2020/07/28 のログ
ご案内:「【イベント】常世島共同墓地」に九十八 幽さんが現れました。
九十八 幽 > ふらり ふらりと

蝉時雨を遠く聞きながら 居並ぶ墓石の合間を縫うように
墓石の足元から延びたような影法師 ひとり ゆったりとした足取りで
時たますれ違う喪服姿のひとびとへ 小さく会釈を返しつつ

ひとり 静かに歩いて往く

九十八 幽 > 墓石に刻まれた名に覚えがあるわけではなく 誰かに頼まれたわけでもなく
ただ この場所に墓地があると聞いたから
何故だか一目見ておかなければという そんな感情に駆られた儘に
ただ熱に浮かされた様に 墓場を彷徨い歩く影法師

「───」

やがて静かな海の臨める展望広場へと辿り着き
ようやく足を止め 静かに吐息をひとつ落して

九十八 幽 > 潮風に蓬髪を遊ばせながら 静かに瞑目して今来た道を思い返す
墓石に刻まれた名前たち 幽の知らない名前たち
そのひとつひとつを思い浮かべて 幽は静かに目蓋を開く

「ここは 佳い処だね
 海も見えるし 空も近い
 街も近いから 少しだけ賑やかだ」

薄い唇を静かに震わせ 穏やかな口調で訥々と告げる
まるで その場に居ない誰かに語る様に
名前という文字でしか 知らない誰かに聞かせる様に

九十八 幽 > 知る事の無かった名前 遥か過去に喪われていた機会
それらへと思いを馳せながら 幽は謡うように呟いていく

「君たちは 何を見て
 何を聞いて 何を想って 生きていたんだろう
 笑ったり 泣いたり 怒ったりもしたのだろうね
 たった一言でも 言葉を交わせれば良かったのだけど」

墓標に刻まれた名前たち それはひとつひとつが誰かが常世島に居たという証
生命の営みが確かにあった 人生の存在を確立する証左
この墓所に記された数多の人生へと 幽は静かに囁きつづける

「最期に見た景色は 最期に想った事は
 きっと想像もつかないようなものだろうけれど
 確かに君たちは生きていて この常世島という場所に在って
 そしてこれからも 在り続けるんだろうね」

いつか 時が過ぎて 人々の記憶も 墓石も 風化するのだとしても

「──過去というは なかった事にはならないものね」
 

九十八 幽 > 「そう 消えない
 だから──きっとある はずなんだ
 過去 歩いてきた道程 今に至る道が」

小さくそう口にして 幽は静かに歩き出す
海風を背に受け 一艘の小さな小舟の様に

「ありがとう そして ごめんね ごめんなさい
 自分の過去を置き去りにしておいて 君たちの歩んだ道を讃えるのは失礼だ
 だから 往くね
 
 ──また来た時は その時は もういちど」

過ぎ去ってしまった人の生を
共に 振り返らせて欲しいと


物言わぬ墓標たちに 一度深く 深く 頭を下げて
九十八 幽は 確りとその場を後にして

ご案内:「【イベント】常世島共同墓地」から九十八 幽さんが去りました。