2020/07/01 のログ
ご案内:「宗教施設群-修道院」にマルレーネさんが現れました。
マルレーネ > 「……落ち着きましたか?」

女性が優しい声で囁きかければ、肩を震わせた男は、静かに頷く。
修道院に造られた、質素な手作りの懺悔室。
様々な人がやってくる。 本当にただ罪の懺悔をしたい人。
困ったことをただ愚痴に来る人、相談に来る人、解決方法を探す人。
異邦人としてこの島にやってきた、その孤独と戦う人、嘆く人、怒る人。

男も、元の世界へと帰る術が見つからず、悩み、もがき、苦しみ。
この場所に定期的にやってきては、それを全て吐き出していく。
泣くこともあれば、諦観に似た表情を浮かべることもあり、そして怒り出すことも。

冷たいお茶を頭からかけられ、コップを投げつけられたシスターは、その男の肩に、ぽん、と触れ。

「明日からまた、笑顔で学生さんに挨拶をできます。
 きっとそう。 今日はゆっくり休みましょうね。」

本当は額がすごく痛いけど、それはぐ、っと堪えて。

マルレーネ > 「あはは、何言ってるんですか。 心配?
 ああ、コップの心配ですか。 ヒビ入ってたらどうしましょう。」

自分が何をしたか遅ればせながら自覚した男に、ころころと笑う女。
修道服が濃い色でよかったです、これならバレませんよ。なんてウィンクまでして。

「今日は他人の心配はいりません。
 明日になってから、ゆっくりと。 もし思い出すことがあれば笑顔で立ち寄ってください。 それだけで十分です。」

頭を下げる男を見送って、男が角を曲がって見えなくなれば。

「…………ったぁー………!」

額を抑えてその場にうずくまる。ガラスじゃなくてよかったけど割れない分衝撃がストレートに来た。
血が出てないか何度も確認しつつ、ちょびっと涙目。

マルレーネ > 「………よしっ。」

痛みが引いたかって言われると全然引いてない。
どっちかといえば、我慢する覚悟ができたってだけだ。
額を抑えながら、ついでに四つん這いのまま、散らばったコップや氷を拾い集めてお片付け。

お昼と夕方の丁度間くらいの、そろそろ生徒が帰る頃の時間帯。
相談に来る人間が修道院を見れば、四つん這いのシスターがせっせと掃除をしているところが見えるだろう。
具体的に言えば、分厚い服に包まれたお尻が懺悔室から見えるだろう。

「………今日は予約はもう無かったはず、ですから………。
 畑の草取りでもしますか、ねー……?」

独り言を言いながら散らばった氷を拾い集め。せっせ。

マルレーネ > 「……ふーっ……」

溜息一つ。元の世界に戻れずに鬱々としたものを抱えているのは、大小はあれど、この街のほとんどだろう。
それの大きさと、表に出すか出さないか、この2種類の違いだけだ。
それは当然、せっせと仕事をしている彼女だって、同じであり。

「………見ていて下さるのでしょうか。」

思わず本音が漏れる。
神は正しい行いを見て、救ってくれる。
そんな単純なものを、まるで少女のように信じて過ごしてきたが。

この世界には自らが信じた神も、同じ信仰を持つ仲間も、何もかもが、いない。
まるで自分の過去が夢であったかのような感覚。

氷を拾い集める手が、次第にのろり、のろりと遅くなって行く。
小さく溜息が、また漏れて。

マルレーネ > 「……よしっ!」

今度の声は、落ち込みかけた自分を励ます声。
ぱちーんっ、と両手で己の頬を叩いて、ふん、っと立ち上がる修道女。
逆にこういうところは見られていたら恥ずかしいから見ないでほしい。


「畑仕事をしてから、明日の勉強もしないといけないですね。
 あー、………………まさかここまで学問をやることになるとは。」

はー、っと先ほどとは色合いの違う溜息がこぼれる。
彼女は、まあ、その、学は無かった。 字も下手だった。

コップを片付けてしまえば、お茶で濡れたままの恰好で修道院から表に出て、んー、っと背伸び。そのうち乾く乾く!