2020/08/01 のログ
ご案内:「宗教施設群-修道院」にマルレーネさんが現れました。
ご案内:「宗教施設群-修道院」に神樹椎苗さんが現れました。
■神樹椎苗 >
美術教師と話をしてからというもの。
すでに失われ始めてる記憶にに歯噛みしながらも、抗うことを決めていたのだが。
消えたはずの『友達』から置手紙を受け取り――割り切れない想いが強くなっていた。
二日の間悩み続けて、それでも自分の中で決着をつけられずにいたところ。
まるで救いを求めるかのように、異邦人街へと足を運んでいた。
「――ああ、そういえば」
ぼんやりと顔を上げれば、宗教施設の立ち並ぶ区画へと迷い込んでいた。
確か何時か出会った『優しい人』は修道女だったなと、涙を流していた女性の顔を思い出した。
■マルレーネ > 「………はい、それじゃあ、お大事にしてくださいね。」
手を振りながら老人を見送っている金色の髪をした修道女。
はい、それじゃあね、と手をぱたぱたと振って見送るのは、あの光の円で見た女性と同一人物。
小さな修道院の前でやってきた人間を見送りながら、よし、と掃除に取り掛かろうとして………………。
「……あっ!」
視線が交われば、こちらから思わず声が漏れた。
あの時の、と驚いたような顔をして、思わず口を掌で押さえて。
■神樹椎苗 >
ちょうど老人が出てきた施設の方へ目を向けると、つい思い浮かべたばかりの女性と視線があった。
驚いたのは椎苗も同様で、少し目を丸くしてから視線をそらし――少しの間逡巡を見せてから、女性の方へ一歩歩み寄った。
「――また、偶然ですね」
そう、どこか憂いのある表情で声を掛けて、小さな修道院を見上げた。
「ここは、お前の修道院なのですか」
と、小さいながらも懸命に維持されている事が見て取れて、少し和らいだ表情でたずねる。
■マルレーネ > 「………はい、そうです。 私の………といっても、借りているだけですけれど。」
少しばかり元気が無いその表情を眺めながら、こちらはにっこりと穏やかな笑顔を見せて。
「お茶の一つでも、どうですか?
あれから……一度も出会えなくて、夢だったのかと思ったくらいで。」
そっと掌を差し出して、よければ、とエスコートしようとしてくる。
■神樹椎苗 >
「――そこまでは消えてないのですね」
女性が答えてくれたことに、とても小さく呟いた。
「そうですね、もしお前がよければ――ああ」
差し出された手に応えようとして、右腕が動かない事を思い出す。
まだ一週間ほどしか経っていないために、とっさの時に右手を使おうとしてしまうのだ。
改めて、左手で女性に応えると、院内へと案内されるだろう。
■マルレーネ > 「………私、マルレーネ、って言います。マリーで構いませんよ。
……もしよければ、お名前を貰っても?」
差し出された手に対しての反応がワンテンポ遅れることで、少しだけ察するものはある。怪我は最近なのだろうな、なんて。
言わないまま、教会の中、お話の出来る部屋へと。
「何か、飲みます?
暑い日ですけど、暖かいものもありますし、冷たいものもできますよ。
良く一人でも飲んでいるんです。」
ちょっと冗談めかして声を出しながら、ソファに座らせて準備をせくせくと。
助けてもらった人、という印象がやっぱり強い。
■神樹椎苗 >
細やかな仕草や表情から、気遣いを感じて小さく会釈しながら感謝の気持ちを抱く。
「しいは、『かみきしいな』と言います。
学園の一年で、初等教育をうけてますよ」
そう、自己紹介を返して部屋に通される。
気遣いに甘えてソファに腰掛けると、少し考えてから答えた。
「それなら甘くて温かいものが良いですかね。
――しいなんかが、お相手でいいのですか」
幸い暑さに関しては、それほど気にならない『構造』をしていた。
それよりも、今は温かさが欲しいと思ったのだ――不合理的だが。
助けたつもりなんて露ほどもないからか。
偶然同じ場所にいた、という程度の印象以上を持たれているとは思わず。
■マルレーネ > 「椎苗ちゃんですね。………なるほど、椎苗ちゃんって呼んでいいですか?
……それなら、ココアを熱くなり過ぎない程度に。」
穏やかに微笑みながら二人分のココアを準備し、そっと机の上に置く。
「………お相手、ですか。」
一言つぶやいて、その上で対面に座れば、そっと頭を下げる。
「私はあの場所で、帰る方向も分かりませんでした。
どこにも、………どこにも行けなかった。 あの世界に戻ろうとまで思いました。」
「貴方がいたから、こちら側に帰ろうと思えたんです。」
「お礼を、まだ言えていませんでした。」
■神樹椎苗 >
「好きに呼んでくれれば構わねーですよ」
用意されたココアに礼を言って、左手を伸ばした。
が、続けられた言葉には、意外そうな表情を浮かべる。
「――しいは、何もしていませんよ。
あの世界から戻るには、強い意志が必要でした。
お前には、それがあった、それだけの事です」
本当に、ただただ偶然の出会いだったのだ。
まさかそんなふうに思われていたとは思いもせず。
謙遜するわけでもなく、本心から彼女自身の意思がそうさせたのだろうと。
■マルレーネ > 「………私は。」
「強い意思があるとしたら、毎日仕事をしなければいけないと。
働かなければいけないと。
穏やかな場所から離れなければいけないと。
そう、骨の髄から思っていただけの話なんです。」
ココアを持つ手を止めながら、目を伏せる。
修道女は、何かを思い出して、それをなぞるかのようにゆっくりと言葉を選んで。
「私には強い意思はなかった。
今でも思い出してしまいますから。
なんで出てきたのだろうって、思うことだってありますから。」
穏やかに、ゆったりと。
私は何もできなかったと口にする。 出られたのは、偶然であると。
■神樹椎苗 >
「習慣を習慣と出来るのは、惰性でなく意志ですよ。
聞く限り、お前を救ったのは、お前自身が積み重ねてきた人生そのものでしょう。
お前はそれを誇るべきだと思いますよ、それくらいあの場所は――居心地が良すぎました」
そう修道女の顔をしっかりと見て、伝えた。
そしてココアの上に視線を落とす。
「あれは、有限の理想郷でしたから。
自ら踏み出るのでなく、時間切れで目覚めていたら。
現実との落差で心を病んだかもしれません」
それほどにあの世界は、多くのヒトを惑わせた。
収拾がついた後も、現実に復帰できていない人間も多いと聞いている。
椎苗もまた、あの微睡に身をゆだねていたのなら――今頃、自分を失っていただろう。
■マルレーネ > 「あはは、こっちで言う年中無休でしたからねー。
しかもそれを割とこう、強要というか。」
遠い目をしながらははは、っと笑ってみせて。
「………たくさん傷つきました。
あの後、もうちょっと深入りしたんだと思います。
吸い込まれるように、今度は嫌な記憶も見ました。」
目を細めながら、穏やかに、ゆっくりと。
思い出したくもない記憶がどろりどろりと流れ落ちてくるけれど、首を横に振って。
「………見せられたとしたら、それは私の心の弱さ。
落ち込んでなんかいられませんよね。」
えへ、と舌を出して笑って見せる。
■神樹椎苗 >
「そいつはなかなか、ハードな日常を送ってたみたいですね」
話しぶりやその雰囲気から読み取って、異邦人なのだろうと解釈し。
自らを弱いと言いつつも、笑顔を見せる姿勢には椎苗も薄く口元を緩ませる。
「前向きに進もうとする姿勢は良いと思いますよ。
弱さと強さは表裏一体です。
弱さを自覚できるのは――間違いない強さですね」
そう目を細めながら言って、しかし。
ココアを置いて息を吐くと、また迷いのある表情を見せた。
「――しいも、あれから先に向かいました。
それこそ、一番奥深くまで。
すこし、裏技は使いましたけどね」
ふっと、自嘲するように見せながら。
■マルレーネ > 「ハードなんてもんじゃないんですから……」
はぅー、っと肩を落として溜息をつきながらも、てへ、と笑って見せて。
「前向き………。 前向きなのか後ろ向きなのかもわかりませんけどね。
でも、褒められてるならそう受け取っておきます。」
ウィンク一つ。
もうどうせ一人きりなのだ、と思うことも無かったわけでもない。
強い、とは本当に思わない。 弱いどころか、もう折れているとも言えるかもしれない。
けれども。
「………ご友人は見つかったのですか。」
相手の顔色を伺うが、それでも、聞かざるを得ない。
■神樹椎苗 >
修道女の愛嬌のある仕草に、微笑みをつられながら。
しかし――問われれば表情は歪む。
「見つかった――と言うのも難しいところですね。
なにせ、あの場所を『作っていた』のが、その『友達』ですから。
そういう意味では、お前にも迷惑をかけてしまいましたね」
『友達』のしでかした事は、多くのヒトへ影響を残した。
それは『友達』に関する記憶が失われても――残り続ける。
「――その『友達』は、自分を消し去ろうとしたのです。
あらゆる人の記憶から、あらゆる世界の記録から。
死ねないお人形だった自分を、自分の手で葬るために」
目の前の修道女は、あの縁に踏み入った人物だ。
だとしたら、アレが何が故に用意された舞台だったのか――知る権利はあるだろうと。
■マルレーネ > 「……ひとまず、話を整理しますね。」
「椎苗さんの友人は、……死ぬことが出来なかった。
だから、世界から消えることを………選んだ?
その時に起きたのが、あの光の柱、だった…………ということですか?」
正直な話、唐突には信じられない言葉ばかりが並ぶ。
でも、……それを言ったら、あの光の柱の中で体験したことそのものが元々信じられないことばかりだ。
改めて、ゆっくりと言葉を噛むように相手に問いかけて。
■神樹椎苗 >
「不死、と言えばわかりやすいですかね。
本質は多少異なりますが、現象としては間違ってません。
普通には死ねないから、どうにかして死ぬ方法を編み出して――結果がアレです」
改めて言葉を選びなおし、修道女の言葉に頷く。
「しいにも具体的にアレがどういう仕組みだったかまでは、理解できていませんが。
あの光の柱は、『友達』が自分を終わらせるために必要なものだったのです。
それにヒトを巻き込み過ぎだろうとは、思わなくもないですが」
と、一呼吸おいて、ココアを口に含んだ。
「――しいは、その最深部まで行って、『友達』に会いました。
そしてほんの一時言葉を交わして、その最後を見届けたのです」
そう、あの『光の柱』に纏わる顛末を簡潔に語り。
けれどその表情は、言葉を続けるほどに曇っていくようだった。
■マルレーネ > 「………なるほど、そうだったんですね。」
こんな小さな子供が、友達の最後を見届けたのか。
それだけで、心臓がぎゅ、っと握られたかのようにどくり、っと鳴った。
そんなことまでしなければいけないのか。
「………隣、行きますね。」
よいしょ、っと立ち上がれば、対面ではなくて、隣のソファに移動する。
相手の言葉に対してはあえて返事を返さずに、………座り込んで。
「…………それで…?」
話を促す。 もう終わった、とは思えなかった。
■神樹椎苗 >
隣へと移る修道女に、少し困惑した視線を向けるものの。
それを拒否することもなく、促されるまま、頷いて続ける。
「『友達』の願いは、自分を終わらせて、忘れ去られる事です。
あいつが関わったあらゆるヒトの、深く関わっていた教師の記憶からも消えています。
しいは――少しばかり体質が変わってるので、まだ覚えていますが。
それでも、今では顔も声も、背格好も、男か女かも思い出せません」
そう言いながらしかし、「それはいいのです」とも続ける。
「忘れない事、一つでも多くの事を覚えていようと抗う事を決めましたから。
もし、あいつと交わした言葉の全てを忘れても、『友達』が居た事だけは忘れないと。
その『友達』とも約束しましたからね」
その覚悟はした。
無駄だとしても抗い続けろと、背中を押されたから。
その迷いだけは、振り切る事が出来た。
「ただ――いえ、これは、言っても仕方のない事ですね」
それでもやはり、椎苗の表情は晴れる事なく、何かを堪えるように唇を引き締めていた。
■マルレーネ > 「………………。」
相手の言葉を聞く。
聞きながら、そっと腕を伸ばして、ぎゅ、っと引き寄せて。
「覚悟を決めるのと、痛いと感じることは別のこと。
腹を括るのと、怖いと感じるのは別のこと。
耐えられるのは、何も感じないとは違います。」
ゆったりとした言葉を、一つ、一つ、噛みしめるように囁いて。
「ここは教会です。
思いの丈を、全部口にしていいのですよ。
私は未熟ではありますが、それでもあの場にいたのです。
貴方の気持ちを、疑わずに聞くことくらいはできますよ。」
なんて、頭を抱きながら撫でていく。
子供は子供だ。
子供でなくても、辛いもの。
■神樹椎苗 >
突然抱き寄せられ、一瞬身を強張らせるが。
その温かさに触れられ、撫でられると、急に何かがこみ上げて溢れそうになった。
「――っ、でも、それは。
しいは、あいつの願いを、祝福して」
言葉が途切れる。
溢れそうなものを、ギリギリで堰き止めるように。
小さな体は弱弱しく震える。
「話しても、もう、変わらないのです。
もう、全部、終わって、だから」
迷いと戸惑いが、普段の明瞭と流れる言葉を遮る。
甘える事を許されて、どこか怯えるように。
■マルレーネ > 「我儘を言わなかったんですね。」
「貴方は。」
「自分の気持ちを何も言わずに。」
ゆっくりと、ゆっくりと頭を撫でて。
「とても辛いと感じられているそのご友人を、祝福して送り出して。」
「自分の気持ちを我慢したんですね。」
「………はい、終わってしまったんですね。
偉いね。
椎苗ちゃんは、友達のことだけ、考えたんですね。」
撫でる。そっと抱きしめながら…………ぽとり、ぽとりと椎苗の頭に落ちるもの。
何故こんな小さな体で。
何故そんな辛い選択を。
唇を噛んで、先に泣いたのはこっちだった。
■神樹椎苗 >
「――――っ」
言葉が、一つ一つしみ込んでくる。
堪えようとしていた、耐えようとして抑え込んでいた『蓋』に、罅が入っていく。
「なん、で。
お前が、泣いてるんですか」
修道女の服を強く掴みながら、震える声を絞り出す。
これ以上はだめだ、耐えられないと、心が悲鳴を上げている。
「どう、して」
わからなかった。
いや――わかっていたけれど、『理解』できなかった。
どうしてここまで、修道女が自分の事に心を痛めてくれているのか。
■マルレーネ > 「………」
何も言わず、ぎゅ、っと今度は強く抱きしめた。
抱きしめながら、胸に埋めるようにして、ゆっくりと、ゆっくりと頭を撫でる。
ぎゅ、っと唇を噛んで、息を二回、三回………。
「………そこまでしなければ眠れなかった………」
彼女の友人の辛さを、考えることもできない。
「…それを見送ることしかできなかった………」
それをただ見送る辛さを、想像することもできない。
胸が痛い。 痛い。 とても痛い。
「………私にできることは、何も無いですけど。
痛いとか、苦しいとか、想像することしかできません、けど。」
拒絶しなかった。 そのつらさを、悲しさを、全部引き寄せるように考えて、己だったらと置き換えて、少しでも理解しようとして。
ぽろぽろと泣いていた。
■神樹椎苗 >
「だから、なんで――」
お前がそこまで想ってくれるのだと。
言葉になる前に、涙腺から熱いものが溢れ出した。
「――しい、は」
それは本当は胸に留め続けるはずだったモノ。
「それしか、できないから――そうするべきだと、思ったから」
終われない辛さも苦しみも、痛いほど知っているから。
「それでも、ずっと、頭に響く、のです。
それで、よかったのか、って」
それは後悔や、葛藤とは違う、自分の行いへの自問。
「しいは、間違って、いたんですか。
しいは、正しくなかったんですか。
しいは、どうすればよかったんですか」
心にずっと、引っかかっていた。
『そうするしかなかった』と理解していたから、無視し続けていた小さな傷。
「どうしてこんなに、苦しいのですか――」
涙は溢れて、止まらない。
■マルレーネ > 「私には。」
言うべきだと思う。貴方は間違っていなかった。
全てを出し切った。最善を選んだ。
絶対に、絶対に間違ってはいないと。
「私には……わかりませんっ……!!」
絞り出すような言葉は、それでも、正直だった。
分からないのだ。 それが正しかったかどうか。 最善だったのかどうか。
分からない、何もかも。
「でも、その選択は椎苗さんにしか、できなかった!!」
お互いに涙を流して、椎苗の肩を抱きながら、声が出る。
思ったよりも大きな声が出たけれど、もう止まらない。
「最後まで隣にいて、最後まで覚えていて。
どうするか悩んで、決めて。
それが出来るのは世界で椎苗さんしかいなかったんです………!
辛いに決まってるじゃないですか。
誰も、何も教えてくれない、答えの無いもの、なんですから。」
いきなり、踏み込んでしまっているのは自覚している。
それでも、身体も心も傷ついたままの少女を、心から抱きしめる。
「私は椎苗さんの選択を信じます。」
「正しいとか正しくないとか、神とか、そんなの関係ありません。」
「私は信じます。
貴方が信じられない分、二倍信じます。」
だからもう、心を痛めないで。
口にはしない。 ただただ、それだけを祈る。
神に、私の声はもう届かないとしても!
■神樹椎苗 >
「しいに、しか――」
そうなのだろう。
互いに『友人』だと想いあえた椎苗だからこそ。
そして苦しみを知っている椎苗だからこそ、見送ることを選ぶことができた。
それが『最適解』だと、相手を『想う』のなら、そうすべきだと。
「答えが、ない」
反復する。
『最適解』などなかったんだと、はっきりと伝えられた。
この苦しさは当然のモノなのだと。
「どう、して。
お前は、バカです――」
それでも信じると、正誤でなく、椎苗が選んだ答えそのものを信じてくれると。
間違っていたと言ってほしかったのかもしれない。
正しかったと言ってほしかったのかもしれない。
けれども、修道女の答えはどちらでもなく。
だからこそ、椎苗の心は揺さぶられる。
耐え続けようとした傷の痛みを、吐き出す。
「しいは、止めたかった――。
あいつと、もっと、『普通』の話を、他愛もない、『友達』をしたかった。
逝かないでほしいって、置いていかないでほしいって――」
終わりを得た『友人』を羨ましいと思った。
けれどそれは裏返せば――。
「しいは、あいつともっと、一緒にいたかった。
消えてなんて、欲しくなかった――!」
それは、選択の時に切り捨てられた、しまい込んだ、もう一つの本心。
『忘れない』なんて些細な我儘だけではごまかせない、椎苗の想いそのものだった。
■マルレーネ > 相手の本心をただひたすら、耳に入れて。
うん、うん、と頷いて。 頭を撫でて。 今彼女のできる全力で言葉を受け止めて。
そこから、一拍、二拍。
「それでも。」
「友達のために、我慢したんですよね。」
「わた、しには、絶対できない、選択を。 ………したんです、ね。」
涙がぽろり、ぽろり。
私は受動的に。 突然一人になりました。
まるで激流に飲み込まれるように、ぽい、と放り出されるように。
だからこそ、あきらめもつくってものです。 どうしようもない。
選択の幅も何もあったもんじゃない。
死なずに済んだだけありがたい話であって。
じゃあ、彼女はどうなのか。
その選択は彼女が自分自身で選ぶもの。
そして、その選択肢を選んだからかどうかは分からずとも。
選択を経て、その後に一人になった。
結論は同じだ。
だが、全て違う。
私なら"自分の選択"に耐えられない。
神よ、なんでこんな選択を課したのですか。
■マルレーネ > 「偉いね。
偉いね。
椎苗ちゃんは、偉いね。
だれよりも、えらいね。
だれよりも、ともだちおもい。
えらかったね。 つらかったね。」
何もできない。
私にはなんにもできやしない。
せめて、心のとがった部分が掌で削れて丸くなるまで、撫でていよう。
■神樹椎苗 >
「しいは、えらくなんて」
それが正しいと、最適解だと誤魔化して。
他に出来る事などないのだと、言い訳をして。
『友達』の願いを祝福するだなんて、役割に浸っていただけだ。
「わからない――」
最後まで見届けることができた喜びと。
ただ一人、想いあえた『友達』を失った悲しみ。
そのどちらもが、間違いなく椎苗の本心で。
「いたくて、くるしい――」
ただただ、腕に抱かれて涙を流す。
言葉ももう、出てくるものは嗚咽ばかり。
――ああ、ようやく。
本当に『死を想う』意味を、知ることができた。
なにか、大切なものを見つけた――そう感じる事ができた。
■マルレーネ > 《一時中断》
ご案内:「宗教施設群-修道院」からマルレーネさんが去りました。
ご案内:「宗教施設群-修道院」から神樹椎苗さんが去りました。
ご案内:「【イベント】常世島関係物故者慰霊祭 宗教施設群」に日下部 理沙さんが現れました。
■日下部 理沙 >
蝉の鳴き声が、煩かった。
「……あっつ」
研究生、日下部理沙は……昨今、全く袖を通していなかった背広を羽織り、殺風景な献花台の前にいた。
宗教上の問題で、「どのように弔えば良いか分からない死者」は大勢いる。
そんな死者の為の献花台。
そこに、理沙は花屋で見繕ってもらった花束を置いて……一人、祈りを捧げた。
■日下部 理沙 >
暫し瞑目し、黙祷を捧げ……ゆっくりと目を開く。
茹だるような暑さにも関わらず……不思議と、汗は出なかった。
木陰から差し込む強い八月の日差し。
熱気に蒸された花や草木から、青い匂いが強く漂ってくる。
理沙は、毎年此処に訪れていた。
此処には……かつての風紀時代の同僚や、それらの活動で「取りこぼした者達」が眠っている。
■日下部 理沙 >
全てが理沙の責であるなどとは、流石に理沙も驕りはしない。
理沙がいようがいまいが、助からなかったものは助からないし、助かったものはやはり助かっている。
理沙一人がいようがいまいが、大局に影響を与えることはない。
だが、それでも。
「……すいませんでした」
彼等が死んだ時、彼等が取りこぼされた時。
その場に理沙がいた事も当然……少なくない。
理沙が何かできたら「違う結果」だった者も、きっといる。
だから、理沙に今できることはそれだけだった。
今となっては、それしかなかった。
「……本当に、すいませんでした」
蝉が、ただ鳴いている。
ただ……喧しく鳴いている。
■日下部 理沙 >
日下部理沙は、翼を持っている。
異能によって生えた真っ白な翼。
不可逆な変異。
だが、その翼は本当にただ、そこにあるだけ。
ただ、人の背に翼が生えただけ。
それだけ。
だが、その翼があるだけで……「何を期待されるか」は分かり切っている。
幾度か、その「期待」を裏切った結果が……此処にある。
魔術によって無理に飛行を可能にはした。
だが、そうなるまでには長い時間が必要だった。
今ですら、自在に空を飛べるとは到底言い難い。
しかし、それが出来なければ……救えないものも多くあった。
ご案内:「【イベント】常世島関係物故者慰霊祭 宗教施設群」に羽月 柊さんが現れました。
■日下部 理沙 >
人が出来ることは、いつだって限られている。
その限られた手札の中で、何が出来るかを考え続けるしかない。
手札を増やすことも勿論できる。
だが、往々にして……必要な手札を即座にその場で増やすことは、余りに難しい。
手札は、事前に揃えなければいけない。
それを怠った結果が此処にある。
理沙には、そう自戒することしかできない。
……死した彼等に出来ることは、最早何もない。
戒め、次の機会の為に経験を生かすことはできる。
だが、死した彼等にとって……それが、何の慰めになろうか。
最早、何の感慨を持つことも叶わない彼等に……何の関係があろうか。
だから、こうして悔むことも……結局は理沙の為でしかない。
生ける理沙の心を一時慰める為でしかない。
■羽月 柊 >
時折ぽつり、ぽつりと共同の献花台へヒトが現れ、
死を悼み、想い、また帰っていく。
《大変容》の後、一部のモノは死という概念を失った。
あるいは、生まれた時から死が訪れぬモノも珍しくは無くなった。
それでもやはり、『死』は誰の隣にもあるモノだった。
全てが永久の存在であるならば、理沙のような思いもせずに済むのだろうか。
……そして、この男が抱く思いも。
コツリ、と、平たい革靴が音を立てた。
理沙の隣に現れて、献花をしようとガサリと音を立てる包装の音と、
視界の端に映る見覚えのあるだろう紫髪。小さな羽ばたく音は、理沙のそれではなく。
「…日下部。」
遠くからでも目立つ真っ白な翼に、彼を認識した。
不可逆な異能であるそれは、彼の存在を浮き彫りにさせてしまう。
やはり君か、というニュアンスのまま、声をかけた。
■日下部 理沙 >
「あ、羽月先生……お疲れさまです」
いまや憧れの学者から雇い主となった男に、軽く頭を下げる。
お互い、正装で顔を合わせるのは珍しかった。
「先生も……ですか」
何が、とは言わなかった。
言えなかった。
この場に来る理由なんて、明白だ、分かり切ってる。
全てを言葉にすることは……理沙には出来なかった。
■羽月 柊 >
「ああ、君もな…お疲れ様。」
花が台から滑り落ちないように、他のモノ達のそれに紛れ込ませるように。
目立たないように、埋もれさせる。
男の喪服は真新しかった。使った形跡が無いほどに。
道中に小竜を肩に乗せたのか、その部分に少しだけ皺があるぐらいだった。
「……この間言っただろう、人命救助に奔走したとな。
本来は"魔術師"や"研究者"である俺がこのような場所に来るのは、不釣り合いなんだがな。
墓の方にも献花してきたが、多いモノだな。」
言葉に詰まり青眼を彷徨わせる理沙に、自分の方から理由を口にする。
■日下部 理沙 >
「不釣り合いでも何でもいいじゃないですか、人命救助はいいことですよ」
羽月の助け舟に乗るように、何とか笑みを浮かべる。
きっと、ヘタクソな笑みになっているに違いない。
蝉の鳴き声が、ずっと木霊している。
「……この島は人死にが多いですからね。
仕方ない事なのかもしれませんが」
落第街のような場所が半ば公認のものとして存在し、異能や魔術の実験場としての側面も存在する島。
この島は……死に溢れている。
常世の名に恥じぬほどに。
■羽月 柊 >
青年の笑みに呼応するように、男は苦笑を浮かべる。
それは雇い主となったことで、僅かばかり距離が近くなり、
普段の淡白で表情の変わらない男ではなく、一部へ見せる柔らかい表情の柊だった。
献花台から少しばかり逸れ、他に来たモノへ配慮しながら、
パチリと指を軽く鳴らすとふわりと理沙から夏の暑さを遠ざける。
自分が普段よく使う夏場用の冷気の魔術を、強さを大分緩めた形で。
陽が放つ熱を吸収する黒い服は、それでもこういった場所には必要で。
「それでもだ。俺のようなモノは、本来は生死すら冒涜し、弄ぶ側だからな。
今まではこのような行為……自分の後悔と自己満足のエゴでしかないと、来なかった。
そこに『死』を認識すれば、今までの自分でいられなくなりそうでな。
今までずっと逃げて来た。
……君や、こうして献花に来る他のモノの方が、余程強いと思えてしまう。」
男もまた、そんな死に近い人間だ。
だからそんなモノから目を背け続けて生きて来た。
理沙から尊敬されたりしているのは知っている。
だが、自分は、そこまで良く出来た人間じゃあない。
■日下部 理沙 >
「……先生」
理沙も、羽月の事が少しは分かるようになっていた。
彼は……端的にいえば、不器用なのだ。
決して悪い人ではない。
だが、羽月は「己は魔術師である、冒涜者である」と、どこか言い聞かせているようなところがあると……理沙は感じていた。
己の善性を、まるで遠ざけるかのように。
だが……理沙は知っているのだ。
彼が、人命救助のために駆けずり回れる善人であるということを。
「逃げてきたのは、俺も同じです」
羽月は、大恩ある教師の一人である。
だが、同時に……同じ人間なのだ。
弱さを抱え、懊悩し、それでも……歩み続ける、一人の先人なのだ。
「……ただ、俺は背を押してくれる人がいただけです」
理沙の脳裏を過ぎるのは、理沙も羽月も互いに知己の男。
異邦人の恩師……ヨキ。
彼がいなければ、理沙はきっとまだ腐り続けていただろう。
悩みながらも何とか歩むなどという真似は……到底できなかっただろう。
だからこそ、理沙は羽月を尊敬しているのだ。
理沙から見れば……羽月は、理沙よりも独力で前に歩いているように思える。
勘違いかもしれない、ただの色眼鏡かもしれない。
だが……あくまで理沙には、そう思えて仕方ないのだ。
「先生は、強いですよ。胸を張ってください。
己の弱さを自覚できる人が……強くない筈がない」
羽月の作り出した冷風に涼みながら、理沙は笑った。
■羽月 柊 >
「…ありがとう、日下部。」
問題を直視しないから歩んで来れた。
何もかもから目を逸らして、自分の殻に籠って。
自分の抱えられるものだけを抱えて。
自分が罪人であると思い、自分に罰を与えるように、灰色の世界を歩いてきた。
今まではそれでよかったのだ。
「……最近君と同じように言われたよ。
『あなたの物語を、誇ってください』とな。
君の言葉でもよくよく思うよ。やはりヒトは独りでは生きられない。
君の背を押してくれたモノが居たように、俺にも居て、
俺もまた、誰かに触れて生きている。
だからこそ、そうしてすれ違った命に、取りこぼしたモノに、
死に、最終的には対面せねばならない。」
傍らの小竜を肩に留まらせて、その長くてふわふわした尾を撫でやる。
少し遠くなった献花台を、桜は見つめた。
散り行く花びらを見て、夜の下咲く樹は、何を思うか。
「……しかし、俺は教鞭を取れるような身でもないのに、
よく皆『先生』と言ってくれるモノだな。」
教職というのは、もっと綺麗なヒトが就くモノだと考えている。
理沙の恩師でもあり、己もまた背を押してもらったヨキを見たからかもしれないが。
■日下部 理沙 >
「羽月先生は教鞭も似合うと思いますよ」
努めて、気安く笑う。
気付けば、すでに日は落ちて、宵の始まり。
未だ明るい夏の夜、散る花弁を背景に……男二人は語り合う。
「独りでは生きられないと、先生は知っているじゃないですか。
自分の物語を誇り、語るだけでも……それはきっと教示になりますよ」
小竜を撫でる羽月に、笑みを向ける。
まだ、ヘタクソな笑みだ。でも、作り笑いではない。
「先生は……取りこぼした経験があるじゃないですか。
それは、まだ取りこぼしていない若者にとって、きっと糧になります」
賢者は、歴史から学ぶという。
だが、歴史を語るのはあくまでその歴史を知り、歴史を持つものだけだ。
ならば……その歴史を、物語を持つものは。
きっと……教師足り得るのだ。
誰かの教師に。
「それに、先生は善い人ですからね。
胸張ってくださいよ、尊敬してる俺の立場がありません」
冗談めかして笑って見せる。
献花の前、かつては己の殻に籠っていた男二人。
見ているのは、最早……昇り始めた月だけだ。
■羽月 柊 >
「そう言われてしまうと、むず痒くなってしまうな…。」
なんだか気恥ずかしさを感じて、視線が献花台から外れる。
ひらひらと風に舞う桜が揺れる。
後ろ指をさされても仕方の無い人生を送って来た。
本物の魔術師であるが故に、叩けば埃が出る所もある。以前理沙が垣間見たようにだ。
それでも世間に貢献している比率が高いからこそ、まだ自分は表舞台に居られた。
常世学園のかつての生徒、卒業生。
そしてこの島の職員であることは変わらない。それは職員証が男の立場を証明している。
しかし、それは書面上だけの話で教師となるとまた、職員とは別だ。
「理屈では理解しているんだがな…己を卑下することは、
君を始めとした、俺に関わってくれたモノ達に失礼に当たるというのは。
…ただ……急に舞台にあげられてスポットライトを浴びた、木っ端役者のような気分でな…。」
口元に拳の人差し指をあて、ううむと唸った。
こうして身近になると、柊にもきちんとした感情があることが良くわかる。
ただ、素直に表現するには仮面が多いだけで。
男もまた、笑むのは下手なのだ。
もしかしたら、理沙よりも、誰よりも一番下手かもしれない。
再び飛び立つ小竜に尾の先でするりと肩を撫でられる。
■日下部 理沙 >
「気持ちは分かります、俺も卑屈な方なので」
気恥ずかしさにつられ、理沙も笑う。
理沙もまた、自分に自信を持ってはいない。
持とうと努力はしている。
だが、結果が伴っているかどうかといえば……まぁ、見ての有様だ。
そう言う意味だと、羽月と理沙は……根はどこか似ているのかもしれない。
「まぁ……それでも、舞台に上がらなきゃいけない時は来ますからね」
そう、土壇場は……いつでも突然訪れる。
事前準備が出来るのは……幸運な時だけ。
だからこそ、常に研鑽する必要がある。
いつ、その時が来てもいいように。
「そろそろ、俺は帰ります。明日早いですからね。先生もでしょ?」
その仕事の雇い主に気安く笑って見せて、理沙も帰り支度をする。
献花台の照明も、いずれ落とされる時間だ。
「先生、それじゃ……また明日」
丁寧に頭を下げてから、理沙は去っていく。
背中の翼は、いつものように揺れていた。
ご案内:「【イベント】常世島関係物故者慰霊祭 宗教施設群」から日下部 理沙さんが去りました。
■羽月 柊 >
「…まぁ、そうだな。明日は届いた魔石の属性ごとの仕分けもあるしな…。
魔力組の食事になるから、君にも新しく覚えてもらわねばならん。」
仕事の話が出ると、ついつい誤魔化すようにそこに飛びついてしまった。
どうにか調子を取り戻す。
本当に、いつ舞台の上に立つことになるかというのは分からない。
蝶の羽ばたきが、遠くで嵐を起こすかもしれない"バタフライエフェクト"のように。
何が要因になって、誰が引き金となって、運命は巡り始めるのかというのは、
それこそカミサマだけが知っていることでしかない。
だからこヒトは惑い、翻弄され、そうして物語という軌跡は出来上がる。
「…あぁ、また明日な。」
――己の道筋を伝えることそのものが、誰かの教師たり得る。
彼らは似ているからこそ、近くにいることが出来たのかもしれない。
ある意味、互いに支え合うことになっているのかも、しれない。
柊から遠のけば、陽が落ちても暑い夜が理沙に纏わりつく。
どんな時でも存在を主張して止まない白い翼を見送る。
…自分は果報者だな、と。
今一度献花台を見てから、その場を後にした。
ご案内:「【イベント】常世島関係物故者慰霊祭 宗教施設群」から羽月 柊さんが去りました。