2020/09/30 のログ
ヒメ >  
「ほほう、私闘じゃと?
 それに……決着、か。」

ふむ、と思案する。

「私闘、結構。
 生きて意志を持った者同士、全て反りが合うと言うコト自体が稀有じゃ。
 それに、なにより……どうせ、利を求めれば争いは避けられれぬ。
 それだけで、見損なう理由はないのじゃ。」

ただ、このトコヨではあまりそれが赦される環境ではないらしい。
そういうことは、最近なんとなくわかってきたところだ。
まったく、法だのなんだのと細かいものだ。


「まあ、そんなことよりじゃな。肝心なのは、じゃ。」

ヒメ >  
「貴様、ソレも殺すか?」

山本 英治 >  
「そうかい………」

そして、それも殺すかと聞かれれば。
パンケーキが刺さったフォークを下ろして。

俺は……どうなんだろう。
松葉雷覇を殺したいのか?
ニーナを一度殺した以外に何をしてるかもわからない相手に?
言ってることが不穏だが……

「今はまだわからない」
「戦えば勢いで殺すかも知れない、殺さないかも知れない」
「……殺されるかもな」

フォークに視線を巡らせたまま考える。
俺は何故、松葉雷覇に拘泥している?

「多分……勘だ」
「男の勘。そいつと決着をつけたい以外、何も考えてねぇのさ」

「……その上で起きた結果を飲み下す」
「正しくない、正義でもない。そんな戦いになるだろう」

コーヒーを一口。口の中を湿らせる程度に飲んだ。

ヒメ >  
「ふむ……そうか。」

漢の、真っ直ぐで……真っ直ぐすぎて愚直な解答。
それは、ある意味で満足の行く解答ではあったが。

「では、今ひとつだけ。
 ディープブルー、とやらは……なぜ、殺したのじゃ?
 それも、勢いか?
 貴様らの世では、ヒトを殺すことは罪なのじゃろう?」

小首をかしげて、問うた。

山本 英治 >  
「……俺の異能は、精神を蝕むんだ」
「使えば使うだけ攻撃的な性格になる」
「だから……いや、違う…」

置いてあるフォークの先のホットケーキに、シロップが浸っていった。
相手の目を真っ直ぐに見て。

「あいつが俺の大切な人を大勢傷つけた」
「だから許せなかった、だから殺した」
「悪人相手だからってこの罪は許されても、拭えはしないだろう」

「俺の魂は呪われているんだよ」

寂しそうに言った。くしゃくしゃに表情を歪めたまま。
異能の呪いだけじゃない。

俺の……手は…………血に…

ヒメ >  
「なるほど、エイジ自身の意志でやった、と……そういうのじゃな?
 許せない、それが理由だった、と。」

わかりやすい話ではないか。
皇は、考える。
この世の倫理と、己の道理の違いか。

「エイジは、殺したくて殺したのではないのじゃろう?
 正当な戦いの末、であれば……それは正当なる結末じゃろう。
 なにも悔やむものでもあるまい。それが理というものじゃ」

確か、自然の摂理、といったか。
闘争の末、どちらかが倒れる、などというのはよくある話だ。
快楽のために殺して回るのとは異なる。

「じゃが、一方で。
 貴様が今、受けているように。
 殺したものには殺したものの責務が生ずるものじゃ。

 それは、殺したものの家族と相対するでも。
 殺したものの後を継ぐでも。
 なんでも、様々に生じよう。」

ヒメ >  
「それに耐えられぬ、というのなら闘いなどやめるがよい。
 異能など使わずとも生きてはいけるのじゃろう?
 なんなら、その悪党とやらを世が始末してやっても良いぞ?」

ヒメ >  
「じゃが。それでも立つというのなら……貴様は、汚れた悪鬼であってはならぬ。
 誇り高き修羅であれ。それが礼儀というものじゃ。」

山本 英治 >  
正当なる戦いだった。
何度、人生を繰り返しても。
あの場面で俺はあいつを殺しただろう。

でも……俺は………

ヒメの小さな唇から、言葉が紡がれていった。
それは、俺の心の。一番柔らかい部分に触れた。
傷つけるも、奮い立たせるにも。ヒメ次第の。

「誇り、か………」

口の端を歪めて。

「忘れていたな……人間、体も心も弱るとそういう部分に気が回らないらしい」
「戦うさ…誇り高く。俺を信じてくれる人に恥じない戦いを」

「そして己の責務と誇りを忘れない男になる」

ばくばくとパンケーキを食べ終えて。
コーヒーを飲み干した。

「戦って終わりじゃない……勝っても負けても」
「その後のことをちゃんと考えるさ」

ごちそうさまでした、と言って。
俺の表情はその時、どんな風だっただろう。

ヒメ >  
「よく吠えたな、エイジ。
 で、あれば……じゃ」

にたり、と面白そうに笑う。
口が三日月を描き……紅い口内と鋭い牙が覗く。

「世が立ち会ってやるのじゃ。
 貴様は、殺し合いでもない、
 その場の勢いで趨勢が変わる"私闘"に赴くのじゃろう?
 そうであれば、見届ける価値もあろうというものじゃ」

呵々大笑。
そんな感じの笑いを浮かべた。

「必要であれば、露払いくらい、してくれよう。
 なに、ただの余興じゃ。
 遠慮することもない。」

山本 英治 >  
「ヒメ………」

ああ、もう。この顔は。
言い出したからって聞かない時の顔だ。
自分の言葉を引っ込める気がない時の顔だ。

でも、それがどこまでも嬉しかった。

「余興で怪我しないでくれよ、ヒメ」
「私闘で立会人に怪我をされたら俺ぁ苦しい」

ふ、と笑って。
俺は良い友達を持ったな。

「見届けてくれ、ヒメ。俺の戦いを」

その言葉に迷いはなかった。

ヒメ >  
「ふん。世を誰だと思っておる。
 三界を治めし金龍皇■■■■じゃ。」

笑う。
これなら介錯の必要もあるまい。

「では、また来るのじゃ。エイジよ」

そういって……
なんだか言葉とはちぐはぐに、店の店員らしくぴょこんと軽く頭を下げて手を振った。

山本 英治 >  
「それは何より……」

苦笑いして支払いを終えて。
吉田さんに挨拶をして。

「ああ、また来るよ。話せて嬉しかった…」
「色々と……色々とだな?」
「ありがとう、ヒメ」

そう言って去っていった。
また一つ。また一つ心をもらった。

この心を握って、俺は。

ご案内:「異邦人街喫茶店『ローズ・ロマネスク』」から山本 英治さんが去りました。
ご案内:「異邦人街喫茶店『ローズ・ロマネスク』」からヒメさんが去りました。