2020/07/07 のログ
■山本 英治 >
相手の言葉は、聞こえなかった。
それなのに。聞き返せない。
それなのに。どうしてこんなに。
切なくなるんだろう。
「……わかりました。ヒメに会います」
「絶対なんて絶対に言い切れないけど」
「ヒメを説得します」
その時、彼が言った言葉は。
銃の登録番号から、持ち主が割り出せるという──希望。
ただの鬱陶しいだけの若造にくれてやるはずもない。
そう思うのは、俺の思い上がりだろうか。
「……ありがとうございます、羽月さん」
俺は頭を下げた。
それから、自分がこれからするべき行動のために。
「往きます」
それが別れの言葉。
自分なりの答えのために。強く一歩を踏み出していった。
■羽月 柊 >
現実が見えなければ、突き放していた。
拒否するなら、放り出していた。
銃を闇に葬るつもりすらしていたのだ。
この男は教師ではない。息子がいるとて、本当の親子でもない。
今の柊には、相手を支えるでもなく、
"自分の足で立って歩け"と、そう叱咤することしか出来ない。
「やると言ったからには放り出すなよ。」
相手が踵を返し、背を見送ろうとして思いだし、
白衣のポケットから紙を一枚。
その紙は手の平の上で鶴の形になり、飛び立つと、
英治の目の前へ飛んで行った。
受け取れば、折り目もなく一枚の紙に戻り、
書かれているのは『羽月研究所』の住所。
「……うちの住所、分からないだろう。」
そう投げかけて、こちらもまた背を向けるのだった。
■山本 英治 >
誰かのために、なんて傲慢にはなれない。
ただ、自分のためにヒメと話すんだ。
俺は、俺が信じた未来を諦めない。
「わかりました」
そう言って去ろうとした手元に、折り鶴が舞い込んでくる。
風の影響を全く無視するそれは、掌で紙に……いや。
メモに戻った。住所が書いてある。
「………っ!」
去っていく、その背中に頭を下げて。
俺は走り出していった。
ご案内:「異邦人街」から山本 英治さんが去りました。
■羽月 柊 >
駆け出していく。遠のく、足音。
「……取りこぼしたくなくても、
…この手が抱えられるモノは……少なすぎる。
………零れたモノは、多すぎる。」
夏の青空を見上げて、男はそう呟くのだった。
ご案内:「異邦人街」から羽月 柊さんが去りました。