2020/07/07 のログ
山本 英治 >  
相手の言葉は、聞こえなかった。
それなのに。聞き返せない。
それなのに。どうしてこんなに。

切なくなるんだろう。

「……わかりました。ヒメに会います」
「絶対なんて絶対に言い切れないけど」
「ヒメを説得します」

その時、彼が言った言葉は。
銃の登録番号から、持ち主が割り出せるという──希望。

ただの鬱陶しいだけの若造にくれてやるはずもない。
そう思うのは、俺の思い上がりだろうか。

「……ありがとうございます、羽月さん」

俺は頭を下げた。
それから、自分がこれからするべき行動のために。

「往きます」

それが別れの言葉。
自分なりの答えのために。強く一歩を踏み出していった。

羽月 柊 >  
現実が見えなければ、突き放していた。
拒否するなら、放り出していた。

銃を闇に葬るつもりすらしていたのだ。

この男は教師ではない。息子がいるとて、本当の親子でもない。
今の柊には、相手を支えるでもなく、
"自分の足で立って歩け"と、そう叱咤することしか出来ない。

「やると言ったからには放り出すなよ。」




相手が踵を返し、背を見送ろうとして思いだし、
白衣のポケットから紙を一枚。

その紙は手の平の上で鶴の形になり、飛び立つと、
英治の目の前へ飛んで行った。

受け取れば、折り目もなく一枚の紙に戻り、
書かれているのは『羽月研究所』の住所。

「……うちの住所、分からないだろう。」

そう投げかけて、こちらもまた背を向けるのだった。

山本 英治 >  
誰かのために、なんて傲慢にはなれない。
ただ、自分のためにヒメと話すんだ。
俺は、俺が信じた未来を諦めない。

「わかりました」

そう言って去ろうとした手元に、折り鶴が舞い込んでくる。
風の影響を全く無視するそれは、掌で紙に……いや。
メモに戻った。住所が書いてある。

「………っ!」

去っていく、その背中に頭を下げて。
俺は走り出していった。

ご案内:「異邦人街」から山本 英治さんが去りました。
羽月 柊 >  
駆け出していく。遠のく、足音。




 
「……取りこぼしたくなくても、
 …この手が抱えられるモノは……少なすぎる。

 ………零れたモノは、多すぎる。」


夏の青空を見上げて、男はそう呟くのだった。

ご案内:「異邦人街」から羽月 柊さんが去りました。