2020/07/30 のログ
ヨキ > 「人だからこそ、思い悩む。
人だからこそ――変わってゆく。

君が刃を振るったのは、それこそ大義のためであろう。
大義と大義がぶつかり合い、得物を振るわねばこちらが殺される。

争いは人の世に避けられぬもの。
それならば、誰が懸命に生きようとした君を責められよう?」

ヨキは笑っている。
ただ笑っている。穏やかに。

剱菊から投げ掛けられた問いにも――揺らぐことなく。

「君は日ノ岡君を選んだ。そんな日ノ岡君も、君を認めた。

だったら。
弛まずに、変わり続けることだ。
誇らしく、相応しく在り続けることだ。

君はきっと――日ノ岡君から『百点満点』をもらえては居らんだろう?」

両手を軽く広げてみせて。

「彼女に相応しい男になりたくば、彼女をよく思い出せ。
彼女が何をこそ求めているのか、色眼鏡なしに見定めたまえ。

君が本当に日ノ岡君に相応しいかどうかを答えられるのは、ヨキではなく彼女自身なのだから」

紫陽花 剱菊 >  
「……"人"だからこそ、か……。」

悩み、迷い、変わっていく。
其の変化は悪か善か、と。
嗚呼、そうか。そうだな。
己が結んだ縁の人物もまた、悩み、迷い、変わっていく。
彼はきっと、教師として其の多くを見守っているのだろう。
肯定的な言葉は、ある種の魔性さえ感じるが……。
『其れに頼り切りでは、意味があるまい』

剱菊は笑った。
ヨキと変わらぬ、穏やかで朗らかな、陽の笑顔。

「……恐らくは、己だけかと。」

罪には罰を。
咎は贖わねばなるまい。
其の方法は未だ分からない。
きっと、あの男なら其れこそ『知るか、そんな事』とでも言うのだろうか。
あれもまた、彼なりの答えなんだろう。
だが、此れは、正しく。

「……斬り流した其れも、取りこぼしたあれも、と生命故に……無碍には出来ません……。」

きっと、出来れば最も楽だったろう。
其れでも、其れが困難と分かっていても。
"其れでも"、と手を伸ばす。
……嗚呼、やはり重い、其れでも……。

「正しく、生命在れば……己を責め、答えを探します……。
 未だに迷いを捨てきれ、悩むような破廉恥な男ですが……
 そうでもしなければ、私は未だ、"刃"に戻る……。」

足掻いてみせよう、彼女達の様に。

「此処で考えては……其れこそ、私は『彼等の生命を無碍にする』」

行ける場所まで、行くだけ。
あの時貫いた意志と同じように、やってみせるだけ。

「……ふ……。」

だから、そんな事を言われるとついつい、気の抜けたようにはにかんだ。

「……ええ、『及第点』との事で……面映ゆいばかりです。
 然り、返す言葉も無く……私なりに、此の幽世で見定めるつもりです。」

紫陽花 剱菊 >  
 
 
    「────そうでなければ、彼女との『約束』を果たしても意味は無い。」
 
 
 
 

紫陽花 剱菊 >  
「……と、言うのは些か仰々しいですかね?」

何て言って、肩を竦めた。
何となくだが、ほんの一歩、前に進めた気はする。

ヨキ > 「それでいい」

剱菊の言葉に首肯する。

「忘れるな。それだけでいい。
ヨキが今こうして、命を落とした者たちを弔っているように。

君もまた、己の成したことを、成すべきことを。

溺れてはいけない。囚われてもいけない。
今はまだ、難しいことであったとしてもな。

人の人生は、重い。
一人のそれでさえ重いというのに、無数ともなれば計り知れん。

だからこそ、分かち合え。

日ノ岡君と共に。公安委員の仲間と共に。同じ異邦人と共に。
そして、このヨキと共に。

互いの人生を、いかにして分かち合うか。
その配分を見定めることが、『相手を見る』ということだ」

半眼になって、ふっと笑う。

「これがヨキだ。
いかにして彼女と接してきたか、想像も付くというものであろう?

及第点とは――君のうちに眠る伸びしろの大きさだ。
もっと、自信を持つがいいさ」

紫陽花 剱菊 >  
忘れるな。
既に顔も覚えていない、数多の生命。
刃で在る己が斬り捨てた、既に顔も思い出せない数多。
忘れるな、ヨキの言葉は剱菊にとっては余りにも重かった。
其れでも尚、"取りこぼした生命"は覚えている。

「────はい。」

だからこそ、頷いた。
此れ以上、忘れてはいけない。
"痛みを麻痺させてはいけない"。
此の痛みを覚えて、向き合わなければいけない。

「……"人"、故にですか?」

人と言う文字の成り立ち。
多くの人間が支え合うが故に、"人"。
然れど、この"重さ"を人に分かち合うにも、躊躇いがある。
其れは一重にか細い優しさ。刃を持つには、か細すぎる陽の心。

「……刀折れ矢尽きる……と成るまでとは言いません。
 ですが、私には未だ躊躇いが在る。"重さ"を知るが故に
 あかねにも、友垣にも、委員会の輩にも、貴方にも躊躇いが在る。」

「だから、"もう少し"だけ、一人で歩いてみます。」

ほんの少しだけ、もう少し。
"それ"と向き合えたら、考えよう。

「……其の時は、頼りにさせて頂きます。」

故に其の時は、躊躇なく胸を借りると決めた。
敵わないな、と思わず肩を竦めた。

「……憚りながら申し上げれば、『人が悪い』
 心の暗雲晴れど、"咎められ"はしなかった故に……。」

無論咎めるばかりが道では無いだろうが
余りに踏み込めば頼り切りにしてしまいそうだ。
其れに救われるというのであれば、然もありなんだ。

「あかねが懐くのが、容易に想像出来ます。
 人を惹きつけるという一点、よく似ている。」

「故に、少し妬ましいですよ。……けど、"貴方にも負けないようにします"。」

そう言ってのける位には、軽くなった。

「……私が人間的に未熟なのは承知の上でしたが、いやはや、此れは……。」

「……其の自信は、何時か態度で示しましょう。今宵は、どうも……」

「ありがとうございました。」

礼を述べ、深々と頭を下げた。
何処までも生真面目な男だ。

「……そろそろ私は行きます。長居するのも、死者の眠りを妨げに成るでしょう。
 どうも、弔いの最中にお話を聞いて頂き恐悦至極……今度、また別の形で礼をさせて頂きたい……。」

「其れでは……。」

再度、会釈で頭を下げ、踵を返した。
一難去ってまた一難と人は言う。
だが、そんなものだ。
其れを受け止め足掻き、受け止めたうえで"知るか"と言うか、或いは……。


何れにせよ、此の墓場に訪れた時より


幾何か、其の足取りは軽くなっていた。

ご案内:「【イベント】常世島共同墓地」から紫陽花 剱菊さんが去りました。
ヨキ > 「ああ。
独りで生きられるからこそ、人を支えられる。
独りを知っているからこそ、己を預けられる。

君はいずれ、今よりずっと強くなろう。
熱され、打たれ磨かれ、強さを増す刃のように」

人が悪い。
その評にも、いっそ楽しげにくつくつと肩を揺らして笑う。

「よく言われるよ。
そのために慕う者あれば、離れていった者もある。
それもまた、各々の選択だ。

百人居るうちの百人すべてがヨキを支持したなら、この常世島はお終いだとも」

礼を述べて頭を下げる剱菊に、こちらもまた頭を下げる。
さながら役者のように軽やかに。

「――こちらこそ、打ち明けてくれて有難う。
楽しみに見守って居るよ、君が成長してゆくのをな。

日ノ岡君が外に出てくる頃には、彼女を見返してやれ。
彼女が惚れ惚れするほどの男振りなら、自ずと答えも見えてこよう」

来た時よりも軽くなった剱菊の足取りを、見えなくなるまで見送って。

ヨキもまた、再び墓参りの続きに戻る。
一本、また一本と、相手に似合う花を手向けながら。

人を名乗る魔人は、今日もまた島に生きた者たちを見守っている。

ご案内:「【イベント】常世島共同墓地」からヨキさんが去りました。
ご案内:「【イベント】常世島共同墓地」に羽月 柊さんが現れました。
羽月 柊 >  

……墓は、嫌いだ。


そこに、死を再確認してしまうから。

そこに、喪ったモノが明示されているから。


柊はこの時期、毎年仕事をスケジュールギリギリまで詰める。
『常世島関係物故者慰霊祭』に行かないで済むようにだ。
実際にスケジュールが詰まっていれば、例え外回りで取引先に言われても断れる。

それは無意識に、意識的に、機械的に、男の毎年の習慣だった。


だが今年は違う。

普段雑踏と思い込み無視してきた死に、
いつも雑音が少し増えるだけと思っていた『トゥルーバイツ』に関わった。
取りこぼした命に、柄にもなく冥福を祈る為に男はここにいる。

買ったばかりの喪服に袖を通し、花屋任せにした献花を手に、墓の群れを見ている。
普段の黒いスーツを平服とする手もあったが、
裏の顔である"魔術師"としての自分が行くのはどこか違うと思った。
魔術師というのは、時に死すら冒涜するようなモノだからだ。

そうして、男は死を見つめる。

羽月 柊 >  
決意と覚悟の末ではあった、
それでも、こうして取りこぼしたことを眼前にすると、
やはりヒトの心というのは揺らぐモノ。

彼らの思う地獄側に居る人間故に、揺らぐ。


  自分の言葉が、彼らが『真理』へ手を出すことを早めたかもしれない。


……そう思うことはただのエゴだ。
そんなことに罪悪感を抱いて何になる。
それでも手を伸ばしたのは、彼らだ。

彼らそれぞれの想いを、冒涜するに他ならない。

そこまで考えてから首を横に振る。

だから墓を見るのは嫌なんだ。
いくらでも後悔出来てしまうのだから。


海風に吹かれ、紫髪が揺れる。
まだ日は高く水平線を照らし出し、共同墓地の全容を見せていた。

名のある墓、名も無き墓、
その下に眠る遺体や骨。

何もない、ただの墓石だけのそれ。

分かる墓に砂利を踏みしめる音を響かせて、一つ一つ献花をしていく。


片手を少し超えるぐらいの数。
柊が遅れながら対面出来たのは、僅かそれほど。

羽月 柊 >  
そうして、一先ず分かる範囲で献花を終えた。
彼らそれぞれの習慣は分からないので、結局自分の知り得る限りの礼式で。

ふう、と息を吐いた。

……葛木一郎に言ったように、あの日の彼女に言ったように、
自分も、彼らの物語を忘れてはいけないと、改めて思いながら。

……残りは、もしかすれば、
ヨキにでも聞けばわかるだろうかと思いながら、今日はその場を後にした。


今まで逃げて来た事へ、男は一歩を踏み出す。

ご案内:「【イベント】常世島共同墓地」から羽月 柊さんが去りました。