2021/10/17 のログ
ご案内:「異邦人街」にヒメさんが現れました。
ヒメ >  
「……わからぬ」

皇は首を捻った。
この世界に来て、新鮮なことは多い。
なにより、ヒトの姿を得たことで降りかかる不自由が不可思議で逆に楽しい。

……の、だが

「……どうにも、ヒトの風習はたまに分からぬのじゃ」

再び首を傾げる。
その意味不明さが可愛いといえば可愛いのだが……


「結局、はろうぃん、とはなんなのじゃろうな?」

ヒメ >  
自分が得ている情報は、仮装、なるものをして歩き回ること。
それと、とりっくおあとりーと、なる呪文を唱えることで菓子が手に入る、ということ。

「……祭り、というものは最近なんとなく理解したのじゃが。
 しかし……祭り、というにはやや地味な気がするな……?」

自分の認識している祭り、というのは賑やかに騒ぐこと、のはずである。
しかし、だ。

そもそも仮装、なるものは普段と異なる装束を纏うことらしいが……
此処ではあまり代わり映えがしていない、ようにも見える。

いまいち、その賑やかさ、というものがない……気がする。


「ふむぅ……?」

ご案内:「異邦人街」にリロイさんが現れました。
リロイ >  
乾いた音。
分厚いボディの中は空洞の、アコースティック・ギターを爪弾く音が響く。
短い旋律だ。呼びかける声の代わり。

「少女よ。
 その疑問に答えるには
 おれからも問わねばならないことがある」

そこに乗ったのはハスキーヴォイス。
ギターを構えて闊歩する、常人の形をしたものは、眠たげな碧眼を向けて語る。

「おれは耳がいい。
 それなりにな。
 ああ、だから、少女よ。
 その疑問に、おれなりのこたえをくれてやることはできる。
 交換条件だ。 どうだろうか?」

ヒメ >  
「……む?」

何者かが、声をあげる。
まあそもそも、その辺で誰も彼もが声をあげているので、別に珍しいことでもない。
ない、のだが……

どうも、自分に向けられている気がする。

少女、といのも……確かに、この姿はヒトの子の姿であったはず。
まれにそのような呼ばれ方もした記憶もないではない。

で、あれば。
この存在が自分に語りかけているらしいというのも、間違いではないか?


「……それは、世に向けて言っているのか?」

皇はそれでも慎重に応えることにした。

「そうであれば……そうじゃな。問いを立てることを許可するのじゃ」

そして、鷹揚にうなずいた。

リロイ >  
「イエス。
 間違いなく、おまえのことだ。
 おれの耳を欹てたなら、
 多くの少女を感じ取ることはできるだろうが、
 おれがいま話しかけている少女は、おまえだけ」

上機嫌なワンフレーズを爪弾く。
静かな貌から、掠れた音律が乗った。

「感謝(サンクス)――しかし。
 しかしだ。少女よ。
 ギャランティは、終わったあとに求めるべきだ。
 おれの問いは、おれがおまえに有益なこたえを返せた時に。
 改めて謳わせてもらう――」

ストローク。
陰鬱な和音が響いた。
問わせてもらうのは、最後でいい。
困っている相手と、そういう契約を結ぶ。

「ハロウィン。
 少女よ。ハロウィンの何が知りたい。
 "Trick or Treat!"
 そう願わば菓子がもらえる。
 菓子をくれてやらなければ、悪戯をされる。
 そのような悪童こそ、祭りの主役。
 掲げられた名に反して――
 邪気を尊ぶ、このサバトの――何を識りたい?」

彼女の横に並び。
ギターを爪弾いた。
視線は彼女が見ていたものを見つめた。

ヒメ >  
「……」

皇は考える。数少ないヒトとの出会いはあれど、そう差異はない、気がした。
が、どうもこのヒトはナニカ違う、気もする。

――愉快

脳裏に走ったのはその一言だった。


「汝の言の葉は解しづらいのじゃが……まあ、よかろう。
 その程度、対応してくれようぞ。」

皇はおおらかに頷く。


「世が知りたいことか。
 ふむ……一言で言えば、じゃ。
 この、はろうぃん、なる催しの勘所、じゃな。
 なにゆえ、このような営みを行うのか。
 菓子と、仮装、なる行為の繋がりがいまいち分からぬのじゃ」

皇の眺める先には、ハロウィンのグッズが並んでいた。

リロイ >  
「最高の演奏(ギグ)は――麻薬(クスリ)なんかメじゃない」

天を仰ぎ、陶酔したように溜息が溢れた。

「前提だ。
 これは人間たちの祭り。
 人間という種族を、少女よ。
 おまえがどう感じているかは知らない。

 だが。
 これは人間という種族が編んだ文化だ。
 弱さと優しさの歌だ。
 判るか。判らなくてもいい。感じろ――」

仰いだ顎を戻すと、視線を向ける。
異邦人街。
人間と違うモノたちが集う場所。
こんな場所を女は知らなかった。

「少女よ。
 人間が恐ろしいモノにであった時。
 人間は恐ろしいモノに対して、何をすべきだろう」

これは彼女の問いに対する答えの前奏(イントロダクション)――

ヒメ >  
「世から見れば、ヒトなど儚きものじゃ。
 じゃが、汝も含め、ヒトはよく囀る。
 その囀りこそが、汝らの価値であり、世の愉悦なのじゃ。」

傲慢、とも言えるその言葉を事も無げに吐き出す。
けして侮るでもなく、ただ当然のこととして。

「そして……そうじゃな。
 弱きが故の、営みである、というのは……十分に解するうちじゃ。
 汝らは弱きが故に、様々なことを成す。
 それは、世の眷属たちにも行えぬことやもしれぬ」

このヒトの言うことは尤もである。
それは、これまでに学んできたこと。


「……ふむ?
 面白い問じゃな。
 汝ら弱きモノ、儚きモノが恐ろしいモノに対した時、か……」

ふむ、と思考する。
が、摂理としては選ぶべき道は多くはない。


「一つ。諦めて、己が命を差し出す。
 一つ。己が誇りに賭け、儚き抵抗を示す。
 選べるのはその2つであろう?
 すべき、というのであれば……誇りを賭けるべきじゃとは思うが。
 その場合は、なんとしても逃げる、という道もあろうか?」

考えたことを口にした。

リロイ >  
「ヴァイオレンス――いや違う。
 違うな。
 この形容はノット・グッドだ。
 原始的(プリミティブ)――力強い。
 少女よ。お前がその存在を唄うたびに、
 おれの下腹に重たく響く――低い音だ」

低音弦を弾く。
表情は憂いを帯びたまま。
唇は持って回った歌声を紡ぎ続けた。


「おまえが恐ろしいモノで在った世界があったのか」


機嫌よく、カッティング。
スタッカートの効いたストロークで、感情を謳う。

「実にクールだ。
 少女よ。恐ろしいモノよ。
 だがこの時節、彼らの家の扉を叩くのは。
 強いモノとは違う。
 大きいモノでもなければ偉いモノでもなかった。
 ジーザス。
 向こう側から帰ってきた、
 遠い場所にいった家族とともに。
 彼らは地獄の蓋を開けてきた。
 それは――狂騒(ライヴ)だった」

遠くを見つめた。
あの夜を思い出すように。

「見えざるモノ。
 触れざるモノ。
 彼らは命を求めてきたかもしれない。
 餓えたるモノ。
 いやしきモノ。
 人間に彼らと戦う選択はなかった。
 牙を抜かれた者たちの文化だったからだ。
 ロックではなかった――
 迫る魔に、人はこう言った」

「これで勘弁してくれないか」

ポケットから紙包みに包まったチョコレートを取り出した。
要るかと問うように、少女に揺らして見せる。