2022/10/20 のログ
パラドックス >  
爆炎、轟音。
悲鳴すら上がりはしない。燃え盛る瓦礫が音を立てて崩れていき
シスターマルレーネが外に出た途端、全ての役目を終えたかのように完全に崩れ落ちた。
瓦礫と木っ端が風圧と舞い、シスターの髪と衣服を靡かせた。
その頬を撫でるのは、少年が来ていたであろう衣服の───────……。

『見ろ。コレがお前の信じた幻の結果だ』

そして、この悪夢は終わらない。
全てが崩れ落ちてなお、その中心に鉄の怪人は未だ悠然と立っている。
瓦礫を踏み躙り、炎を払い、尚も止まりはしない。
流石に大事になってきた為か、周辺も騒がしなっているが、怪人には関係ない。
此の赤い電光の双眸。それに映る全てを"破壊"するのだから。

『お前も終わらせてやろう。歴史の闇に消えるが良い……!』

銃口が、シスターへと向けられる。
間髪入れずに、トリガーに指が掛けられ、青白い閃光が煌めく────……。

マルレーネ > 「………私の選択の結果でしかありませんが。」

よいしょ、と立ち上がって、ぽん、ぽんと服の土を払う。
ふ、う……とゆっくりと息を吐き出す女。 元々、一人で生きてきた女だ。
ぐちゃぐちゃに焦り、慌て、泣きそうになる心を切り離して………深く濁った海の底のような青い瞳。

「………終わらせる、ですか。」


終わりたい願望を口にしそうになる自分を押し込んで。
燃え上がる建物、激しく抉れた地面を踏みしめながら、射撃を少しずつ避けていく。
弓矢より速いが、それでもすごい速度で距離を詰めてくる相手ではないからこそ。

「………………ああ、ああ、そうですね。」

地面を踏みしめ、相手の攻撃を避けながら。

沸々と。

「………そうですね。」

沸々。

「………終わらせるというのは、貴方のことですよね。」

目を見開いて、ぎ、っと………男を睨む。
怒りが明確に表情ににじむ。

許さない。無造作に、無慈悲に、その場にいる罪を語る人間を。存在を。
叫び出し、頭をかきむしりたくなるような怒りを胸の内で固めて、固めて。

へし折れた道路標識を両手で、ぐ、っと持ち上げる。

パラドックス >  
放たれる蒼い光弾を避け迫りくるシスター。
意志は死んでいないが、その目はまるで写し身。
身をどれだけ傷つけ、苛まれようと、意志は潰えない。
奇妙なシンパシーが、そこには生まれていた。

『私を破壊すると言うならやってみると良い』

<スラッシュ!>

滲み湧き上がる聖女の怒声。
既に出鼻を挫かれ、一度は痛い目は見ている。侮りはしない。
己を"敵"として見定めた聖女の怒りを、その上を行く"意志"で磨り潰すのみ。
ライフルを覆う蒼刃、レーザーブレードを構え、互いの曇り硝子が相対。

『お前如きに、私は止められん……!』

最初に踏み込んだのは此方だ。
瓦礫を跳ね飛ばし、土煙を上げ一気に間合いを詰め
構えたレーザーブレードを脳天目掛けて振り下ろす!

マルレーネ > 「やります。」

端的な言葉が一つだけ。

彼女の能力は神へ思いが伝わっていると信じている………が。
実は"神"は介在しない。もしも介在するのならば、こちらの世界では使えないものなのだから。
神への思いが生み出す力。こうあるべきだ、こうするべきだ、やらなければならない……意志の力。

それは例え殺意であっても同じだから。


「ああ。」

道路標識が蛍光灯か何かのように光り輝く。
自分の強い思いを、殺意を自分で自覚して、少しだけ目を細めた。

「………主よ。しばらく見ないでくださいね。」

祈りの言葉と共に、そのレーザーブレードを振り下ろす腕へと、戦斧と化した光る標識が半円を描く。道路はその斧の通り道、バターのようにすぅ、と削れ抉れて。

刀身ではなく腕を押さえんとする動き。ずっしりとした標識とは思えない動きで対抗する。

パラドックス >  
『フンッ!!』

けたたましい金属音と共に標識とレーザーブレードがつばぜり合う。
己の腕を狙った一撃をその刀身で受け止めた。飛び散り合う火花。
その強い振りに、怪人の足元が地面を抉り、その身が後退する。

『お前……やはりただの聖職者ではないな……?』

直に力を受け止めているからわかる。
その見た目に似合わない怪力。
明らかに此方の戦力を削ぎに来た戦い慣れ。
そして、それを実行できる戸惑いの無さ。

『とてもではないが、祈りなどと似合わないな……!』

両手を合わせる以前に、何かを手折る方が余程似合う。
聖職者の姿なぞ、それこそこのシスターにとっては"隠れ蓑"ではないかと思うほどだ。
そんな濁り切った目で、何を祈る。何が見える。
祈りを捧げる先でさえ、そんな"殺人者"に慈悲を向ける神などいるのだろうか。
最早、"見放されている"とさ考えないのか、と哀れみさえ感じる程だ。
だが、紛れもなく力は本物だ。

『クッ……!』

腕にのしかかる重圧。
クォンタムアーマーで強化された筋力が徐々に抑え込まれている。
マスクの裏に映る各種状態に、徐々に腕の負荷が増え始めている。
この女と、真正面から戦うのは得策ではない。

『……舐めるな!』

<ショット!>

バチバチと両腕に青白いエネルギーが迸り、一時的な出力上昇。
標識を跳ね上げると同時に後ろに飛びのき、即座に銃口から乱射される光弾の数々。
どれだけ力が強かろうと、距離を取れば問題ない。
周辺ごとまた焼き払う算段だが、焦りから出た行動は果たして──────?

マルレーネ > 「そうですね。ええ、そうです。」

似合わない、と言われてしまえば、それは肯定するしかない。
ただの聖職者でありたかったんですけどね。
その思いは口にすること無く、ぎり、ぎりと火花を散らし続けて。
ふー、ふーっ、と吐息。……頭に思い切り上った血を落ち着けながら、更に力を込める。
命を奪うことに関して躊躇が失せている。いつ頃から迷わなくなったのだろう。


「………!?」

乱射される光弾に、唇を噛む。同じ速度でついていくことはできない女。
目の前で殴り合ってくれる方が、よっぽど都合がよかった。
両腕を顔の前に交差させ、爆発と炎に思い切り包まれて、人のカタチが消し飛ぶほどの火力に包まれ………。

「………まだやりますか……?」

立ち上がる。金色に輝く修道服は、相手のエネルギーにも耐えて、破れもしていない。

服は耐えた。
身体が耐えられるわけもない。両腕で覆っていても顔はひりひりと火傷のようになり、がっちりとプレートのような服に守られていても、その衝撃は身体のところどころにヒビを入れるのは容易いエネルギー。

でも、余裕そうに立ち上がって見せる。空元気を前面に出す。

パラドックス >  
破壊のエネルギーが前面を包み込み、聖女を、周囲を、何もかもを爆炎が包んだ。
燃え盛る道に、建物に、生命が焦げる匂い。全て終わりだ。
……そうは思ったが、やはりそう簡単にはいかないらしい。
驚きはしない。鉄仮面の奥からは、溜息が漏れた。

『……そうだろうな、倒れはしない。私も同じだ』

どれだけ濁ろうと、視線は常に前を見ている。
己のしている事がどれだけ途方もなく、愚かであることは誰よりも知っていく。
それでも"止まれない。止まる事は許されない"。
過ちも誤りも、何もかもを暴力で塗り潰すのを選んだのは紛れもなく自分の意志。
故に、手折る。確実に、今此処で。そうしなければ、この女は"危険"だ。

<クォンタムバースト!フィニッシュブレイク!!>

消えない闘志を何よりも雄弁に答える電子音声。
アーマーのエネルギーが右足に一極集中し、鋼の体躯が天高く飛び上がる。
太陽を背に、その場を一瞬の影が包み込み……。

『此れで終わりだ……ッ!!』

空がより青く、蒼く光が広がると同時に
流星の如く力が破壊となって聖女目掛けて空を切る。
エネルギーの本流。先程の攻撃の比ではない。
文字通り、全身全霊を掛けた"必殺技"。
全てを砕かんと迫る流星キックの風圧がけたたましく聖衣と金糸を乱れさせる────!

マルレーネ > 「ああ……。」

ふう、と吐息をついた。今の自分では力が足りない。
理解はしていたが、こうも届かないとは。

「別に倒れはしないわけではなくて。……倒れるほどの攻撃ではないだけのこと。」

強がる言葉は自然と口を突いて出る。
ただでさえ集中を途切れさせることができない上に、足は立つだけで精一杯。
背中を向けて走って逃げようとも、相手に射撃武器があることが分かった以上、背中から穴をあけられるだけ。

「………主よ。」

ここで出来る限り引き出しておけば、後は誰かが何とかするだろう。

祈りを捧げる。太陽の光が何かに遮られて影が彼女を覆う。
届かぬ祈りだ。そんなことは分かっている。

後はどう殉ずるかだ。


「…どこまで届くでしょうかね。」

茫洋と、まるで他人事のような言葉。
相手の攻撃に思い切り、戦斧を叩きつけて対抗して。




爆発が巻き起こる。
今度こそ防御しきれなかった女は、地面にバウンドすることもなく燃える建物へと叩きつけられ、その場に倒れ伏す。
衝撃で上の階のガラスが全て割れて女に降り注ぎ、じんわりと地面を血で染めていく。

パラドックス >  
ぶつかり合う力と力。
つば競り合うエネルギーの本流が辺りに風圧を巻き起こし、派手な爆炎に包まれた。
聖女は暴風に撒かれ、不運ともいえる硝子の雨に撒かれ、辺りが血で染まっていく。
巻き上がる土煙の中、蒼い火花を立てながら鉄の巨人は立っていた。
爆発の中心にいたのだ。確かにアーマーにダメージは入ったが、倒れるまでは至らなかった。

『フゥゥゥゥ……!
 よくぞ持った方だ、シスター』

装甲の隙間から溢れる蒸気。
未だに電流が迸るアーマーとベルトは最早稼働限界だったが、トドメを刺すには充分だった。
ぎこちなく、装甲が金切り音を上げてライフルの銃口が向く。
血に染まった聖女の体に向けられた冷徹の黒鉄。
銃口に徐々に蒼い光が収束していき、トリガーに指をかけ──────……。

パラドックス >  
『ぬぅぅ……!?くっ……!』

衝撃。
装甲に弾ける衝撃と火花に怪人はよろめき、ついにレーザーが放たれる事は無かった。
聖女の危機を間一髪で助けたのは、遠距離からの攻撃だったか。
魔術か、武器か。何れにせよ"時間を掛けすぎた"。
未だ常世学園が体制を保てているのは、そこの秩序機構が優秀だという事だ。
この地において、彼等の目を掻い潜るなどそうは出来まい。
異邦人街の外れと言えど、充分すぎる事は起きていたのだから。

『……此処までか。命拾いをしたな、シスター』

<ファースト!>

倒れ伏した女に投げかける声。
生死はわからないが、彼女が本当に自分と同じであるならば
此処からも"立ち上がる"と見越しての発言だ。
怪人は肩を押さえながら、時間加速能力により即座に撤退する。
滅びをもたらす前に、自分が滅びては意味がない。
此の荒唐無稽な暴力は、決して"ヤケ"を起こしているわけではない証左に他ならない。



怪人が去った後程なくして、瓦礫の周りに救護に来た各種委員会の生徒が集まってくるだろう。
聖女の安否はかくも、冷鉄の進撃は決して止まる事は無い。
生命尽きる、その時まで。きっと───────……。

マルレーネ > 言葉が出なかった。思ったよりも意識はしっかりしているけれど。

見開いた眼に映る光景は右が赤くて左が白い。
赤いものは血だとわかって、白いものはしばらく分からなかったけれど。ああ、これは視界が全て白くなってきているんだ、とどこか冷静に考えられた。

そして、身体が動かないのも、折れた木が刺さっているからだと分かる。
ピンで留められてる自分を想像すると、なんだか無性にバカバカしくなる。

思考がぐるぐる取り留めも無く他のものと混ざり合ってまとまらないまま。
しっかりした意識は何かしらを予感する。


「………ああ。」

でも立つべきだ。立つべきなんだろうな。
でも立ちたくないなあ。

小さなため息が漏れた。次に立ったら、おそらく楽には死ねまい。
このまま眠るように目を閉じた方がきっと楽だけど。
でも、立っちゃうんだろうなあ。自分の行動に嘆息する。
いつもよりも俯瞰で自分を見ている気がする。


「……よ、ぃ、しょ……」

硝子の中、身体を動かす。深紅に染まった木を引き抜きながら、ガラス片がぱらぱらと頭から流れ落ち。


………そこで、人が来たことに気が付く。
目の前から"相手"がいなくなっていたからだ。ああ、よかった。
もう立ち上がるのしんどいんですよね。

修道女はゆっくりと吐息を吐き出して。


「……逃げられましたね。」

一言だけ強がって、意識を手放した。水たまりのような深紅の中に髪を浸して。

ご案内:「異邦人街」からパラドックスさんが去りました。
ご案内:「異邦人街」からマルレーネさんが去りました。
ご案内:「異邦人街」に黒岩 孝志さんが現れました。
黒岩 孝志 >  
早々に陽は落ち、過ぎ去る時への気持ちは募ることの強まるばかりな季節である。
夜には一段と寒さも強まり、月の光に照らされた雨の線は清く冴え渡っていた。
きっと青垣山の緑も抜け落ちて、頂上はまもなく白むのだろう。

物々しい雰囲気を醸し出しながら、風紀委員の一団が異邦人街の外れに集結していた。
この地域の犯罪者たちにとっては見慣れた顔が揃っていて、
何人かの人物は遠巻きに彼らの活動をどこか他人事のように、
しかし心配そうな顔つきで眺めている。

組対四課と呼ばれる風紀委員会きっての強面集団が、
その課長の現場臨場という変事を伴いながら鑑識を引き連れて周囲を捜索しているのは、
落第街にさえ自浄作用を見出し、その地域に自発的に形成された秩序を侵犯しないよう配慮する、
通常の彼らにとってはありえないことであった。

――その原因はもちろん、数刻前ここで派手な破壊行為を成し遂げた、
例の怪人であることは言うまでもない。

黒岩 孝志 >  
巡回中の風紀委員が事件を発見したのは幸運だった。
彼の放ったとっさの攻撃は犯人にとって不意の攻撃となり、
取り逃しさえしたものの、どの道当時の戦力では安全に確保することはできなかっただろう。

常世島全体への緊急配備は既に出されていたものの、
これだけの破壊行為を計画的に実行する犯人が検問や職質に引っかかるとは思えない。
それでも常世島全体に蜘蛛の糸のように張り巡らされたCCTVの顔認証システムに僅かな期待を乗せた。

「よし、四課は全員集まれ」

黒岩の呼び声に、爆心地となり廃墟と化した教会の周囲を捜索していた、
強面の風紀委員たちがぞろぞろと彼の前に集まる。

黒岩 孝志 >  
「見ての通りだ。ついに奴が表の世界に手を出した」

悪同士が潰し合いをする分には、風紀委員会は黙認する。
何人の死者が出ようが彼らのコミュニティで事態が完結している間は、
検挙できる状況であっても検挙しないのが暗黙の了解だ。

しかし、カタギを巻き込み始めるとなれば話は別だ。


「『パラドックス』は一線を越えた。奇跡的に死者は出なかったものの、それだけだ。
今日ここで起きたことの結果、明日我々は新聞で怠慢だと散々叩かれることになるだろう。
だがそれはいい、"いつものこと"だからな」

そう言って周囲の部下を見回したのち、語気を強める。

「一番の問題は、奴はこれからも同様の犯行を続けるだろうということだ。
奴はあろうことか、常世学園を滅ぼすなどと周囲に標榜しているという。
これは常世島の治安秩序を維持する大任を拝命する、我々風紀委員会に対する挑戦だ!」

そして、それを聞く風紀委員たちの顔は強張る。
本来捜査一課の管轄となる事件を、無理に理由を付けて首を突っ込んでいることを彼らは知っていた。

「いいか、風紀委員会としての威信に賭けて、何としても『パラドックス』を逮捕しろ!」


――はい!

雨降る夜の異邦人街に、集まった強面に似合う低い声が響き渡った。

ご案内:「異邦人街」から黒岩 孝志さんが去りました。
ご案内:「異邦人街」に安綱 朱鷺子さんが現れました。
安綱 朱鷺子 >  
毀れた聖堂、今や見る陰もなし古刹にて、しゃがみこんで手を合わせる。
もう犠牲者は遺体は運ばれたよう。
それを看取った神さんに、宗派は違うけどなむ、なむ……

「きっときっと怖かったでしょうに……」

戦士の死は、しょうがないこと。
そんな風に朱鷺子は考えている。
撃たれていい逃げる背中なんて、よっぽどによっぽどな悪人だけ。
でも、そんなお約束だけで世界はできていない。

「ううん…でもなんもわからへんね。
 鑑識の子ぉも、ぱらどっくすがどこにいるかまでは掴めてへんのやろ?」

膝を伸ばして振り返るとそこには、今も続く現場検証をしている委員たち。
朱鷺子はその護衛役の一人として駆り出されていた。

安綱 朱鷺子 >  
「卵頭に鎧姿ぁ…なんて、いくらこの島だって目立つモンやない?
 そぉんなうすらでかいなら尚更…そうでもない?そっかぁ…」

ちょっと黙っててと言われたので唇とんがらせて壁によりかかった。
自分の体重では崩れたりしないけど…よっぽどの力を使わないとここまで傷つかない。

「許せへんなぁ」

今までで一番小さい声で呟いた筈だが…
その場にいる誰もがそれに反応した。
気持ちは一緒だ。風紀委員なら。

安綱 朱鷺子 >  
「うんーんん、でもああいう手合だと、追影せんぱいにお鉢が回るんかな…」

やばいやつにはやばいやつをぶつけんだよ、の法則で。
自分がやりたいっていうわけじゃないけど。
ちいとばっかりお灸を据えたくなるのが人情てもので。
でもやらせてくださいで配備されるわけでもないので…

…飲んでます?

「エッ!?の、飲んでへんよ?いやハハハまさかぁ…お仕事中よ?」

ぼんやり考え事をしちゃってたらしい。
酔ってる暇などない。
風紀委員は、常に後手に回るとしても、やるときはやらなきゃいけないのだ。

ご案内:「異邦人街」から安綱 朱鷺子さんが去りました。