俺、山本英治は苦い記憶をたくさん持っている。
連行はその記憶の一つとしてカウントされているのだ。

そして次の言葉に目の色を変えた。

「保護!? ヒメ、どっか怪我したんすか!」
「だ、大丈夫……だったんですかねぇ………」

血まみれ。金龍から人の姿に変わった時に大きく弱体化したとか、そういうのだろうか。

羽月 柊 >  
とりあえず営業先の家前で話すのもなんだと歩き始める。

「そ、そうか…。
 まぁ、君のおかげでヒメ様にもこちら側の倫理観の説明がしやすかった。
 異世界の"龍"故に視点のスケールの違いが多かったからな。」

歩きながらも柊は汗ひとつかかず、
また隣を歩いていれば、ひんやりとした空気は柊を中心にしていると分かる。
近くにいれば涼しいだろう。日差しはともかくとして。

そして英治の犠牲は無駄ではなかったのである。新しい悲しみが生まれたが。

「ああ、問題はない。
 俺も最初は怪我かと疑ったんだが、他所様の飼い馬を食べたらしくてな。
 代わりに撃たれたとは言っていたが、傷一つ負っていなかった。」

金龍の話題となると、火薬庫のように爆弾発言が次々と飛び出してくる。
淡々と説明してはいるが。

山本 英治 >  
おおっと、そういえば立ち話する場所ではなかった。
共に歩き出す。

「視点の違い、か……多くの異邦人がそれで悩んだり、苦しんだりしますからね…」
「ヒメだって不安はあるかも知れないし……」

冷たい空気を伴って歩く。何かの魔法だろうか。
もしそうだとしたら彼の雰囲気にベストマッチな魔法で。
怜悧ミステリアス美形が冷たい空気をまとっていたら。

モテるだろうなぁ………

「人の飼馬を食べたぁ………?」
「ああ、ああ、なんてことだ。悲劇はまた起きた」
「それで血まみれってワケか……」

爆弾発言のオンパレードに表情を歪める。
不快だとか、そういう表情ではない。
純粋にヒメと馬の飼い主を案じている。

「……龍ってやっぱ、すげぇけど…人には人の尺度があることをわかってないと」
「同じことが起きそうで……心配ス」

羽月 柊 >  
英治の表情を桃眼が横目で見やる。

年齢だけで言えば20代。
通常ならばそろそろ周りのことも見え始める時期だろう。
だというのに、彼の金龍のことを心配している表情と言葉、声色。
そこに純粋さを感じて眩しく思え、眼を細めた。

齢30の自分は、どうも保身のことも考えてしまっていたからだ。

英治にモテるだろうな等と見られているとは思わずに。
…なにぶん、そういうことが無縁で、自分で避けている節もある。

「不安か、どうだろうな。好奇心の方が勝っているように思える。
 ただ、それでいて子供ではない。やはり長い時を生きた龍としての誇りがある。
 多くの異邦のモノが感じ得る"世界からの拒絶"を、プライドで踏みつぶすようにな。」

そういうモノはこちらでも己を殺されずに生きていけるだろう、と付け加えて

「幸い、飼馬を食べたのは転移荒野らしい。
 あそこなら何が起きても大抵は自己責任、そうだろう?

 血まみれのままうちの研究所に来た時は驚いたが、
 そちらに伝わってない所を見ると、君達風紀委員や生活委員に見られた訳ではなさそうだな。」

安心した、とでも言いたげだ。

山本 英治 >  
「好奇心、ですか………」
「楽しんでくれてたら、いいんです」
「いいんですが、誰かの大切を踏んでもいいかというと違いますからね」

見下ろす者は見落とす。
それもまた、理なれば。

「自己責任で大切にしていた馬を食われていいわけないす」
「ヒメにはこう……言ってやらなきゃならない………」

そう言いながらも、心苦しい。思いっきり表情に出る。
この世界に来た理由に。恐らくだがヒメには一切の責任がないからだ。
そして彼女を叱るべき存在は自分でない気がした。

「風紀に見られていなければ罪ではないという考えは危ういです」
「罪業……という言葉は許す、許されないという観念からは離れているものですからね」

「ヒメにもわかってもらいたい」
「こんなことを続けていたら、全ての存在が本当にわかりあう未来から遠ざかってしまう」

羽月さんの瞳を見ながら言った。
余所見しながら歩いていたせいで、放置自転車を倒しそうになった。

羽月 柊 >  
ガコンッと放置自転車に英治が引っかかった音が異邦人街に響く。

ここはその異邦のモノが主に住む街。
彷徨し、こちらの世界に完全には馴染み切れなかったモノ達の場所。
異物が異物のままで良いと認められた場所。

音に足を止め、英治の方を見る。

「それは当たり前だ。
 こちらに来た以上、この世界のルールや法は守らねばなるまい。
 そうでなければ、どれほど強い力を有していたとしても、
 もっと強い力と集団によって世界から"死"や"消滅"を持って追い出されるだろう。」

彼の不安や心配はもっともだ。

こうしている今も世界のどこかで《門》は開き、
金龍のように望まぬ旅人がこの世界にやってくる。
世界のどこかで、この世界に、全ての存在に拒否され、死を迎える旅人がいる。

「話を聞いた時、俺はどちらの擁護も出来ないとは言った。

 こちらのルールや道徳を知らぬヒメ様は無知ということ。
 転移荒野にも関わらず、戦えない己の飼馬から目を離した相手。
 
 …全部が全部、幸せとはならん。
 死がヒトじゃあなかっただけ、まだ摩擦は少ない。」

柊は、この失敗が決定的なモノではないと言いたかった。
しかし、その口調はあまりに淡々としていた。

山本 英治 >  
今はどこにもいない持ち主に謝りながら、自転車を脇にどける。

足を止める羽月さんに、こちらも向き合う。
蝉の鳴き声が、一瞬途切れた。
どこまでも広がる憂鬱な青空から、二人を遮るような陽光が差す。

「ヒメが魂滅させられていいわけないです」
「だから…………」

だから? 代案を出せない俺に何か言う資格はあるのか?
建設的な言葉の一つも言えない俺に。
この不幸な出来事を解体することができるのか?

「お互いに非があったから、これは終わり───じゃないでしょう!」

言ってから、自分の言葉の虚しさに気付いた。
ヒメに謝らせるのか?
俺や羽月さんが代わりに謝るのか?
どちらも不正解。そして、喪ったものはどうあろうと帰ってこない。

蝉が何かを思い出したかのように鳴き始める。
遠くで豆腐屋の気の抜けた声が響いた。

羽月 柊 >  
――そうだ、喪ってしまったのは命。
この世で一番、修復が困難なモノ。

もちろん出来ない訳じゃあない。大変容が起きた後のこの世界では。
しかし、それには代償がツキモノだ。


「…終わりじゃないとして、どうする。」

それは残酷な問いだ。

答えが出ないのを分かり切っていて――この柊という大人は、ずるい質問をした。


風になびく、紫髪、英治をじっと見つめる桃眼。
傍に従える小竜たち。

その何もかもが、背負う異邦人街も相まって、
まるで柊自身がこの世界への旅人のようだった。

「終わりじゃないとして、どうしたいんだ。"君は"」

山本 英治 >  
桃眼を真っ直ぐに見据える、黒の双眸。
夏風に髪が揺れた。

「双方の言い分を聞いて話し合いの場を設けるべきです」

ここで引いたら。
ここで逃げたら。
二度と未来に会えなくなる。そんな気がしていた。

「今のままじゃ飼い主は喪った痛みをぶつけることもできない」
「このままじゃヒメは喪わせた痛みを知ることさえもできない」

「俺は……二度と信じた未来に後悔しないッ!」

どうしようもない子供の意見だ。でも。
言わなきゃいけない。相手に疎まれても。軽蔑されても。
この青臭い言葉を、言わなきゃならない。

立ち止まった俺たちを見ながら、長く尖った耳の女性たちが追い越していった。

羽月 柊 >  
視線と視線のぶつかり合いから、先に逃げたのは柊。

その答えを聞くと、嘆息して目を閉じる。
周囲を飛んでいた小竜の一匹を肩に留まらせて撫でる。


「それは君が責任をもって行えることなのか?
 風紀委員とはいえ、その日転移荒野に居たモノの全てを洗いだせるのか?」

その表情は、英治の想像した疎むでも軽蔑でも無い。
どこか悔恨のような憂い。
英治の言葉の青くて眩しいキレイゴトに、だが大人は言わなくちゃいけない。
 
「言っておくが、命に命で償えとばかりにヒメ様は撃たれている。
 失敗したとはいえ、頭……我々人間にとっては急所をな。

 理想論を並べるのは嫌いじゃあない。
 そうやって人間は夢を見る生き物だからな。
 ただそれでも……自分の腕で抱えきれなければ、零れ落ちるだけだぞ。」

現実からは、逃れられないのだと。

小竜を撫でた瞬間。英治の周りに夏の熱が戻って来る。

山本 英治 >  
周囲には喧騒が戻ってきていて。
それでも、相手の言葉だけは不思議とはっきり耳に届いた。
鋭い言葉。それは耳朶を、いや心を打つ。

「単純作業は慣れてる。何日…何年かけても探し出す」

終わらせてはいけない。
ヒメが。これからこの世界で生きていくために。

だけど。
続く言葉は……ヒメが殺意の籠った銃弾を受けていたこと。
分かりあえる、などという幻想の隙間を風が突き抜けていった。

「…………すいませんでした」

まず、謝った。彼に言っても仕方のない言葉ばかり、浴びせた。
暑気が周囲に戻ってくる。お前がいる世界はこうだと。
天体が思い知らせるように。

「でも……羽月さんだって」
「……取りこぼしたくなんか、ないんじゃないですか…?」

弱々しい語調でそう聞くのが精一杯だった。

羽月 柊 >  
「……、…そんなこと、―――だろう。」
 

羽月 柊 >  
小さく零れた音は、セミの演奏に掻き消された。

"自分だって取りこぼしたくないんじゃないか"
ああ、これだから若いヤツはと言いたくなったのをどうにか喉から戻す。
鈍いようで、それでいて的確に痛い所をつついてくる。

自分も熱気に触れ、じんわりと肌に汗が滲む。

ああ、自分まで現実に引き戻された気分だ。

「それと並行して、君はヒメ様を説得しなくちゃならない。
 何故逢う必要があるのか、何故謝る必要があるのか。

 君の言葉で、君の意志で、君の心でだ。」

そうでなければ意味がない。
ある意味馬鹿正直でなければ、これは届かない。

「俺なりにヒメ様には自分が何をしたかは説明したつもりだ。
 
 ヒメ様を撃った銃は俺が預かっている。
 その気があるなら取りに来ると良い。」

そう言ってパチン、と指を鳴らすと、再び冷気が漂う。