2020/08/27 のログ
ご案内:「異邦人街 街角」に羽月 柊さんが現れました。
■羽月 柊 >
「ええ、では今後、そういう可能性もあるということで…。
すぐにとは行きませんが、そのモノに一任することは無いですよ。
こちらも気にはなりますからね…。」
お菓子の家のようなファンシーな外観をした住宅から、男が出て来る。
よれた白衣の裾が揺れ、髪が空気に撫でられる。
普段は仏頂面な癖に、
不釣り合いな営業スマイルを貼り付けて。
扉が閉まるまで頭を何度か下げる。
今日の彼の外回りの仕事は、預けている小竜の健診と、
今後の業務方針の説明だ。
教師になったとはいえ、普段の仕事が無くなる訳じゃない。
それに、これまでの多量だった仕事量を減らす為に、
人員が増えるかもしれないという話をしにいくのは結局、柊の役目だ。
まぁ、教師になったというのに取引先のどこも驚かれた。
■羽月 柊 >
扉が閉まった瞬間に表情筋の運動会は終了である。
ずっと笑顔だと口元が辛い。
隻手で頬を軽く揉みながら、もう片方の手指を鳴らす。
日がそろそろ傾きかける頃。
この夏も少しだけ終わりの雰囲気が漂い、
外ではセミの大合唱というよりは、ツクツクボウシの声の方が多くなってきた。
まぁ、とはいえ暑いことには変わりなく、
こうして指を鳴らすだけの簡易な音を詠唱代わりに、傍らの小竜から魔力を借りて冷気を纏う。
「今日はこれで終わりか……。」
頭の上にぽすりと小竜の一匹が座るのを気にしないまま、そう呟いた。
取引先からは、教師になった、自分の仕事を減らして人手を入れるという話に、
何か変なモノでも食ったのかと言わんばかりの反応ばかりだった。
まぁ分からんでもない。
業務中は営業スマイルを崩さないとはいえ、
愛想が本当に良いという訳ではないし、相手側も知人なのだから、よくわかっている。
これまでの羽月 柊という男の振舞いを。
故に、一部の取引先を除いて、今後の方針には同意してもらえたのが幸いだ…。
■羽月 柊 >
異邦人街を帰路に向かってぼんやりと歩く。
買い物でもして帰ろうか。何の食材が足りなかったか。
まだ少し茜色には早い空を見上げながら。
…そういえば、教師になったという話をそのうち彼にしなければ、と思う。
今は夏季休暇中だ。
新学期が始まるまでは何かとあるだろう、と探していなかった。
葛木 一郎という彼を。
教師になるきっかけをくれた人物だが、
出逢った当初はまだ今の立場にはいなかったし、
友人の教師からも、己が教師ではないと彼に伝えられている訳で。
そのうち誤解は解いておかねばならんな…なんて。
そんなことを考えながらふと一旦立止まって、道の隅に寄ると、
忘れモノをしていないかと、鞄の中身を確認している。
今まで少し違う。けれど男の日常には間違いなかった。
傍らを誰かしらが通り過ぎていく。
■羽月 柊 >
よし、忘れ物は無いな、と確認を終える。
人間1人に出来ることは限られている。
だからこそヒトとヒトは手を取り合い、《大変容》が起きた今も、種を残している。
明日も何かしらやることは山積みだが、一歩ずつ進んでいくしかない。
何かしらの積み重ねが、新たな道を開くのだから。
長い長い後鳴きのツクツクボウシの声に見送られて、男は去っていく。
ご案内:「異邦人街 街角」から羽月 柊さんが去りました。