2021/11/22 のログ
ご案内:「異邦人街」に羽月 柊さんが現れました。
■羽月 柊 >
一本の木のある場所に、紫髪の男が立っている。
枝からつり下がった籠の中、ログハウスのような小さな家が見える。
指先ほどのメモ用紙のような紙をそこに向かって差し出している。
「これが課題のプリントと来年の教材のリスト。
あぁ、提出は冬眠りが終わってからでかまわん。」
妖精のような小さな住人が、それを受け取っていた。
掠れ交じりの落ち着いた声の男の傍ら、
両肩に乗った白い鳥のような何かがキュイ、と鳴いた。
秋から冬に入る頃。
異邦人街の此処も、寒空に乾いた風が吹き、
枯れ落ちる紅葉の終わった葉が、季節を告げる。
ご案内:「異邦人街」に山本英治さんが現れました。
■羽月 柊 >
今日此処に羽月柊が来たのは、教師業の一環のようだ。
魔術の他に異世界学や竜語を教えるこの教師は、
異のモノに慣れていることもあってか、
此処異邦人街に良く顔を出す。
教師になってから一年と少し。
目まぐるしく日々は過ぎ、
様々な事柄に関わり、悪戦苦闘しながらも、
今日まで教師としてなんとかやってきたと思う。
教師をしていて思うのは、己1人では教師に成れぬということ。
生徒によって教師は教師足る存在になる。
この常世島では、教師は強権を持つことは無い。
"何かを教えられること"が教師の条件であり、
そこには老若男女問わず、数多の出身のモノに平等に教師に成る権利がある。
それに、生徒会や各委員会の上部にとって彼ら教師の立場は下である。
この常世島では、少々教師という立場は特殊だった。
逆を言えば、だからこそ、この男のようなモノでも教師に成れた。
「…あぁ、じゃあまた、春にな。」
妖精の生徒に課題やらのプリントを届け、
一礼をするとそこから離れ、異の街を歩く。
巨体のリザードマンが隣を通り過ぎ、
翼の生えた誰かの羽音が頭上で聞こえる。
夜行性の誰かが起きて来る頃、はたまた、誰かが眠りにつく。
異邦人街は、眠りを知らず。
■山本英治 >
「あれ、羽月さんじゃないか」
ジャケットのポケットに手を突っ込んだままだった手を上げる。
左掌に右拳を当てて挨拶。
「ご無沙汰してます、バチカンから帰ってきました」
そう言ってニカッと白い歯を見せて笑う。
そうか、羽月さんと会うのも随分久しぶりになるのか。
「妖精さんにプリントを届けに?」
オーバーに両手を広げて親愛をアピール。
視界の端にいる、血塗れの親友をできるだけ見ないように。
彼に話しかけた。
■羽月 柊 >
「…ん?」
聞き覚えのある声にそちらを向く。
小竜たちが見おぼえのある顔にキュイキュイと鳴声をあげ、
羽月の肩から飛び立ち、山本の元へと寄っていく。
この島で彼の目立つ頭を見たのは久しぶりだった。
「……君か、あぁ、冬眠りをする生徒に来春までの課題をな。」
彼に対する口調は柔らかく。
小竜たちの後を追うように、旧知の"友人"へ歩み寄る。
彼は羽月が教師に成る前からの友人だ。
共に大切な誰かを失い、それでもと時に共に戦い、
言葉を交わし、友として歩いて来た。
己の異能たる胡蝶の夢《レム・カヴェナンター》も、
発現の発端は彼が居た故である。
「随分と久しぶりだが…バチカンか。
あそこは《大変容》以前から色々と技術を蓄えて来た所だが…。
何か目的あってのことか?」
恐らく魔術協会の支部もあるだろう。
この男も訪れたことがあるかもしれない。
■山本英治 >
「元気だったか? セイル、フェリア」
相変わらず愛嬌があるねぇ、と笑顔で両手のひらを合わせて笑う。
この小竜たちと会うのも久しぶりだ。
「冬眠りか……心地いい眠りになるといいねぇ…」
ハーっと手に息を吐きかけて。
悴む手を温めてから、差し出した。
「はい、解呪のためにエクソシストを頼りに」
「異能の残響には通用しませんでしたが……」
「呪詛の類でないとわかっただけ前進!ってことで」
握手を求めたまま、小首を傾げて。
「羽月さんにも言ってなかったか……」
「なら俺誰に言ってから出てきたんだっけ…」
一年が過ぎていた。
長い時間が。過ぎていた。
■羽月 柊 >
小竜の二匹はちょこんと差し出された手に留まる。
寒空の中、小動物のぬくもりが手を温めてくれるだろう。
それから少しだけ道の端に寄る。
夜の灯が徐々に異邦人の街を照らし出して行く。
「種族的に冬眠り、冬籠りをする生徒はそこそこに居るからな。
ヨキやおこん先生やら、その辺に理解のある教師陣で
作ったプリントを届けていた所だ。」
多少なり教師業も板についたと言った所だろうか。
かの小さな狐の教師はコミュニケーション学を教えているし、
教師としては先輩にあたる。
ヨキ以外の同僚との交流も増え、なんとかやっているようだ。
「…あぁ、なるほど。
まぁあの時はかなりゴタついていたからな…。
マルレーネには、言ってあるんじゃないか?」
一年。
定命の人間にとっては長い時間だ。
異能の残響と聞けば、桃眼を一度伏せる。
とある男の異能、"言霊"によって呪われた眼前の友人。
互いに聞かされたかつて愛したモノの声。
羽月は残響は残らなかったものの、あの日聞いた声は、今でも思い出せてしまう。
「全員退院日もまちまちだったからな。
神代の方は、…まぁ、色んな意味で元気にやっているみたいだが。
それで、『呪詛』の類ではなく『異能の残響』か。
異能は専門外だからなんともだが…
そうなると、"異能抑制"の類などは?」
呪われた友人、呪われてない自分。
強制的な溝を作られた二人。
この世に完全な異能抑制の類はほとんど無いが、
かつて己も含めて周囲に音を消してしまう少女につけられていたように、
存在自体はしているようで。
■山本英治 >
「おお、おお。ぬくいぬくい」
微笑んでウリウリ、と竜の顎を撫でる。
可愛らしいが、これでいて高度な知力を持った二匹だ。
決して非礼があってはならない。
でも、可愛らしい。
「すっかりセンセーですね」
「今度、授業に出るかも……なんて」
帰ってくるなり風紀委員の仕事を入れまくっている。
それも、松葉雷覇を探し出すためだ。
自分なりに決着をつけないと。
狂うことも死ぬこともできない。
「そだっけ……マリーさんに言ったっけなぁ…」
「縋るように申請書出して、かっ飛んで行っちまったからなぁ」
小竜のおかげで温まった手を擦って。
「この街には神代先輩の正義も必要ですからね」
分かり合えた。でも、思想は違う。
違った形の正義を神代先輩とは共有している。
「そ、異能制御。でも制御するチャンネルを合わせるのに時間がかかりそうだ」
「エクソシストの方が言うには今、発狂してないのが奇跡ってレベルなんで」
「時間がかかるとかなり苦しいすね」
髪をいじって、羽月さんを見る。
深い紫の髪、桃に染めたような瞳。
「羽月さん……背、伸びました?」
真顔で聞く。全身の筋肉量がだいぶ落ちた俺なりのジョークだった。
……全然面白くはなかったな。