2020/07/11 のログ
ご案内:「異邦人街」に山本 英治さんが現れました。
ご案内:「異邦人街」に雨見風菜さんが現れました。
山本 英治 >  
ポケットに手を突っ込んで歩く。
俺は違反部活の部長を殺した。
何度手を洗っても。この手についた血は落ちないだろう。
夏が。夏の匂いが。異邦人街に広がっていた。

ただ、何もかもが虚しい。
自分の正義とはなんなのか。
信じた未来とはなんなのか。
今は何もわからない。

雨見風菜 > ふらふらと異邦人街にやってきた風菜。
のんびりお気楽に散歩をしているその最中。
見知ったアフロを見かけた。

「あら、英治さん」

声をかけて気づいたが、見るからに気落ちしている。
取り敢えず横まで近づいて、伺ってみる。

「……何か、ありましたか?」

山本 英治 >  
声をかけられて、隣に来てくれた女性は。
雨見風菜。前回、逃げてしまった人だ。

「ああ、その………ちょっと、仕事でありまして…」

何を喋ればいい。慎重に言葉を選んで。

「雨見さんは異邦人街、よく来られるんですか?」
「良い街ですよね、雑多で……」

隣を、彼女に歩幅を揃えて歩く。
大嫌いな青空が俺を見下ろしている。

雨見風菜 > 「仕事で」

風紀委員の仕事だろう。
彼の風体を見て、生半なミスではないことは察した。

「そうですね、歓楽街や落第街くらいよく来ます。
 いろいろな人達がいて、わかり合ったりわかり合えなかったりしてますものね」

英治の隣を歩幅を合わせられてともに歩く。
透き通るような青空に眺められ。

「これだけの人がいても。
 こぼれ落ちる人はいるんですよね」

知ってか知らずか。
ふと、風菜はそんなことを口にする。

山本 英治 >  
「はい、仕事で」

自分を守る苦笑いを浮かべた。
こんな笑顔じゃ、誰も救えない。

彼女の言葉は、真っ直ぐに胸を貫いた。
風が髪を揺らす。夏の葉っぱが目の前で落ちた。

「こぼれ落ちる人はいても」
「こぼれ落ちていい人なんかいないはずなんですけどね」

自分の手を見る。鉄錆の匂いがした。これは……幻覚だ。

「人を殺しました」
「捕まるどころか、風紀委員として、仕事をした扱いで……」
「どんな顔して良いのか、わかんないです」

俺は俺の意思で人を殺した。これが二人目だ。

雨見風菜 > 風菜は、英治の方を見ない。
彼女なりの気遣いは、果たして正しいのだろうか。

「そうですね。
 でも、両手に届く範囲しか拾えないのも確かです」

長い髪が、風に流される。

「人を殺す辛さは私にはわかりません。
 私に分かるのは、英治さんは殺すつもりなんてなかった。
 私にも、どんな顔をすればいいかなんてわかりません」

一度言葉を切り、数瞬の間。

「ならばあとは、背負い込んで糧にするしか無いんじゃないでしょうか」

山本 英治 >  
自分が信じた未来が見えなくなる時。
誰からも見てもらいたくはなくなる。
消えてなくなりたくなる。彼女の気遣いに、救われていた。

「俺は届くはずの手で命を奪った……」

人は分かり合えないのか。本当に。人は…
蝉の声が鬱陶しい。雑踏を歩く人が恐ろしい。

「……殺したくなんて、なかったです」
「だって、そいつ……妹が死んだって…だから違反部活に…」

言葉が出てこない。感情の置き場がない。

「…………ええ、わかっています」
「このまま腐った目つきをしていたら……命に失礼だ…」

未来。俺は……どこまで歩けばいい。一人で…どこまで。

雨見風菜 > 歩く。
人々がすれ違う。
奇異な異邦人が行き交うこの街は、むしろ何一つ変哲のない普通の人間であるからこそ風菜に視線が集まる。

「届くはず。
 本当にそうだったんでしょうか」

これから言うことは、英治を傷つけてしまうかもしれない。
けれども、これは言っておかないと駄目な気がして。

「殺したくなかった。
 私の知ってる風紀の人たちはそういう優しい人が多いですね」

神代先輩だけがわからないが。

「ですが、それで英治さんが死んでしまっては元も子もないと思うんです。
 その方の妹さんは、誰の手も届かなかったから死んでしまったのでしょう。
 でも、その方は、果たして誰かに手を伸ばしていたのでしょうか?
 手を差し伸べた英治さんの手を、取ろうとしていたのでしょうか?」

正論は、時に残酷だ。

「目の前のものを救いたいと思うのは私だって同じだと思います。
 けれども、それはもしかしたら押し付けなのかもしれません。
 ……人の心って、難しいですね」

そうして。
英治の前に出て、向かい合い。
しかしながら、顔は合わせず彼の胸元に視線を合わせ。

「悲しいなら、悔しいなら。
 吐き出してしまえば良いんじゃないでしょうか。
 友人に、仲間に。
 今なら、私が胸をお貸しいたします」

そう言って、手を広げ、慈しむ笑顔で英治の顔を見つめる。
下心無い慰めが出来ているのか。
風菜にはわからない。

山本 英治 >  
悲しいなら、辛いなら。
吐き出してしまえと。
彼女は言った。

彼女の言葉、一つ一つが。自分の心に響く。

手を広げる彼女に微笑んで。
雨見さんの頭を撫でた。

「ダメですよ、雨見さん。男は狼なんですから」

アイスでも食べませんか?と言って歩き出す。
北海道直送のミルクで作ったソフトクリームの店がある。

「考え続けたいと」
「迷い続けたいと」

ソフトクリームを二つ買って、一つを彼女に差し出す。

「そう思います。一生悩み続けることが、答えだと信じます」
「押し付けでも、独善でも、みっともなくても、正しくなくても…悩みます」
「でも、本当に……心から苦しくて、潰れそうになったら」
「泣かせてくださいね、雨見さん」

ソフトクリームを舐めて空を見上げた。
何の変哲もない、夏の青空だった。

雨見風菜 > 頭を撫でられる。

「もう、そんなのは分かっているんですけども」

軽くぶーたれて。
英治の誘いに応じて歩き出す。
行き先はソフトクリームの店、英治に奢ってもらったソフトクリームを受け取って。

「ええ、答えなんてきっとありません。
 悩み続ける必要はあるでしょう、迷い続ける必要はあるでしょう。
 そのときに私が助けになるのならば、私の胸くらいお貸しいたします」

私に出来るのは、そういうことと──
続きを言うのは簡単だが、ここで言ってしまうのは台無しだろう。

今日も熱を降らすいつもの夏の青空を見上げ、一口堪能する。

山本 英治 >  
「そうですか? 雨見さんは大人ですね…」

甘い。甘い、味。舌の上に広がる。
血の匂いはもう感じない。

「雨見さんの胸で泣いたなんて言ったら…男子に殺されちまうかな……」
「へへ、しょうもない話をしました、失礼」

その日は二人でなんてことのない話をした。
同級生がどうだとか。ダチの建悟が初めてのナンパに成功したとか。
保健室でサボっていた時の話とか。
そんなことを、ずっと。ずっと。

立ち上がれ。何度でも。守れ。弱き者を。
それができなきゃ……お前の拳には何の意味もない。

雨見風菜 > 「ふふ、元気が出たようで良かったです」

吹っ切れたような英治の顔に安堵して。
続く軽口にこちらも軽く茶化す。

「あらあら、それは大変ですね」

その後のなんてことのない話に興じ。
日常のありがたさを噛みしめる風菜であった

ご案内:「異邦人街」から雨見風菜さんが去りました。
ご案内:「異邦人街」から山本 英治さんが去りました。