2020/08/02 のログ
ご案内:「異邦人街」にハルシャッハさんが現れました。
■ハルシャッハ >
――異邦人街のある街角での出来事になる。
基本、盗賊というものは目立つ行動を特に嫌うもので、努力においても例外ではない。
大半は、地味な物がほぼほぼ多いものだ。
しかし、最近のムーブメントにおいて、
筋力トレーニングについてはまた別な枠として成立しつつあるのも現実だった。
自重をウェイトとしてトレーニングする、軽業師からすれば日常のトレーニングが、
今はクールな見世物を兼ねるムーブメントになりつつ有る。
――ストリートワークアウト。
そう呼ばれる世界に足を踏み入れるのは、男としても悪い気持ちはしない。
日常何も気にしていない行動が、いつの間にか「かっこいいもの」になっている。
そういう文化の差異というものは、知らない側からすれば面白い材料の一つだった。
■ハルシャッハ >
街角を見れば、同じ目的を持つ様々な男たちが映える動きを様々に見せている。
肉体そのものを荷重として、筋力を貯金するとともにしなやかな肉体を作るため、
軽業の一部やシンプルな腕立て伏せなどを様々に行っていく。
男のような体格の出来上がった男が一人混ざっても、そう悪目立ちもしない。
裏を返せば、様々な異種たちが肉体美を求めて己を磨き合う場でも有り、
同時に『戦える体』、『使える体』を求めて様々なトレーニングを積みに来る。
『ぶら下がる場所』さえあれば可能な様々な自重トレーニングは、
現代でも通用しうる負荷、荷重の掛け方の一つだ。
「――お疲れさん。 少し場所借りるぜ。」
近くに居た馬系の獣人に一言声を借りれば、
場所のみ借りて地面に横になり、両手を大地につけてブリッジホールドの姿勢を取る。
そこから両手、両足で体を持ち上げれば、きれいなアーチが肉体で作られるにはかからない。
ウォーミングアップで20秒程度。 まずはここから始めるのがルーチンだった。
■ハルシャッハ >
その後、足を伸ばしてL字のように座り、そこから体を腕で持ち上げホールドする。
同じく20秒程度ホールドするそれは、Lホールドと呼ばれる体操の技だ。
腰の筋肉を緩め、腹筋を収縮させることで体を温める。
トレーニングのルーチンの一部に組み込まれたそれは、
体の関節を温め、これから始まる激しい動きに対応させるための準備運動だ。
Lホールドが終われば次は体を捻り、サイドの筋肉を収縮させる。
足は伸ばし、ひねる側と反対側で組んだ状態で、体を柔らかく伸ばす。
左にひねるなら右足が立つ形となり、腕を掛けた状態で体を捻ればサイドの筋肉が伸びる。
ツイストと呼ばれる準備運動だ。
これで腕、腰、肩、背中。全身の筋肉が準備運動に入ることになる。
戦闘が明らかにあるであろう場所に出る前の運動としても、
これから激しくトレーニングする前にも使える、技術の一つ。
肉体をしなやかに締め上げる前の、準備運動だった。
■ハルシャッハ >
全身の筋肉が起動状態になれば、体はなめらかに動く。
――ストリートワークアウトの世界においては、盗賊や軽業師は教える側だ。
今は失われた技術が今に蘇る。 そういう点においては男はある種の手本でもあった。
――両手を地面に付けば、体がゆっくりと筋力の力で浮き上がる。
足が浮いた状態で、しばらくホールドするのはクロウスタンドだ。
この体勢を維持するだけでもトレーニングになるが、
そこからぐっと力を込めればきれいな逆立ちが成立した。
ハンドスタンドと呼ばれる、通常の逆立ち技術は筋力トレーニングの一つ。
この体制を維持できる身体自体、まず筋力に秀でていないと難しい。
最も、これでさえ初歩の分類にしかならないのだ。
この自重トレーニング――キャリステニクスと呼ばれる領域では。
両手、両足がきれいに揃い、尾のみが下に下る状態から始まるのは、
逆立ちからの腕立て伏せだ。 体がゆっくりと、上下していく。
■ハルシャッハ >
「1、2、3……。」
目指すは15回の2セット。
腕自体に掛かる負担は体重がすべてであり、さらに言えば尾の重量も加算される。
自身の肉体というものは、どれだけ重いものであるかがよく分かる。
同時に、これを乗りこなす自身の足というものはどれだけ発達したものなのか、
その成すところの意味をふと思う時があるのだ。
筋力トレーニングは終わりなき旅であり、
同時に種として求められる限界を導く求道にも似たそれであった。
――腕を磨く、筋力を貯金し、肉体に圧力をかける。
すべてが渾然一体となって、日常を戦い抜く肉体に変わる。
それは、この明日をも知れない日常の中を生き抜くための、鍵だ。
名すらも知らない相手から命を狙われる。
しかし、それすらも日常として乗りこなす、活力の源であり、
同時に、流れる血を代替する、汗でもあった。
■ハルシャッハ >
戦場というものは、流れる血を汗で代替するか、それとも血で代替するかでしかない。
ヒトがぶつかれば必ずその現場には血が流れる。
――生々しい根本原理、現実の摂理だ。
しかし、鍛えていれば逃げられる可能性は上がり、
流れる汗で血を代替することも出来る。
それは、どちらが多いか、という問いかけでしか無かった。
だから、男は体を鍛える。
戦場で流す血よりも、汗で代替するために。
多いか、少ないかでしかない。 今流す汗が、後々の血の代わりとなる。
これを咎めるものは、居ないだろうから。
「――13、14、15!」
一つのトレーニングが終わりを告げれば、
簡易に回数をメモして次のトレーニングに入る。
――ヒューマンフラッグ。
時間を測りながら、ホールドする時間を伸ばすことで、
肉体を鍛えるアイソメトリクスの種目の一つだ。
■ハルシャッハ >
時間をかければその分、体の側面の筋肉に掛かる負荷は大きくなる。
重力加速度と、それに付随する肉体の重量がかかるのだ。
当然の摂理とも言えるが、それが肉体をさらに鍛える。
滴る汗と、絞られた筋肉が更に収縮して負荷に抵抗するのは、
竜ならずとも、経験するものの一つだ。
――その後は同じことを再度、右を下にするか、左を下にするかを変えて、
再度、もう一セットづつ繰り返す。 しかし、それでいい。
全身の筋肉を絞り上げ、休息に任せれば基本的に体は大きくなるのだから。
粘り強く、激しい戦闘に耐えられる体は、こうして作られる。
――それが、男のやり方でも、あったのだった。
ご案内:「異邦人街」からハルシャッハさんが去りました。