2021/10/18 のログ
■ヒメ >
「世は、異界より降臨せし龍の皇じゃ。
すなわち世は皇にして、世は世界そのものである――」
尊大に少女は言い放つ。
それは誇りであり、厳然たる事実であった。
が
「尤も、此処は異界。
世がこの世を統べている、というほど蒙昧ではないのじゃ。
故に、汝もこの世の皇たる、とまでは見なくても許す。」
それもまた事実。
謙虚さもまた必要なのだ。
「……しかし、なんじゃ。変わった囀り方じゃな。
そのような囀り、世は祭りの場でばかり聞いたものじゃが……」
謳うような調子に、少し興味を持つ。
その節自体も、今まで聞いてきたものとは異なる調子だ。
これもまた、一種の習俗なのだろうか。
「ふむ……逃げ……とも、また異なるな。
つまり、捧げものをすることで己を守ったか。
……ああ。確かにそのようなことをしていたものも在ったな。」
貢物、捧げ物。
荒ぶるモノを寄せぬために、予め差し出されるソレに、たしかに覚えは在った。
「なるほど、この菓子がその役割を果たす、ということじゃな?」
差し出されたソレは、捧げものとして当然の権利として受け取ろうとする。
■リロイ >
「ビュリホー。
素晴らしい。
では受け取ってくれ。
これが、おれからの捧げもの――
今回のサバトの贄(サクリファイス)だ――
――気にするな。
魂のまま口にするとこうなる。
謳わずに語るなど、むしろ無粋だ――」
コーヒー風味のチョコレートでコーティングされたビスケット。
少し大人の苦さが混ざる。
少女の手に恭しく捧げ奉る。
悲しげに、熱が吹き消えるような、単音の旋律が、風に乗って――消えた。
「少女よ。
恐ろしき龍よ。
季節の節目、向こうから皆が還ってくる。
届かない場所に行ってしまった――彼らが。
招かれざる恐ろしきゲスト。
子どもたちは彼らに扮して、大人たちは菓子を捧げる。
狂騒を鎮めるごっこ遊び。
燔祭のかわりにオーブンを温める。
この祭りは、悪魔に許しを乞うサバトの模倣――」
弦を引っ張った。弾く。
びぃん。
唸るような低い音。
「だが此処にはより恐ろしいモノがいる。
還ってくるモノさえ珍しくはないのに。
かぼちゃを魔除けにするだけだったサバトを。
どうして人々が真似ているのか。
ここからは野暮だが聞きたいか?」
■ヒメ >
「うむ」
捧げられたビスケットに遠慮なく牙を立てる。
ヒトよりも儚いそれは、さくり、ほろり、と見る間に砕けて消えていく。
後に残るのは、生地の甘さとその裏に隠されたほろ苦さ。
「……帰ってくる。
そういえば、先程からそんなことをいっておるな?
帰る、ということは……もともと、こちらに存在せねばならぬのじゃ。
……となると。討ち倒されたモノか?」
ふむ、と考えて応える。
だいぶ理解が進んだ気はする。
「しかし、そうじゃな。
ヒトの営みであれば、この異邦の地であれば実感しにくいのも道理では有るな。
と、なれば……やはり、この世のヒトが集う地に訪れるべきか……?」
少し真剣に考える。
元から考えていたことでは有る。なにしろ、まだまだ知りたいことは無数にあるのだ。
とはいえ、不案内であるのでどうしたものか、とも思う。
「よい。
此処までくれば、仕舞まで聞かねば収まらぬのじゃ。
余分であろうと、想像であろうと、囀るだけ囀るがよい。
相応の対価はくれてやるのじゃ」
皇は好奇心が強かった。
■リロイ >
「イエス。
そういうやつもいる。
病に倒れたやつもいる。
老いに勝てなかったやつもいる。
道端の石に牙を剥かれたやつ。
くすり。酒。鉛玉。炎。
終わりに至るまでのリリックは、人それぞれだ――
蓋の向こうからやつらが還ってきて
ここぞとばかりに悪魔がについてくる。
"Trick or Treat!"
欲望を満たすための歌を携えて――」
ピンッ。
高音弦に強い張力をかけて弾いた。
間の抜けた短音。
「菓子がよく売れる」
ピン、ピン。
「だから祭りが開かれる。
菓子を作って売る者たちの祭典でもあるのだ。
恐ろしき少女よ。
お前が含んだ贄も菓子会社の血肉の通った知恵の結晶だ」
薄っすらと微笑んだ。
表情らしい表情が浮かぶ。
静かで優しい。
そんな色。
子供を見守る暖かさ。
相手を龍と知りながら。
「だったらこれから共に繰り出そう。
悪魔に怯えるモノどもが身を寄せ合うヒトの街へ。
学生街でもいい。商店街でも居住区でも。
おまえが両手を振り上げて、
あの呪文を唱えてみれば、
人々はおまえに贄を差し出す。
明日を楽しく生きるために。
人々はおまえに敬意を示す。
そして自分たちの存在を確かめる」
ヒトは儚く弱きものである。
ヒトを愛しむように少女はギターを鳴らした。
「ところで。
恐ろしき龍よ。
人間の住まう場所への道は、ちゃんとわかるか?」
■ヒメ >
「……ふむ?」
どうにも読み取りづらいが、どうやら帰ってくるモノは想像とややズレている気がする。
魔性の類の死に様にしては、流石に少々間抜けにすぎる気が……
「あぁ、なんじゃ。
同胞の死者か? しかし、其れに恐れを抱くのか?
で、あれば。まったく妙な話よ」
自分の常識であれば、死者は死者である。
仮に、蘇ったところで同胞に恐れる必要があるのだろうか。
まあ弱きモノ故に、そういうこともあろうか、と一定の理解は一応可能では有る。
「そうじゃな。
身を以て識るのが一番ではあろう。」
それは自分も考えるところでは在った。
「……うむ、そこじゃな。
今は仮の姿。正直なところ、ヒトの世の大きさに慣れぬのじゃ。
故にこの地の有り様なども未だ、感覚が掴めぬ。
小さすぎてな。」
龍の尺度では、「島」は一部屋程度のサイズ感でしかない。
その中で細かな場所を説いたところで、いまいち理解が及ばない。
そのくせ、サイズは人間になっているので整合性が未だに取れないでいるのだ。
■リロイ >
「え――――」
力なく、右手がだらりと垂れ下がった。
貌に、戸惑いが生まれる。
「道が、わからないのか」
弱気な声を出した。
「ここにどうやってきたのか。
実はまるきり覚えていない。
どこから来たのかは覚えてる。
門限通りに帰らないと大家さんに叱られる。
学生街まで出られればどうにか帰れる――」
聞きたかったことは。
要するに帰り道だ。
希望を失って、
「Ahhh――サドネス。
どうしよう――」
天を仰いだ――。
ギターをかき鳴らす。
■ヒメ >
「む。なんじゃ、汝も知らぬのか?」
知っているものだと思っていたので、此方も期待したのだが。
……待てよ?
「とすると、汝。尋ねたかったこととは、帰り道か?
ふむ、なるほど……」
それは、答えられない。
否、それでは皇としての矜持が許さない。
故に
「まあ、待つのじゃ。
確かに、世は正確にヒトの地に出る道を知らぬ。
じゃが、術として……なんじゃ、確か……『でんしゃ』なるものがあるとは聞く。
世は、そのものを知らぬ故、仔細は分からぬが。」
知っている限りの話はする。
だいたいどちらの方にあるか、もなんと話に聞いてはいるが。
「ああ、そうそう。それと、これじゃ。」
服の中から一枚の紙を取り出す
「この辺りの、ちず、なるものじゃが。
世はなにしろヒトの大きさでモノを考えられぬ故、見ても全く分からぬ。
じゃが、汝なら……少しはわかるのではないか?」
無理であれば……まあ、共に探す手伝いくらいはしようか、と皇は律儀に考える
■リロイ >
「どん底には慣れている。
死と絶望が隣人だった。
おれの傍にはギターだけ。
道に迷うのがおれの宿命。
なに?」
歌いながら歩き出し、言葉を聞いてそのまま後退。
示された紙切れに、腰を屈めて覗き込む。
「おれはいまどこにいる?
おれはどうやってここまできた?
何もわからないが地図は読める。
ではおれたちの現在地を探そう。
おれたちはいまどこにいるのか?」
機嫌があからさまによくなった。
ギターを鳴らしながら、地図に視線をやり。
そのまま歩き出す。
ついて来いと言わんばかりだ。
「感謝(サンクス)。
駅まで行ければどうにかなる。
ヒトの都まで案内もできるだろう。
だがそうしたら。
少女よ。おれの道標よ。
おまえは山程の菓子を抱えて、
住居へ戻れるのか――」
長い旅になりそうだ。
案内も帰宅も問題はなし。
新たな問題が生まれた気がする。
■ヒメ >
「ははは、良い。
汝がこれを解するのであれば、道は開けよう。
で、あれば……世を案内することも可能であろう」
呵々大笑する。
これで自分の問題も一つ、解決できる。
「……む?
別に、戻れぬのであればそれもまた、それでよい。
そも、この地に居を持たぬではないが、それも仮宿じゃ。
まあ、なんとでもなろうぞ」
最悪、自分を世話している者がなんとでもするだろう、と……
皇ならではの思考をしていた。
「では、ゆくぞ……
む、汝の名を聞いておらなかったな。
世は、此処ではヒメ、と呼ばれておる。」
そんな益体もないことを話しながら、共に歩き始めた
■リロイ >
「旅する龍よ。
ならば囚われたおれを笑うがいい。
だが大家さんこそ、
おれにとっての恐ろしいモノ――」
ぶるりと身を震わせた。
「ヒメ。
プリンセス。
この国の言葉は奥が深い。
口端に乗せるのは、
少しばかりややこしいが。
おれの名はソニア・リロイ・トラヴィス。
そう名乗れと言われた。
ヒメよ。
大いなる龍よ。
それではゆこう。
"Trick or Treat!"を謡いに」
ご案内:「異邦人街」からリロイさんが去りました。
ご案内:「異邦人街」からヒメさんが去りました。