2020/07/27 のログ
■日月 輝 > 「あたしはあたしの為にカワイイんですもの。だったら頑張らなきゃ」
「月並みだけど……生きているんだもの」
頑張って、生きて、死に満ちた森を駆け抜けた。
山本さんの命の優先度を問う言葉に、命に貴賤はきっと無いと想いを込めて呟く。
人の命を奪うのは良くない。どんなにキレても、それはすまいとあたしは決めている。
でも、森の中では、無我夢中で西塔繁の形をしたものを蹴り抜いた。
それでもあれは生きていて、呪うように懇願してきた。
目隠しの裏で瞳を閉じる。──幸い、瞼の裏に誰かが映る事は無かった。
「……そうなの!?」
横合いからの言葉に身を乗り出す。
同じように異能を使って切り抜けたと言う彼に驚く。
夏夜の夢の如きものが結ばれて、形になるならこうもなる。
妖精の仕業であるなら、あたしはきっとその妖精を引っ叩いたに違いなかった。
「……あたしが見た時は。彼はもう手遅れだったわ」
墓掃除を始める後ろ姿に言葉が放られる。
縫い合わされた瞳。
削ぎ落された鼻。
耳まで裂けた口。
損壊した右腕に歪に括られた刃物。
誰かに弄ばれた末路。
「……頭を砕いても、見る間に治って。ああ、御免なさい。貴方も巻き込まれたんだものね」
言葉を切って、山本さんに並ぶ。
ハンドバッグからタオルを取り出して、真新しい墓石を拭う。
ただの自己満足。でも、自己満足って大事だもの。
「この島。良くも悪くも不思議なことばかり。晴れているのに豪雨になったり」
「玄関を開けたら不気味な森だったり……折角の夏休みだもの。これから楽しいことだってあっていい筈なのにね」
大きくため息を吐く。
■山本 英治 >
「……ああ、生きてるんだからな」
「生きてるなら、生きてるなりに動かないと」
死人のように生きることを、決して親友は許してはくれないだろう。
どれだけ殺めても。
どれだけ痛んでも。
どれだけ苦しくても。
生きろと親友が言い遺したから、俺は。
「ああ、島に歪みが発生していて、突然その空間に繋がることもあるらしい」
墓を拭う。全部の墓は掃除できない。
それでも、自己満足のために。俺はこうしたかった。
「手遅れだった。殺してくれ、痛い、楽にしてくれって…」
「だから、殺したのかと考えると。苦しい」
墓掃除を手伝ってくれる隣の少女に、微笑んだ。
日月 輝。カワイイを追求していて。優しくて。変わった服装で。生きている。
「あるさ、楽しいこと」
「あるとも………見つけるとも」
そう自分に言い聞かせて、立ち上がる。
よし、綺麗になった。
■日月 輝 > 「そうそう、その通り。でも休むのは死んでからでいい──なんてワーカーホリックは駄目よ」
「風紀委員って忙しそうだけれど、休む時には休んでいきましょ」
島に歪みが生じていると言われて唇を尖らせる。
手遅れの話になってもそうしたまま、冬のように微笑む彼を見る。
「昏い話をして御免なさいね。でも、あんな森があたしだけのものじゃあなくってよかった」
立ち上がる山本さんと入れ替わるようにしゃがみ、墓石に学生証を置く。
名前しか刻まれていない墓石に、彼がこの島の学生であった痕跡を刻む。
「よしっと。……うん、それじゃああたしは用事も片付けたし帰ろうかな」
「山本さんはどうする?」
満足そうに唇を歪め、問う。
■山本 英治 >
「ありがとう、輝さん」
「それじゃ、早速休ませてもらおうかな」
喪服のポケットに手を突っ込んで。
茜色が混じってきた空を見上げる。
「アルキサボテンって知ってるかい?」
「二本の足で歩くサボテンなんだけど……なかなかその料理が美味くてね」
最後に、綺麗になった墓石に手を合わせる。
「隣に君みたいな綺麗な子が一緒に居たら、もっと美味しいと思うね」
「どうだい? 一緒に異邦人街でサボテン料理でも」
そう言って歩いていく。
帰り道にふと、見た親友の墓は。
綺麗な蝶が。音もなく佇んでいた。
■日月 輝 > 「ええ、早速夏休み──はい?」
アルキサボテン。なあにそれ、と言いたげに言葉の最後が跳ねた。
聞けば異邦人街にそういったお店があるのだという。
「そんなお店あったんだ……この島……良くも悪くも不思議だらけね……」
揃って手を合わせ、揃って道を歩く。
潮騒の音は遠く、緩やかに言葉が交ざる。
「でも、そうね。面白そうだし御一緒させていただこうっと」
「隣に素敵な髪型の人がいるのなら、きっと美味しいでしょうから」
アフロヘアーの維持にどれ程の努力が必要かを知っている。
あたしがカワイイに心を砕くように、彼も示す何かに心を砕いている。
サボテン料理の感想は、きっと日記の一頁。父母に送る便箋の一幕かもわからない。
ご案内:「【イベント】常世島共同墓地」から山本 英治さんが去りました。
ご案内:「【イベント】常世島共同墓地」から日月 輝さんが去りました。
ご案内:「【イベント】常世島共同墓地」に小桜 白さんが現れました。
■小桜 白 > すこし離れた日陰の休憩所で。
墓所の有り様を眺めている。
白は此処に参るものをもたない。
■小桜 白 > みんみんみん。
蝉時雨。どこの樹に、どれくらいいるのだろう。
そんなことを考えながら、参りにくるひとを、なるべく失礼のないよう盗み見ている。
いろんなひとがいる。あたりまえだ。
■小桜 白 > 参られてないお墓もあるのかな……
少し出れば熱射の注ぐ、夏。
飲み物を口から離すとうかぶ、薄ら笑み。
口元を軽く擦って、それをなくした。
「たくさんあるのに……」
うなされるような呟き。
此処に入れない死者も、大勢いる。
そう聞いていた。
■小桜 白 > そうだ。
知っている。
そういう島だと。
「そういえば……どうなったんだろう」
あの『トゥルーバイツ』の人たちも。
此処に埋葬されているのだろうか。それとも未だ?
彼らの『願い』は。
『真理』によって叶えられたの?
当事者ならぬ、蚊帳の外。
知人はいたけど。
帰らぬ人と、なったという。
■小桜 白 >
ここにもない。
あたりまえのこと。
しゃわしゃわしゃわ。
蝉は鳴くのに。
「ちょっと……うっさいな……」
苦笑する。
この島の夏は、暑い。
蝉も元気だ。
■小桜 白 > 蝉も生きてる。
自分も。
■小桜 白 > 「あ……」
目が合った。
会釈する。
(いつまでも此処にいるのもおかしいよね)
そういう時期だからここにきたけど。
そもそも参る相手がいない。
立ち上がる。帰ろう。
今日は、暑い……夏休み。
けど、二級上がりの自分には、夏期講習もある。
部活や委員会の説明会にも、いくつか出席する予定。
帰って、クーラー効かせて、昼寝しちゃおうかな…
■小桜 白 > 陽をあびようと、どこかつめたい御影石。
そう思うのはそこに自分の知っている人が居ないからだろう。
いつか…此処に。
自分の知っている人が、埋葬される時が来るのだろうか。
この島はそういう所なの?
「じゃあ、これで……」
頭を下げて、白は家路につく。
女子寮。今はそこが家。
すごく快適で、よく眠れるベッドがある。
鍵もついててテレビもある、やさしい家。
ご案内:「【イベント】常世島共同墓地」から小桜 白さんが去りました。
ご案内:「【イベント】常世島共同墓地」に神代理央さんが現れました。
■神代理央 >
夏の夕暮れ。未だ熱量を伝える黄昏が墓地を焼く様に照らしている。
立ち並ぶ墓石が延々と連なる様は、神聖で荘厳な筈の墓所を無機質で機械的なモノにしている様な気がする。
所詮は人工物の塊。人が加工した物が、大地に並んでいるだけ。
そんな膨大な墓石を一望する小さな丘の上に。
喪章をつけた風紀委員会の少年は、ぽつりと立ち尽くしていた。
■右派風紀委員 > 『ふう、ふう。此処にいたのかね。会場にいないから何処にいるかと思えば、墓地に行きましたよなどと言われるから焦ってしまったよ』
額から汗を流しながら、少年に近付く。
こういう時、溜め込んだ細やかな脂肪が憎らしい。
ちょっと歩いただけで、慰霊祭様に着込んだ制服は汗びっしょりだ。
『私の様に運動が苦手な人の事も考えないといけないなあ。
…しかし、珍しい場所にいるものだね。誰かお友達でも亡くしたのかい?』
ぱたぱたと取り出した扇子で仰ぎつつ。
普段は高慢な態度を崩さない後輩に、声を掛けてみようか。
■神代理央 > 近付いて来る先輩委員に視線を向ける。
少し出っ張ったお腹を揺らしながら己に近付く男に、呆れと苦笑いの交じった視線を向ける。
「墓地を訪れるのは運動ではありませんからね。
先輩が運動不足過ぎるのです」
しかし、誰か亡くしたのかと問われれば。
その視線は再度墓地へと向けられ、感情の灯らない声が紡がれていく。
「……ええ、まあ。亡くしたというよりは、もう亡くなっていたと言うべきなのでしょうが。
我ながら薄情な物でしてね。結局墓の一つも建ててやれませんでしたので。
だからこうして、彼女の事を思い出す時くらいは、人を悼む場所に居ようかなと思っただけですよ」
光の円の中で別れを告げた少女。
己の狂気。歪んだ人形。置いてきた少女。
決して墓に名を刻まれる事の無い彼女の事を思い出しながら、訥々と男に言葉を返す。
「我ながららしくない事をしているとは思っていますよ。
…それで?私を訪ねて来たということは、何かしら用件があるのでは。端末で呼び出せば済む話ではなく、直接会って話すべき事が」
■右派風紀委員 > 『ふうん?ま、別に何でも構わないがね』
少年の感傷など知った事では無い。
そもそも、少年は今迄何人殺してきたのか自覚があるのだろうか。
この墓所に眠る二級学生の中には、少年の砲火に焼かれていった者もいるというのに。
『そんなアンニュイな気分に浸っているところ申し訳ないけどね。
君の言う通り、仕事の話だよ仕事の話。
はいこれ、次の会議の参加者のリストね。"弾丸"は、一人当たり百、ってとこかな。
あ、その赤ペンで僕がサインしてる奴の分はいらないよ。その辺の連中は真面目な堅物だから』
少年に手渡す封筒。
封がしてあるだけの何の変哲もない封筒。今時紙で出力するのかと思われても仕方ない様な、お役所仕事感満載の書類。
それを差し出せば、少年は僅かに瞳を細めてそれを受け取る。
しかし、相変わらず白いし細いな、不健康極まりない。
■神代理央 > 相変わらず情緒の無い男だが、仕事は完璧だ。
と、自らの上役である男に内心苦笑い。
"立ち止まっている暇があるのか"とも言わんばかりに差し出された書類を受け取って、中身を確認する事もなく懐へ収める。
代わりに男に差し出したのは、一枚のカード。
『TOKOYO BANK』の文字が刻まれたICカード。
「"弾丸"の補充はしてあります。使用用途はお任せしますが、結果は必ず出して頂きたい。
…実家にも、先輩のご厚情とご協力の件はしか報告させて頂いておりますので、卒業後の進路については御心配には及ばないかと」
そう、立ち止まっている暇は無いのだ。
これまでも、これからも。
■右派風紀委員 > 『はいはい、確かに。
結果は出すよ。でも、こういうのは先ず渡せる"雰囲気"を作るところからだからねぇ。余りせっつかないでくれよ。何、会議までには何とかするさ。ああ、歓楽街の方には、君から声かけておいてね。僕予約とか面倒でさ』
受け取ったカードをいそいそと仕舞いこんで、取り出したハンカチで汗を拭う。
金で全て解決出来ると思っているこの少年のやり方は嫌いでは無いが、好きでもない。
まあ精々、搾り取ってやるとしよう。いい加減、風紀委員で有り続ける事も飽きてしまった。
そろそろ"卒業"しなくてはならない。本土の実家にも顔を出したいし。
『それじゃね。お墓参り中に邪魔して悪かったよ。
ゆっくりしていくと良い。会場の委員達には、私から上手くいっておくよ』
渡すべきものを渡し、貰うべきものを受け取った。
なら、もうこんな暑苦しい場所に用事は無い。
少年の返事を待たず、えっちらおっちらと墓所から立ち去っていく。
今夜は久し振りに落第街の女でも買おうかな。
歓楽街の連中は、足がつくこともあるからねえ。
■神代理央 > "弾丸"を受け取った男は、用件は済んだとばかりに立ち去っていく。
後に残されたのは己一人。広大な墓石の山に囲まれた、己一人。
「……ゆっくりしていけ、か。気楽に言ってくれる。ゆっくりさせるつもりも無いくせに」
小さく苦笑いを零しつつ、視界は広大な墓地へと。
己を責める様に、黄昏に煌めく墓石から反射された陽光が己を照らす。
「……死者に何が出来る。足を引っ張りたいのならそうすると良い。地獄に連れていきたいのならそうすればいい。
現世に肉体を持たない連中が、俺を止められるなら止めてみると良い」
恨み言も、怨嗟の声も、嘆く言葉も聞き飽きた。
呪われる覚えは腐る程抱え込んでいる。しかし、この墓地を訪れても己に何かしらある訳ではない。
生者を止めたければ、生きるしかない。
それが肉体を得ていようが、魂だけだろうが、精神体だろうが関係無い。
生きて。生きて生者に関わらなければ、止める事など出来ないのだから。
「……地獄行の切符は手元に溢れている。
後は汽車に乗るだけだ。貴様達が私を汽車に押し込むのを、何時だって待っているよ」
ぽつりと、小さく言葉を零して。
制服を翻し、少年は墓所を後にする。
――残されていたのは、小さな花束と紅茶の茶葉に茶菓子。
置いていった少女に手向けた、御茶会への手土産。
ご案内:「【イベント】常世島共同墓地」から神代理央さんが去りました。
ご案内:「【イベント】常世島関係物故者慰霊祭 宗教施設群 付近川沿い」に紫陽花 剱菊さんが現れました。
■紫陽花 剱菊 >
夕暮れ時も終わり、夜が訪れた。
静かな夜だ。川のせせらぎが耳朶に沁みる。
夜風が嫌に涼しくて、今日の夜空は生憎の曇天。
星空は見えず、代わりに周囲を彩るのは夏蛍。
淡い麗光がついては消えていく、幻想の夜。
「…………。」
そんな光景を、男は静かに見ていた。
■紫陽花 剱菊 >
暗闇の中、言葉を発する事は無い。
慰霊祭。死者への手向け。
死者を弔い、悪霊化させないための実用的な催しだとは聞いている。
だが、剱菊にとって其れは然程問題では無かった。
「…………。」
今だけは、此の異国の地で、今だけは。
"全ての死が赦される"。
せせらぐ川沿いに、剱菊はゆっくりと膝を曲げて屈み込んだ。
■紫陽花 剱菊 >
一つ、明かりが灯った。
其れは灯篭。紙幣に囲まれた淡い炎が小さく、小さく燃え上がる。
夏蛍の光よりか細い火を見据えながら
剱菊はそっと、川へと置いた。
男がいた乱世の地でも、死とは尊いものとされている。
然るに此の灯は、死者の魂。
尊ぶめきものへの、慰めの灯り。
迷わず三途の川へと導く、漕ぎ手。
■紫陽花 剱菊 >
一つ、灯してはせせらぎへ。
■紫陽花 剱菊 >
一つ、灯してはせせらぎへ。
■紫陽花 剱菊 >
一つ、灯してはせせらぎへ……───────。
■紫陽花 剱菊 >
幾度も、幾度も、すずろのままに。
流れのままに、灯は流れていく。
……かつて男は、乱世で多くの生命を斬った。
其れこそ、文字通り数えきれないほど、星の数ほど生命は散った。
今の今まで、其れが『当たり前』だと思っていた"刃"の思考。
人を殺した痛みだけは、麻痺させてはならない。
友垣が残した言葉が、今でも脳裏に反響する。
■紫陽花 剱菊 >
顔も名前も、もう思い出せない幾星霜の人々の魂。
或いは他人、或いは友、或いは家族。
『あの世界で斬った生命は、最早何も覚えてはいない』
其れでも尚、痛みだけは、痛みだけは思い出した。
胸に灯る温かみの中に、わだかまりの様に残り続ける心の痛み。
ただ、黙々と火を灯し、流し続ける。
其れは無論、己が手に掛けたものだけに非ず。
幾度の生命が、此の島でもまた、散っていった。
■紫陽花 剱菊 >
其れは或いは、"見えぬ"を嘆いて散っていった若人の生命か。
其れは或いは、"無念"を抱き、最後に夢見た武士の生命か。
或いは、或いは、或いは……─────。
どれ程取りこぼしたかも、数えきれない。
残されたのは、『兵共が、夢の跡』
『真理』に辿り着こうとした、儚い願いの『残滓』
彼等の逝く末は、己さえも分からない。
其れでも尚、自分のいた世界とは違う。
"顔は覚えている"。
"名前も知っている者もいる"。
■紫陽花 剱菊 >
夜の川沿いを、無数の灯篭が流れていく。
どれ程の数が流れているのかさえ、分からない。
ただ、宵闇にも負けぬ輝きを放っている。
一人一人は小さくとも、大きく集まってこれ程までに輝いている。
遠目で見える程に其れは力強く、輝いている。
"生命の炎"。そう名付けるに、相応しい。
そんな灯りを前にして、剱菊は屈み込んだまま動かない。否……。
■紫陽花 剱菊 > ──────震えていた。奥歯を噛み締め、嗚咽を漏らし、頬を泣き濡らす、男がいた。
■紫陽花 剱菊 >
"人として初めて、多くの死を真に受けた"。
刃として斬り流してきた数多では無く
此の手を差し伸べ、其れでもすり抜けていく
どうしようもない、無辜の生命。
「────……ッ!」
救えなかった後悔が、嗚咽に漏れる。
「……──……ァァ……──!」
其れでも、生きていて欲しかった生命を救えた事に、震えている。
「グ……ッ……ゥッ────!」
そんな自分に嫌気が差して、泣いている。
今更、今更そうやって尊ぶのか。
今更、今更そうやって泣けば許されるのか。
<なんで 『こうなる』まで ほっといたの……!!>
そうだな、赦されるはずも無い。
こうなるまで、何も出来なかった。
今も尚、生きてる者は"赦されるはずも無い"。
■紫陽花 剱菊 >
嗚呼、そうだ。己はまだ、生きている。
背負うしか、無いんだ。
今迄斬り流してきたものを、取り零してきたものを。
彼女の信頼と同じように、背負うしかない。
其れでも尚、赦されるはずも無ければ
其の分、生きるしかあるまい。
此れを死ぬ理由にする事こそ、死者の冒涜に他成らず。
「…………。」
静かに袖で、涙を拭った。
嗚呼、流れていく……。
生命だったもの達が、せせらぎに流れていく。
立ち上がろうとしたその時、思わず体がぐらついた。
咄嗟に、体幹を整えたからこそ、川に落ちはしなかった。
■紫陽花 剱菊 > 「──────重いな。」
■紫陽花 剱菊 >
今更、漸く実感した。
あの男は、こんなものを七年以上も抱えていたのか。
……嗚呼、なんと逞しい。
其れでも、立たねばなるまい、と。
足を延ばし、流れていく生命の火を、見据えた。
「……英治……。」
此の重さを教えてくれた、友垣よ。
七年以上も抱える其の姿に感服する。
彼の友も、きっと呆れているのか、其れとも……。
此れも、弔いだ。
灯篭を一つ、すずろのままに流していく。
■紫陽花 剱菊 >
「…………。」
だが、"引っ張られる訳にも行くまい"。
背負いはする。だが、死者と生者。
交わる事はない陰と陽。
……己に出来るのは、見送りのみ。
手元に生成した小太刀で、軽く指先を斬りつけた。
溢れる僅かな赤い血を、指先でなぞる。
「六文銭の代わり、ではあるまいが……。」
■紫陽花 剱菊 >
広げた手から、無数の花びらが夜風に攫われる。
黄色の花弁。名も知らぬ、花びらたち。
せめてこの、無辜の魂と共に─────。
此の夜だけは、静かに……。
朝に成れば、灯篭も花も、海の藻屑と消えゆく。
此れは、ほんの小さな夢浮橋。
■**** > 剱菊は、花の名前を知らなかった。だが、その花は確かに此の地球上に存在する。
■サンダーソニア > 花言葉は『望郷』
■サンダーソニア > ──────せめて、其の魂は、故郷へ還ります様に。
ご案内:「【イベント】常世島関係物故者慰霊祭 宗教施設群 付近川沿い」から紫陽花 剱菊さんが去りました。